共働きを超えてゆけ、夫婦で共同キャリアプラン スペースマーケットCEOに聞く

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『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』という書籍が話題になっています。医学や科学が発達し、平均寿命はますます伸びるだろうと予測される未来では、「60歳で定年を迎え、平穏な余生を過ごす」という今までのライフプランは、現実味を失うことになるでしょう。

これからの時代、仕事の専門性を深め、自らの価値を高めていくこと。そして企業内の人間関係だけではなく、夫婦というパートナーシップを深め、お互いに高め合えるような関係性になることが求められていくのではないでしょうか。

2014年に創業し、「遊休スペースに価値を生むシェアリングエコノミー」を追求する、レンタルスペース紹介サービスの株式会社スペースマーケット。代表取締役CEOを務める重松大輔さんは、その奥様が株式会社iSGS インベストメントワークス取締役でマネージング・ディレクターを務める佐藤真希子さんであることも知られています。

レンタルスペース紹介サービス「スペースマーケット」
レンタルスペース紹介サービス「スペースマーケット」

起業家とベンチャーキャピタリストという関係性は、夫婦二人でキャリアアップを図っていける、まさに「理想の夫婦」と言えそうです。今回は重松さんに、夫婦でのキャリアプランの実現や、子育てとの両立など、その秘訣について伺いました。

株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔

PROFILE

株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔
重松大輔
株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。お寺、野球場、古民家、オフィスの会議室、お化け屋敷などユニークなレンタルスペースのマーケットプレイスを展開。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任

キャリアとプライベート双方の「踏ん張りどき」が同時期に

ー重松さんが奥様の佐藤真希子さんと出会ったのは、いつでしたか?

11年ほど前、共通の知人である高野(秀敏キープレイヤーズ代表取締役)さんからの紹介でした。ちょうどNTT東日本を辞め、フォトクリエイトへ参画しようとしていたころだったと思います。スタートアップの世界でこれからやっていきたいという思いもあって、(当時)サイバーエージェントではたらく彼女とは話が合った。彼女もそれで興味を持ってくれたようです。2008年に結婚して、今は3人の子どもがいます。

ー起業は奥様からの強い勧めがあったとのことですね。

世間で言われる「嫁ブロック」とは真逆ですよね(笑)「起業したら?」とことあるごとに言われていました。妻はサイバーエージェントの新卒一期生で、まだ20人くらいだった同社に「これからこの会社は大きくなる」という感覚を持って入社した人。それから会社が成長するのをつぶさに見てきたわけです。かなり特殊なキャリアですよね。

私自身にはもともと起業志向はなかったのですが、NTT東日本時代に何人かで若手の異業種コミュニティを主宰していて、かなり野心的なメンバーが集まっていたんです。そこで刺激を受けるうちに、このまま会社にいて楽しいのかなぁ…と思えてきて。すごくいい会社ではあったんですが、ある程度キャリアの予測がつくんです。

そんなときに同期だった白砂(晃・現フォトクリエイト会長)から誘われて、フォトクリエイトに入社しました。大企業にいたころはなかなか「成長感」を持てませんでしたが、ベンチャーに入って、10数名から100名くらいに社員も増える中で、自ら組織や事業を作り、成長曲線を身をもって体感することができた。それが上場を経て一段落して、次のフェーズに入ったんですね。それで、一通り見てきたから、自分でも起業できるんじゃないかという思いが芽生えました。

けれどもリーマンショックや震災を経験して、躊躇があったのも事実です。意外と石橋を叩いて渡るところがあるんですよ。妻はそんな僕の様子を見て、「やればいいんじゃない? これだけリスクが低くなってきた世の中なんだから」と背中を押してくれました。40歳になると新しいチャレンジが難しくなるのではないかという思いもあって、そろそろかな、と。前職も安定してきましたし、また不安定な状況に身を置きたくなったんです。

株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔

ー重松さんが満を持してスペースマーケットを創業したのは2014年、37歳のときですね。ご自身のキャリアプランとプライベートでのライフプランのフェーズは連動したところはあったのでしょうか。

起業を決意したのと同時期に、3人目の子どもが生まれることになったんですよ。でも、それで起業を先送りにするということはありませんでしたね。根底には自分の両親の影響が大きかったかもしれません。母親は子ども4人を育てながら、定年まで教師を勤め上げましたし、父親が家事や育児をやるのも、小さいころから見てきました。ですから、そういうはたらき方をしてみたいというのはありましたね。結婚するのも、はたらいている人がいいなと思っていました。

