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INTERVIEW
選択の機会が人を育てる〜先端教育を発信するPeatix創業者が感じた世界とのギャップ
INTERVIEW

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BOOK MARK

世の中が急速に変化していく中、「子供に対する教育は今後どうしていけばいいのか」と悩んでいる親は多いはず。ホームスクーリングやオルタナティブスクールなど、従来の学校外の教育にその答えを求める人も増えていますが、そうしたものと公教育とは、一体なにが違うのでしょうか。

世界27カ国、300万人以上のユーザーに利用されているイベント支援プラットフォーム「Peatix.com」の共同創業者・竹村詠美さんはいま、教育に関する海外の先端的な取り組みをインプットし、日本で情報発信する活動に尽力しています。

世界の最先端の人たちは教育についていま、何を考えているのか--。テクノロジーの力で未来を創造すると同時に、2児の母としても奮闘する竹村さんに、率直な疑問をぶつけてみました。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

PROFILE

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美
竹村詠美
「Peatix.com」共同創業者
慶應義塾大学卒業後、経営コンサルティングを経てネット業界に転身。エキサイト・ジャパン取締役、アマゾン・ジャパンやウォルト・ディズニーのマーケティング責任者を務めた後、Peatix.comを共同創業。現在、Mistletoeのフェロー、FutureEdu Tokyo主宰など複数のプロジェクトに参画。ウォートン・スクールMBAならびにペンシルバニア大学国際関係学修士号を取得。大阪出身の2児の母

日本の小学校に転入した息子が、なんだか幸せそうじゃない

ディズニー、アマゾンなどでキャリアを歩み、2011年にはPeatixを創業された竹村さんが、いまの教育に関する活動に足を踏み入れたのはなぜですか?

Peatixを創業して3年目の2013年、私は家族とともにシンガポールに移住しました。そこでしばらくはアジアのマーケットを耕すための活動をしていたのですが、翌年、家族の都合で子供たちは日本に戻らなくてはいけなくなったんです。

当時小学校3年になる長男も当然、日本の学校に編入することになったのですが、なんだかあまりハッピーじゃなさそうな雰囲気だったんですよね。

私自身海外勤務で忙しかったので、それでもしばらくは通わせていたのですが、でもこのままだと、いよいよ本人が「小学校生活、楽しかった!」という感じで卒業できないんじゃないかと心配になりまして。それで2016年に日本に軸足を戻し、教育についての探求を始めたんです。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

きっかけはご自身の息子さんに関する悩みだったんですね。

はい。一方で私は20年以上テクノロジーの業界にいましたから、そのぶん他の人よりは先のことが見えるわけです。当時はIoTが流行り始めていて、農業のような、それまでテクノロジーとはあまり関係のなかった分野も含めて、あらゆる業界がデータ化、ビット化して、コネクトしていく流れを体感していました。

そういう時代と、いまの日本の科目や時間割によって細切れにされた教育を見比べると、そこにはあまりにギャップがあるな、と感じたんですね。

では、来たるべき未来を考えた時に、本当に理想的な教育環境を自由に選べるとしたら、どんな選択肢があるのだろうか。そんな風に考えて、アメリカ、イスラエル、イタリア、韓国の先端的な教育事情を視察したり、フィンランドやオランダの教育についても学びました。

海外の教育現場を視察する竹村さん
海外の教育現場を視察する竹村さん

でもそういう活動を続けていくうちに、実は自分以外のママ友も同じようなモヤモヤを抱えていることが分かってきて。情報はなかなか手に入らないし、一方で受験のタイミングはどんどん迫ってくる・・・。それは不安ですよね。

であれば、私もせっかく情報を集めているのだから、それをもっと共有して、対話をして、みんなで一緒に「どうあるべきか」を考えていきたいな、と。そういう思いで始めたのが有志団体の「FutureEdu Tokyo」なんです。

