世界最高のリーダー育成機関出身者が語るマインドフル・リーダーシップ論

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世界最高のリーダー育成機関として知られる「GE クロトンビル」。そこでは「リーダーとして必要な素養やスキル」を身につけるための研修が行われています。そこで日本人として唯一リーダーシップ研修を担当していたのが、株式会社TLCO代表取締役の田口力さんです。

現在は各企業へのセミナーを行っている田口さんが「リーダーシップ」を培ううえで、必要なことの一つに挙げているのが「今、目の前に集中すること」。いわば「マインドフル ”リーダーシップ”」とも言うべきその考え方の真意について伺いました。

株式会社TLCO代表取締役 田口力

PROFILE

株式会社TLCO代表取締役 田口力
田口力
株式会社TLCO代表取締役
1983年、早稲田大学卒。2004年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年、GEに入社。日本およびアジア太平洋地域の経営幹部育成プログラム責任者として研修を企画・開発・実施。講師として2010年から4年間、研修参加者からの評価点では連続世界一の実績を持つ。2014年に退社し、独立。GEをはじめ、国内外の企業幹部に対して「本物のリーダーシップ研修」を指導している

田口さんのご著書『マインドフル・リーダーシップ “今”に集中するほど、成果が最大化される』

リーダーシップ研修の現場で活用されつつあるマインドフルネス

ー今、GoogleやIntelなど名だたる企業のリーダーシップ研修の現場で「マインドフルネス」の考え方が取り入れられている背景には、どういったことが考えられるのでしょうか。

欧米と日本とでは、マインドフルネス、つまり「今、目の前に集中すること」が求められている背景が異なると考えています。

GEで研修を行っていたときにも感じていましたが、西洋人はクルマのエンジンに例えると、高回転だけど短時間稼働で、メリハリをつけたはたらき方をします。一方、東洋人は低回転だけれど長時間稼働することが可能なんです。

おそらくこれは職業観の違いもあると思います。西洋人にとって「労働は苦役」であり、仕事を課されているものだという意識が強い。そのため仕事をなるべく早く終わらせて帰りたいけど、さまざまな要因から集中できなくなってきたことを自覚したため、その解決法として「マインドフルネス」が脚光を浴びてきたわけです。

一方、東洋人には儒教の影響もあってか、「労働は美徳」とされているところがあります。「忙しい」というのがある種共通言語というか、お互いに「忙しい」と言い合うことが好きなんじゃないかと思われる節がありますよね。マルチタスキングして、本質的な仕事ができなくても「なんだか今日も一日忙しかったな」と、妙な充実感を覚えていたりして。

なので、日本人のなかで「マインドフルネス」に対して懐疑的に感じたり、「ちょっと胡散くさい」と思っている人もいるのでは?

しかし、今までは「低回転だけれど長時間稼働」する職場だった日本企業が、グローバル化に直面して、「短時間で高回転稼働」の職場に変わろうとしています。企業においてマインドフルネスはますます求められるようになるでしょう。

ーグローバル化に直面していない企業にとっても、マインドフルネスは重要なのですか?

はい。現代のビジネスパーソンは、マインドレスな状態に陥りやすい要因を4つ抱えています。もっともインパクトがあったのはSNSやメールでしょう。プッシュ通知のたびにどうしても気が散ってしまいますよね。

2つめに、スピードを要求される場面が増えたこと。15年ほど前は人事の世界大会で「われわれはメールを24時間以内に返します」と誇らしげに言う会社があるような時代だったんですよ。それが今では「既読スルー」と言われないよう、クイックレスポンスに対する強迫観念が強いですよね。

3つ目は、組織体系がピラミッド型から文鎮型に移行してきたこと。トップと末端社員との距離感が縮まったとポジティブに捉えられていますが、一方、一人ひとりの守備範囲が広がって負担は大きくなってきたとも言えます。

4つ目は、社会構造やビジネスの世界など、あらゆるものが複雑化しているということ。にもかかわらず、考え方や意思決定の方法など、人びとは自らを複雑化することでその環境に順応しきれているかどうかというと、はたらき方は基本的に変わっておらず、そこまでは言い切れない。

現代のビジネスにおけるキーワードは、「主体的、能動的である」こと。受け身になった瞬間に現実やノイズに引きずられ、「レスしないと」「タイムラインを全部さかのぼらないと」となってしまいます。いつまでもパッシブでリアクティブな個人のままでは、調子を崩されてしまいますよ。

