従業員3000名の生産性を最大化。「攻めの情シス」が会社を加速させる、DMMの組織改革

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生産性を高めたいと、SlackなどのグループウェアやDropboxなどのストレージサービスのように何か新しいツールを仕事で使いたい場合、多くの企業では「許可」を得る必要があります。その先にいるのが「情報システム部門」です。

しかし、「情シス」といえば、「セキュリティが」「コンプライアンスが」・・・ いち従業員の立場ではどうにも覆せそうにない理由を盾にこちらが良かれと思って行う提案を却下する、そんなネガティブなイメージを抱いている人も多いのでは?

そのうちに、従業員が会社に黙って新しいツールを使い始め、後々大きな問題になったり、中には「提案するだけ無駄」と新しいテクノロジーを取り入れようとする機運自体が社内から消滅してしまったり、ということも起こっているようです。

DMM.comの情報システム部門

そうした旧来のイメージからの脱却を図っているのが、DMM.comの情報システム部門。他部門から寄せられる要望にすばやく応えるのはもちろん、全社の生産性向上を実現すべく情シス自らが提案できる「攻め」の体質へと生まれ変わろうとしています。

今回は、同社情報システム部門のマネジャー2人へのインタビューから、「攻めの情シス」の姿他部門との間で起こりがちなミスコミュニケーションを克服するポイント、さらに会社・チームを新しいテクノロジーを受容する体質へと変える秘訣を探ります。

「自己組織化プロジェクト」で受け身の情シスから脱却

—DMMの情報システム部は一般的な情シスとどこが違うのでしょうか?

浦田 「情シス」の仕事として一般的にイメージされるのは、新入社員のパソコンをセッティングするなど、ITがからむ社内の環境を整えることでしょう。その点においては他社さんとも、一般的なイメージとも違わないと思います。

違うのは、自分たちで考え、成長していく「自己組織化」を進めていることです。

合同会社DMM.com 情報システム部 部長 浦田智樹

PROFILE

合同会社DMM.com 情報システム部 部長 浦田智樹
浦田智樹
合同会社DMM.com 情報システム部 部長
事業会社の情報システム部門に新卒で入社、社内ネットワークやPCの管理に始まり、事業買収に伴うシステムの受け入れや新規事業のシステム導入などに関わる。2018年8月よりDMM.comに転職。情報システム部長として従業員の生産性最大化を目標にシステム刷新などを推進する。

—自己組織化、ですか。

浦田 はい。その背景としてDMMでは昨年、社内に受発注構造があることが問題ではないかという話が持ち上がりました。これは情シスに限らず、全社のこととして。

例えば、一つのプロダクトを作るにしても、企画、デザイン、インフラ、システム開発・・・といくつもの部門が絡み合い、しかもそれらの部門は受発注の関係で結ばれていた。このことが、プロジェクトに対する各人のコミットメントのばらつきや、「これ、おねがい」と他部門から依頼されて初めて動きだす受け身の姿勢を生んでいるのではないか、というわけです。

そこで、「ワンチームでプロダクトを作りたい」「より大きな価値をユーザーへ提供したい」という「プロダクトコミット」をコンセプトに掲げる部門には、デザインやシステム開発など必要な機能をそろえ、プロジェクトを自己完結できる自立した組織に変えていこう、となりました。これが「自己組織化」の意図するところです。

それで、われわれ情シスも自立した組織づくりにシフトしました。「情シスにはエンジニアがいないから開発が必要な改善作業はできない」と他部門に頼んで作ってもらっていては、理想とするプロダクトは作れません。それに近いものが作れたとしても、スピード感はどうしても落ちてしまいます。

情シスのスピードは、そのまま会社全体のスピードだと思っています。「他部門を支える」という部門の性質上、われわれの仕事はDMMという会社全体、3000名超の従業員に影響を及ぼすという自負があるのです。

そうした考えから、「従業員の生産性を最大化する」というミッションを掲げ、自らが提案し、実際に自分たちで開発まで行える「攻めの情シス」を目指すことにしました。そのために設けたのが、金井の率いる「IT開発グループ」です。

合同会社DMM.com  情報システム部 IT開発グループ グループリーダー 金井淳

PROFILE

合同会社DMM.com  情報システム部 IT開発グループ グループリーダー 金井淳
金井淳
合同会社DMM.com 情報システム部 IT開発グループ グループリーダー
SIerでインフラ技術者として従事後ITベンチャーへ転職、軸足を技術におきつつホスティング事業立ち上げやプライベートクラウド開発に携わる。2017年3月よりDMM.comに転職、IT戦略室にてクラウド利用標準の導入に関わる。現在は情報システム部技術グループにて、従業員の生産性最大化を目標にシステム刷新などを推進する。

—それまで開発機能を持たなかった組織にとっては難しい改革になるはずです。まず何から手をつけたのでしょうか?