起業は早ければ早いに越したことないのでしょうが、家族のこともあるし…というのは分かります。とはいえ、30代半ばになると業界の人脈もできて、裁量も大きくなって、自分でもできるのではないかと自信を持つようになる。前職の創業者も含め、学生時代からお世話になっているメンター、両親、妻…みんなが応援してくれました。誰も止める人はいませんでしたよ。

ーとはいえ、創業当初はどの経営者も公私なく、ひたすら仕事に打ち込む方が多いようですし、かたや子どもが生まれるときも、「最初の数カ月は寝ることもままならなかった」「忙しすぎて記憶が曖昧になった」などとよく耳にします。ビジネスとプライベートいずれも最も大変な時期が重なったのでは…と推測するのですが、どのように乗り切ったのでしょうか。

おっしゃる通り、創業から1年半くらいはほとんど休みもなく、土日も関係ありませんでした。帰るのも遅いので、妻に負担をかけてしまったのは確かです。その点、幸いにして妻のお母さんが近くに住んでいて、家事全般やお迎えなどを手伝ってくれたのは大きかったですね。

僕自身も基本的には子どもたちの保育園へのお見送りを担当して、会社や出張に子どもを連れて行くこともありました。取引先には「ほんと、すみません…」という感じではありましたが、会社として、家族を大事にしていくようなカルチャーにしていきたかったんです。だんだんメンバーが増えてきて、ある程度持続可能な組織にしていくためにも、積極的にメンバーへ仕事をまかせていきました。

ーお子さまもたくましく育ちそうな気がしますね。

だといいんですが。でも、自分自身も小さいころ、親の職場に連れていってもらって、それが楽しかったんですよね。親がはたらいている環境を見るのが新鮮で。一番上の子は保育園の卒業式の挨拶で、「パパみたいな社長になりたい」と言っていたんですよ。それはすごくうれしかったですね。すかさず、「社長になるのは簡単だけど、何をやるかが大切だよ」とシビアにアドバイスしましたが(笑)

株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔

夫が起業家、妻がベンチャーキャピタリストで「リスク分散したポートフォリオ」

ーかたや起業家、かたやベンチャーキャピタリストというお二人がそれぞれのキャリアを築いていく中で、夫婦として公私ともに歩んでいるのは、理想的なパートナーシップのように感じます。ご自身の起業の際、奥様の佐藤さんにもビジネスプランを相談したのでしょうか。

いろんな方々に相談しましたが、もちろん妻にもかなり相談しましたね。いいピッチ相手になってくれました。彼女には起業当初の構成やプレゼンの見せ方、営業手法、細かいサービスの部分から資本政策、資金調達などもアドバイスをもらいました。

ー佐藤さんが2015年まで勤めていたサイバーエージェント・ベンチャーズからの資金調達も当初から想定していたのでしょうか。

いえ、それはありませんでしたね。いずれ体制が整って、将来的には可能性もあるとは思っていましたが。結果的に立ち上げ当初からサイバーエージェント・ベンチャーズから調達することになりましたが、実際に決定したのは当時の社長ですから。

ー「妻がベンチャーキャピタリスト」という関係性のメリットはなんでしょうか。

「家にも相談相手がいる」というのは大きいですよね。業界の人脈も重なっていますし、お互い紹介し合えます。会社にいる以上、さまざまな問題が出てきますが、それをすぐに解決できるのは、普通の家庭ではなかなかありえないでしょう。

ー一方で、「仕事の話を家庭に持ち込みたくない」「仕事とプライベートの切り替えが必要」という悩みも起こりそうな気がしますが、いかがでしょうか。

そういった悩みは特にありませんね。今もそうですが、ほとんど事業のことしか考えていないんですよ。自分自身、事業のことをずっと考えていたいタイプですし、妻もそうなんです。とにかく新しいビジネスが好きなので、二人して「どういうビジネスが儲かるか」「最近はこんなビジネスがトレンドで…」などといった話ばかりしています。もちろん、その中で子どもと遊んだり、出かけたりしている時間がリフレッシュにもなるんですが。

ー単刀直入ですが、「起業家とベンチャーキャピタリストの夫婦」というパートナーシップはオススメでしょうか。

まぁ、世の中ではかなり珍しいですよね。「夫がベンチャーキャピタリストで妻が起業家」というのは、3組くらい業界にいるかな? でもリスクの大きい起業家と、比較的安定したベンチャーキャピタリストというお互いのキャリアで、「リスク分散したポートフォリオ」にはなっているかもしれません(笑)

