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INTERVIEW
予期せぬ機会を引き寄せるのは「手を挙げられる人」〜チャンスを掴む4つのトレーニング
INTERVIEW

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社員研修や講演会などでよく見られる光景の一つ。終盤、質疑応答でファシリテーターが「何かご質問のある方は挙手をお願いします」と聴衆に投げかけるも、会場は「シーン」と静まり返り、なんとなく気まずい空気が流れるあの時間。

よほど研修や講演の内容が退屈だった場合を除き、少なからぬ人が疑問に感じたこと、自分なりの考えをぶつけてみたいとは思いつつ、なんとなく「手を挙げられない」。それがたとえ、もったいない、自分にとって機会損失だと分かっていても・・・。

今回取材した樋口亜希さんも、そんなモヤモヤを抱いていた一人。

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希

樋口さんは、中国・北京大学への留学を含め、幼少期からグローバルな環境で過ごし、「人前で手を挙げること」については昔から抵抗はありませんでした。しかし、就職を機に日本に帰国し、気づいた時にはそれができなくなっていたそう。

そんな自分の苦手意識を克服する転機となったのが、今年(2018年)1月に参加した世界経済フォーラム、通称「ダボス会議」でした。

アリババ創業者のジャック・マー氏やノーベル賞受賞者ら、錚々たる面々が出席するフォーラムに招待された樋口さんは、会期の序盤、参加したセッションで頭に質問や考えが浮かんでも、どうしても手を挙げられなかったそう。

しかしその後、短期間で意識改革をし、結果、日本で行う事業に活かせる知見だけでなく、一流のビジネスパーソンらとのつながりも得られたそう。

機会を逃さず、FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグさんに自身の活動をプレゼンすることにも成功
機会を逃さず、FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグさんに自身の活動をプレゼンすることにも成功

果たして、樋口さんの内面でどのような変化があったのでしょうか。臆せず、人前で「手を挙げること」のインパクト、手を挙げられる人になるため、そして周囲の人にもそうなってもらうために何が必要か、お話を伺いました。

PROFILE

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希
樋口亜希
株式会社Selan代表取締役
1989年生まれ。北京大学国際関係学部卒業。2、3歳の時に中国・武漢、10、11歳の時にアメリカ・ボストン、18歳〜23歳まで5年間、中国・北京で過ごす。高校卒業後、単身で北京に渡り、9カ月間、毎日15時間の受験勉強を経て、大学入学。リクルートホールディングス、リクルートキャリアを経て、株式会社Selan代表取締役就任。バイリンガルによる語学教育サービス「お迎えシスター」と小学生版MBAスクール「dot.school」を展開。2017年、世界経済フォーラムのGlobal Shapersに選出。2018年、ダボス会議参加。

世界各国のリーダーが参加、成長機会溢れるダボス会議

まずはダボス会議参加の経緯を教えてください。

スイス東部の都市ダボスは会期中全体が雪に覆われる
スイス東部の都市ダボスは会期中全体が雪に覆われる

ダボス会議とは、世界経済フォーラムの通称。毎年1月、各国で活躍する政治家、社会起業家、ビジネスパーソン、学者らがスイスのダボスに集い、世界が直面する問題について議論する場。リーダーたちがより幅広い問題に目を向け、それに取り組むよう促すことが目的。

ダボス会議には、毎年約3000人の世界的リーダーや著名人が参加しています。

世界経済フォーラムには、33歳以下の若者が所属する「グローバル・シェイパーズ」という組織があり、現在世界に約380拠点・合計約7,000人がいます。この中から毎年50人が “Davos 50” として参加していて、私は今回、幸運にもこの “Davos 50” に選ばれ、招待いただきました。

ダボス会議

ダボス会議は400の公式セッション以外に、朝食会やディナーなど朝早くから夜遅くまでさまざまな会が開かれています。

中でも印象的だったのは、日本でも動画が話題になっていた中国・アリババ社の創業者ジャック・マー氏のセッションですね。自分のやっていること、世界を変えることを信じ、自分の仲間たちを尊敬しているからこそ成長してこられたこと・・・私を含め、その場にいる全員が心を揺り動かされたのではと思います。

ダボス会議にはどんな目的意識を持ち、参加されましたか。

ダボス会議にはいろんなビジネス界や政治界の方々がいらっしゃるので、まずはつながりを作って自分の世界や視野を広げること、そしてそれを日本に還元していくことを目的意識として持っていました。

