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INTERVIEW
ハーバード・ビジネス・レビュー前編集長が出会った「最高のリーダー」に共通する資質とは?
INTERVIEW

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BOOK MARK
環境さえあれば、誰もがリーダーとしての資質を発揮できる。

こう話すのは、ダイヤモンド社の編集者である岩佐文夫さん。世界最古のマネジメント誌『Harvard Business Review』の日本版『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の編集長を2017年4月まで務め、数多くの経営者を取材してきました

そんな岩佐さんが考える、優れたリーダーに共通する資質やマインドセット。混迷を極める社会を生き抜くリーダーに必要なスキルとは、どのようなものでしょうか。編集長としての5年間のお仕事を振り返りながら、語っていただきました。

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 編集委員 岩佐文夫

PROFILE

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 編集委員 岩佐文夫
岩佐文夫
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 編集委員
1964年大阪府出身。1986年自由学園最高学部卒業後、財団法人日本生産性本部入職(出版部勤務)。2000年ダイヤモンド社入社、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部に着任。2004年書籍編集局に異動。2012年4月から2017年3月までDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集長を務める

日本を代表する経営者たちと接して

—岩佐さんは2000年にDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(以下、DHBR)編集部に着任し、2012年からは編集長を務めてこられました。

ダイヤモンド社で17年。最初の4年はDHBR編集部に在籍し、その後8年書籍の編集者をした後、DHBR編集部に戻り編集長を5年務めました。前職から含めると31年ですから、延べ数百名ほどの経営者の方々にお会いしてきました。

—読者の関心事やフォーカスすべき課題など、その中で変遷していった部分もあったのでは?

DHBR編集長に就任してから、意識的に読者ターゲットをシフトしたんです。それまでの読者層がいわゆる大企業の経営層、50代以上の方々だったとすれば、もっと若い30〜40代の方々・・・ スタートアップの経営者や大企業のリーダー層などに向けた誌面作りを意識してきました。

2016年10月に発行したDHBR40周年記念号の特集は中でもシンボリックなものでしたが、『未来をつくるU-40経営者』と題して、40歳未満の経営者20人を選出して紹介しました。過去の経験や知識が通用しない中で、これからはリスクを取る人たちこそが活躍できる社会。

けれども日本ではなかなかトップ層が変わらず、活躍の場が広がっていかない。これからの世界を変えてくれるであろう経営者を世に紹介することで、10年先、20年先の未来への布石にしたい。そう考えて、特集を組んだわけです。

今はやはり、全体として停滞感がありますよね。デジタル経済への対応の遅れ、少子高齢化・・・ 産業やサービスも高齢者向けばかりで、若者が疎外感を抱いてしまうほど。けれども、昔は「優秀な人は大企業へ」というのが定石だったのが、今では志ある人がゼロイチでベンチャーを立ち上げたり、社会的事業取り組んだりしている。そこに希望を見い出しています。

—どのように記事企画や誌面構成を考えてこられましたか。

読者ターゲットを既存よりも若く設定していたことは確かなのですが、どんな方に話を聞くかということに関してはそこまで変わらなかったように思います。しいて言うなら、新しいことに挑戦している経営者。

ファーストリテイリングの柳井(正)さんもそうですし、サイバーエージェントの藤田(晋)さんもそう。ネスレ日本の高岡(浩三)さんなんて、産業としては特に新しい分野ではありませんが、「ネスカフェ アンバサダー」というまったく新しいビジネスモデルを成功させた。

そういった方々の考え方というのは、学びの多いものとなります。会話することで気づきがあったり、既存のアイデアを裏切られたり・・・ 自分の中にあるフレームワークを揺さぶって欲しいんですよね。

ですから、よく「尊敬する人は?」「座右の銘は?」と問われることがあるんですけど、あまり固定したくないんですよ。常に、自分の追い求める理想が変化していけばいいな、と考えていて。

