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INTERVIEW
水道会社の「スーツに見える作業着」が大ヒット。“異業種すぎる” 新規事業、成功の舞台裏
INTERVIEW

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BOOK MARK

スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」でアパレル事業に参入したのは「水道会社」オアシスソリューションのグループ会社であるオアシススタイルウェア。発売1カ月で300件以上の問い合わせ、発売1年で200社超の法人が導入し、売上1億円を突破するなどヒット商品となっています。

同商品を発案し、同社の代表取締役を務めるのもまた “異業種すぎる” 人材。東京大学卒業後、オアシスソリューションに入社。4年間営業職に従事後、同社の人事部を立ち上げた中村有沙さんです。会社としても、個人としても “異業種すぎる” 新規事業・・・ その成功の舞台裏に迫り、新規事業の鉄則仕事を面白くする方法を探ります。

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙

PROFILE

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙
中村有沙
株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役
東京大学卒業後、水道工事業を営む株式会社オアシスソリューションに入社。4年間営業職に従事後、同社人事部を立ち上げる。人事部在籍中に社内の技術職ユニフォームのリニューアルプロジェクトに携わり、その後事業化。2017年12月より現職。

水道会社が本気でつくった「スーツに見える作業着」

―「スーツに見える作業着」というコンセプトは、とてもユニークですね。創業事業はもともと水道会社なんですよね?

ワークウェアスーツ

そうですね。グループ会社のオアシスソリューションは、もともと代表取締役の関谷(有三さん)の実家が宇都宮市で営んでいた水道会社が元になっているので。マンションなどと契約して、お客さまのご自宅にある給水管の洗浄やメンテナンスなどの事業を行っています。東京へ進出したのも、関谷にはわりとミーハーなところがあって、「起業するなら東京で」みたいな感じだったみたいです。

関連会社のオアシスティーラウンジが運営しているタピオカミルクティー発祥の店「春水堂(チュンスイタン)」も、関谷が台湾へ行ったとき、たまたま入ったカフェに心を奪われて、オーナーと2年半に及ぶ交渉を経て、2013年に開店しました。いまや全国的にタピオカミルクティがブームになっていますけど、かなり早い段階から出店していましたからね。会社として、いまある事業にとらわれず、新しいことをやっていこうという気質はありました。

―でも、中村さんが入社したときにはまだ春水堂はなかったんですね。

そうなんです。就職したとき、家族にも「なんで水道の会社・・・?」と驚かれました。私自身、就活のときにはベンチャーを中心に回っていたんですけど、IT系だとちょっと馴染めなくて。もっと生活密着型というか、日々の暮らしにプラスアルファを与えられるような、地に足の着いたことがやりたかったんです。うちの会社はその点、まさに生活と密接に関わっていながら、社風としてはベンチャー。その両極端な部分が面白いと思ったんです。

―中村さんはどういったキャリアパスを歩んでこられたのですか。

入社して最初の4年間は営業職として勤めていたのですが、当時、社員が7、80名いるのに、人事部がなかったんです。評価制度や採用・教育を一気通貫で行う部署があったほうがいいんじゃないか、と、関谷に直談判しました。もっとこんな研修があれば、とか、会社としてこんなメッセージを発信して、こんな人を採用したほうがいいんじゃないか、と思いをぶつけてみたところ、「それなら、人事部の立ち上げをやってみないか」と。それで、人事として働くようになりました。

―そこからなぜ「スーツに見える作業着」をつくることになったのでしょうか。

会社の10周年記念に向けて、何か新しいことをやろうというプロジェクトが立ち上がったんです。ちょうどそのころ、人事としては、なかなか若手の技術職の採用ができないという課題がありました。そもそも建設業界の平均年齢は50代以上と比較的高く、若手の人材が少ないのです。そこで、少しでも会社のイメージを良くしようと、作業着をリニューアルすることになりました。

