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INTERVIEW
モノを所有しない「シェア」の時代へ。私たちの働き方・組織のあり方はどう変わる?
INTERVIEW

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BOOK MARK

かつてマイカー、マイホームなど何かを所有することこそが豊かさの象徴だった時代がありました。けれども若い世代はそうしたものに執着しなくなってきていると言われます。所有せず、誰かと共有し、必要な時だけ使えれば十分と考える人が増えてきているようです。

こうしたライフスタイルを支えるいわゆる「シェアリングエコノミー」と呼ばれるサービスもどんどんと勃興しています。車や家のみならず、最近では仕事や家計、中には従来は血のつながった家族が担ってきた家庭内の役割までシェアするケースもあるといいます。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長の石山アンジュさんは、こうした時代においては「信頼できる仲間との関係こそが資産。そうしたつながりをどれだけ貯められるかが豊かさの指標になる」と話し、経済成長を前提とした旧来的な価値観に警鐘を鳴らします。

なぜ、所有ではなくシェアなのか。それによって働き方や組織のあり方は今後どう変わっていくのでしょうか――。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ

PROFILE

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ
石山アンジュ
一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長
株式会社リクルート、クラウドワークス経営企画室・政策渉外担当を経て現職。シェアリングエコノミーにおけるベンチャー企業と政府の官民パイプ役として規制緩和や政策推進などに従事。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省、総務省検討会委員、一般社団法人PublicMeetsInnovation代表理事など。NewsPicksプロピッカー、WEEKLYOCHIAIレギュラー出演、日経COMEMOキーオピニオンリーダーなど幅広く活動。

転勤、配属・・・ 個人の意思に関係なく人生が決まる大企業の理不尽さ

―「シェアガール」「シェアリングエコノミー伝道師」とも呼ばれる石山さんのお仕事はどういったものですか?

メインは一般社団法人シェアリングエコノミー協会の事務局長 兼 公共政策部長としての仕事です。同協会には立ち上げから関わっているのですが、現在では260以上のサービスが会員となっています。こうしたシェアリングエコノミーの普及のために、制度づくりや規制緩和に向けて国に働きかけたり、広報活動を通じて世論をつくったりするのが私の仕事です。

そこから派生して2017年3月には政府から「内閣官房シェアリングエコノミー伝道師」を拝命し、シェアリングエコノミーを取り入れた地域課題解決のアドバイザリーや啓蒙も行っています。それ以外に個人的にも日々シェアサービスを使ったライフスタイルを送っているので、そうした全般を通じて普及活動をしている感じです。

―どうしてこの世界に足を踏み入れることに?

この世界に入ったのには、公私それぞれにエピソードがあります。

まず、プライベートでは幼いころからいろいろな人が出入りする家で育ちました。両親ともクリエイター、父は世界中を旅していたこともある人で、家にはなぜかブラジル人が居候していたり、父が飲み屋で会った人を連れて帰ってきて泊めてしまうこともよくありました。

12歳の時に両親が離婚したのですが、血のつながりはなくても頼れるお兄さんお姉さんがたくさんいたから寂しくなかったですし、インターホンを押せばご飯を食べさせてくれる経済圏が近所にできていました。そうやって周りに助けられて育ったことが、「つながりさえあれば生きていける」と思える原体験になりました。

石山さんのご家族、出会った旅人の方々
石山さんのご家族、出会った旅人の方々

一方、キャリアの面では、就職してからの数年で社会のさまざまな歪みを目にしました。新卒で入ったのはリクルート。いわゆる大企業の人事制度や採用などHR全般をお手伝いする仕事に就いたのですが、違和感を持つことが多かったです。

例えば、とある企業のダイバーシティに関する取り組みでは、真の女性活躍よりも経営の数値目標の達成が優先されるような現場を目の当たりにしました。新卒採用でも、その人の持つ能力に関係なく景気の変動によって学生の座れる座席数が変わってしまったり、また、本人の意思に反した転勤によって、家族と離れて住む場所を変えなければならないことにも違和感がありました。

こうしたことは大企業では当たり前のこととして受け入れられています。でも、私には本人の意思と関係なくその人の人生が決まってしまうというのがあまりに理不尽に思えたんです。

なぜこんなことが起きてしまうかといえば、おそらく問題の本質は企業と個人の力がアンバランスなことにあるでしょう。では、どうすれば個人を企業と対等な位置まで引き上げて、主体的にキャリアをデザインし、常に選択肢を持った形で働けるようになるだろうか・・・。

このように考えて、クラウドワークスというスキルのシェアに関する会社に転職したところから、私とシェアリングエコノミーの関係が始まりました。

シェアリングエコノミー協会のみなさん
シェアリングエコノミー協会のみなさん

―スキルのシェアがどうして個人のキャリアを豊かにするのか、もう少し詳しく伺えますか?