なるほど。

いまその団体の活動として中心的にやっているのが、『Most Likely to Succeed』という映画の上映会です。

映画『Most Likely to Succeed』の上映会

機械インテリジェンスが人間の力と拮抗していく未来の中で、子供たちの成功とは何か、どうすれば明るい未来を思い描けるのかを問うドキュメンタリー。上映会は2年前にスタート。昨秋から日本語字幕付き上映会を始め、これまで50回近くの上映会の主催や支援を行いました。当初は保護者向けに始めたんですが、いまでは教員の方も参加してくださっています。

教育の現場にいた経験のない私が先生方に言えることなんて何もないと思っていたんですけど、意外と先生方もクローズドな社会にいて、われわれ保護者とあまり変わらないくらい、外の情報を求めていらっしゃるようなんです。

最大の問題は「教育のオプションがないこと」

映画の内容も気になるのですが、息子さんが幸せそうじゃなく見えたというのは、どういうことだったんですか?

彼はどちらかというと好きなことに没頭するタイプなんです。でも、日本の学校だといわゆる時間割的な学習なので、40分とか45分とかで1限が終わって、そこでスパッと切れちゃうんですね。

だから、例えば理科の実験がすごくおもしろいと思っても、盛り上がってきたところで終わってしまう。その、走って止まる、走って止まるのリズムが、学び方として本人には合わなかったようなんです。

確かに、40分の授業は受け身で聞いているだけだと長く感じるけれど、没頭するには短すぎますね。

それで結局、うちの息子はモンテッソーリの小学校に転校することになりました。そこでは自学自習というと少し大げさですが、自分で時間割を決められます。「自分は今日はこれがやりたい」と言って、午前中3時間、午後2時間半くらい、自由に組み立てられるんです。

「モンテッソーリ」とは、イタリアが発祥の地とされる、自立し、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てることを目的とした教育法。感覚を養うための教具と呼ばれる教材や、教員の整えられた環境の担い手としての位置づけなどに独自性がある。

4年生くらいになると結構いろいろなことが分かってくるので、算数と理科を別々にやるんじゃなくて、「これとこれを組み合わせたらおもしろいんじゃないか」みたいな発想も出てくる。でも、日本の従来型の教育だと、なかなか教科を横断して何かを探求する時間って取りにくいですよね。

その点、例えばインターナショナル・バカロレア(IB)とかだと、「探求の時間」という名でそういうことをやっています。でも、いまの日本でIBのカリキュラムをやっている小学校は、インターナショナルスクールを除くとたったの2校しかないんですよ。

そういう選択をしたいと思っても、現実的には難しい部分がある、と。

そう。もちろん、どういう授業が合うかは子供にもよるところなので、日本の従来型の教育が絶対的に間違っているということではないです。戦後日本があれだけのスピードで復興し、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の点数も世界的に見て高かったというのは、やはり誇るべきことだと思いますし。

でも、深く探求したいとか、自分の学び方や学ぶペースにこだわりのある子供にとっては、いまのやり方だけではとてもつらいと思うんですよね。つまり、教育のオプションが少ないことが、日本の最大の問題なんです。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

それは日本特有、あるいは顕著な問題なんですか?

そう思います。ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱する「マルチプル・インテリジェンス理論」をご存知ですか? 簡単に言えば、人間には8つのインテリジェンスがあるという主張で、例えば体を動かすことで何かを学ぶのが得意な子もいれば、耳から入ってくることに反応して学ぶ子供もいる。

ハワード・ガードナー教授が提唱する8つの知能MI

アメリカだと、そうした個々の特性を意識して、それぞれに合った学びのアプローチを考えている学校もあります(マルチプル・インテリジェンス理論については、この記事を参照のこと)。

日本の公教育の場合は、先生の決めたやり方でやるのがほとんどなので、ストライクゾーンが狭いというか、それが合う子にとってはいいけれど、合わない子にとってはつまらないものになってしまう。

中学生になると不登校がすごく増えるじゃないですか。その理由にはもちろんいじめなどもあるとは思いますけど、その子に合っていない学習環境というのが大きな要因の一つになっていると私は思います。

そういうきめ細かい教育をしてくれるのは、日本だと一部の富裕層だけが通えるプライベートスクールという印象もあります。

オランダでは、全体の10%くらいがオルタナティブ・スクールといって、例えばイエナプランとか、公立とは違う手法の学校があって。それを政府として認めているから、無料に近い形、公立と同じような待遇で受けられるんです。