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙

というのも私自身、営業職時代に作業着を着て現場に出ることもあったんですけど、車に乗ってそのままコンビニに行ったり、お昼を食べたりしていたんです。それで、たまたまその格好のときに大学時代の友達と会ったことがあって・・・やっぱり、なんとなく恥ずかしかったんですよ。

だから、作業着がもっとカッコよかったらいいのに、と思って。それこそ、作業着を着たままデートに行っても、おかしくないくらいにしたいなあと。それで、ストリート系とかカーゴパンツとか、いろんな案が出たんですけど、お客さまのご自宅に伺う以上、第一印象としてカジュアルすぎても良くない。それなら、「スーツに見える作業着」がいいのではないかと思ったんです。

ただ、「スーツに見える」とは言っても、実際に現場の人にとって使い勝手が良いものでないと意味がないので、かなり時間をかけて開発しました。汗や汚れにも強く、毎日ガンガン洗濯機で洗ってもシワになりにくいとか、どの位置にどういうポケットを付けるか、とか。アイロンをかける手間もかからないように、形状記憶素材で、伸縮性もあって・・・4回くらいサンプルを作っては、実際に着てもらって、改善して、2年かけてやっとできあがりました。

ワークウェアスーツ

それで、実際に技術職の社員が着用して業務を行うようになったところ、すぐに取引先から反響があったんです。レジデンスマンションなどを管理している三菱地所コミュニティさんから「管理員の制服として採用できないか」とお声がけをいただいて。それで、もしかしたら他にもニーズがあるのかもしれない、と事業化することになりました。

―では、「新規事業開発をしよう」と、リサーチしていたわけではなかったんですね。

本当に想定外で、事業化するつもりはなかったんです。事業化するにあたって、新会社を立ち上げることになったので、「そもそものアイデアを思いついたのは中村さんだから、やってみなよ」と、代表取締役に就任することになって。ただ、新卒でこの会社に入社したときから、「いつか新規事業をやってみたい」という思いはありましたし、事業化のアイデアが生まれたら手を挙げてみようと思っていたので、気負いはなかったです。

事業化するつもりはなかったのに大反響、炎上も

―とはいえ、まったくの異業種で、いきなり代表取締役。さぞ不安もあったのでは?

そうですよね・・・。我ながらよくやったなあと思うんですけど(苦笑)、2017年12月に会社を立ち上げて、いまは企画が3名、広報1名、法人営業3名、ECのマーケティングと在庫管理担当が3名の、計10名の社員がいて、そのうちアパレル経験者の中途採用が3名、それ以外の7名はみんな新卒1、2年目なんです。だからもう、ほとんど素人なんですよ

そのなかでただただ、必死に手探りでやっているというか、すべてが「お客さまの声に応えるためにやる」――。その繰り返しでしたね。そもそも最初のきっかけもお客さまからのご要望からでしたし、「個人でも買えませんか?」とお問い合わせをいただいて、あわててWebサイトを立ち上げて、パンツもはじめは裾が絞ってあるジョガータイプしかなかったのを、「ビジネスシーンでも使いたい」ということでストレートタイプもつくって、女性用のご要望もいただいたので、レディースでも展開するようになって・・・。

―スーツをつくってくれる会社もイチから選んだのですか。

そうですね。OEMもやっているアパレル会社にお願いして、はじめはあくまで社内用でしたから、〆切もありませんでしたし、妥協せず、自分たちが本当につくりたいものをつくろう、という思いだけでした。

私たちはまったくの専門外というか、アパレル会社ではないことが逆に強みなんですよね。業界の感覚だと、スーツと作業着はそれぞれまったく別のカテゴリにわかれていますが、素人目線だとそこに垣根はないんです。純粋に、自分たちがいちばんの顧客として、「どんな服がほしいのか」という思いを突きつめて開発を進めました。

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙

―社内にまったく知見やノウハウのないことを実行するには、かなりハードルがあったのではないでしょうか。

難しいことは日常茶飯事でしたね。はじめは専門用語も分かりませんし、誰とどう交渉して、誰にどんな指示をすればいいのか分からなかったので、取引先に「次に何を用意すればいいですか?」「これはどうすればいいのですか?」と、訊ねるしかなくて、本当にたくさんの方々に助けていただきました。

