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INTERVIEW
巨大市場を切り拓く乾電池型IoT端末「MaBeee(マビー)」―45歳ベンチャー社長の挑戦
INTERVIEW

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BOOK MARK

2016年のグッドデザイン賞――MaBeee(マビー)と呼ばれる乾電池型のIoT(Internet of Things)端末が金賞を受賞しました。

特徴は、乾電池を本製品に入れ換えるだけで、スマートフォンによる電源のオン・オフや出力の直接操作ができること。ミニ四駆や電車玩具など、既存の玩具を自由にコントロールできるだけでなく、工夫次第で用途が無限に広がると、高い評価を得ました。

MaBeee(マビー)

乾電池は、世界で年間300億個出荷されているといわれており、巨大なマーケットが広がっています。この革新的な乾電池型IoT端末を開発したのが、ノバルス株式会社の岡部顕宏さん。45歳で起業、そしてたった1年でMaBeeeをここまで育て上げたのです。

注目を集めるプロダクトを生み出した背景に迫りました。

ノバルス株式会社 代表取締役 岡部顕宏

PROFILE

ノバルス株式会社 代表取締役 岡部顕宏
岡部顕宏
ノバルス株式会社 代表取締役
出版社アスキーなどを経て、2002年セイコーインスツルに入社。国内時計業界初となるBluetoothWatchの規格策定や、店舗向けソリューションシステムなど新規事業開発を担当。2015年ノバルスを創業、2016年8月に乾電池型IoT「MaBeee」をリリース

乾電池型IoT端末「MaBeee」が生む新市場

ー2016年、グッドデザイン金賞の受賞、おめでとうございます。まずはMaBeee(マビー)の特徴について教えてください。

ありがとうございます。MaBeeeは、乾電池型のIoT端末です。単3電池の大きさのMaBeeeの中に単4電池を装着することで、玩具、キャンプ製品、イルミネーションなど、電池を使う商品をスマホでコントロールできるようになります。例えば、ミニ四駆の走るスピードをスマホでコントロールできたり。音にも反応するので、クリスマスの歌声に反応するイルミネーションを作ることもできます。

2016年5月にクラウドファンディングの支援者向けだけで、2,000台を出荷しました。その後8月には一般発売をスタートしています。いちばんは、お父さんが子どもと遊ぶためにご購入いただくことが多いですね。

MaBeeeらしいのが、教育分野からたくさんのお問合せをいただいていることです。2020年からはプログラミング教育が義務化される動きがあります。乾電池は小さいお子さんでも簡単にあつかえるものなので、プログラミングと組み合わせれば、自由にモノを動かす環境を子どもたちの手で作ることができます。

ノバルス株式会社 代表取締役 岡部顕宏

ーMaBeeeは、「グッドデザイン金賞」だけでなく、「第10回キッズデザイン優秀賞 経済産業大臣賞」など、高い評価を得ています。どのような点が評価につながったのでしょうか。

MaBeeeが評価されたのは、創造性や感性を育む可能性を具体的に示したことだと思います。実はIoTは、難しい技術です。難しい理由には、2つの側面があります。1つは、使い手の問題。もう1つは、作り手の問題です。

使い手からすると、IoTは設定や設置がわずらわしい側面があります。また、作り手からすると難度はもっと高くなり、開発には電気回路、通信、アプリ、クラウドなど、多岐にわたる専門家の力が必要になります。

しかし、乾電池のMaBeeeならば、子どもが乾電池を設置するだけで、モノとソフトがつながる環境を簡単に作ることができます。SDK(ソフトウェア開発キット)も準備しているので、今後、MaBeeeの可能性はもっと広がっていきます。

大手だからこそ難しい、「革新的な製品」を生み出すこと

ー市場も大きく、使い手の創造力によって、さらに市場が広がるわけですね。そんな革新的なIoT端末「MaBeee」が生まれた経緯を教えてください。

最初は、ユーザーに新しい体験を提案したいという想いからでした。例えば、ウォークマンが登場して、社会が変わったという世界。ずっとそんな世界を実現させたいと思いながらなかなか実現できず、悔しい想いを持っていました。

話は、前々職と前職にさかのぼります。

前々職では、退職する2002年まで、コンテンツメーカーで新規事業を担当していました。DVDや映像、音楽配信のコンテンツ・ディストリビューションの事業を担当していました。当時、企画していたのは、視聴する端末にコンテンツを配信するもの。

端末で音楽を聴き、映像を観て、コミックを読んだり。ちょうどiPodとiTunesがはじめて登場したころです。それまで音楽は、CDというパッケージとプレイヤーが別の事業として展開されていました。それがこのとき、統合されたんです。しかもAppleは、あの巨大なスケールでできた。

われわれも同様のことを構想していましたが、結局、頓挫しました。社で中止が決定し、肩を落としました。共同プロジェクトで事業化を推進していた端末メーカーの執行役員に、われわれから「中断しましょう」と申し入れをしました。「岡部くん、本当にそれでいいのか?」との問いに、はい、と答えました。悔しかったです。今でもその会議室での出来事を鮮明に覚えています。

当時、実感したのは、トータルでサービスを生み出す難しさでした。ソフトだけでなく、ハードも理解しなければならない。全体を広く理解していないと、最適なものを推し量れないと思いました。そこで、30歳を過ぎていましたが、意を決してまったく土地勘の異なる老舗のメーカーに転職しました。ハードとソフトを統合したものをユーザーに提供したい、取り組んでいきたいという気持ちで、モノづくりを学べる老舗メーカーを選んだのです。