個人が自分の意思に従って働けないのは、これまでは組織に属する形でしか働くことができなかったからです。独立しても働けるのであれば、仮に組織の要請が自分の意思と反するなら、組織を離れるという選択ができますよね。こうしたサービスを駆使すれば、自分の実現したいライフスタイルに応じて、好きな時間に、好きなだけ働くことだってできます。

―個人からすればそれでいいとして、組織はどうなっていきますか?

いわゆる大企業は減っていくのではないでしょうか。個人事業主や一人会社ばかりになるか、もしくはアリババのような超大企業だけが残って、一人会社との二極化が進むのではないかと思います。

そうなることは決して悪いことではないと思うんです。というのも、大企業の一番の問題は経営から一番下までの階層が多すぎること。その結果、間に挟まれた人たちが本来やりたいことをできないでいるのではないかと。

個人的には株式会社である必要さえなくなる未来がくるのではと思っているくらいです。株式市場に引きずられてお金がお金を生むそうした仕組みに身を委ねると、元々は一杯の美味しいコーヒーを作りたくて立ち上げた会社なのに、いつのまにかリンゴもミカンも作ってるみたいなおかしなことが起こることもある。

昔はそれ以外に資金を調達する手段がなかったけれど、今はクラウドファンディングで個人が1億円を集められる時代です。株式会社のようなものが本当に必要なのかといったことも議論されるべきだと思います。

若い世代に広がる将来への不安。解消してくれたのは信頼できる仲間だった

―石山さんの住まいである「Cift」はシェアハウス。仕事だけでなく暮らしにも「シェア」が浸透していますね。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ

ええ。「拡張家族」と称して、60人のクリエイターといろいろなスキルをシェアしながら共同生活をしています。

例えば女性の社会進出で共働きが増え、子育ての難しさで疲弊し、幸せを感じられていない人は増えていますよね。核家族化も進む中、特に都心で子育てをしようと思ったら大変です。だから、Ciftではみんなで子育てをします。

実際に、Ciftで同居しているある家族に子供が生まれたのですが、毎日ご飯を作ったり沐浴したりするのは母親とは限りません。「拡張家族」の誰かしらが面倒を見ているので、生後3週間の子供がいるお母さんが一人で外出することだってできます。

仕事とともに、個人が自由に生きる上で大きな制約となりえるのが家庭です。私たちは、そこにだってもっと別の選択肢があっていいのではないかと考えているのです。

ただし、当たり前ですがそれができるのは信頼できる仲間がいるからです。シェアハウスの良さは表面的に見れば「いいところに安く住める」ことになるのですが、何かあった時に頼り合える関係、信頼できる仲間の存在にこそより本質的な価値があります。

こうした信頼できる仲間との関係こそがこれからの時代の資産(ソーシャルキャピタル)であり、それをどれだけ貯められるかが豊かさの指標になるのではないかと思っています。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ

これまでは持っているお金の量や社会的なステータスが豊かさの象徴だったと思うのですが、今後は人口も減っていくし、マクロ的に見ればこれまで通りの経済成長を前提にした豊かさを維持するのは難しいですよね。

もはや終身雇用は保証されておらず、年金をもらえるかどうかも怪しい。今の20代30代からすると、従来のような豊かさを追求しても明るい未来を思い描けないんです。だからいつもなんとなく不安や孤独を抱えている。

そうした世代がコストを下げつつも生活の質を落とさないためにはどうすればいいかと考えて出した答えが、仲間とつながり、シェアすることなんだと思います。

―石山さんにはそうした不安や孤独はないということですか?

社会人になって東京に住むようになったころは、毎月30万円稼いでも、家賃に10万、他に携帯代、食費、飲み会代と使えばすべて消えてしまって、何も積み上がっていかない。永遠にこれを続けていけるのだろうかという不安がありました。

そもそもリクルートに入ったのは、就職活動中に東日本大震災を経験したことで、「明日地震が起きても生きていける力をつけたい」と思ったからでした。でも実際には一人でできることなど限られている。一向に不安は消えないままでした。

ではどうすればいいのかという時に、昔は唯一の答えが結婚し、二人で生きていくことだったと思うんです。でも、自分にもそれなりに独身でいるうちにやりたいこと、一人でいる時にしかできないこと・・・ 自己実現の欲求があったし、すぐに結婚する気はない。

じゃあ何かあった時に助けてくれるとか、インフルエンザになったらおかゆを作ってもらえるような関係をどう築いたらいいのか。そう考えた先にあったのが今のシェア的なライフスタイルです。今は何かあったら誰にでも頼れるという状態が自分の中に築けています。それがすごく豊かさを生んでいると感じるんです。