発売開始してからも、予想以上に話題になって、欠品続きになってしまい、ほしい人に届けられない、商品がないと売上が立たない・・・という状況に陥ってしまいました。何かプロダクトをつくること自体が会社としても初めてでしたし、どういったペースで生産を行い、どのくらい在庫を持てばいいのか、まったく経験値のないなかで進めなければなりませんでした。

ただ、人事部を立ち上げたときもそうでしたけど、先輩がいないから、社外で似たようなことをしている人に話を聞いてみて、とにかくやってみるしかないんですよね。ゼロから新しいことをするときに必要なのは、経験値というより、やってみて、いかに試行錯誤できるかそこから何を学んで、何を改善できるのか、地道に繰り返していくしかないんです。

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙

―新卒社員が半数以上のチームをマネジメントするのも大変だったのでは?

私自身、人事部時代に数年マネジメント経験はありましたが、10名、しかも新卒社員のほうが多いというのは確かにチャレンジングですよね。ただ、新卒社員でもみんな、「新規事業をやりたい」というモチベーションを持っていて、バイタリティもあるので、どんどん業務をまかせています。今日、同席している広報も新卒2年目になったばかりで、はじめに専門書を5冊渡して、「頑張って!」みたいな感じでしたから(笑)。

もちろん、失敗はフォローしますし、ちょっとした悩みもすぐに打ち明けやすいように、オープンスペースで懇親会を開いたり、午後3時以降はビールを飲みながら雑談してもOKだったり、コミュニケーションは工夫しています。

でも当社の事業自体、未経験でまっさらな発想ができたからこそ、実現できたのかな、とも思っています。「ワークウェアスーツ」を販売開始するときにも、知人のアパレル会社社長さんから、「作業着なんて個人には絶対売れないよ」と言われましたし、長年業界にいる人からすると、「あり得ない発想だよね」とは言われます。

―そんな懐疑的な声を払拭するかのように、大きな話題になりましたね。

はい。2018年3月にワークウェアスーツをローンチしてから、おかげさまで約1000のメディアで取りあげていただいて、年商は2018年度で1億円を売り上げることができました。

はじめは建設系の会社から主にお求めいただけるかな、と思っていたのですが、運送、販売、介護、畜産、ごみ収集、イベント運営・・・想像以上にさまざまな業種の方からお問い合わせいただいて、全国200件以上の法人のお客さまにご購入いただいています。レストランや結婚式場など、フォーマルな場でも機能性を求められる業種の方にもご着用いただいています。

個人のお客さまにもお買い求めいただいていて、意外だったのはビリヤードの選手の方。ドレスコードがあるんですけど、やはり動きやすさが求められますからね。あと、サバゲーで使っている人もいるようです。

―それだけ潜在的なニーズがあったということですよね。

ただ、大きな話題になった反面、思わぬ反響もあって。ローンチの際、プロモーションムービーを制作したのですが、賛否両論、SNSでいろんな意見をいただいたんです。

「作業着をなめるな」とか、「スーツで現場作業ができるわけない」「バカにしているのか」と・・・。私たちとしては真摯に、いいものをつくっていたつもりだったので、正直なところかなりショックでした。

でも、逆に応援の声もたくさんいただいたんです。「まさにこういう服がほしかった」とか「こういうのがあるなら、こんなバリエーションもほしい」とか。そういった声に応えながら、商品をブラッシュアップしていきました。

「自分たちが本当にほしかったもの」だから多くの人に届いた

―会社を経営するうえで、グループ会社の経営陣から何かアドバイスをもらったことはありましたか。

代表の関谷からはよく、10年後をイメージしつつ、3年後にどんな戦略を立てて、1年半後にどんな打ち手を用意して、3カ月後にどんな指示をするのか。短期、中期、長期のスパンすべての視点を持って考えなさい、と言われています。つい、半年後の売上を追ってしまいがちなんですけどね。

