育児休暇を取得したベンチャー社長、freee佐々木さんに聞く「働き方改革」

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従業員5名以上の5850事業所を対象に厚生労働省が行った「平成27年度雇用均等基本調査」によると、女性の育休取得率が81.5%なのに対し、男性は「2.65%」。男性の育休取得率としては1996年の統計開始以来最高となりましたが、性別によって大きく隔たりがあるのが現状です。

そんな中、クラウド会計サービスが好調のベンチャー企業、freee株式会社の代表取締役である佐々木大輔さんは、昨年の第1子誕生に伴い、最近育児休暇を取得されたとのこと。いまだ少数派の男性であることはもちろん、圧倒的成長を続けるベンチャーのトップが現場を離れ、育児に専念されたというのは驚きです。

今回はそんな佐々木さんに、育休を経て見えてきたこれからの働き方、育児と会社経営の両立、子育てに取り組む中で得た新たな学びについてお話を伺いました。育休を取得することに抵抗感はなかったのでしょうか。佐々木さんがお休みされている間、freeeの現場に混乱は生じなかったのでしょうかーー。

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔

PROFILE

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔
佐々木大輔
freee株式会社 代表取締役
東京都出身。一橋大学商学部卒。データサイエンス専攻。2008年にGoogleに参画。日本におけるマーケティング戦略立案、Googleマップのパートナーシップ開発や、日本およびアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングの統括を担当。中小企業セグメントにおけるアジアでのGoogleのビジネスおよび組織の拡大を推進した。2012年にfreee株式会社を創業。日経ビジネス「2013年日本のイノベーター30人 / 2014年日本の主役100人」に選出

ベンチャー企業社長、1週間の専業主夫体験

—freeeの今の状況と佐々木さんが育休を取った経緯を教えてもらえますか。

「スモールビジネスに携わるすべての人が、創造的な活動にフォーカスできるように」という思いで、会社の経理作業を従来の50倍効率化する「クラウド会計ソフト freee」を中心に、バックオフィス業務を効率化するクラウドサービスを提供しています。

2013年3月にサービスを開始しまして、先日ちょうど4周年を迎えましたが、70万以上のお客さまにご利用いただいています。この夏には人事労務の分野にも進出する計画で、新サービス「人事労務 freee」を急ピッチで開発中です。

「クラウド会計ソフト freee(フリー)」
「クラウド会計ソフト freee(フリー)」

そんな中、2016年5月に子どもが生まれまして、妻は1カ月半の育休を取って仕事に復帰しました。8月からは保育園に入園することが決まっていたのですが、それまでの残り1カ月はベビーシッターに見てもらうことになったんです。

ただ、せっかくの機会なので自分だけで子どもの面倒を見たくて、入園までのラスト1週間は僕が育休を取ることにしました。

育児休暇初日
育児休暇初日

—では、育休中は佐々木さんがメインでお子さまを見ていたんですね。

はい、その期間、僕は完全に主夫ですよ(笑) 家の近くを散歩したり、子どもを僕の実家に連れて行って両親と会わせたり、3カ月健診に連れていったり。それ以外は家の中で格闘していました。ミルクを飲ませて、オムツを替えて、泣いたらあやして・・・。

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔

「なんで泣いてるんだろう」といろいろ仮説を立てるのですが、答えを見つけられるまではなかなか泣き止まないんです。

がんばって外に連れ出してみてもすぐに泣いてしまうので、その次に出かけるときはなにを持っていけばいいのか、リュックの中身を見直したり、赤ちゃんはどんなことを楽しいと感じるのか研究して、オモチャを自作してみたり・・・。

それでももう手に負えなくてどうしても分からないことがあると妻にFacebookメッセンジャーで聞いたりしましたけど、彼女も仕事中で返信できないこともあったので、本当に「孤軍奮闘」という感じでした。

妻は企業の人事の仕事をしていて、平日は会社の会食で遅くなったり、土日に採用イベントがあったりすることもあるので、今でもわりと週末は僕が中心となって子どもの面倒を見ているんですよ。

