会社の外にもう一つ物差しを。富士通 “異端の複業社員” に学ぶ、パラレルワーカーの始め方

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大企業に勤めながら複業に取り組み、本業とのシナジーを生み出す人が少しずつ現れてきています。企業もまた社員の複業を認めることで、そのネットワークやスキルアップに期待し、本業に良い影響をもたらしてくれることを望んでいます。

けれども、「たしかに、複業に興味はある。だけど、何を複業にすればいいか、どうやって始めればいいか分からない」と、戸惑う人が大半なのではないでしょうか。

「僕も、複業を始めようと思ってこの活動を始めたわけじゃないんです」と振り返るのは、一般社団法人INTO THE FABRIC代表理事の高嶋大介さん。高嶋さんは勤務先の富士通で複業が認められ、パラレルワーカーとして活動。昨年には、新しい働き方の実践者を称える「WORK STORY AWARD」も受賞しました。

そんな高嶋さんが主宰する「100人カイギ」は、東京都港区に始まり、今年4月中になんと「全国19地域」にまで広がるというコミュニティイベント。その内容とは「街で働く、のべ100人の話を聞くこと」。参加者の中からは、本業がありながら、この100人カイギを自分の街でも開催することをパラレルワークにする人も現れているのだとか。

大企業で働く高嶋さんが複業に踏み切ったのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。「いち会社員」から「パラレルワーカー」へ――。高嶋さんのライフシフトを紐解きます。

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介

PROFILE

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介
高嶋大介
一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー
大学卒業後、大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事。2005年富士通入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業や自治体の働き方改革、将来ビジョン、組織戦略などのデザインコンサルティング、デザイン思考をベースとした人材育成などに従事。「社会課題をデザインとビジネスの力で解決する」をモットーに活動中。共創の場であるHAB-YUを軸に人と地域とビジネスをつなげる活動を実践する。

「会社の中だけで仕事が完結する人」に社外とのつながりを

―100人カイギとは、どういったイベントなのでしょうか。

100人カイギ
Photo : Niko Lanzuisi

「会社、組織、地域に “身近な人” 同士のゆるやかなつながりを作るコミュニティ活動」というコンセプトを掲げているのですが、その街で働く人や何らかの活動している人を毎回5名ゲストとして迎えて、話を聞いていくイベントです。ただしルールがあります。

それは「ゲストが100人に達したら解散する」というもの。イベントってどうしても続けることが目的化してしまうじゃないですか。「ずっと続けていると、いつか飽きてしまう」というのもあって。でも、僕としては終わりを決めて、そこから何か次の新しいものが生まれていけばいいな、と考えたんです。

―なぜそういったイベントを始めたのですか。

もともと僕は、富士通で企業や自治体の悩みをデザインの力で一緒に解決していく共創ビジネスに取り組んでいて、その中で3年ほど港区の地域活性化事業に関わってきたのです。そこでは多くのことを学んだのですが、例えば、港区の昼間人口は夜間の3.7倍にも上る。それだけ多くの人が働きに来ている、ということです。

僕もその一人なのですが、これだけ港区で働いている人がいて、企業も場所もたくさんあるのに、新たに知り合う接点ってほとんどない。同じ会社ですら、数千人規模の会社なら一度も話したことのない社員もたくさんいるし、オフィスビルが一緒でも、エレベーターの中では暗黙の了解で「お静かに」という感じ。コミュニケーションが分断されているのです。

地域活性化事業の目的としては、港区という地域に関わりたいと思う若い世代を育成するというものなのですが、そこには住民だけでなく、働いている人も巻き込んでいくことが重要です。

多くの方は会社の中だけで仕事をして、社内だけで受発注して、外との接点を持たなくても仕事が完結してしまう。そういった人をいかに社外へ導き、地域との接点をつくれる。そういった課題感があったのです。

一方で、共創ビジネスで外部の方との接点が増えると、純粋に「人の話を聞く」って楽しいな、と思って。普通の人がどんなことを考え、何を指針にしているのか。自分の仕事や活動を共有する場を作れば、会社の枠を超えて新たなつながりが生まれるのではないかと思って、個人の趣味の延長で2016年1月に始めたのが、港区100人カイギでした。

―100人カイギを始めたことで、どんな変化がありましたか。

人と人、地域とのつながりに何らかの変化をもたらすことができたら、と考えていましたが、港区だけでなく渋谷区や相模原市や横浜市と他地域にも広がってきて、「うちの地域でも始めたい」という申し出がたくさん来たり、登壇者同士や参加者が新しい取り組みを始めていたりして、少しずつ何かが生まれるのを後押しできているのかなと思います。

