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INTERVIEW
今、あらゆるビジネスパーソンに創造性が求められている「本当の理由」。デザイン思考のスペシャリストに聞く
INTERVIEW

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BOOK MARK

アップルや任天堂、IBMやGEなど世界中のさまざまな企業で活用が広がっていると言われる「デザイン思考」。いまやデザイン思考という言葉自体を聞いたことがない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

けれども、「デザイン思考が有効」と聞いて、単に「プロダクトのデザイン(意匠)を大事にしよう」といった主旨として理解し、クリエイティブな職種ではない自分には関係ないことと思っている人がいるとしたら、それは大きな誤解かもしれません。

むしろデザイナー以外の人、例えば営業担当者であっても創造的な行為をできるように方法論化したのが、デザイン思考。現在起きていることをひとことで表現するなら「創造の民主化」ということになるでしょう。

そう語るのは、デザイン思考のスペシャリスト集団である、共創戦略デザインファーム「BIOTOPE」の佐宗邦威さんと小林泰紘さん。最近では「デザイン経営」と言って、組織づくりやビジョン策定など経営レベルにまでデザイン思考のアプローチが用いられるケースが増えているといいます。

なぜ、ビジネスパーソン一人ひとりが創造的である必要があり、デザイン思考はそれにどう寄与するのでしょうか。デザイン思考のアプローチを用いてさまざまな組織の新規事業創出や組織づくりを行ってきたお二人に話を聞きました。

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威/株式会社BIOTOPE Creative Catalyst 小林泰紘

PROFILE

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威
佐宗邦威
株式会社BIOTOPE 代表
写真右。P&G、ヒューマンバリュー社を経て、 ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラムの立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』。
株式会社BIOTOPE Creative Catalyst 小林泰紘
小林泰紘
株式会社BIOTOPE Creative Catalyst
写真左。Impact HUB Tokyoにて社会起業家支援を経て、人間中心デザインを専門に大手企業の事業開発・マーケティング支援に従事。その後、BIOTOPEに参画。個人の思いや生きる感覚を起点とした事業創造・ビジネス変革を伴奏するカタリスト/共創ファシリテーターとして活動。

進化し続けてきた「デザイン思考」

―デザイン思考という言葉を聞いたことがない人はいないでしょうが、中には誤解している人もいるかもしれません。あらためてデザイン思考とは何か、教えてください。

佐宗 デザイン思考は、あるアンケートによると5割以上の人が聞いたことがある、と答えるなど認知度が高まっている一方で、実装したことがある会社は1割程度と、今から普及段階に入る考え方であり、メソッドと言えます。

さまざまな定義がありますが、「人びとが日々の生活で感じている課題を解決するために、デザイナーのように右脳思考的に考えて、解決策を具体化しながら新しいものを生み出す創造的問題解決の方法論」というのが、一般的な理解。最もよく知られるのは、スタンフォード大学d.schoolが提唱する以下のプロセスです。

d.school

あるユーザーに共感し(①共感)、そのユーザーが本当に感じているニーズに基づいて課題を定義し(②問題定義)、解決策を作り(③創造)、アイデアを簡単に形にし(④プロトタイプ)、テストする(⑤テスト――という5つのステップから成ると言われています。

―デザイン思考のそもそもの成り立ちは?

建築家のPeter Roweが、新たなものを生み出す建築家の思考過程を分析、言語化したものをデザイン思考と呼んだのが始まりです。彼らの創造性を分析し、再現可能にしようとする取り組みがその原点でした。

それが一気に世の中に広がったのは、1990年代半ば、世界的に有名なデザインファームIDEOが、特にWebの体験設計などインタラクションの分野でユーザーの問題解決をするための方法論として体系化し、スタンフォード大学を通じて世界中に発信したことがきっかけです。

