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INTERVIEW
「大企業×デジタルネイティブ世代」に今 “トリプルチャンス” が訪れている
INTERVIEW

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BOOK MARK
デジタルネイティブ世代にチャンス、大企業にいるからこそのチャンス、今どきの社長は「若い世代に経営トップをまかせたい」と考えているというチャンス・・・今、トリプルチャンスが訪れているんですよ。「挑戦しない」手はありませんよね。

大企業でくすぶる30〜40代をこう諭すのは、アステラス製薬などの社外取締役を務め、200社以上の企業経営者に対してリーダー育成を行う株式会社プロノバの代表取締役社長、岡島悦子さん。

その言葉の真意と、大企業で「トリプルチャンス」をつかみ、活かすための「したたかで、しなやかな」戦略を伺いました。

株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子

PROFILE

株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子
岡島悦子
株式会社プロノバ 代表取締役社長
筑波大学卒業後、三菱商事に入社。その後ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス経営陣を経て、2007年にプロノバ設立。経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロとして、「日本に "経営のプロ" を増やす」ことをミッションに、経営のプロが育つ機会場を創出し続けている。アステラス製薬、丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、リンクアンドモチベーション、ランサーズの社外取締役やグロービス経営大学院教授を務める。また、経営共創基盤やグロービス・キャピタル・パートナーズなど、多数企業の顧問・アドバイザー、政府委員会メンバー、NPO理事を歴任。ダボス会議運営の世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出される。著書に『抜擢される人の人脈力』(東洋経済新報社)『40歳が社長になる日』(幻冬舎)

大企業の30〜40代社員に今、巡ってきたチャンス

—現在では「大企業に勤めている」ということが必ずしも優位に働くことはなくなってきているように感じます。その中で “あえて” 大企業で働くことは、個人のキャリアにとってどのような意義があるのでしょうか。

これまで大きな成長分野として伸びてきたのはスマホアプリなどソフトウェア市場、経営共創基盤の冨山和彦氏の言われる「カジュアル」サービスでした。が、ここに来て、自動運転技術や遺伝子解析、ドローンなど、技術的な要素だけではなく、規制緩和に向けた政策提言など、関係省庁との緊密なやり取りを要する「シリアス」サービス分野の可能性が広がっています。そのため、社内に多数の技術要素を持ち、規制当局との折衝の知見豊富な対応力のある「大企業」にチャンスが巡ってきているのです。

かたや企業の幹部研修などで接する大企業で働く人に目を向けると、「自分が経営者となって、そのチャンスを活かす」ということが時間軸でもマインドセット軸でも非常に遠い。特に就職氷河期を経験した世代は社内で同世代が少なく、上のポストは埋まっている。「意識が高い」だけで当事者意識が薄く、いつまで経っても「うちの会社は変わらない」と不満を漏らしてばかり。自分は何をするべきか、何ができるのか、という視点を持てない方が多いように感じます。

しかし、ここで問いたいのは「あなたはいつまで外野気分でいるの?」ということです。ベンチャーでも勝負を仕掛けやすいソフトウェア市場が成熟し、これからは ”IoT” と言われるように日常生活のあらゆる場面でテクノロジーが浸透し、新たなイノベーション創出の勝機が生まれていく。この勝機を活かすために、企業は国や政府を動かし、阻害するものを突破していく必要がある。それは大企業こそが得意としてきたことですよね。一方で、産業構造やビジネスモデルすらも変更していかなければならない。大企業で働くデジタルネイティブ世代こそ、これから自分の意志と力で社会を動かしていけるんですよ。

私は過去15年、200社以上の企業経営者と対話を重ね、各社の社長と二人三脚で次の社長育成支援コンサルティングを行ってきました。実はすでに多くの30〜40代社員が大企業の「次の社長選抜プロセス」である「サクセッション・プログラム」の対象に入っています。以前ならMBA取得や社内の経営幹部育成研修など、研修ベースの育成プログラムが主流でしたが、最近では抜擢人事による「配置」中心の育成へと移ってきています。それも買収先の経営立て直しや海外子会社でのマネジメントなど、「修羅場」のようなハードシップの高い環境に置かれ、それを3年ごとに繰り返すようなもの。