これはアメリカでも同じ。アメリカの場合はチャーター・スクールというんですけど、先ほど紹介した映画の中に出てくるサンディエゴのチャーター・スクールは、公設民営なので半分くらいがランチ補助を受けている貧困層のお子さんです。

自分の意思で選択する経験を重ねて、子供は必要な力を身につけていく

もちろん、日本政府もこれまで通りの知識詰め込み型の教育のままでいいと思っているわけではなくて。

2020年からの学習指導要領案では、「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」に加えて、「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」が、養うべき3つの柱として挙げられています。

でも、その結果として何が起こるかというと、やれ英語教育をやらなきゃいけない、やれプログラミング教育だと言って、実は子供の学校での学習時間は増えるらしいんですよ。

時間割は依然としてなくなる傾向にはなく、一方で学習時間が増えるってことは、現実は理想とは逆に、いまよりも悪い状況になることだって考えられます。私としてはそれがすごく心配で・・・。

どうしたらいいんでしょうか。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

お上から降りてくる仕組みをいい方向に変えるのがなかなか難しいのだとすれば、現場にいる大人は、それを全部鵜呑みにしないことが大切になってくると思うんです。

例えば英語に関していえば、私個人としては、世の中の人全員が英語ができなくてもいいと思っている派。全員が写経のようにして英語を学ばなければならないとなると、苦しくなってしまう子供も出てくる。であれば、例えばスポーツを頑張っていて宿題をやる時間が取れない子については、現場の先生が「宿題をしなくてもいい」という判断をしてあげる、とか。

あるいは先生がそれを許さないのだとしたら、親が「怒られたって気にしなくていいよ」と言ってあげるとか。それだけで子供はだいぶ楽になると思うんですよね。

そうやってある意味、自主的にチョイスできるようになっていくと、キツキツの環境の中でも、子供たちは少しだけ息継ぎがしやすくなって、「自分は何が好きなのかなあ」とか、「何を頑張っていこうかなあ」と考える余裕ができると思うんです。

偏差値でしか判断されないとなると、逃げ場がないですもんね。

それに、批判的思考力とか論理的な物事の考え方って、本来はそうやって自分で選択していく過程の中で自然と身についていくはずなんですよ。

いまの教育は与えるだけ、正解を出すだけの教育だから、自分で考えて意思決定するスペースがないんです。高校生とかになって突然「将来は何がしたいの?」とか聞かれても、そりゃあ「分からない」となってしまいますよ。就活の時に「とりあえず人気企業に」とか、「クビにならなそうだから公務員」とか、そういうまったく本質的でないところで判断することになってしまうのも、根っこは同じ問題から来ていると思います。

AIに取って代わられないものは何かと考えたら、結局は自分自身しかないわけじゃないですか。なのにその「自分」が分からないままに大人になってしまう。これほど不幸なことはありませんよね?

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

言われてみれば当たり前ですが、自分の意思で何かを決めるのが苦手なのは、そういう訓練を小さいころからしてきていないからってことなんですね。

「自分がやりたいことはなんなのか」を考える訓練みたいなのは、小さいころからの積み上げの力がとても大きいようなんです。先日たまたまIBの教育をされている小学校にお邪魔する機会があったんですが、そこでも興味深いお話を伺って。

その学校がIBを取り入れたのは3年前のことなので、いまの4年生は入学した時点ではIBの教育を受けていなかったわけです。IBの教育では探求の時間がたっぷり取られていて、そこで子供たちは自分の意見を出すとか、論理的に思考するとかの力を身につけていくんですけど、先生によると、やっぱりIB以前に入ってきた4年生とIBになってから入ってきた下級生とでは、出てくる意見の多様性とかチームワークに差があるっていうんです。

ある程度年齢を重ねてからでは手遅れになってしまう?