—まだ男性の育休取得は一般的ではありませんが、佐々木さんは事前になにか準備されていましたか。

いや、それがほとんど準備していなかったんです。

生まれる前から、妻の育休の復帰時期や保育園に入れる時期については大まかに話していたくらいで、区の父親研修にも行っていないし、育休前に妻に隣でいろいろ言われながらオムツ替えをして、沐浴も1、2回・・・ YouTubeのシミュレーション動画で、もう見よう見まねですよ。

freeeの価値基準にも「アウトプット→思考」というのがあって、いろいろ考える前にまずアウトプットして、それから考えて改善しようとあるのですが、それを地でいく感じでしたね(苦笑)

—「育休を取る」と社内に報告した際、反応はいかがでしたか。

子どもが生まれてしばらくしたころ、社内で育休を取る意向を明かしたのですが、実はそこまで大きな反応はありませんでした。

ウチの男性社員で育休を取ったのはまだ一人か二人で、1週間ほどの短いものなんですけど、そもそも会社によく子どもを連れてくる社員もいて、家族を尊重することに違和感が元からなかったんです。

毎週火曜日に開催する「All Hands(オールハンズ)」という全社集会で、ちょうど育休明けのタイミングで僕と社員がQ&Aをするセッションがあったんですけど、そのときは質問攻めにされましたね。

「All Hands」
「All Hands」

でも、僕というか社長がいないならいないなりに、社員はみんなでなんとかしようとするじゃないですか。なのであまり心配はしていなくて、「予想通り」という感じでした。

—育休中はどのように仕事を引き継いでいましたか。

案件や仕事の性質によって、「こういう場合はこの人に連絡して」「こういうときは〇〇さんと〇〇さんで判断して」というのを決めておいて、それに則って進めていきました。休暇期間中にほとんど僕に連絡はありませんでしたよ。

ただ、どうしてもその期間中にスピーチで登壇しなくてはいけないイベントが一度だけあって、そのときは子どもを会場に連れていき、ミーティングルームで打ち合わせ中の社員に「ごめん、ちょっと面倒見ておいて!」とベビーカーごと預けて、10分間わーっと喋ってから「ありがとう!」って引き取ることはありました(笑)

あのときはなかなかスリリングでしたね。でも、「あ、これが佐々木さんのお子さんなんですね」とまわりの人が寄ってきてくれたり、普段から社員の家族同士との交流もあるので、わりとやりやすかったのかもしれません。

職場で子育てが話題に上がることもしばしば
職場で子育てが話題に上がることもしばしば

予測不能、ぶっつけ本番の子育てで初めて気づいたこと

—育休を通して、なにか気づきはありましたか。

想像以上に大変だなと思ったのは、やはり予定が立てられない、ということですね。「全部不測の事態」というか。

育休に入る前は、「子どもが寝ている時間は、本を読んだり気分転換に使えるかな」と考えていたのですが、とんでもない(笑) ミルクを飲ませた後に寝かせて、その後に自分がご飯を食べよう・・・ と思っていたのに全然寝てくれなくて、気づいたら自分の昼食が夕方ごろになってしまって。

それに掃除、洗濯もやらなくちゃいけない。料理は自分が食べるものくらいだから大したものは作りませんでしたけど、「そうだ!夕方、沐浴させる前にやり方を予習しておこう」とか、「教育上、今から気をつけたほうがいいことってあるのかな」と興味が出てきてスマホで調べ始めたら止まらなくなったりして。

それと、うちの子は吐き戻しをしてしまうことが多くて、「この症状は大丈夫?」と不安になって、それも調べてみたり・・・ そういう感じでPDCAをまわしているだけで、赤ちゃんが寝ている時間なんてあっという間に経ってしまうんですよ。

—よくお母さん方が「子どもが寝ている間にスマホで調べ物をしていたら、いろいろ心配事が出てきて不安になった」という話を聞きますけど、それに近い感じですね。

ああ、分かります、本当にそんな感じでした。僕なんて、昔から夏休みの宿題は最後の日にやるタイプだったので、妻が分娩室に入って、ようやく育児について調べるくらいドタバタだったんですよ。