デザインは日本語だと「意匠」を意味することが多いですが、英語本来の意味は「設計」。だからデザイン思考は「設計する思考」の意味です。私の『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』という書籍は台湾でも翻訳され、販売されていますが、そのタイトルは『商業人設計脳』です(笑)。

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威

現在のデザイン思考は、3つの考え方が融合してできたものです。

1つめはスタンフォード大で教えられていた「ビジュアル・シンキング」。絵を描いて考えることにより言葉として概念化される前のアイデアを掴む方法で、エンジニアというどちらかというと線形で物事を考える人たちが、非線形で考えるためにはどうすればいいかという文脈で生み出されました。

2つめはアメリカ・シカゴを中心に中西部で生まれた「ユーザー中心デザイン」と呼ばれるもの。ユーザーがどのように使っているかを観察しながら、プロダクトや体験を作るという考え方で、特にWebでのインタラクションをデザインする際に相性がいいものとして広がりました。

ここに3つめとして加わったのが「共創」と呼ばれる概念です。これはデザインの世界にはもともとあまりなかった考え方でした。なぜなら、デザインは基本的には個人性や作家性の強い分野で、デザイナーはコラボが苦手な人たちとされてきたからです。

こうした別々の文脈で進化した3つの考え方が融合して生まれたのが、今日のデザイン思考だと捉えることができます。

株式会社BIOTOPE

進む創造の民主化。周回遅れの日本企業

―デザイン思考はどうして今のように広がったのでしょうか?

佐宗 さまざまなものがアナログからデジタルに置き換えられていくと、これまでは作って売ったら終わりだったものが、ある程度継続的に、作り手側で体験そのものをコントロールできるようになります

その結果、もともとはWebのインタラクションを作るとか体験を作るということから始まったデザイン思考は、その適用範囲を広げていきました。すなわち、デザイン思考はデジタライゼーションの広がりとともに広がったと言えるでしょう。

2010年代前半になると、「さらなる成長のためには経営そのものにイノベーションが必要」ということが盛んに言われ始め、デザイン思考がもう少し大きな意味での新規事業創造という文脈に広がりました。今はさらに、企業の戦略づくりなど経営レベルの形が見えないものにまで適用範囲が広がってきています。

それに伴い、デザイン思考の適用タイプ自体も大きく2つの方向に枝分かれしています。

先ほど話したデザイン思考の3つのルーツのうち、「ユーザー中心デザイン」とか「共創」と呼ばれていた部分はもともと、あくまで「商品」を開発する際のプロセスとして用いられていたものです。それが最近では、例えば、IBMが顧客を巻き込んでWatsonなどAIの「システム」を作るというように、より広い意味での共創へと変わってきています。

なぜなら、以前は、ユーザーを理解し、課題を定義し、分析し・・・というデザイン思考の前半のプロセスに時間がかかりすぎ、ようやく形になるころにはすでに次の流れが来てしまっているということがよく起こっていたからです。

そのため、「そもそも何を作るかというコンセプト作りから、まるっとユーザーと一緒にやってしまえばいいのでは?」と考えるところが増えてきたのです。そのほうが、顧客のニーズを引き出せることになるから、商品が売れる確率も高くなる。IBMやSAPなどプラットフォーマーを中心に、B2Bビジネスでうまく展開されるケースが出てきています。

―もうひとつの枝分かれの流れは?

佐宗 デザイン思考のもうひとつの側面である「非連続的に新しいことを考えていく」部分を引き出して、例えば、2030年に自分たちが実現しようとする未来のビジョンや、会社の新しい事業ビジョンや事業モデルといったものを広い意味で創造していく流れがあります。

こうした2つの枝分かれに伴い、創造的な仕事の担い手にも変化が起きています。まず前者の流れにより、以前は研究開発デザイン部門の人がやっていたことを、現場の実装レベルの人がやるようになってきた。「未来を考える」というのも、以前であればひと握りのビジョナリーな人がやっていた仕事ですが、その裾野が広がりつつあります

しかし、これはある意味当たり前のこと。なぜなら、デザイン思考とは本来的に、これまではデザイナーと呼ばれる一部のクリエイティブな人がやっていた創造的な行為を、誰でもできるような形で方法論化したものだからです。現在起きていることをひとことで表現するなら「創造の民主化」でしょう。

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威

―IBMなどの企業はどのようにデザイン思考を取り入れていったのでしょうか?

