長時間働く上司が絶対に口に出せない本音「ダイバーシティ嫌い」への処方箋

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スリール株式会社は2010年、大学生がインターンとして育児体験を行い、仕事と育児の両立やキャリアについてリアルに学ぶ「ワーク&ライフ・インターン」事業を始めました。

近年、社会で働き方や女性活躍について語られ、企業の抜本的な意識改革プログラムへのニーズも高まり、2013年からは企業向けのプログラム提供も開始。

今回は、育児体験を通じてダイバーシティマネジメントについて学ぶ「イクボス実践トレーニング」についてお話を伺いました。

スリール株式会社 代表取締役社長 堀江敦子

PROFILE

スリール株式会社 代表取締役社長 堀江敦子
堀江敦子
スリール株式会社 代表取締役社長
日本女子大学社会福祉学科卒業。大手IT企業勤務を経て25歳で起業。花王社会起業塾に参画。「働くこと」「家庭を築くこと」をリアルに学ぶ「ワーク&ライフ・インターン」の事業を展開。経済産業省「第5回キャリア教育アワード優秀賞」を受賞。両立支援や意識改革を得意とし、企業や大学、行政等多くの講演を行う。2015年日経ビジネス「チェンジメーカー10」に選出される。内閣府「男女共同参画専門委員」や厚生労働省「イクメンプロジェクト」、「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」など複数行政委員を兼任

「ダイバーシティ嫌い」なマネジャーの意識改革は実践あるのみ

「ダイバーシティ」と言うと、漠然と「多様性」「多様な働き方」という抽象的な概念だけが頭に浮かび、どう対応すればよいか分からなくなる人が多いこともとても理解できます。

ダイバーシティは抽象的な概念として捉えるのではなく、「組織の中でメンバー個々人が理想の働き方を実現している状態」を想像できるようになることが原点です。つまり、「部下がライフも含めて、どういう状況下に置かれていて、どんな生き方をしたいのか」。

子育て・介護をしているときに、他にサポーターはいるのか? 今後どんな生活をしていきたいと考えているのか。それが分かると、相手の状況を知った上で仕事の相談ができ、部下から信頼され、気持ちよく仕事をまかせられるようになります。これがマネジメントにおいて重要なポイントであり、マネジャーが楽になることにつながるのです。

部下はライフの中からワーク(会社)に来ている。このことを実感を持って理解するためには、自分とは違う他者の立場を体験することが大事なのです。

体験をすることで、意識が変わる、行動が変わる

—イクボス実践トレーニングとは、どのようなものなのでしょうか。

約1カ月半の間に、会社を17時に退社して子育て体験をしてもらいながら、ダイバーシティの講座や、働き方を考えるワークショップなどを実施します。座学と実践でダイバーシティマネジメントついて体感し、本気で考えた上で、社長に施策を提案してもらうというプログラム。昨年、人材系企業との共同で開発しました。

「イクボス実践トレーニング」の流れ
「イクボス実践トレーニング」の流れ

子育て体験と一言で言いますが、マネジャーには時短勤務の社員の生活を体験してもらいます。それは単に「17時に退社してもらう」だけでなく、家事、育児も含めてです。

退社してから、保育園に迎えに行って、買い物をして、料理をして、子どもの遊びや宿題につきあう。夜にはヘトヘトにも関わらず、翌日も出勤して時短勤務。こうなると今まで時間で補っていた仕事が溢れ出し、強制的に仕事を効率化せざるを得なくなります。

優先順位の低い仕事を切ったり、部下に仕事を振り分けていく。それだけでも時間が足りないので、組織自体のミーティングの時間や仕事の共有方法まで変えていかないといけなくなる。

このことでどれだけ自分が「時間」に頼った働き方をしており、部下の時間を無駄に奪っていたのかを痛感することになります。また仕事を残したまま帰宅をしなければいけない焦りも体感することで、時間制約がある人の罪悪感もリアルに感じていくのです。

プログラムの効果
プログラムの効果

このプログラムでは、ただ「両立の大変さ」を体感するだけでなく、子どもとしっかり向き合う体験をすることで、「プライベートの楽しさ」も実感できます。

時間がないからメールが見れないのではなく、家に帰った後に自分に120%向き合ってくれる子どもに対して、「携帯を見ながら対応したくない」という感情や、子どもと過ごす生活が「かけがえの無い時間」と感じたりするのです。