妻からは「父親教室、行かなくていいの?」って言われていましたけど、「それ、行く意味あるの? ネットで調べれば出てくるでしょ?」と突っぱねてましたから・・・ でも、行っておけばよかったですよね。でないと、妻から信用してもらえないんですよ。なに言っても怒られる、みたいな。

この半年でようやく子どもとの距離感もつかめてきたというか、二人だけで出かけても平気ですし、たまに会食にも連れて行くこともあって、驚かれることもあります。妻もまわりには「夫は子どもの面倒をよく見てくれる」と言ってくれているみたいです。まぁ、評価がうなぎ登りなのか、期待値を過度に上げられているのかは分からないですけど(笑)

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔

—佐々木さんが子育てと仕事を両立する中で、実感されているのはどんなことでしょうか。

一般的には母親が時短勤務をすることも多いですけど、やはり率直に言って、大変ですよね。いざやってみると、共働きで子育てすることは可能ではあるんですよ。経済合理性さえあれば、預けるところもないわけではないし。それに幸い、僕の場合は仕事に関する不測の事態もコントロールできる。

ただ、子どもがいきなり風邪を引いて熱が出たとき、保育園から「今すぐ迎えに来てください」とかなると、つい夫婦の間で感情的な言い合いになってしまいがちなんですよね。「このあいだ一緒に出かけたとき、風邪をもらってきたんじゃないの?」「それはないでしょ? 今日はこっちも仕事抜けられないのに!」って・・・。

そういうときにはベビーシッターさんに頼るしかないんですけど、そもそも信頼できるシッターさんに出会えるまでも大変ですし、ましてやシッターさんを頼めない家庭もあります。なんとかそういう場合のセーフティネットが他にあるといいのにな、と思います。

—育休中、会社の業務は円滑に進みましたか。

それは、問題なかったと思います。個人的には、むしろもうちょっと長く休んでもよかったな、と思っているくらいで。

社長が休むというのは、会社にとっても社員にとっても重要な機会なんですよね。僕もGoogle時代に女性の上司が半年間産休に入ったことがあって、その期間、自分のキャリアにもいい影響があったんです。それまで出たことがなかった役員クラスのミーティングに代理として引っ張りだされて、「あぁ、上司は今こんなことを言われて、こういうプレッシャーを感じているんだ」と実感できたから。

それに、半年はまだしも、1カ月や1週間程度の社長の不在で回らなくなるような組織は健全ではありませんし、それを機に組織が強くなるべきだと思います。僕も今回にかぎらず、今後はビルゲイツみたいに山ごもり休暇を取って、事業戦略を考えてみるのもいいなと思っているんです。

—育休を終えて、働き方は変わりましたか。

やはり、ダラダラ仕事をしないようにメリハリをつけるようにはなりましたね。週末のメールチェックも時間を決めてするようになりましたし、平日も妻が夜遅いときがあるので、シッターさんに20時まで見てもらって、それからは僕が引き受けて。

とはいえ、20時以降は子どもはぐっすり寝ているので、その時間を有効活用できるようになってきました。家で仕事の残りを片づけたり、たまに社員を呼んで家で飲み会をしたり。子ども部屋にはセンサーをつけておいて、泣いたらすぐ分かるようにしてあるんです。

新入社員の方々が佐々木さんのご自宅を訪れたときの様子
新入社員の方々が佐々木さんのご自宅を訪れたときの様子

意外とそういう「子育てハック」みたいなものがいくつかあるんですよ。これは僕らにかぎらず、まわりのご家族もそういう感じですけど、朝は父親が保育園に連れて行って、お迎えは母親、みたいな。わりとシフト制で分業するのが、バランスがいいみたいです。

それとこのあいだ、ビジネスプランコンテストの審査員を務めたのですが、ちょうど妻が仕事だったので、主催者に許可を得て子どもを連れて行ったんです。でも、おとなしくしてくれましたし、全然アリだな、という感じでした。