金井 IT開発グループが正式に発足したのは今年(2018年)4月ですが、自己組織化に向けた動きは半年以上前から少しずつ進めてきました。

まずは、元々ディレクターやデザイナーだった人や、SIerで上流工程ばかりを担当していて手を動かす機会に恵まれなかった人の中で、エンジニアに対して憧れやモチベーションのある「非エンジニア社員」を社内各所から招聘

そうして集まったメンバーたちに、エンジニアとしての最初の成功体験を味わってもらおうと、『Zendesk』というソリューションをカスタマイズ導入し、他部門からの問い合わせの窓口ツールを刷新する、「情シス発」のプロジェクトを立ち上げました。

IT開発グループ

そのプロジェクトでは「スクラム開発」という手法を採用しました。これは、開発工程ごとにメンバー間で役割分担をするのではなく、あえて、全メンバーが全開発工程に携わるスタイル。そのほうが一人ひとりの主体性を引き出し、成長につながる。慣れるまでには時間はかかりますが、開発スピードやクオリティも上がっていくと考えているからです

プロジェクトを開始し、約4カ月でベータ版を開発。その後、他部門の従業員を巻き込んでユーザーテストを行い、改良を重ねていきました。従業員から直接フィードバックを得たことが、メンバーの手応えになりましたね。

彼らはコードを書いたわけではないので、「開発した」とまではもちろん言えません。ですが、自己組織化に必要な「自分たちでも開発の第一歩は踏み出せるんだ」という自信攻めの情シスに欠かせない主体性のマインドセットは、ある程度できたと思います。

『Zendesk』
『Zendesk』

—自己組織化を図り、「攻めの情シス」に転じて、目に見える成果も出始めていますか?

金井 メンバーの力で導入した『Zendesk』によって、他部門の従業員と情シスの担当者とのやりとりを可視化し、一つひとつの要望への対応にかかった時間などデータを蓄積できるようになりました。その変化を見ることで、サービスの品質を改善できる下地が整ったというわけです。

また『Zendesk』に先駆けては、エンタープライズ版Slackと言われる『Slack Enterprise Grid』を国内で初めて導入しました。今後は『Zendesk』と『Slack』の連携を充実させ、全従業員の生産性をさらに高めていけると考えています。

『Zendesk』と『Slack』の連携

IT開発グループのメンバーは現在6人。グループリーダーとしては、発足から半年が経ち、メンバーの目は以前と比べて輝きを増しているとも感じます。彼らも元々、もっと主体的にプロジェクトに関わりたいと思っていたんでしょうね。

確かな手応え

情シス=抵抗勢力? 部門の壁を打ち破るのは組織文化と余裕

—一方、他社に目を向ければ、他部門の従業員が良かれと思って行う提案に対して、情シスが抵抗勢力になってしまってモノごとが進まないこともあるようです。前職でも10年にわたって情シスの仕事をしてきた浦田さんから見て、どこに問題があると思いますか?

浦田 「情シスが壁になる」というのには、いくつかの原因があると思います。よく「セキュリティが」「コンプラ(イアンス)が」、あるいは「今はリソースがなくて対応できない」という言葉が使われますが、要は何かしらの「やりたくない理由」があるのです

チャットツール一つとっても、『チャットワーク』だ、『Google ハングアウト』だと、従業員からはさまざまな提案が来ますよね。でも、そのすべてを受け入れるわけにはいかないから、情シスの立場としては「どれを選んだら会社として一番平均点が取れるのか」と考える。そこを無視して、ただ「やりたい」とだけ言われても困ってしまうわけです。

逆のことも起こります。例えば今回のように、情シスとして『Slack』の導入を提案する際。これまではメールでやり取りをしていて、相手から返信が来ないことにやきもきしていたのに、チャットで気軽にコミュニケーションができるようになった。これは明らかにいいことですが、それを提案するのにただ「いいから」と言っているだけではダメ。お金を出す会社側を説得できるだけの材料を示す義務がわれわれ情シスにはあります。

お金、利便性・・・と、立場が違えばそれぞれ大切にしているものも違うはずで。相手が大事にしているものを無視して、ただ「お願い」するところからミスマッチは起きるのではないかと思います。

情シスと他部門、ミスマッチの真因

—相手が何を大事にしているのか、想像力を働かせることがまずは必要?

浦田 そうですね。だから今思えば、私自身、前職でもっとできることはあったなあと。何か提案を受けた時にできない理由を探すのではなく、相手のことをもっと理解してあげればよかった。提案してきたツールがないゆえに起きている生産性の低さ、事業スピードの鈍化に目を向けるべきだったと思います。

幸い、DMMにはその理解がすごくあると感じます。「やりたい」と言った時に前向きにトライさせてくれる。「とりあえずやってみようか」と言える組織文化があるんです。

—その組織文化はどこからくるものなのでしょうか?

