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INTERVIEW
民間の月面探査チームHAKUTO代表 袴田武史:夢を再定義しキャリアを切り拓く
INTERVIEW

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BOOK MARK

ロボットによる月面探査を実現する可能性が最も高い民間プロジェクトの一つが、日本初のプロジェクト「HAKUTO(ハクト)」です。グーグルがスポンサーの国際レースでも、現時点で世界の上位5チームに食い込んでいます。

このHAKUTO(ハクト)を運営するispaceの代表が袴田武史さん。小さい頃に見た映画「スター・ウォーズ」が今の仕事のきっかけといいますが、そんな宇宙少年が選んだキャリアは、意外にも「経営コンサルタント」でした。

宇宙産業に携わるひととしては異色の経歴を持つ袴田さんに、これまで自身が歩んできたキャリア、これからの展望、そしてキャリアの転機を迎えた際に大切にしている「信条」についてお話を聞きましたーー。

PROFILE

株式会社ispace ファウンダー兼代表取締役CEO 袴田武史
袴田武史
株式会社ispace ファウンダー兼代表取締役CEO
日本初の民間月面探査プロジェクト「HAKUTO(ハクト)」チームリーダー。1979年生まれ。名古屋大学機械・航空工学科を卒業後、米ジョージア工科大学大学院に進学。航空宇宙システムの概念設計で修士号を取得。大学院卒業後、日本で外資系コンサルティング会社に入社。その後、グーグルがスポンサーする月面ロボット探査を競う国際レース「Google Lunar XPRIZE」への参加を目的として設立された「White Label Space」にボランティアとして参画。2013年に欧州のチームが撤退し、組織を日本単独の「HAKUTO(ハクト)」に改組。運営母体として株式会社ispaceを設立し、代表取締役CEOに就任。

グーグルも認めた日本初の民間チーム HAKUTO(ハクト)

ープロジェクト「HAKUTO(ハクト)」について教えてください。

民間企業として世界で初めて月面探査ロボットを月に着陸させ、月面の動画を撮影するというプロジェクトです。グーグルがスポンサードする月面ロボット探査を競う国際レース「Google Lunar XPRIZE」に日本勢として唯一参加しており、2016年末までにこのミッションを完了させなければいけません。

今年(2015年)1月には「モビリティサブシステム中間賞」を受賞しました。この賞は参加する18チーム中、特に技術開発が進んでいる5チームに授与されるもので、我々のローバー(月面探査車)が宇宙空間でも機能する性能を持つことが証明されました。

 

ー袴田さんが宇宙に興味を持ったきっかけは?

小学校低学年の頃にテレビで観た映画「スター・ウォーズ」です。また、同時期にNHKで放映されていた大学生版のロボコン(ロボットコンテスト)にも夢中になりました。このコンテストに惹かれたのは、国籍混合のチームがさまざまなアイディアを生かしたロボットを作り、競い合うということでした。小学校の卒業文集の将来の夢にも「ロボコンで優勝したい」と書いた記憶があります。

その後、いつかは航空宇宙工学を学びたいと思いつつも、進学した上智大学の理工学部にはそれを学べるコースはありませんでした。仕方なく、学ぶのは大学院に入ってからと考えていたのですが、高校の頃の友人が一浪して九大に合格し、自分が学びたかった航空宇宙工学を学んでいる姿を見て、退学を決意しました。そして、名古屋大学の航空宇宙工学科に進学しました。

 

ーその後、米ジョージア工科大学大学院に進学。日本の大学院は選ばなかったのですね。

はい。大学4年生の頃、私はスターウォーズに登場するような宇宙船を作りたいと本気で考えていました。宇宙船を作るためにはいろいろな分野の技術を組み合わせて設計する必要があるのですが、そのことを学べる研究室は日本の大学院にはありませんでした。日本の大学院が行っている研究は最先端であることに間違いないのですが、分野が細分化され過ぎていたのです。

このことがきっかけで、日本の航空宇宙産業が抱える課題に気付くことができました。それは、それぞれの分野の知識、経験を持つ専門家をまとめられるひとが少ないということ。当時のロケット開発をまとめていたひとたちは、あくまでも専門分野のトップの寄り合い。これでは、特定の分野の中で最適な意見を出すことはできても、宇宙船開発全体にとっての最適な意見は出にくいと言わざるを得ません。