—なるほど。実は、「これまでお会いした経営者の中で、特に優れたリーダーと感じる方は?」という質問を用意していたのですが・・・ なかなか答えづらいかもしれませんね。

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 編集委員 岩佐文夫

そうですね(笑) お答えするのもおこがましいというか・・・ 皆さん、本当に素晴らしい方ばかりです。ただ、しいてどなたかを挙げるとすれば、ライフネット生命(保険 代表取締役会長)の出口(治明)さんでしょうか。知力、体力、相手への思いやり・・・ すべてにおいて人として圧倒的。

そのありあまる能力を社会のために使おうとされていて、一生涯でこれほどのことができるのかと感嘆します。そしてそれをご自身の言葉で、とてもシンプルに語られる。意思決定がものすごく早いし、フェアだし、オープンで隠しごとのない経営をされておられます

にもかかわらず、腰が低く、どんな人にも丁寧に接する普通、何度かお会いすれば、緊張しなくなっていくものですが、出口さんは会えば会うほど緊張するんですよ。知れば知るほど出口さんは凄いと思うので、自分は果たして、出口さんに時間をいただくに値する仕事ができているだろうか、と考えてしまいます

—出口さんの、人としての圧倒的な凄みというのはどこから来ているのでしょうか。

ご自身の著書にも書かれていますが、「たくさんの人と会い、本を読み、旅に出ること」。数千冊の本を読んで、1000以上もの都市に出かけて多くの方々とのつながりがある。経験されてきた量と質が違いますし、そこに裏打ちされた知識と知恵がある。

けれども、ただやみくもに数を増やすだけではなく、一つひとつの事象から着実に学んでこられたのだと思います。いくつになってもまっすぐに学び続ける。その姿勢が出口さんの「チャーム」=「らしさ」であり、それがまわりにも伝わって多くの人を惹きつけているのではないでしょうか

リーダーの資質は持って生まれたものでなく、身につくもの

—リーダーの資質として、何か重要な要素を挙げるとすればどのようなものでしょうか。

“資質” というと何か先天的なもののような気がしますが、それだと救いようがないじゃないですか。僕はある種、後天的なものだと考えたいんです。

スタンフォード大学で1971年にある監獄実験が行われました。「スタンフォード監獄実験」と呼ばれていますが、大学内に本物のような牢獄を作り、アルバイトの学生を囚人役と看守役に分け、囚人役がどのような変化が起こるかを観察するというもの。

結果は意外なもので、看守役のアルバイトの学生が凶暴になり、実験は中止されました。つまり、人間は社会的な生き物で、与えられた環境によって悪魔にも天使にもなりうるということ。その論理で言えば、リーダーの資質を持っているのは誰かと考えるよりも、どうすれば誰もがリーダーとしての資質を発揮できるかを考えたほうが生産的ですよね。

—環境さえあれば、誰もがリーダーになれる、ということですね。

よく日本企業ではチャレンジする人が少ないと言われるけれど、確かに失敗が減点につながるような組織では、誰もチャレンジしたいとは思わないでしょう。けれども失敗した人を評価するような制度を取り入れることで、チャレンジする組織文化が醸成される可能性もあります。

スティーブ・ジョブスや孫正義さんのようなカリスマ型のリーダーの不足を嘆いても始まりません。チャレンジする人、リーダーシップのある人が生まれる社会が来るのをいつまでも待つより、多くの人にチャンスを与えることで、優れたリーダーをたくさん生み出していけばいいのではないでしょうか。

—リーダーを生み出すのに必要なのは、チャレンジしやすい環境のほか、どんなものが考えられるでしょうか。

自然とまわりにリーダーシップを発揮させるような人っていますよね。その人たちに共通するのは、先ほどの出口さんのお話にも通じますが、「チャーム」、その人らしい魅力によるものが大きいのかもしれません。

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 編集委員 岩佐文夫

元ソニー・ミュージック(エンタテインメント代表取締役社長)の丸山(茂雄)さんという方がいるんですけど、彼が立ち上げたEpicソニーは小室哲哉さんや渡辺美里さんなど多くのミュージシャンを輩出し、プレイステーションの生みの親の一人とも言われています。