自分の子どもにかぎらず、講演会とかでお子さんがグズり始めても、全然気にならない。むしろ「かわいい!」くらいに思えてきて(笑) まさか他の家の子どもまでかわいく思えるなんて、思ってもみませんでしたね。

—そんなふうに思ってくださる方が増えたら、きっと子育て中の方は少し心が軽くなりそうですね。

でもやっぱり、子育てを始めてからようやくそういうのが見えてきたんですよね。freeeもちょうど結婚したり子どもが生まれたりする年代の社員が多くて、2カ月に1回、「All Hands」の場でお祝いして、freeeのロゴ入りロンパースをプレゼントしたりしているんですけど、彼らが直面している課題の本質が見えてきたのは、本当によかったです。

家庭の事情で変則的な働き方をしている社員もいますし、「積極的に相談に乗ります」とはこれまでも伝えてきたけど、他の子育て経験者が「それはしかたないよね」と言っていることを、本当の意味では理解しきれてはいなかったんだなって。それが、リアリティーを持って理解できるようになったんです。

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔

子育てでの学びがビジネスにもつながる

—一般的には、まだ男性が子育てを「手伝う」という意識か、あるいは「家庭のことはすべて妻におまかせ」という人も多いかと思います。そういった考えの人についてはどう感じますか。

でも、どうなんでしょう。この前も近所の友人家族とホームパーティというか、家で集まったときに話題に上がりましたけど、そういう意識が根強かったのは、われわれの親世代までなのではないでしょうか。昔は「オムツを替えたこともない」なんて人はいましたけど、今の時代、それでは成立しないでしょう。

Googleにいたときはやはりアメリカの会社なので、家族を大切にするのは当たり前だったし、freeeでも、家族を連れてくる社内イベントがあるんです。「名物キャラ」みたいな子どももいて、BBQとかで集まると、みんなで「かわいい!」なんて言い合って。

家族を連れてくる社内イベント「キッズデー」
家族を連れてくる社内イベント「キッズデー」

そういうふうに家族ぐるみで社員と関わる文化なんです。これがこれからのスタンダードになっていくと思いますよ。だって、長時間会社で働かされて、子育てと仕事の両立もできなくて、自分のやりたいこともできないなんて・・・ そんな会社は辞めたほうがいいし、社員には辞める権利があると思います。

だからこそ、自分のやりたいことができる会社に対しては「ずっとここで働いていこう」と思えるわけじゃないですか。

—経営者としては、仕事に費やす時間を家庭に費やすことが、ハンデに感じられることはありませんか。

起業する上では、30代はまさにいい時期だと思うんですよね。でもそのころってプライベートにおいても結婚や育児など家庭のイベントがからむ時期でもあります。だとしても、それによって起業をあきらめたり、自分の成長にブレーキをかけられたり、やりたいことがあるのにそれに情熱を傾けられないのはもったいない。

人生って「マラソン」のようにトータルで考えて、ペースを調整していくことは可能だと思うし、案外ハックできると思うんですよ。

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔

確かに平日の夜に飲み歩くような会合には参加できないけど、そのぶん、週末にはホームパーティで同じように子育て中の経営者たちと集まって、いいネットワーキングになることもあります。

—プライベートが充実することによって、仕事においても新たな発見があるんですね。

相乗効果というか、子育ての時間を大切にしている人と関係性を深めることも自分にとってプラスになりますし、そこからの学びを仕事にも活かせる、ということですよね。

それに興味を持って取り組めば、子育てから得られることはものすごく大きいんですよ。例えば、子どものための買い物をするときにも「このブランドはマーケティングがうまいな」とか「ベビーカーは最近、どこも僕みたいな男性をターゲティングしてるな(笑)」とか、仕事だけでは得られない学びがある。

これからはダイバーシティと言われる社会の中で、子育てだけではなくさまざまな背景を抱えている人がいるからこそ、その一人ひとりに目を向けて、興味を持って働くことが大切になると思うんです。そういう意味でも、僕にとって育休は有意義なものでした。

家族全員申年ということで記念撮影
家族全員申年ということで記念撮影

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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