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INTERVIEW
入山章栄さんに聞く変化する時代の失敗とリスクの向き合い方
INTERVIEW

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BOOK MARK

「これまではアメリカの社会人学生に顕著に見られた、リスクを取るという選択の姿勢が、近年は日本の社会人学生にも見え始めています」

こう話すのは、アメリカのニューヨーク州立大学ビジネススクールでも教鞭を取った、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄さんです。

失敗をおそれずリスクを取る姿勢を持ち続け、さらに挑戦を成功につなげるためにはどのような視点が必要か。入山章栄さんに、事例を交えながら語っていただきました。ビジネスの成功者にはある「共通点」があるそうです。

早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄

PROFILE

早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄
入山章栄
早稲田大学ビジネススクール准教授
大学卒業後、三菱総研に勤務。経営学者になるべく、キャリアチェンジを決意。アメリカのピッツバーグ大学経営大学院で博士号修士し、ニューヨーク州立大学バーローンのビジネススクールの講師として従事する。10年間のアメリカ生活後、日本に本帰国。2013年から早稲田ビジネススクールの講師を務める。2014年に『世界の経営学者は何を考えているのか?』(英治出版)を出版し、ベストセラーになる。

スティーブ・ジョブズは失敗王

ー入山章栄さんが感じる、ビジネススクールで学ぶ学生の変化は。

本校の夜間クラスは、一部上場企業に務める30代から40代前半の若手や中間管理職のひとが在籍しています。彼らが学ぶ主な目的は3つ。1. 社内でのキャリアアップ、2. 転職、3. 起業です。

最近の学生の傾向として特徴的なのは、もともと大手企業での内部昇進を志望していた学生が、別の大手企業に転職したり、あるいは起業志向の学生に感化されて、ベンチャーへとキャリアの転身をするケースが目立つこと。大手企業安泰という思考はなく、リスクをおそれず起業を目指すひとが増えています。

その背景には、社会の変容があります。安定の代名詞であった金融業界でさえも揺らいでいる。以前は考えられなかったことがある日突然起こりうるいまの時代に、安定していられる企業は間違いなく減少しています。

経営学では企業が長期的に業績を上げることを持続的な競争優位」と言うのですが、事実、米国企業のデータなどを使って統計分析すると、これを体現している企業は減ってきています。あらゆる業界での競争が激しさを増しているからです。日本でもこの傾向は同じではないでしょうか。

そのような変化を学生たちも敏感に感じ取り、先が見えない状況でどういったキャリアを築くべきか、たとえ会社がつぶれても別の組織で働けるような、独自のスキルを育むことの重要性気付き始めています。

汎用性のあるスキルを獲得し、自分の市場価値を常に向上させたいと考えるならば、若い頃の転職活動は効果的だと思います。いろんな職場といろんな失敗をすることで学習しますし、その豊かな経験を通して、客観的な立ち位置で自分を評価することもできるようになるでしょう。

 

ー経験と失敗から学び、次に生かすことが大切だと。

これをミクロ経済学では「サーチ理論」といいます。認知心理学的な考え方で、人間は学習して成長していく生き物で、失敗を経験しないひとや組織よりも、失敗し方がより大きな学びを得やすいのです。

ひとは成功するとサーチ(失敗した原因の探索)をしなくなります。一方で失敗は、それまでの自分の固定観念を一度否定することを意味します。するとひとは、サーチ行動をし始めるのです。成功者よりも失敗の経験をそれなりにした方が、中長期的に視野が広くなるというわけです。

このとき、失敗を認知することも重要です。著名な経営者の自伝を読むと、大抵の人は失敗を経験しています。ただ重要なことは、彼らは自らの失敗を「失敗だ」と認めたことでしょう。だからこそサーチを行うので結果として視野を広げて最後は成功するのです

例えば、スティーブ・ジョブズは失敗王です。今でこそ成功者として語り継がれていますが成功に至るまでには公表されてないサービスを含め、数多くの失敗をしています。幾重にもなる失敗を認知して原因追求を欠かさず行い、次の製品開発に生かした。というのが、ジョブズが成功に至った行動サイクルです。