転職先は老舗の時計メーカーでしたが、自由度が高く、挑戦的な製品をたくさん生み出していました。リストコンピュータやウェアラブルという言葉もない時代に、新しい取り組みをしていたんです。そこで私が企画したものの1つが、2005年の「BluetoothWatch」です。

携帯が普及してきて、腕時計の市場が減ってきていました。「腕時計にも新しい価値が必要」と、携帯のメール受信や情報を腕時計に表示するBluetoothWatchを企画しました。実現には通信技術が必要になります。そこで携帯メーカー、セットメーカー、部品メーカーの方々に集まっていただき、ワーキンググループを結成し、規格を詰めていきました。ただこのときも残念ながら、製品化には至りませんでした。

ーその老舗メーカーでは、13年間お勤めになったと聞きました。会社を辞めた理由は何だったのでしょうか。

ユーザーに新しい体験を提供できず、「くそー」っという気持ちがありましたが、時間が経つにつれて、その気持ちが薄れている気がしていました。2013年ごろ、そんな想いと、オープンイノベーションの潮流も重なり会社に勤めながら、「ヤミ研」を主催しました。

ヤミ研は、会社で実現できない企画をもった有志たちが集まり、具体化するためにはどうしたら良いか、アイデアや意見を議論する場でした。実は、会社の垣根を越えて60~70社が参加したこのヤミ研の中からMaBeeeの構想が生まれました。

ヤミ研で何人かでワイワイガヤガヤと話をしているうちに、徐々に構想が練り上がったんです。MaBeeeの名前には開発者の名前のイニシャルが隠されていて、岡部の「Be」も入っています。そういう仲間たちの想いが込められた製品なんです。

MaBeee(マビー)

ーそして、起業するわけですね。

はい。起業した1つの理由は、年齢の問題でした。先輩が「人生で、夏休みをあと何回楽しめるのか」という話をしていて、私もかぎりある人生のなかで、「あと何回、挑戦できる機会を得られるのか」を常に考えていました。

正直、悩みました。本音で言うと、13年間ずっと悩み続けていました。しかし、「1回しかない人生だ」、そう思い、45歳のときに決断しました。3Dプリンタや開発ツールキットの登場、小さな会社でも製造受託してくれるEMSも増加するなど、ベンチャーでもモノづくりができる外部環境も追い風になりました。

起業からたった1年のスピード開発。ただ道のりは険しく

ー起業後は、順調に開発が進んだのでしょうか。

いえいえ、苦労だらけでしたよ(苦笑) しかも、毎日です。起業当時あるのは、試作品だけ。試作品から具体的に製品開発を進めるにはどうしたらいいのか、途方に暮れたこともあります。

MaBeeeの試作品
MaBeeeの試作品

試作品を作るのと具体的な製品開発とでは、次元が違います。専門家を集め、きちんとした体制をつくらなければならない。2015年7月に退職して、電気まわりの設計者がジョインしたのが10月。ソフトウェアの開発者がジョインしたのが11月。やっと開発できる体制になりました。製造工場も2015年の10月に決まりました。

開発している間は、常にお金が出ていきます。当時は、シードラウンドで助成金をいただきながら、かぎりあるわずかな予算でやりくりする日々でした。

ー起業当時は苦しい日々だったんですね。そんな中でMaBeeeの製品化が進み、受賞するまでにどんな転機があったのでしょうか。

転機は、2回ありました。

1つ目は、クラウドファンディングです。(2015年の)11月11日の11時11分の瞬間に、MaBeeeの開発支援の募集を開始しました。多くのご家族にMaBeeeの試作品を試してもらっていて、楽しんでもらえることは分かっていました。100名におよぶフィードバックももらっていました。しかし、実際にお金を払うというのは別物で、MaBeeeが本当にユーザーに受け入れてもらえるのか、緊張のスタートでした。

目標金額は、50万円。

結果は、スタートして1時間で50万円の目標を達成。最終的には、900名の方から600万円以上のご支援をいただきました。知人だけでなく、知らない方にもたくさん買っていただけました。お金を払ってでも、購入したいユーザーがたくさんいることが確認でき、これが1つの転機になりました。

2つ目の転機は、一般発売です。クラウドファンディングでは、ベンチャーだから、と大目に見てくれるところがあります。しかし、一般販売は失敗しても、ベンチャーだから、で許されるものではありません。大手メーカーのナショナルブランドと同様にあつかわれます。

8月4日、一般販売初日、銀座のビッグカメラさんでナショナルブランドと並んで、MaBeeeの一般販売がスタートしました。結果は在庫がなくなるほど、ご購入いただけました。この2つの出来事が、MaBeeeがどれだけ多くの方に支持をいただけるのか、という評価の証になりました。そして、私の大きな自信になりました。

起業当時は、ぽつんと一人。あるのは試作品だけ。しかし、1年後には一般販売、そしてグッドデザイン金賞まで、こぎつけることができました。家族といっしょに行ったグッドデザイン賞の展示会場で、「大企業で製品を出すことと、自分の力で製品を生み出したことは、家族の見る景色がまったく違う」と思いました。何もないところから、ここまでできたことに達成感を感じるとともに、サラリーマンとしての父親だけでなく、経営者としての父親の姿を子どもに見せることができたことがとても感慨深いです。

世の中、試作品のほとんどがそこで終わってしまいます。しかし、かぎられた時間を強く意識して、小さくてもいいから踏み出すべき。ヤミ研もそう。少しずつコミュニティを作っていきました。ビジネススクールにも通い、学び続けました。土日にはイベントも開催しました。そうしたちょっとした積み重ねが昇華されて、45歳の起業、そして今にたどりつくことができました。

かぎりある人生、何事も、小さくてもいいから一歩を踏み出すことです。

ノバルス株式会社 代表取締役 岡部顕宏

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