そして何より、運営者自身が変わっていくんですよね。自分が住む地域よりも積極的に街と関わるようになって、「ここに引っ越したい」と思うようになったり・・・僕自身もそうですね。100人カイギをきっかけに、いろんな働き方を知れば知るほど、このままでいいのかと悩み、複業をしたいと考えるようになったんです。

「思考停止状態」から「自分の働き方を自分で決める」へ

―なぜ複業を始めようと思ったのですか。

100人カイギの風景
Photo : Niko Lanzuisi

僕自身がまさに「会社の中だけで仕事をしている人」だったんです。デザイナーだったので、たまに営業に同行してクライアントに説明したり、ヒアリングしたりすることはありましたが、それ以外は社内の他部署から依頼されたものを作る、という感じでした。

でも、それにまったく疑問はなかったんです。会社から指示されるものを作ること、言われたことの中で最大限パフォーマンスを挙げることが、仕事だと思っていた。今思えば、それはある種の思考停止だったのかもしれません。

けれども100人カイギを始めて、外とのつながりが増えてきたことで、「物差し」が増えていったんです。会社以外にもさまざまな物差しがあって、気づきを得られるようなつながりがどんどん増えてきた。それによって、自分の働き方が変わった。それに気づいたとき、僕の “使命” というか、気づいたからには、行動を起こさなければならないと感じたんです。

でも当時は副業規定もありませんでしたし、前例もなかったので、どうしたら複業を認めてもらえるだろうかといろいろと画策し、上司や人事と掛け合って、2017年6月にINTO THE FABRICを立ち上げました。

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介

―複業を始めたことで、働き方にはどんな変化がありましたか。

会社で100パーセント仕事をしていたときは、「会社にいる自分がすべて」で、長い時間会社で働かなくてはならないと思いこんでいたから、かなりハードワーカーだったと思います。けれども今は、本業でも複業でも、効率よく働くために場所や時間を自分で決めていく、という感じです。

例えば、無駄な会議や訪問をなくしたり、「この仕事は必要だろうか」と考えたりするようになりました。以前なら、スケジュールが空いていれば無条件に会議を入れていたけど、10人以上参加するし、報告メインの会議なら、別に僕がいなくてもいいだろう、と。

営業から同行を頼まれるときも、そもそも営業が説明しづらいから僕を連れて行こうとしているんですよね。だから、自分が行かなくても済むように、汎用的な資料を作って、営業でも分かりやすく説明できるように準備しておくようにしました。

あとは、メールの「お世話になっています」とか「よろしくお願いいたします」とかをなくすこと。はじめはチーム内でのやり取りから、書くのをやめていきました。「いや、それいらないでしょ」って。それを少しずつ上司にも展開していって、さすがに役員レベルには難しいけど、関係性があって「この人なら大丈夫そうかな」という人なら、少しずつ挨拶を間引いていったり。

以前は、会議でもとことん、決まるまで2時間でも3時間でも話すことが大切だと思っていたんです。もちろん、今でも議論をすることの大切さは変わらないけど、「1時間で会議を終えよう」と本当に思っているかどうかによって、やっぱり議論の方法は変わってくるんですよ。アイデアを出すための会議なのか、合意形成するための会議なのかで、進め方は違います。本業でも複業でも、ファシリテーターとして鍛えられた、というのはあるかもしれませんが。

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介

―働き方だけでなく、考え方から変わっていったんですね。

他の企業にも働き方のコンサルティングを行っていると、以前の僕と同じように、みんな「思考停止」状態に陥ってしまっているんだな、と気づくんです。

例えば、一般的なオフィスの場合、机が島型に並んで、部署ごとに固まっていて、近くにミーティングテーブルがあったりするじゃないですか。そうすると、「うちの部門のテーブル」みたいな扱いになって、他の部門の人が使うと、なんか気になってしまう。全部同じ会社の資源のはずなのに。

そうやって、なんとなく壁のようなものができて、ローカルルールが凝り固まっていくと、それが会社のカルチャーになっていく。「その場所使うなら、事前にちゃんと言ってくれない?」とか「あの人に言っても聞いてくれないんだよね」とか、仕事以外のことに時間を取られてしまうことになるんです。彼らからするとそれは当たり前のことかもしれないけど、外から見るとおかしいんですよ、やっぱり。

それに、何かを始めるときも、前だったら「どう採算取るの?」「協力してくれる部署はあるの?」と、なんだかんだで踏みとどまってたことが、今では「まぁ、とりあえずやってみようか」と考えられるようになった。会社以外の物差しが増えたことで、やりようはいくらでもあると思えるようになったんです。

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介

本業があるから、複業でチャレンジできる

―複業が順調に進んでくると、「独立しよう」と思うこともあるのでは?