ビジョンを持って失敗しよう

ー「失敗は成功のもと」ということわざもありますね。

このことわざは、統計的にも証明されています。

2010年にアメリカのピーター・マドセンとヴィニット・デサイが、経営学術誌で発表した論文で宇宙軌道衛星ロケットの打ち上げを研究材料として、打ち上げに成功したグループと、失敗したグループのその後の打ち上げ失敗確率の結果分析したところ、興味深い結果が出ました。

成功したグループよりも、失敗を経てチャレンジしたグループの方が次回のパフォーマンスが向上したのです。これは、組織がサーチ行動を行ったのが大きな要因であると考えられています。サーチ行動によって改善を続け、次のチャレンジに生かすこと。その行動のサイクルが成功確率をあげる秘訣なのです。

 

ーサーチ理論をキャリア設計に活かすには? 失敗が致命傷にはなることもあるのでは。

米国エンターテイメント界のスターである「マドンナ」は、なぜ30年もの長い間、ショービズ界に君臨していられるのでしょうかーー。個人のキャリア設計について彼女の長期的かつ戦略的なブランディングの話を紹介したいと思います。

彼女がデビューした当時はMTVが登場し、歌は聴くものから観るものになりました。このとき、市場のニーズの変化をいち早く察知したプロデューサーは、マドンナをビジュアル的に印象に残る「セクシーアイドル」として売りだそうと考えました。この戦略が奏功し、彼女は歌やダンスが特筆して上手ではありませんでしたが、確固たるポジションを確立。

その後も、視聴者の印象に残り続けることを第一に考え続け、母親になった後も、さらにその後、ヨガや宗教などスピリチュアルのアイコン的存在になるなど、戦略的にキャラクター作りを続けました。

時代のニーズに柔軟に応え続けるという長期的な戦略を取れたのは「スーパースターになる」という彼女のブレないビジョンがあってこそ。ゴールを設定し、それを達成するために歌手やダンサー、女優などあらゆることに挑戦したのです。

マドンナの事例は、ビジネスパーソンのキャリア設計や転職にも置き換えることができます。自分軸を保ちながら、キャリアを戦略的に築くことを重視すると、たとえ失敗しても次に生かすことができますし、失敗を後の成功のための経験と捉えられるようになるのです。

ビジョンを持ってリスクを取り続けることの重要性を語る入山章栄さん
ビジョンを持ってリスクを取り続けることの重要性を語る入山章栄さん

リスクテイクのときは地位や金銭は度外視

ー起業もサーチ的な行動のひとつですね。

冒頭で「リスクをおそれず、起業を目指すひとが増えている」と話しました。実は、日本は会社が倒産しても、個人に対して多大な損害が及ばないように法律が整備されている国なので、起業がしやすい環境にあります。

それでも、実際に起業するひとが少ないのは「キャリアの失敗」の方が重要視される風潮が根付いているからです。シリコンバレーでは、起業を3回して全部倒産させたひとでも評価するという風潮がありますが、日本では会社を1つつぶしたら敗者になるという考え方が根強いのです。

最近は、そうした村社会的な風潮から脱却しようとする若い起業家が増えています。彼らがこの先、成功体験を世の中に伝えていくことで、起業して失敗することの重要性も認められていくでしょう。企業の採用でも、経験が豊富で視野が広い人材がより求められるようになっていくはずです。

 

ー新たな挑戦やリスクテイクの際に気をつけるべきことは。

失敗を認知するときに、自信を失わないことです。ポイントは、モチベーションの会得と維持の方法にあります。

モチベーションには、2つのタイプがあります。1つは、金銭・地位・名誉・権力といった外的な要因が支えとなる外発的なモチベーション(Extrinsic motivation)。もう1つが、地位や金銭などは度外視して、自分がやりたいことをしている状態が支えとなる内発的なモチベーション(Intrinsic motivation)です

ひとが新たな挑戦をするときに必要なのは、内発的なモチベーションです。誰かから評価される外発的なモチベーションに頼っていると、失敗したときにまわりの目を気にして自信を失いがち。一方、内発的なモチベーションを保つことができるひとは、失敗しても「自分がやりたいことだから」とセルフマネジメントができるので軸がブレません。

まわりの目を気にして自己決定をするのではなく、自分が何者で何をしてこれから生きていきたいのかをしっかりと見定め、物事を判断すること。明確なビジョンがあれば、失敗からび、次のステップに進む行動サイクルができあがっていくのです。

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[取材・文] 井上美穂

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