当人たちは、もしかしたら「私だけ異動が多いな」「島流しされている」と感じているかもしれませんが(笑)、経営者たちは明確に「10年後の経営トップ像」を見据えて、戦略的に「次の社長」育成を目論んでいます。つまり今、大企業に勤める30〜40代の社員に大きなチャンスが来ているんです。

岡島さんのご著書『40歳が社長になる日』
岡島さんのご著書『40歳が社長になる日』

—大企業で働く社員の方にとっては、あまりその実感がないかもしれません。

大企業に勤めている人たちは、もともとハイポテンシャル人材であることは確かなはずなんです。けれども大企業は今までの成長モデルの中で成功の方程式を確立して、すでに型が出来上がっている組織。その組織に最適化されると、彼らは「課題解決マシーン」となります。かつてはそれでもよかったんです。経験年数が長いほど、キャリアの市場価値も上がったんですから。

けれども今はまさにVUCAと言われる「未来の不確実さが増す」時代。そこで求められるのは非連続の成長であり、固定概念のバイアスを取り払うことによって生まれるイノベーション創出の実現です。まさに経験曲線が効かず、今までの成功体験への呪縛がむしろ邪魔になることさえあり得る。ですから、まだそれが定まる前の30代にチャンスがあるんです。

実は大企業にかぎらず、創業20年近くなってきた成熟したベンチャー企業にも同じことが起こっています。効率を求めるあまりに型化が進んで、KPIを達成することに必死になっている。社内で表彰されて、MVPを取った方は喜んでいるようだけど、そもそもその事業分野がすでに市場規模縮小していることに気づけていなかったりする。真面目な人ほど思考停止になっていて、世の中の動きにも気づけず、自分が守りに入っていることを認識できていないんです。

選ばれるための「打席」はいくらでもある

—大企業では次世代リーダーの発掘・育成が進んでいるとのことですが、選ばれる人の特徴はどのようなものでしょうか。

前提として言えるのは、意思決定する機会である「打席」に「ちゃんと立っているのか」ということ。そこで仮に成果を出せていなくても、伸びしろを見せられているかどうか、ということです。

大企業にいる社員は自分の能力開発には熱心だけど、機会開発が手薄になっていて、「機会は会社が決めるもの」と思い込んでいる節がある。でも社内公募、FA制度、出向の機会など、実は意思決定をする機会の打席はすぐ近くにあるケースも多いのです。あとは自分がそれに手を挙げるか、言ってしまえば「目立ってなんぼ」、なんです。なのに、「目立ちたくないが埋もれたくない」「失敗したくない」とまわりからの社内評価を気にしてばかりで、「会社は自分を認めてくれない」という方もいる。それは、虫が良すぎるのでは。

それにビジネス書を読み漁って勉強するのは大いに結構だけれど、経営が「わかる」ことと「できる」ことには大きな違いがあります。そこで「できそうです」と言うだけでは足りなくて、やはり打席に立たせてもらって、そこで実経験しなければ意味がない。

では、打席に立つために何が必要か、どんな努力ができるのか。それは「自分の強み」の認識と、その強みの社内外への「流通」です。これを私は「キャリアのタグ®」と呼んでいます。経営者、人材配置の意思決定者が、「◯◯に強い若い人、うちにいなかったっけ」と、あるタグで「脳内検索」した際に、自分は想起してもらえるのかどうか。そのために日ごろから自分の強みを理解し、アピールしておく必要があります。

株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子

ー打席に立つことが必要な一方で、大企業では「SNS禁止」など制約が多かったりして、なかなか思うようにアピールできないのでは。

そんなふうに今までの古いルールをかたくなに守ろうとしている企業は、そもそもマズいと思います。だって、それって「明治維新で身分制度が変わったのに、武士のままで居ようとする」ようなものですから。