全体にとって最適、というのはコストも含みます。宇宙開発事業は莫大な資金が必要ですので、コストを削減するための設計が必須です。そういったことも含めて全体を俯瞰できるようになるため、航空宇宙システムの概念設計を学べる場所を選びました。

現在開発中のローバー
現在開発中のローバー

「外国人の限界」を契機にキャリア転向

ーしかし、渡米してアメリカの「壁」を感じたと。

はい。外国人の学生が学ぶことが禁じられている領域というものがあったのです。

宇宙ロケットの設計に関する知識はミサイル、人工衛星は軍事衛星、飛行機は戦闘機など、製造するもののほとんどがアメリカの軍事と非常に強い結びつきを持っています。アメリカは自国の軍事技術が他国に流失しないように、外国人に対しては非常に厳しい制約を設けています。

たとえば、軍事を扱う授業や研究には外国人の学生は携われません。極端なケースですと、大学院の一部の授業では、NASAのあるプログラムを使用する回は留学生には開示できないので授業自体に出席しないでくださいというケースまであります。そのような事情があるため、宇宙系の分野で留学生が博士課程を取得するのは極めて難しいでしょう。

これは就職にも当てはまります。とても優秀な日本人の学生で宇宙工学で博士課程を取得できたとしても、普通に航空機製造会社にレジュメを提出したら門前払いを喰らいます。

 

ー大学院を卒業後、コンサルティング会社に入社したのはなぜですか?

民間として世界で初めて宇宙旅行が可能な宇宙船の開発を成功させたベンチャー企業の方の講演に参加しました。この講演がきっかけで、国の宇宙開発だけではスピード感が遅い。しかし、民間ならばスピード感のある開発が可能になるのではないかと感じました。そして、民間で開発をするのであれば、エンジニアリングだけでなく、経営と資本も必要だとも。それで、コンサルティング会社に入り経営に近い場所で経営学を学んでいこうという考えにいたりました。

ただ、コンサルティング会社で培った経営の知識が今に活かされているということはあまり感じません。それよりも、勤めていたコンサルティング会社が日本に進出してきたばかりのベンチャー企業でしたので、そこでベンチャースピリットを体感し、自分の市場価値を意識する癖、厳しい環境下で生き延びていく術を身につけることができたことは、今の自分にとって大きかったと感じています。

 

ーその後、現在の「HAKUTO(ハクト)」プロジェクトの前身である団体にボランティアとして参加したとお伺いしました。この頃は、コンサルティング会社と兼業だったのですよね?

はい。実際、ボランティア参加のお話は、正式に参加を決意する半年前くらいにいただいてずっと悩んでいました。2010年9月に参加を決意した際に、コンサルティング会社の方を週5勤務から週3に変更してもらいました。

しかし、土日にも出勤する忙しい業界でしたので、週3勤務に変更してからも実際は週6~7勤務していました。ですから、満足いくほど宇宙事業の仕事ができていたわけではありませんでした。

起業後もアルバイト 熱く、しかし堅実に

ーその後、約3年に渡り2足のわらじの生活を続けられたのですね。

はい。ボランティアに正式加入することを決意した際に、同時に株式会社ispaceの前身となる合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンを設立しプロジェクト日本支部としてしばらくは活動をしていました。しかし、2013年5月に参加していたチームのヨーロッパメンバーが撤退することになり、ispaceのプロジェクト「HAKUTO(ハクト)」へと改組し、それと同時に私もコンサルティング会社を辞めてフルコミットをすることに。会社の設立に関しては4人の主要メンバーで話し合って決めたのですが、数年間は全員ボランティアで無給でした。

 

ー会社を設立して3年目で袴田さんがHAKUTO(ハクト)にコミットできるように。仲間も集まってきたのですね。

はい。主なメンバーは、技術開発として参加している東北大学の研究室のひとたち。そのほか、これまでに累計約100人、現在は約30人のボランティアが参加してくれています。

彼らのバックグラウンドはさまざまで、私と同じくコンサルティング業界のひともいれば、広告代理店で働きながらプロモーションやプロジェクトのスポンサー集めに協力してくれているひともいます。共通点は、宇宙が好きということです。

今後は、ぜひ航空宇宙工学を学んでいたというひとたちにも参加してほしいと考えています。彼らはとても優秀なのですが、既存の宇宙産業は市場が小さいため、多くの人材を受け入れることが難しい。日本で航空宇宙工学科を卒業する人数は年に約300人いますが、その半数以上が関係のない分野で就職すると言われています。彼らのような人材に、この産業にもう一度集ってもらいたいです。