特にリーダー人材を目指す人にお伝えしたいのが、マインドフルネスは「リーダーシップの土台」だということ。目の前のことに全意識を傾け、集中することで、意識的な気づきが積み重なって、自覚や自己認識につながります。「セルフ・アウェアネス」とも言われるものですが、そのセルフ・アウェアネスを高めることが真のリーダーへの第一歩です。

私が今まで見てきた優れたリーダーたちは、「自分はどうあるべきか」を考え、その理想像に向けて自らを磨き上げている人たちばかりでした。このセルフ・アウェアネスを高める手段として、マインドフルネスを取り入れてほしいと思います。

株式会社TLCO代表取締役 田口力

マインドフルネスをリーダーシップに活かすには

ー具体的にマインドフルネスを実行する方法で、何かいいものはあるのでしょうか。

瞑想したりする必要はないんです。メールやスケジュールアプリを閉じたり、スケジュールに「集中する時間」を明記しておいて、それ以外の用件はブロックしておいたり。

お勧めなのは、昼休みの時間を有効活用することです。「ながら食事」をしないことと「30回咀嚼すること」を意識してみると、普段いかに自分が「食べ物を味わえていない」かどうかを実感するはずです。

そしてランチが終わった後、ただ机に突っ伏して寝るのではなく、目をつぶり、音楽を聴いて外界を遮断する。腹式呼吸を行って、うつらうつらしてもいいかもしれません。また、帰宅時に家の最寄り駅から歩くときに無心になって何も考えず、心を落ち着かせることも有効です。

頭をからっぽにして歩いて、雑草や花を見て、一つひとつに感動を覚えることが大事。特に若い世代には、四六時中スマホを扱って、「ゲーム脳」になっている人も多いですよね。いくつか自分に合ったマインドフルネスの方法を「型」として持っておいて、習慣づけたほうがよいでしょう。

今こそ「孤高になる時間」が必要だと思うんです。大きな川の流れに飲まれて翻弄され、手足をバタつかせていては、その流れの行く末を見極められません。

ーマネジメントの立場から考えたとき、どのようにしてマインドフルネスを活用すればよいのでしょうか。

ハイパフォーマーとローパフォーマーの間には、実は能力的には大した差がないことが知られてきています。では何が違いをもたらすのかというと、「集中」「自信」「エネルギー」。この3つの要因のかけ算によって、大きな差となってくるのです。

「エンパワー・コーチング」といって、相手を力づけるようなコーチングをイメージしてもらいたいのですが、従来型のコーチングの考え方から、以下のようなパラダイムシフトが起こりつつあります。

P(Performance・業績)= C(Capacity・能力)+ K(Knowledge・知識)

P(Performance・業績)= C(Capacity・能力)ー I(Interference・妨害)

つまり、今までのコーチ役は知識を与えることが役割だと勘違いしていたわけですが、これからは「集中」「自信」「エネルギー」という3つの要因を阻害している要素= ”I” を取り除くことが重要なのです。そこに、マインドフルネスの方法が活かせますよね。

ー例えば、「集中」できない部下に対して、なぜ集中できないのか、その原因を解消することで、能力を発揮しやすい環境を作ってあげるということですね。

そうですね。それに部下を「褒めて、認める」ことで「自信」にもつながりますが、褒めるという行為は自分の価値観に基づいているもの。さらに相手の価値観や気持ちも把握することで、より「相手に響く」褒め方ができます。これもマインドフルネスの一種です。

また、企業研修の現場ではよく「チーム・ビルディング」について演習することがありますが、そこで私が教えているのは「GRPI(グリッピー)モデル」というチームの診断モデルです。

GRPIモデルというのは、”Goals(目標)” ”Roles(役割)” ”Processes(プロセス)” ”Interpersonal Relationship(人間関係)”の頭文字を取ったもので、各項目についてそれぞれのチェックポイントを細分化し、リストアップしていきます。

そのリストをチームの振り返りに活用するわけですが、この「振り返りの時間とその方法」が重要なのです。ただ漫然と「今日一日どうだった?」と投げかけても、相互理解と状況認識は深まりません。

具体的なツールを用いながら、リーダーとメンバーが、「目の前のことに集中する”時間”と”空間”」を共有することが、より効果的なチーム・ビルディングにつながるのです。

ほかにも拙著では「マインドフル・リーダーシップ」に関連するさまざまな方法を紹介していますが、まずは「今、目の前のことに集中する」ことから始めていただければと思います。

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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