金井 それは自然と出来上がったものという気がしますね。DMMはピュアインターネット以外にも、ものすごい数の事業を展開していますが、型にハマった考え方だったら、こうはなっていなかったでしょう。会社自体にチャレンジする姿勢があるから、自然とそうなっていったのだと思います。

私個人としても、他部門の従業員が「やりたい」と言ってきたことを情シスのせいでやらせてあげられないのは、会社の不利益に直結すると思っています。だから、そんな時に「どうやったらやらせてあげられるか」と考える。これがDMMの組織文化です。

DMMの組織文化

浦田 ミスコミュニケーションが起きる原因としてもう一つ挙げられるとすれば、単純に忙しさが邪魔している部分はあるんだろうと思いますね。自分自身がスタックしていたら、自ら提案することはもちろん、相手のことを理解することも難しい。

情シスはどうも「魔法使い」のように思われている節があって、なんとかしてくれるからとりあえず相談するという姿勢の人が結構多い。でも、実際に中にいるのは人間です(苦笑)。私自身も前職ではリソースがフルにロックされていたので、その状態でさらに「新しいものを持ってこい」と言われたら、さすがに「できません」と言わざるを得ませんでした。

—となると、いかに余裕を作るかが大事になりますね。マネジャーとしてのお二人の役目はまさにそこにあるのでしょうが。

浦田 そうですね。私自身、8月に入社したばかりなので今この瞬間はゆとりがあり、寄せられる要望に対してフラットに聞ける状態にあります。「やりたい」と言われたら「どうしてやりたいのか」と耳を傾けられる、その状態をどう維持していけるかが今後の課題です。

それはメンバーも同じ。フレンドリーに話を聞けば聞くほど評判が良くなり、いろんな人から要望が寄せられるようになるかもしれない。それをちゃんと回していける余裕を確保するために、先ほどのようにスクラムを組んでスピード感を上げていくというのは、一つの解決策ではないかと思います。

誰もがITを扱える時代。「現状維持」の情シスに未来はない

—少し未来に目を向けると、情シスの存在意義は今後どうなっていくでしょうか。この先も必要な部門であり続けると思いますか?

今後の情シスの存在意義

浦田 法務とか経理部門って、会社にあって当たり前と思われているじゃないですか。情シスもそうありたい、そうでなければならないと思っています。そのためには努力を続けていくしかありません。主体的にアウトプットを続けて、「そこにいてよ」と言ってもらえる存在にならないと。

—つまり、現状のままではいずれはいらなくなる?

浦田 10年前はスマホを触ろうとしなかった人でも、今では当たり前のように毎日使っているじゃないですか。かつては飛行機なんて怖くて乗りたくないという人が多数派だったのが、当たり前にみんなが乗るようになったのと同じように。それが時代の流れというものです。

今後もクラウド化、AI化がどんどん進んで、誰もが当たり前にITを使うことを考えたら、プロフェッショナルとしての価値を出していかなければ消滅してしまってもおかしくない。誰もが使えるようになってもなお、誰よりもそれをうまく使える、誰よりも知っている自分であり続けなくてはならないんだと思います。

金井 それはもちろん、簡単なことではない。市場競争の中に身を置いている事業部門のほうが新しいサービスや技術に敏感でいやすいですし、着手するのも早い。油断するとすぐに置いていかれるのがわれわれ情シスだと思うので。

—どうやって自身をアップデートしていけばいいんでしょう?

金井 AIを使ってすぐに情シスで価値が出せるかはさておき、事業部門で生産性を高めるためにAIを活用するならどうやって?・・・など、自分たちなりに仮説を立て、多少なりとも他部門に提案できる立ち位置にはいるべきかと。

浦田 誰よりもそういうことに興味を持てるかどうか、だと思いますね。スマホはいまや社会のインフラとして流通したけれども、それが今後どう変わっていくのか、次のiPhoneはどうなっていくのかということに、いつまでも、誰よりも興味を持ち続けていられるかどうか。少なくとも現時点で私自身はそういうことに飽きていない。その間はまだまだ頑張れるのではないかと思っているんです。

—アップデートするためには社外との接点を作ることも重要?

金井 間違いないですね。会社の外の集まりに身を置くことで得られる情報、刺激がきっかけとなって新たな企画や提案につながることはあるはずなので。

浦田 前職の最後の時期にも、まさにそれを実感する出来事がありました。社内である提案を受けたのですが、その技術に対しては「こういう条件を満たさないと実現できない」という固定観念が自分の中にあり、要求には答えられないと返答していたんです。

ところが、たまたまとあるセミナーに顔を出したら、自分が思っていたのとはだいぶ技術が変わってしまっていることが分かって。私が「できない」と言っていたことも、すべて解決できてしまうことになっていたんです。

日進月歩というより、ある日一気にレベルが上がってしまうのが昨今の技術動向です。定期的に外へ出て情報を取りに行くのはやはり重要だと、今は身にしみて感じています。

DMM情シス部はこれからも進化し続ける

[取材・文] 鈴木陸夫、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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