ただ、私も多くの経営者と話していますけど、経営者の問題というより、現場に問題がある場合があるんですよね。例えば、私が経営者と話して、せっかく一緒に新たな施策に取り組もうとしても、後から実務担当者に「岡島さん、過去の実績に関する資料をください」と言われる。みんなが忖度し合って、要らない仕事を作ってるんですよ。誰もとがめないのに、「とがめられるんじゃないか」と保険をかける。担当者が、組織や上司の期待値に最適化しすぎた結果、「真の課題への絞り込み」については思考停止となり、経営者が想定もしない不必要な仕事が自己増殖していく。組織の完全なる「終わりの始まり」症状です。

企業は、非連続の成長をせざるをえない、という今まで経験したことのない状況に直面しているわけで、上司の言うことを守ったからといって、成功できるとはかぎらない。新しいものを生み出すためには、失敗も不可欠なんです。ですから企業文化として善意の失敗を許容して、打席に立とうとする人をサポートしていかなくてはなりません。

これからの時代に求められる「羊飼い型のリーダーシップ」

—では、これから打席に立つリーダーとして選ばれていく人の「強み」とはどんなものでしょうか。

今まで人が担ってきたことで、定型化できるものや苦手なことは、どんどんAI(人工知能)に置き換えられていくわけです。その中で人間がやるべきこととして必要なのは、強みでの勝負、しかも「強みのかけ算」です。前述の「キャリアのタグ®」を組み合わせたり、かけ合わせたりすることで、その人にしかない強みになっていきます。複数の専門分野を持った「π(パイ)型人材」はまさにそうですよね。

π型人材:2つ以上の専門分野を持ち、なおかつ専門分野以外の知識の幅も広く、複雑な課題を解決したり、チーム内で必要な調整ができる人のこと

そして、タグの掛け合わせは個人にとどまらず、組織のあり方にも関連しています。それぞれが持っているタグの最大公約数を取って、共創的なプロジェクトチームができていく。そのときに自分のタグが多いほうが、しかもなるべく異質なタグの掛け合わせの人のほうが、必然的に選ばれる機会が増えていくわけです。

株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子

私自身も、「経営者のかかりつけ医」「ベンチャー業界のゴッドマザー」「猛獣使いできるファシリテーター」など、さまざまなタグが市場で流通しています。リーダー開発支援コンサルタントや社外取締役など、約30種類の肩書きを持つポートフォリオ・ワーカーです。「職業は?」と聞かれると、既存の区分けではフィットしないので、最近は「職業=岡島悦子」と答えるようにしているほど。あるときは経営者、あるときはコンサルタント、あるときは教授、と、その時々で求められる役割を果たしていくのです。映画でキャスティングされるようなものですよ。

—その中で企業が次世代リーダーに求めているのはどんな役割なのでしょうか。

これだけ世の中が複雑化すると、長期のビジョンすら正確に作るのは難しくなります。カリスマ型のリーダーシップでは成功し続けるのが難しくなっているのです。そこで求められるのが、ハーバード・ビジネススクールのリンダ・ヒル教授が提唱した「羊飼い型のリーダーシップ」なのです。現場に顧客インサイトを引き出せる異能の人たちを集め、チームでイノベーションを創出する、経営者は徹底的にその環境整備をすることを役割とし、羊の群れが前へ進めるように仕向けていくようなリーダー像です。

例えば、これからヘルスケア分野でイノベーションを起こし、ビジネスに取り組もうとする場合、現場に近い医師や患者に仮説を当て、顧客インサイトを取っていく。仮説検証を繰り返しながら、アジャイルに開発できる環境が求められるわけです。リーダーに必要なのは、その環境設定と大枠の方向性を決めていくことです。そのために必要なのが、デザイン思考であり、顧客共創です。