HAKUTO(ハクト)には多様なバックグラウンドを持つひとたちが集まっています。
HAKUTO(ハクト)には多様なバックグラウンドを持つひとたちが集まっています。

ービジョナリーでありながら、堅実な面も兼ね備えているのですね。

堅実な方だとは思うのですが、ビジョンを描くのは実はとても苦労しています。自分の考えに自信を持てないときもありますから。

 

ーそれはとても意外です。

ただ私は、漫画「スラムダンク」に登場する「諦めたらそこで試合終了ですよ」という名言がすごく好きで、なんでも可能性があるかぎりは諦めないようにしようと考え続けてきました。立ち上げ時はHAKUTO(ハクト)のプロジェクトも成功する可能性は低かったのですが、0%ではなく10%、もしくは5%でも可能性があるのなら、自分たちがやるべき仕事はその可能性を90%にまで引き上げることだと思っています。

また、たとえ100%成功することが分かっているプロジェクトがあったとしても、それは裏を返せば、誰にでもできる仕事と言えるかもしれません。低い成功確率を引き上げることが、価値のある仕事です。プロジェクトを始めたばかりのころは、10人に話をして1人賛同してくれるくらいでいいと考えていました。失敗すると考えるひとが多いことの方が、やる意味があると思っています。

理想のキャリアを切り拓く「2つの信条」

ーご自身がコンサルティング会社、宇宙産業を選ばれたように、働く業界を選ぶときの基準や、大切にしている信条のようなものがあれば教えてください。

一つは、私は、実はかなり慎重な人間で、物事を決断する際はよく考えて、直感で動くというよりは石橋を叩いて渡るタイプです。ですから、転職など大きな決断をする際は相当な準備をします。また、本当に行動をしようと思ったときには、失敗したときのプランも想定します。そうすれば、後悔する確率も低くなりますし、決断しやすくなるからです。

もう一つは、転職というのは、自分のやりたいことを実現するために行うと思うのですが、その自分のやりたいこととはなにかを深く考える必要があると思います。

多くのひと、特に若いひとには夢があると思うのですが、弁護士にしても、宇宙飛行士にしても、大抵は実現するのがとても難しく、多くのひとは途中で挫折してしまいます。挫折しないために、夢の定義をもう少し広くすることが必要です。ある特定の職業に就きたいと考えた際に、それになることで何をしたいのか、どういう世界を作りたいのか、どういうときに嬉しいと感じるのか、という点を深く考えるべきです。

私の場合は、スターウォーズがきっかけで宇宙船を作りたいと思い、そのためには航空宇宙工学を学んでエンジニアになることが必要だと昔は考えていましたが、それはとても狭い考え方だとあるとき気付きました。

それから、自分は宇宙船が飛び交うような世界を作りたいと思うようになり、そのためには必ずしもエンジニアになる必要はないという選択肢が生まれました。今は数ある選択肢の中から、ベンチャー起業を選んでいますが、他にも政治家になって法律を変えて、宇宙船が飛び交いやすい環境を作るなどの選択肢もあります。

このように、夢の定義を広げることで、それまでの自分の視野にはなかったいろいろなルートが見えてきます。その中で、自分の才能や性格にあった道を選んでキャリアを築いていくことが、良い転職につながると思います。

 

ーispace社の今後の展望は。

ispaceは「Expander Planet, Expander Future.」をコンセプトに掲げており、人間が宇宙で生活することを実現したいと考えています。そのためには、ロケットで宇宙に行くことが必須ですが、ロケットだけでも不十分。宇宙に生活圏、経済圏がなければ、人間は宇宙では生きていけません。

宇宙で生活圏、経済圏を築くためには、宇宙で資源開発をしなければなりません。それを人間だけで担うのは難しく、ロボットと協業する必要があります。そのロボットの開発を事業として行っていきます。

 

ー本日は貴重なお話をありがとうございました。現在、プロジェクト「HAKUTO(ハクト)」では、「HAKUTOサポーターズクラブ」で個人サポーターを募集しているそうです。袴田さんに共感された方は、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

HAKUTO(ハクト)を支援してくれる仲間を募集しているそうです。
HAKUTO(ハクト)を支援してくれる仲間を募集しているそうです。

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[取材・文] 井上美穂

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