株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔

「スタートアップ同士のカップル」というのも起業仲間には何人かいて、リスクとしては大きいかもしれないけど、見ているビジョンが近いから、それはそれでオススメできるかな。どちらかが大企業や公務員だと、そもそもカルチャーの感覚が合わない気がします。

夫婦でのキャリア構築、秘訣は「シェア」すること

ー結婚してから今まで、お互いのキャリアプランを照らし合わせて「こうしていこう」というようなビジョンはあったのでしょうか。

特に詳しく話し合っていたわけではありません。結果的にそうなっていった、という感じですね。ただ、妻は今、取締役でパートナーなので、わりと自由なはたらき方ができるんです。土日も関係ありませんが、自分でコントロールできる。ある意味、あまり無理をしていない気がします。お互いに裁量があるから、スケジュール感はつかみやすいですね。

ー長い人生の中で、キャリアだけでなく家族のフェーズも変わっていきます。たとえば今後、子育てが一段落して、佐藤さんが仕事への比重を高めようと、シフトチェンジする可能性もあると思うのですが、その際、「重松さんご自身もはたらき方を変える」ということはありうるのでしょうか。

その頃にはまた、そのときのタイミングでお互いにやりたいことが出てくるだろうし、状況も変わっているでしょうから、なんとも言えませんね。ただ、「はたらかない」という選択肢はないですね。お互いにはたらくのが好きですし、世の中も変わって、よりはたらきやすくなっているでしょう。

今後、大きな方向転換をするときなどはその都度考えていくことになると思います。妻は「どこかのタイミングで海外に行きたい」と話しているので、そういう決断をするときが来るかもしれません。子どもたちのことを考えても、国内に留まっている時代でもありませんし、そういうチャレンジはしていきたいです。

ー公私ともに良好なパートナーシップを築く上で大切なことはなんでしょうか。

やはり、よくコミュニケーションを取ることですね。特に何か定期的な場を設けているわけではありませんが、「意識を合わせる」機会を作っています。妻のお母さんに子どもを見てもらって、二人で、あるいは共通の知人の経営者も交えて飲みに行って、仕事の話をすることもあります。

いい意味で公私混同。どちらがプライベートか、ビジネスなのか、分からないこともある。それだけお互い、夢中になっているということかもしれません。

ー「夫婦でのキャリア構築」を実践するコツを教えていただけますか。

とにかく、自分だけで抱えこまない。「シェアする」ということですね。「どうすれば楽できるのか」ということを考えて、本質的なところはちゃんとフォーカスし、手を抜けるところは抜く。そのバランスが大切なんです。

そのためにもコミュニティで育ててもらえるように、いろんな人に頼ったり、頼られたり、おすそ分けしたり、借りたり…まさに「シェアリングエコノミー」で、当社事業の本質でもありますが(笑)、そういうことでお互いの時間やものを有効に使っていくことが大切だなと感じます。

スペースマーケット

ー「あらゆるリソースを活用する」という点で、家庭でも経営でも通ずるものがありますね。

そうですね。代替できるところは代替して、余った時間を家族のために使ったり、アクティビティに使ったりしたほうが、生産性が上がるのではないでしょうか。

朝、無理して会社に来るよりは、リモートワークを活用したり、早朝に勤務時間をシフトして、子どもの誕生日に早く帰宅したり…クオリティ・オブ・ライフを上げていく。あんまり真面目に考えすぎずに、生産性を楽しく追求していくような時代に間違いなくなっていくと思います。

ー最後に、ご夫婦で相乗効果を生みながら、それぞれがキャリアアップされていくようなパートナーシップ。もし、一般的なビジネスパーソンがそういう関係性を目指すときには、何から始めればよいでしょうか。

やはり、裁量が大きい仕事をする立場になるのが近道ですね。小さい組織をドライブできるようなポジションについたほうがいいでしょう。そうなると必然的にスタートアップやベンチャー企業になりますが。小さい組織をまかされ、より裁量が持てるようになれば、早回しでキャリアを構築していくことができる。

当社の元メンバーが会社を立ち上げて、1年半くらいでもうEXITしたんです。それは、彼が外に飛び出したからできたこと。ゼロからいろいろな経験をして、そのうちさらに大きい仕事がやって来る。彼は今27歳ですからね。チャンスはそこらじゅうにある。

リスクを取って、なるべく早くチャンスを掴んで、結果を出す。ライフサイクルに左右されがちな女性は、その重要度がより増すかもしれません。キャリアとして評価されるのは、秩序のない状態のところに飛び込んで、それを秩序化するという能力です。それを経験するためには、飛び込むしかないんですよ。

株式会社スペースマーケット 代表取締役 CEO 重松大輔

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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