これはシェアハウスに限ったことではなく、例えばコワーキングスペースなどでも同じことが言えるはずです。私も働く場所はコワーキングスペースですが、そこにも「おかゆを作ってもらえるような関係」はあります。なぜそういう信頼できる関係を築けるかといえば、コワーキングスペースにおけるつながりが会社対会社ではなく、個人対個人だからです。

これまでの仕事のあり方は、まず会社があり、事業があり、その事業に紐づいて自分の役割があり、名刺の肩書きと肩書きで仕事をするようなものだったと思います。でもそうではなく、個人と個人というところからまずつながり、そこから仕事が生まれるのがこうした場所。そういうことを繰り返すことにより、つながりや信頼が自分個人に貯まっていくのだと思うのです。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ

シェアサービスを使うことが関係資本を蓄積する入り口になる

―しかし、Ciftのメンバーはいずれも自分で仕事を作り出せるレベルのクリエイターですよね。能力があるから信頼されるのであって、誰にでも真似できるものではないのでは?

Ciftのように本当に全部をさらけ出すというのはレベルの高い話だと思います。でも、だからといってそれ以外の人に真似できないとは思いません。誰もが関係資本を貯められるようにしたのがテクノロジーの力であり、シェアエコサービスのプラットフォームだと思うからです。

例えば旅をするとなったら、従来であればホテルに泊まり、タクシーで移動する。これだと、受けたサービスに対する対価を支払って終わりです。でも、ホテルに泊まる代わりにAirbnbを使えば、ホストと一緒にビールを飲んで、フェイスブックでつながって、次にその国に行く時にはもう友達のような関係になっている。

シェアハウスもコワーキングスペースも同じです。これまでは単に消費して終わりだったところで、人とのつながりが個人にストックされていく。シェアエコサービスの本質的な価値はここにあると思っています。

現代における大きな問題の一つに、友達を作る機会がないことが挙げられると思うんです。学生時代に青春をともにした仲間は友達と言えても、職場の同僚を友達とまでは言えないという人は多いのではないでしょうか。学生時代の友達にしても、ライフステージが変われば価値観も変わり、だんだんと話が合わなくなって、会っても案外楽しくなかったということも起こりがちですよね。

今の自分と価値観をともにする友達を新たに作る機会が、大企業で忙しく働く社会人は特に限られている。そうした観点で見ると、つながりを作るきっかけとしてシェアリングエコノミーが果たす役割は大きいんじゃないでしょうか。

例えば、個人間で車の貸し借りができる「Anyca(エニカ)」というサービスがありますが、最初は単純に好きな車をシェアしようと思って利用しただけでも、そこで出会う二人は単に車のオーナー、利用者というだけでなく、共通の趣味を持っていたりして意外な出会いにつながる。自然と話が盛り上がるし、そこから発展してコミュニティができたり、さらには趣味だけにとどまらない関係性になったりということが現実に起きているんです。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ

―先ほどお話しされていたように個人事業主が増えていくとしても、いきなり今の地位を捨てて独立できる人ばかりではないでしょう。でも、趣味から入ってシェアの世界を体感するというのであれば誰でもできそうですね。

そう思います。繰り返しになりますが、大きな事象としてみれば今後、経済が停滞していく可能性は高いし、終身雇用も守られない可能性が高い。日本政府のシェアリングエコノミー検討会議でも、GDPに代わる豊かさの指標をどう作るかという議論がすでに始まっています。SDGsなどもおそらく同じ文脈で、これまで通りの経済成長を追うやり方ではサステイナブルではないと、多くの人が気づき始めています。

誰でも彼でも独立しろと言っているわけではありません。今のままで本人が幸せなのであれば何も変える必要はないと思います。ただ、もしも懸念されるような状況が現実のものになり、今はまだ小さい不安が大きくなるようなら、どうにかして新しい価値観にシフトする必要がありますよね。そうなった時に困らないために、まずはライトな気持ちでシェアサービスを使うというのはいいやり方のような気がします。

日本には昔から結いとか支え合い、おすそ分けの文化があるように、カルチャー的には本来シェアリングエコノミーと相性がいいはずなんです。今はどちらかというと世界に遅れをとっているのが現状ですが、今日お話ししたような価値に消費者一人一人が気づくことができたら、この先日本がシェアリングエコノミー先進国になる可能性はまだまだあると思っています。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山アンジュ
石山アンジュさんの新著『シェアライフ -新しい社会の新しい生き方』
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[取材・文] 鈴木陸夫 [撮影] 伊藤圭

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