このようなプライベートのよろこびや愛おしさを感じると、「ワークライフバランス」なんて一般的な話じゃなくて、メンバー一人ひとりが「ライフの中からワークの時間を割いて来ているんだ」ということに気づいていきます。

それによって、「この仕事はメンバーの大切な時間をもらうほどのものか」と考えるようになり、会議の時間を1時間から30分に短縮したり、逆に仕事の話ではなく「相手を理解する」ために1on1の面談を毎週30分だけでも実施するようになります。

自分の仕事を部下にまかせても問題なく進むことが分かれば、プログラム終了後も継続的にまかせられるようになっていて、「自分が楽になった」という声が多く出ています。手法から入るのではなく、意識を変えることによって自ずと行動が変わっていくのです。

—上司のマネジメント手法にも変化が出てくるのですね。

子育てとマネジメントって重なる部分が多いんです。

プログラムではかならず2人ペアで取り組んでもらうのですが、例えばあるペアは、一人はなるべく子どもと一緒に遊ぶタイプで、もう一人はわりと放任するタイプ。お互いにそれを見て、マネジメントでも同じことをやっていると気づいていました。「あれ、ひょっとして俺のマネジメント、過保護すぎたかな?」と。

それに、本当の意味で「多様性」という言葉を理解できるようにもなります。子どもにもさまざまいて、日によって変わりますし、行動パターンも異なります。「理解できなくて当然なんだ」と分かれば、子育て中の社員にも「あぁ、大変なんですね」と共感して、「お子さん、熱大丈夫でした?」と自然に声をかけられる。そうすると、その社員も「理解されている」と安心しますよね。

—子育て体験だけでここまで変われるものなのですか?

子育て体験は重要なのですが、その体験の学びを最大化するために「他者との違いの理解」「整理の手法」「アクションの促し」「振り返り」「発信」という流れで仕掛けを作っています。

キックオフでは、まず「他者理解ロープレ」というものを行い、いかに自分と相手が考えていることや背景が異なり、見えないのかを体感してもらいます。これはマネジャーとメンバーの立場に分かれて台本を読み、面談のロールプレイングを行うものなのですが、自分視点でマネジメントを行っている人ほど、それが困難になります。

そのあとは、メンバーの見えない部分を整理する手法を学びます。メンバーの想いや背景を「キャリア」「プライベート(子育て・介護)」「周りのサポート」という3本軸で整理することで、コミュニケーションする相手の状況をより理解できるようになります。こういった事前学習をした上で子育て体験に臨むことで、学びが深まっていきます。

また、子育て体験をしている間に「アクションプラン」を課し、メンバーとプライベートについて語り合ったり、会議の時間を短くする工夫をしてみたり、この体験を元にビジネスプランを考えてみたりすることで、マネジャーが働き方を変え、マネジメントを向上し、ライフをワークに活かせるような体験をしてもらいます。

実際にこのプログラム参加後に社内のビジネスアイデアコンテストに起案をした参加者が多くいました。

—マネジャーが変化することでの組織への影響は?

波及効果
波及効果

上司が変わるとメンバーの意識も徐々に変化していきます。他の課で同じように子育て中の社員に話を聞いたり、同僚に相談したり、縦横斜めの自然なやり取りが生まれる。自分だけで心のモヤモヤを消化したり、抱え込まなくても済んだりします。

経験することで、「マネジャーも完璧な存在じゃないんだ」とメンバーが理解して、「助けてあげよう」となる。チームがお互いを尊重し合えるようになり、理想的な形に近づいていきます。

このプログラムでメンバーへの理解が促進され、「組織の中でメンバー個々人が理想の働き方を実現している状態」、つまりダイバーシティを具体的に想像できるようになっていくのです。

スリール株式会社 代表取締役社長 堀江敦子

ダイバーシティマネジメントが企業で求められる理由

これから少子高齢化がますます進んで、働き手の絶対数は少なくなってきます。おのずと「24時間働ける人」はマイノリティになりますよね。ライフステージを経るごとに子育てや介護など、さまざまなファクターがからんでくる。いついかなるとき、どんな状況になるかは誰にも分かりません。

その中で社員をマネジメントしていくには、「長期的に働いてもらうためにはどうすればいいか」を常に意識していく必要があります。

短期的に見れば、最初はパフォーマンスが落ちることがあるかもしれません。一人当たりの労働生産性ランキングでは、日本は先進国でも最低ということを見ても分かるように、「時間」に頼った働き方をしてしまっている会社ほど、短期的にはネガティブな現象が起こる可能性が高いです。そういう前提を理解した上で、どのようにしたら効率的にできるのか、知恵を絞り、さまざまな選択肢を実践して仕事を効率化する必要があります。