小林 IBMは2012年から全社的にデザイン型組織への変革を始めています。もともとエンジニアとデザイナーの比率は「72:1」だったものが、育成・採用を強化し、2017年には「8:1」になったそうです。

とはいえ、もともと広義のデザインができる人材ばかりだったわけではなく、5年以上前から独自のトレーニングプログラムを開発し、ユーザー体験や共創文化をリードしていける人を増やしていったといいます。そうした環境・人材づくりも含めて、全社を挙げてデザインの役割を広げてきたということです。

―日本企業はどうでしょう?

佐宗 例えば、パナソニックはシリコンバレーの拠点でデザイン思考を活用した「Panasonic β」という取り組みで実装していますが、自社流の価値創造プロセスとして全社的に編成できる会社はまだ少数です。関心を持っている会社は非常に多いですが、それを実装する段階になると、前述したようにデザイン人材の供給が追いついていないのです。

人材資源は限られるので、IT企業であれば、UXデザインには使うけれど実装まではいかないとか、逆にセールスが大事な会社であれば、フロントエンドを中心に配備するなど、戦略的な領域を特定して実装するのが現実解だと思います。

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威/株式会社BIOTOPE Creative Catalyst 小林泰紘

小林 人材供給不足に加えてもう一つ、組織の課題もあると思います。門や部署を超えてシームレスに体験をデザインしていく必要が出てきます。例えば、一人の顧客に対して、営業と販促部隊、コールセンターがうまく連携している、といった具合です。ですから、縦割りの組織で連携が取れていなかったり、売り上げのKPIをそれぞれに追い求めているかぎりは、最適な顧客体験は実現するのは難しくなります。

IBMなど先進企業のデザイナーと話をしていると、例えば、現場で得られた顧客インサイトを社内に発信して共通言語化したり、顧客との共創の場に有志の社員や役員を巻き込んだりといった組織の文化づくりを重要視している印象を受けます。多くの日本企業にとって、デザイン思考的な実践をチームや組織構造を越えて文化としていかに広げていくかがこれからの課題なのではないでしょうか。

株式会社BIOTOPE Creative Catalyst 小林泰紘

正解のない時代だからこそ、個人をエンパワーしていく組織モデルへ

―日本の組織はどう変わればいいのでしょうか?

佐宗 IoTが非常に分かりやすいですが、インターネット的な考え方が広がっていくと、これまではモノを扱っていたメーカーもだんだんとコト化、サービス化します。すると、これまでは物理的な資産、例えば生産性の高い工場をどれだけ抱えているかが重要でしたが、これからはいかに知恵を集めて、新しい価値を出していけるかの勝負になります。

すでに、デジタル化の波が押し寄せ、企業によっては適応し始めているところもあります。車やバイクなどのモビリティ、銀行や保険のFinTech、農業のAgriTechといった分野において、それは顕著でしょう。

また、今後企業は、価値を作っていくうえで、自社のリソースだけではなく、外からさまざまな知恵=人を呼び込む必要があります。となると、組織の形としても、これまでのように組織と組織の間にはっきりとした壁のあるサイロ型から、明確な壁を持たないネットワーク型へと変化せざるを得なくなる

では、明確な壁で囲い込むことをせずに、自然と人が集まってくるような場をどう作ればいいのか。そこで重要になってくるのがミッションでありビジョンです。

イーロン・マスクが一方では火星を目指し、一方ではEVをやるというのは、背景には「このままでは地球上に人が生きられなくなる」という問題意識があり、そうではないサステイナブルな世界を作るという強いミッションがあるからです。なぜ存在するのか、結局のところ何がしたいのかといった強いミッション、大きなビジョンがあるところに、コラボレーションしたいという人を集める求心力が生まれるのだと思います。