その際、イメージしていただきたいのは、日本によくある「ワイガヤ」の議論ではなく、フロントに優秀な人を集めてキャスティングできる調整能力です。複雑な世の中で、ましてや大企業でビジネスモデルのイノベーションを起こそうとするには、離れた機能や分野を持ち合って喧々諤々のやり取りをしながら、チームでのイノベーションを最大化していくことが必要です。

ここで通常、イノベーションのジレンマが起こります。経営資源配分の戦いです。主戦場にいる優秀な人材を、新規事業と稼ぎ頭の既存事業とで取り合うこともありますよね。「こっちで稼いでいるやつを、どうなるかも分からないプロジェクトに持ってきてどうするのか」とリソースの取り合いになってしまう。

外部人材を入れるにしても、社内からは「うちのノウハウが外部流出するのでは」という懸念の声が挙がって。そういった抵抗勢力を振り切りつつ、「したたかに、しなやかに」、権力を取っていかなくてはならないのですから、リーダーには相当な覚悟と力量が必要です。

—けれどもなかなかそういう状況に置かれても、すぐに対応できるかどうか疑問です。直属の上司から「勝手なことをするな」と睨まれかねません。

ミドルマネジメントに抑圧されているのはよくあるケースですね。「そっちはいいから、まずは自分の結果を出せよ」ということでしょう。でも、それでやめてしまうのは、優等生すぎます。

リーダーシップを発揮するためには、現実的な話として、権力の後ろ盾が必要です。同じ企業での勤務経験が長くなれば、社内政治の構造や、誰が本当のキーパーソンなのか、誰に嫌われないようにすればいいのか分かるはず。キーパーソンに想起してもらえるように取り組みつつ、直属の上司を飛び越えたとしても、気づかれないように、あるいはうまくフォローする。権力を目標にするのではなく、手段としての権力を味方につける。だから「したたかに、しなやかに」、ということです。

株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子

—「したたかさ」こそ、大企業で培える能力の一つかもしれませんね。しかし、それでも今の環境で自分の戦略を進めていけない場合、転職して新たな活路を見出すことはどうお考えですか。

厳しい言い方かもしれませんが、私は、ホームでできないことはアウェーでもできないと思います。ある程度長くいたら会社の意思決定のメカニズムやモノゴトの進め方も分かっているはず。それでできないのなら、外ではもっとできない、ということではないでしょうか。

転職するほどの勇気があるなら、社内で嫌われることなど本当は怖くないはず。不退転の決意で挑んで、失敗したとしても、転職するくらいの覚悟があれば、怖いものなどないはずです。先の不確実な状況で意思決定した経験から学べることは確実にあります。そのチャレンジを見ている人もいるはず。修羅場が人を育てるし、環境が人を育てるんです。

このまま大企業の既存のルールの中で戦って、出世できたとしても、ルールが変われば一巻の終わりですからね。つまり棚ぼた理論で、チャンスのあるところにしかぼた餅は落ちてこない。レッドオーシャンの下には餅が落ちてこないですからね。それなら、もっと強みを磨く、レアキャラになれるようなタグを掛け合わせて、自ら打席に立ったほうがいい。

これからの時代、破壊的なイノベーションを生むのは、なるべく遠い領域と領域をかけ算するようなアイデアです。例えば、NPO法人の「TABLE FOR TWO」は、先進国の飽食問題と発展途上国の飢餓・貧困問題をかけ合わせて、「対象となる食事を購入すると、そのうち20円が発展途上国の子どもたちの給食に役立てられる」というソリューションプログラムを生み出しました。

スポーツ×経営、アート×社会貢献・・・さまざまな領域を行き来して、越境し、そこで「文脈をつくって」領域をつなぐことで、そこに価値が生まれるのです。

今は行動しようと思えば、SNSを通じてすぐにつながったり、仲間を集めたりすることもできる。そこに心理的障壁のないデジタルネイティブ世代にチャンス、大企業にいるからこそのチャンス、「若い世代に経営トップをまかせたい」という、若手にとってのトリプルチャンス時代到来です。「挑戦しない」手はありませんよね。

株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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