私も創業当初は21時まで働いていましたが、今はママ社員が4分の3なので、全員17時までには帰ります。もちろん私もです。むしろママ社員の働き方に合わせることで、仕事がとても濃密で良質なものへと変わっていきました。

—これからの時代、真の意味でダイバーシティを理解したうえでマネジャーが取るべきアクションはどんなものですか。

これからのマネジャーの役割は、「プログラムコーディネータ」や「ファシリテータ」であるとよく言われています。多様な人材が多様な働き方をできるように、それぞれの背景を詳しく聞いて理解した上で、仕事や組織をマネジメントしていくスキルが必要になるのです。

また、現場を知っているマネジャーだからこそ、その状況を理解した上で会社全体の仕組みや組織を変えていくために経営陣などトップに対して提言を行っていってほしいと思います。

イクボス実践トレーニングのプログラムでも、参加するマネジャーは最後に社長に対して「提案プレゼン」を行います。現場の課題を洗い出し、自分たちが変える覚悟を持った上で組織を変える提案をするのです。そうすることで、社長も組織を変えていく必要性を感じ、行動を起こすようになっていきました。

どうすれば環境を変えられるのかと、マネジャーはもちろん、社員、メンバーも視座を高くして真剣に考えなくてはなりません。

—スリールでは管理職向けだけでなく、企業の若手社員向けや育児休業中、採用の面でもプログラムを提供されていますが、企業もそういった課題を持ち始めているということでしょうか。

そうですね、ようやくその危機感が経営者や現場の管理職の方々にも伝わってきたという実感を持っています。最初は「家庭内インターンシップ」がキャリア研修として必要だとはなかなか認識してもらえなくて。最初に協働したのは大阪ガスさまでした。入社志望の学生が育児中の共働き社員のご自宅を訪問し、仕事と育児のインターンシップを行いました。

共働き社員にとっては、インターンを受け入れることで職場復帰やキャリアアップの準備を整えることができる。入社志望の学生には、「ここは子育てをしても働き続けられる会社だ」と思ってもらえる。採用側としては優秀な人材を集めることができる。三者三様にメリットがあるんです。すでに4年間、このインターンを続けています。

—若手社員も、プライベートが原因でキャリアについて悩んでるそうですね。

そうなんです。スリールで約500名のアラサーの働く女性にアンケートを取ったのですが、「仕事と子育ての両立に不安を抱えたことがある」と答えたのは92.5%。そのうち、それを理由に退職や転職を考えたことがある人は50%以上。自分がキャリアを構築するまでは子どもを産まないでおこうと考えたり、産むことをあきらめようと考えたりした人が約50%いるのです。ただ、この人たちの70%が「求められれば管理職をやってみたい」とも考えています。

つまり、多くの人がキャリア構築と家庭の両立に不安を覚えて、キャリアか家庭のいずれかをあきらめざるを得ない状況にあるということ。これを打破するには、当事者である若手社員に「自分でも両立できる」という自信を持ってもらうことも必要ですし、縦横斜めのつながりを作って、相互理解も進めないといけない。マネジャーがダイバーシティに対応し、それを前提としたマネジメントをする必要があるのです。

—若者たちも悩んでいて、マネジメントも悩んでいる。だからこそ、抜本的な取り組みが必要なんですね。

企業も本気にならないと、採用でも置いていかれます。男女・理系文系に関わらず、就職をする際に重視することの2位が「個人の生活と仕事を両立させたい」と4年連続増加傾向にあります。(毎日コミュニケーションズ「2016年卒マイコミ大学生就職意識調査」 )。

ただ、これは単純にプライベートを謳歌したい、楽しみたいと思っているわけではありません。スリールで行った「仕事観についてのアンケート」では、17時に退社する上で必要なこととして「制度」よりも、「職場の風土」「日々の仕事の効率化」のような意識や努力の点が挙げられました。

学生たちも良い意味で働き方をシビアに考えていて、優秀な学生こそ働き方に対する意識が高い会社でないと長期的に存続できないと考えています。社会だけでなくこれからの世代の意識も変化していることを理解して、一過性ではない連続的な施策が求められています。

スリール株式会社 代表取締役社長 堀江敦子

[編集・構成]doda X編集部

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