そのためにも、「自分はどんなパッションを持って活動しているのか」をしっかり説明できるようにしておきました。

日本で自己紹介といえば、「初めまして」の後、「どこの会社に勤めているのか」「その会社で何をしているのか」など肩書きで発言することが多いですが、国際的な場だと肩書きがフォーカスされない「自分のパッションは何か?」「○○についてあなたの考えは何?」と聞かれることが多いんです。

私のパッションとしては、ウーマンエンパワメント=女性の活躍推進、初等教育という2つの文脈があるので、これを軸に日本を良くしていきたいとお話ししました。

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希

まさかの挫折、手を挙げられなかった「2つの理由」

ダボス会議に参加した際に、「自分が手を挙げられなくなった」ことに気づいたそうですが、具体的なエピソードをお伺いできますか。

会期の序盤のセッションで、質疑応答の時、登壇者に聞きたいこととか彼らにぶつけてみたい自分の考えが頭に浮かんだとしても、手を挙げられなかったんです。

大学時代は、結構手を挙げて質問するほうだったので、日本に帰ってきてから、そのメンタリティーが薄れていたことに自分でもショックを受けました(苦笑)。

私は、大学時代を中国の北京大学で過ごしたのですが、「手を挙げる」という行為が授業態度としてみなされるので、手を挙げなければ加点されない。しかも全体のスコアが3学期連続で平均以下だと退学になる、まさに「手を挙げなければ生きていけない」環境でした。

北京大学の卒業式
北京大学の卒業式

付け加えると、北京大学は好奇心旺盛な学生が多かったので、教授が「質問ある人?」と聞くと、クラスの半分以上が手を挙げて、一度質問をさせたらクラスを黙らせるのが大変なくらい

そんな環境で過ごし、「手を挙げる」ことに対してなんの抵抗もなかったのに、日本に帰って、大人になって、自分はなんでこんなに手を挙げられなくなってしまったんだろうって。

「何でだろう?」と考えてみたときに、2つ理由があることに気づきました。

1つはセッションで話されていたトピックについていけないという根本的なこと。例えば、難民問題はヨーロッパでは深刻ですけど、日本では取り上げられることがあまりないので、事前知識が少なく議論についていくので精一杯でした。

もう1つは、手を挙げること自体は行為なんですけど、本質的には精神的な問題なので「トレーニング」しないと抵抗感があるということ

大学時代にだいぶ鍛えられていたはずなのですが、思い返すと、卒業して就職のタイミングで日本に帰ってきてから、手を挙げることがなくなっていました。会社や学校のイベントで「質問ある人?」と聞かれても、シーンとしていることが多いですよね。自分も気づいたらだんだんと手を挙げなくなっていました。

私にとって抵抗感の一番の理由は、「見当違いの質問でかっこ悪いと思われたくない」「幼稚な質問だと思われたくない」という意識でした。

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希

一時の恥と引き換えに得た「セレンディピティー」

そこからどのようにして、手を挙げられないマインドを切り替えることができたのでしょうか。

きっかけは、「かっこ悪いと思われたくない」という自分のちっぽけなプライドが邪魔しているだけで、そのプライドを守ったところで結果何も生み出さないし、本質的じゃないことに気づいたことでした。

せっかく、講演者と直接話して自分の心を知ってもらえるチャンスなのに、かっこよさを気にするなんて、自分はすごくもったないことをしているなと思ったんです。それからは、心から思ったことだけを聞いてみようと思ったんです。

ダボス会議

例えば、「アウトルック・フォー・ジャパン」という日本の今後の見通しに関するセッションで、「私はダボス会議に参加して日本人であること、日本で生まれたことに誇りを持ちました。こんなにすばらしい国なのに、なぜ日本人はこんなにも悲観的なのか。この悲観的であることは変えるべきなのか、それとも受け入れるべきなのでしょうか」と質問をしたんです。

それに対して、登壇者の皆さんは熱心に回答して下さり、セッションが終わった後、「あの質問は僕もずっと思っていた」「日本人のビジネスパートナーに対して感じていたことだった」と声をかけてくれた人もたくさんいました。

しかし、他の参加者もいる場で、自分のプライドを捨てることは簡単ではありません。

そうですね。時には、「自分だけじゃなくて、他の人のためになる質問をしないと」と周りを気にすることもあるかもしれません。でも、登壇者はきっと、全体意見よりもその人が感じたことを発言してほしいと思っているはずなんです。

自分が話を聞いて率直に思ったことって、その場でしか生まれない感情、ケミストリーなので、周りの人にとっても価値がある問いかけのはず。直接質問することは、リアルの場でしか体験できないことなので、自分の感情から生まれた何かを大切にしてもらいたいなと思います。