なおかつ、こうした変化の速い時代においては、ミッション・ビジョンも一度作ったらそれで終わりというのではなく、時代に合わせてアップデートする必要があります。ですから、ミッション・ビジョンを自ら定期的にアップデートできる組織こそが、この時代における強い組織と言えるでしょう。

―なるほど。

佐宗 ただ、人を惹きつけるにはそれだけではダメ。一方ではやはり、「この会社と組むとこんないいことができる」というメリットを示すことができなければ人は集まりません。それを僕は「インフラ」と表現しているのですが、例えばAPIが使いやすい形で公開されており、その会社がもつ知的資産にアクセスしやすいというのは魅力の一つ。また、その組織の構成員に魅力があり、共創しやすい環境や文化が組織内にあれば、それもまた魅力として働くはずです。

魅力的なビジョンと共創文化。この両方がある組織にリソースが集まり、そのリソースがまた新たなリソースを呼ぶという循環が生まれるのではないかと考えています。

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威

小林 インターネット的な考え方の広がりは、個人に力を与えたとも言えます。個人の社会に対する影響力を飛躍的に高めた、SNSやYouTubeが分かりやすい例ですね。これと相似形の変化が企業の経営モデルにも起こっていると考えています。

20世紀の工業化社会においては、いかに効率よく正確に量を生み出すかが重要で、階層化された指示系統のもとトップダウンでやっていくことが合理的でした。しかし、現代のようにネットワーク化された情報社会では、さまざまな出来事が連鎖反応的に広がっていき、トップダウンだけでは急速で複雑で多様な変化に対応できません

それなら、現場で社会の変化を取り込みながら、自律的にアイデアをプロトタイプしたり、いろんな人と自由に共創できる環境をつくり、組織としてチャレンジの幅と数を増やしていくことこそが経営の重要な役割となってきています。

BIOTOPEで実施したデザイン思考のワークショップ
BIOTOPEで実施したデザイン思考のワークショップ

―そうした組織の環境づくりにもデザイン思考は活用されているのでしょうか。

小林 最近は、経営者や経営企画の方々とお仕事をする機会も増えているのですが、デザイン思考を目的として始まるのではなく、結果としてデザイン思考的なプロジェクトだったということが多いです。

個人の創造性を解放し、自律的なチャレンジを生み出していく環境づくりを仕掛けていこうとした時に、デザイン思考をそのための共通言語であったり、文化的OSとして広げていくというパターンです。

先にもあった、求心力を高めていくためのビジョン・ミッションづくりと、創造性・自律性を高めていく環境・仕組みづくりこそが、これからの時代にデザインを経営に活用していく大きな意義なのではないかと思います。

ミレニアル世代以下の若い世代では、終身雇用を前提に組織に染まっていくという価値観は馴染みません。むしろ、ある程度自由度の高い環境で、小さくても自分なりに意義を感じられる仕事に取り組んでいく。企業としても、人口減少が進む中で、これまでとは価値観の異なる若い世代が活き活きと働ける環境づくりに向き合わざるを得ないはずです。

そうした時代に、デザイン思考はプロセス自体というよりもむしろ、態度・マインドセットとしてより存在感を増す。さまざまな人と共創をしながら手を動かしてプロトタイプしたり、バラバラの情報を一枚の絵(ビジュアル)に描いて全体統合してみるといった、一人ひとりが持つ創造性を解放しながら、意義あるものを創り出していくための重要な文化基盤の一つになっていくのではないでしょうか。

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威/株式会社BIOTOPE Creative Catalyst 小林泰紘

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[取材・文] 鈴木陸夫 [撮影] 伊藤圭

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