しかし、ご自分では「俺は何もしていない」と仰います。みんな部下がやったことだと。部下だった人たちに聞くと、「丸さんの笑顔を見たい」と言うんですよ。「丸さんによろこんでもらいたい」って。そうしてそれぞれが自律的に自らの能力を発揮していく。

良い意味で一人ひとりを平等には見ていないんです。それぞれの得意分野を見極めて、それぞれに合った活躍の場を与える。ある種、猛獣使いみたいなところがあります(笑)まかせるけど、押しつけない。まかせて、もし失敗したら、それを引き受けて責任を取る。

なぜそうなるかというと、丸山さんはどうすれば音楽業界がよくなるかだけを考えていて、私心がない方なんじゃないでしょうか。そんな「丸さんらしさ」が周囲の共感を生んでいるんですね。

自分らしさを貫き、明確なビジョンを描く

—これからの時代を担うリーダーでどなたか「チャーム」を感じられる方をご紹介いただけますか。

宇宙ベンチャーispaceの袴田(武史)さんにお会いしたときには、これまでにないタイプの経営者だと感じました。淡々としていて、こちらの質問には的確に答えてくれるけれど、変に自分を大きく見せたり、迎合したりしない。物静かさのなかに芯の強さを兼ね備えた方という印象でした。

自社社員だけでなく、東北大学の研究室とプロボノ(ボランティア)を含めた合同チームを率いていて、国籍や性別、バックグラウンドもさまざまなスタッフをまとめ上げるにはどうしているのかと伺ったら、「どんなことがあっても、僕はやめません。それだけですね」と。その言葉の強さには、感じ入るところがありました。

あと、気仙沼ニッティングの御手洗(瑞子)さん。気仙沼という地で、地元の方が誇れる産業を作った。しかもその産業はもともと漁師町である気仙沼で、漁網を編む技術に長けた人が多かったからこそ、成り立つもの。すべて一気通貫していますよね。必要な場所に必要な事業を作ったパイオニアであり、少子高齢化、地方再生という現代の大きな課題に対する、一つの解を導いています。

—そのお二人がチャームを纏えている理由があるとすれば、どんなことでしょうか。

その人の魅力って人それぞれですよね。その場にいるだけでパッとまわりが明るくなるような人もいれば、物静かでおだやかな人もいる。「オーセンティック・リーダーシップ」という言葉がありますが、オーセンティシティー(authenticity)・・・ つまりその人の本来の「らしさ」、本質的な自分らしさを貫いているのだと思います。多くの経営者にお会いして、魅力は実にさまざまだと実感しています。

そして、二人に共通しているのは、ビジョンがはっきりしていること。かつては産業としての成功モデルもたくさんありましたし、「こうすれば成功する」という方程式があった。けれども今のような時代は、明確なゴールやビジョンを示さなければ、まわりが不安になるし、ついてこれなくなってしまう。

「辻褄が合っている」というか、どこまでブレークダウンしていっても、「あぁ、なるほど」「今これをしているのは、このためなのか」と誰から見ても納得感がある。優先順位が明確で、余計な要素を省いているから、ストーリーも伝わりやすいんです。ビジョンに対して最短距離を描いていますよね。

今のような正解のない時代ですから、人の力を借りることが必要だと思います。目標に向かってチームで取り組んでいくと、得てして「あれ、どうしてここにたどり着いたんだろうね」ということも起こる。けれど、そのときは明らかに自分の限界を超えていますよね。自分の予測していなかった成果につながっているわけですから。

リーダーの限界を超えるために、メンバーの力をどう引き出すか。もっと言えば、メンバー一人ひとりがリーダーシップを持っていれば、それは強い組織だということ。そうすれば、チームにおけるリーダーシップの総量は増えます。その総量こそが、これからの時代の推進力になるのではないでしょうか。

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 編集委員 岩佐文夫

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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