それと、社風として積極的に投資していこうという姿勢があるので、どんどんアクセルを踏め、と。春水堂もはじめは苦戦しましたけど、積極的な姿勢を崩さなかったことで、いまではグループの稼ぎ頭ですからね。

―10年後、どんなイメージを持っていらっしゃるのですか。

社内ではよく「スーツ界のAppleになろう」と話しているのですが、例えば、Appleは時計業界という伝統的な産業に「AppleWatch」というプロダクトをつくって、他と比較できないようなまったく新しい価値を生み出したじゃないですか。そういったことができればいいなと考えています。

―まったくの異業種からの新規事業参入で、上々の滑り出し。多くの企業が参考にしたい部分も多々あると思うのですが、成功の秘訣はどんなところにあるとお考えですか。

そうですね・・・まだ始まって1年ちょっとですし、偉そうなことは何も言えないんですけど、いちばん大きかったのは、「技術職をなかなか採用することができない」という、自分たちが本当に困っている課題があって、それをなんとか解決したい、解決するためにこういうものがほしい、という切実な思いがあったからこそ、生まれた商品だったということなんですよね。

自分たちが心からほしいものを“つくってしまった”。そうしたら、それをどうやって他の人にも伝えようか、と考えて、ひたすら試行錯誤してやってきた、ということだと思います。

だから、どんなにこれから知識と経験を積んでいっても、常にいち消費者としての目線を持ちつづけて、それを大切にしていかなくてはならないなあと思います。例えば、アパレル業界の常識では、毎シーズン新しいデザインの服を発表して、サイクルを回していくのが当たり前だけど、いち消費者としては「せっかく気に入ってたのに、廃番になってしまった」というのは、不便じゃないですか。そういう意味では、新卒社員は、いつもフレッシュな視線を持ち込んでくれるのではないかと考えています。

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙

それともう一つ大切にしているのは、スピード感。当社では企画から商品開発して、販売するまでで3カ月くらいのスピードでプロジェクトを進めています。なるべく早く形にしてみて、失敗も受け入れつつ、どんどんチャレンジしていこう、と。ですから、そのスピードについてきてくださる会社とパートナーシップを組んでいます。あとはもちろん、私たちのビジョンへの共感。服を変えることで、働き方が変わり、人々がいきいきと働ける・・・そんな思いで一緒に取り組んでくれる仲間とパートナー会社とともにやってこられたから、なんとかうまくいっているのかなと思います。

―そんな中村さんご自身が考える「仕事を面白くする方法」はなんでしょうか。

そうですね・・・どちらかというと私自身、「面白そう」で仕事を決めていないというか、むしろ「解決したい課題を解決するため」に仕事を選んできたんです。就職のときに営業職を選んだのも、口ベタだったのをなんとかしたかったから。私、学生時代は「陰キャ」で、友達も少なくて「人生損してる」って思っていました。営業職に挑戦することで、自分の世界を変えようとしたんです。

人事部を立ち上げたときも、いち社員として解決したい課題があったからでしたし、いまは、ワークウェアスーツによって、着るものを変えることで、働く人たちの環境を変えていきたい。どんどんブラッシュアップしたり、よりよくしていったりすることが好きなんです。だから、苦手意識でなんでもかんでも避けるのではなく、まずは没頭してみる、というのもいいかもしれません。

―これからのビジョンは?

今期の売上目標として3億円を目指しているんですけど、まずは幅広く知ってもらう、ということですね。もし大手のスーツメーカーさんが私たちのマーケットに参入すれば、似たようなことをやれなくはないと思うんですよ。だから私たちは、「作業着スーツならオアシススタイルウェア」という圧倒的なブランドを築きたい。そのために、どんなお客さまでも着用できるようなサイズ展開や、さまざまな業種に対応できるような用途別のスーツなど、より多くのシーンに対応できるように商品を展開できたらと考えています。

株式会社オアシススタイルウェア 代表取締役 中村有沙

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[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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