そもそも、「独立する」とか「起業一本でがんばる」というのも、あるべき姿にとらわれている気がするんです。個人だからこそできることと企業にいるからできることって、それぞれ別の良さがあるんですよね。

スピード感は個人のほうが速いので、シード段階は自分で試してみて、アジャイルでうまくいきそうなら、会社でやってみる。会社のほうがスケールやインパクトを出せることもあります。相手の課題解決をしたいとき、個人と会社、どちらのほうがふさわしいのか、二つの物差しを意識しながら考える。

そうすると、相互にネットワークが生きてくるんです。例えば、複業でのつながりによって、会社のプロジェクトでも、コストを抑えながらよりパフォーマンス高く取り組めるパートナーが見つかることもあります。ネットワークに限らず、複業で自ら会社を作ったことやクラウドファンディングを実行したことが、そのまま実体験として本業でも語れるようになる。知識だけで話すのと、経験したうえで話すのとでは、解像度はまったく違いますからね。

100人カイギを全国に拡げるために実施したクラウドファンディングは見事成功
100人カイギを全国に拡げるために実施したクラウドファンディングは見事成功

そうやって、間違いなく本業の質も上がったと思います。ただ、別に「複業を本業に活かそう」と、かまえて考えているわけではないんです。だって、複業って、「定時後にスポーツジムへ行く」のと大して変わらないじゃないですか。複業はあくまで、「本業とは別に業務時間外でやること」だから。「スポーツジムへ行った翌日に、本業にどんな価値がもたらされるの?」なんて、問われることはないじゃないですか(笑)。

―そうですね。

僕も最初のころは言われたんですよ。「複業することによって、会社にどんな成果が出ているのか報告して」って。複業をやるからには、本業につながるような成果をもたらさなければならない、って思い込んでしまうんです。本来、複業で成果を出そうが出さまいが、時間外の活動なので本業とは関係ないはずなんですけどね(笑)。

でも、複業を始めたことで、「限られた時間内でいかにパフォーマンスを出せるか」という意識が高くなって、働き方が変わって、結果として本業の質も上がった。今は、課題を抱えている相手に対して、本業も複業も含めて最善の策はなんだろう、と考えるようになりました。すると、会社への依存心がなくなって、誰に対してもフェアに交渉できるようになったんです。

複業として何をやるかにもよりますが、少なくとも今のスキルや経験をもとに、コストをかけずに始められるものなら、リスクなんて何もないと思いますよ。よく「失敗から学ぶことは多い」というけど、会社では失敗したら評価が下がるし、そうそうリスクを取れないじゃないですか。けれども複業なら、失敗しても自分でなんとかすればいいわけだから、多少リスクを取ることもできる。生活基盤を本業で支えているからこそ、複業でチャレンジできることもあると思います。

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介

―これから複業を始めようとしている人にとって、必要なマインドセットは?

矛盾するようだけど、人の意識変容って、狙わないほうができると思うんです。「自己実現のため」とか、複業することが目的化してしまっている人より、「なんか面白そうだから、始めてみました」という人のほうが、うまくいく気がします。

僕自身も、自分を変えようと思って複業を始めたわけじゃないんです。外の人と接点を持つうちに、何か気づく瞬間があって、それが積み重なると、行動が起こる。だから、別に肩ヒジを張らずに、自分が楽しいと思うことを始めればいいんじゃないですか。だって、みんなそんなに「自分が何をしたい」とか、「世の中のために何かしたい」とか、別にないと思うんですよ。でも、それは思考停止しているだけで、気づけば変われるはず。

会社は言わば、自分にとってのコンフォートゾーンだと思うんです。そこから少し距離を置いて、別のコミュニティに所属してみたり、自分個人の名刺を持って活動してみるといいと思います。そうすると、外との接点が生まれて、自分のスキルを客観的に見ることもできるし、いかに会社の看板が大きいか思い知らされたり、逆に看板があるとできないことにも気づけたりできる。そうするうちに、自分が解決したいと思える課題に出会えることもあると思います。

その課題と出会ったときに、「他の誰かがやるだろう」と思うか、「自分がやらなきゃ」と行動に起こせるか。そこに意志を持つことが重要ですし、たとえ自分が完璧に解決できないと分かっていても、小さいところから始めることができるかどうかで、その後の人生は大きく変わってくると思います。

一般社団法人INTO THE FABRIC 代表理事/富士通株式会社 ブランド・デザイン戦略統括部 デザインシンカー 高嶋大介

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭 [撮影協力] ワークスタイリング東京ミッドタウン

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