手遅れとまでは言わないですけど・・・。でも、例えば失敗を恐れてしまうとか、すぐに正解を求めてしまうクセみたいなのを抜く、つまりアンラーンするのはすごく難しくなってくる。

いろんなお話を聞いていると、中学生くらいまでならきっかけさえあればまだスパッと変われるんですけど、高校までずっと日本の伝統的な偏差値教育でやってきて、その世界にどっぷり浸かってしまっていると、方向転換はしんどいのかな、と感じます。

子供は本来、失敗が得意。一番失敗を恐れているのは・・・

失敗してもいいからやってみるというのが、やはりとても難しい・・・。

いや、子供は本来、失敗が得意なんですよ。6歳くらいまではめちゃめちゃできる。だけどそれが小学校に入ると、だんだん不得意になってくるんです。なぜかと言えば、それは正解のある教育をしているから。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

もちろん、そんな日本にだってすごく反骨精神が強くて、クリエイティビティに秀でた人はいますよ。それはいつの時代にだっている。でも、一部の天才に頼っているだけじゃ、数が少なすぎるんです。やっぱりミドルクラスを底上げしていかないと、世界に勝てる競争力にはつながらないと思います。

例えば今日の竹村さんのお話を聞いて、「いままでの教育はもうダメだから、次はモンテッソーリだ、IBだ」となってしまっては、それはそれで正解を求めるマインドセットになってしまっているということですよね?

そうですね。やっぱりそういう大人、親自身の失敗したくないという気持ちが、子供の成長の一番の阻害要因になっていると思うんです。親としてはどうしたって子供に幸せな人生を送ってほしいわけですけど、でもその親自身が正解のある世界に生きていて、自分の成功体験に基づいて方程式を出そうとするから。

いまはテクノロジーも進んで、どんどん年齢の低い子が新しいものを生み出しているし、中学生だって会社を作れるわけじゃないですか。親の時代には考えられなかったことが次々に起きている。であれば、親は子供をもっと信頼して、一人の人間として認めてあげて、何か自分の考える正解を押し付けるのではなく、子供の「自立」をサポートする側に回った方がいい。

8~10歳ごろの子供は、まだ自分のやりたいという思いを素直に表現できる年齢なんです。だからそのころに自分のやりたいことをやってみて、失敗して、またやる。あるいは「やっぱりこっちがやりたかったんだ」というのを見つける。そういうサイクルを積ませてあげるべきだと思います。

そのころだったらまだ、受験するにしても時間はあるから、親のほうも比較的余裕を持っていられるじゃないですか。そうやって自分の意見を持てるようになっていると、高学年になれば、子供は自分から「こっちに進みたい」と表現してきてくれます。子供が発信してくれれば、親としても判断しやすいですよね。

分かります。でもやっぱり、普通の人にとっては失敗するのは怖いんですよね(笑)。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

選択肢がないから、一つの世界しかないから失敗できないというところはあるのではないでしょうか。

例えば専業主婦だったりすると、「子供がいなくなった時の自分を考えるのが嫌」みたいな人もいるじゃないですか。「自分=子育て」みたいになっちゃうと、やっぱり手放したくないと思ったり、管理したくなったり、失敗したら恥ずかしいと思ったりしちゃうと思うんですよね。

だから、必ずしも専業主婦より働きに出たほうがいいというわけではないですが、趣味でもなんでもいいから、親自身も子供以外のライフワークを持っているのは大事だと思います。

でも、かくいう私も元々はとてもトラディショナルな見方をしていたし、モヤモヤしていたんです。だからそういう人の気持ちはすごく分かるんですよ。

Unlearning Yourself

ちなみに、竹村さんご自身はそういうトラディショナルな見方をどうやってアンラーンしたんですか?

それはやっぱり世界を旅して、いろんな教育者の方のお話を伺ったりしてきたからだと思います。

日本にいると一つの常識の幹が太くて、他はすべて亜流みたいな感じですけど、一歩外に出てみるといろんな常識がある。そういうものをいっぱい見て、「ああ、こんなのもありなんだ」って思えたのが大きかった気がします。

そういう意味では、やっぱり選択肢があることが重要であって。だからこそ私は、いまやっているような活動を通して、同じようにモヤモヤしている人たちの「移行」のお手伝いをしているんです。

「Peatix.com」共同創業者 竹村詠美

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[取材・文] 鈴木陸夫、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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