例えば、質問じゃなくて感想でも、その場の議論を発展させたり、ターニングポイントになることもあるので、「自分はこういう感情を持ちました」「私はこう思いました」という内容だってどんどん発していいと思うんです。

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希

ダボス会議で質問したことがきっかけで、本当にいろんな友達ができました。「今度、日本に行く時は会おうね」って言ってくれる人もいて。ダボス会議が終わってから半年くらいの間に、出張や旅行のついでに25人くらい、本当に日本に会いにきてくれました。中には私の実家に泊まりにきた人もいたんですよ(笑)。

的外れな質問をするのは、一時の恥。だけど質問しないのは、一生の恥。あの時、手を挙げたことをきっかけにセレンディピティ、偶然から生まれる素敵なオポチュニティーに恵まれました。

ダボス会議でつながった人たち
ダボス会議でつながった人たち

手を挙げられる人になる「4つのトレーニング」

先ほど、手を挙げられるようになるためには「トレーニング」が必要とのことでした。どのような手立てが考えられますか。

大きく分けて4つあると思っています。

1つは、人は他人のことを大して気にしていないと気づくこと。小さいころ、ピアノの発表会で「周りはみんなかぼちゃ、じゃがいもだと思え」と言われたことがある人もいると思うのですが、あれは意外と本質的かもしれない(笑)。誰が失敗したとか、幼稚な質問したとかって、意外と他人は忘れます。それに、どんな質問、意見にも少なくとも賛同者はどこかにいて、自分だけが的外れな質問をしただなんて思わなくていいんじゃないかなと。

2つ目はテクニカルな方法ですが、意外と重要で、セミナーや講演会で最前列に座ること。最前列だと周りの人の視線が目につくことも少ないので、質問するハードルはだいぶ下がりますね。

3つめは、質問できない理由の一つとして、「これ、すでにセッションの中で話されていたことかも」という不安もあると思うので、そうならないために、能動的なリスナーになること。登壇者の発言に対して、「自分だったらどうするかな?」「これってこうとも言えるんじゃないかな?」と考えながら聞くことで、話の内容をしっかりと覚えておくことができ、結果「聞き逃した内容を質問したらどうしよう」という不安が解消されます。

4つめは、最初は参加人数が少ないセッションで手を挙げる練習をして、そこで自信をつけて人数の多いセッションでもトライすることです。私もダボス会議で最初に手を挙げたのは10人くらいのセッション、次に30人、最後は300人くらいと、少しずつハードルを上げていくことで気が楽になり、手を挙げられるようになりました

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希

手を挙げられる人を増やすため、上司や周囲ができること

縦社会や集団主義が根強くある日本では、まだまだ個人、特に若い人が「手を挙げる」ことは難しいように思います。

確かに、日本の問題は、1つの意見やテーマに対して反論できない文化が根強くあることですよね。個人として「その意見は違う」と思っていても、上司など上の人には逆らえないという意識が強く発言できない。だから「意見がある人は手を挙げてもいいよ」と言うだけでは難しいと思うんです

1つアイデアがあるのですが、褒め言葉を造語でたくさん作るというのはどうでしょう。英語だと誰かを褒めるときに ”Good job, well done, great, fantastic, amazing, excellent”・・・他にもたくさん言い回しがあるのに対して、日本語だとよく聞くのは「すごい」「すばらしい」くらい。

これは、質疑応答の場面でも顕著に現れます。例えば、海外のセミナーでは、質問された登壇者の第一声が「グッドクエスチョン」とか、的外れだったとしても「グッドトライ」「グッドゲス」とか、質問して良かったと思えるコメントをスピーカーや周りの人がくれるんですね。

質問してジャッジされるのではなく、「グッドクエスション」とその挑戦を称えてくれる。そのように意見が食い違った内容だとしても一旦は呼吸をして、受け止めてくれるので、誰でも質問しやすいんです。

日本は失敗に寛容でないことが多いので、どうしても発言をしづらくなってしまいます。だからこそ、褒め言葉の造語をたくさん作って、失敗を責めるのではなくトライしたことを褒めるよう変えていくと、社会全体がもっといい方向に向かうのではないでしょうか。

もし、誰もが手を挙げて質問や発言がしやすい世の中になれば、多くのことは合理的な方向に流れていくと思うんです。みんなが自分の心に忠実に表現できるようになったら、人の幸せの総量は大きくなっていくはずです。

株式会社Selan代表取締役 樋口亜希

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[取材・文] 中森りほ、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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