ログインして記事ブックマーク、コメント投稿などすべての機能を使う。

close

INTERVIEW
UBICに聞く、人工知能を賢く使いこなすビジネスパーソンに求められる力とは?
INTERVIEW

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

法廷闘争をテーマにした海外ドラマなどで、弁護士が膨大な紙の資料と格闘しながら、勝利の決め手となる証拠を探すシーンを見かけたことはありませんか。

そうした場面でいま、敏腕なアシスタントとして活躍しているのが「KIBIT(キビット)」という人工知能です。証拠発見・調査分野という領域で、これまで着実に成果を上げてきました。開発するのは、日本発のビッグデータ解析企業で、2013年には米国ナスダック市場への上場も果たしたUBIC(ユービック)です。

KIBITは、心の「機微」と、データの最小単位「bit」を組み合わせたのが名前の由来。心の機微を最小単位でとらえる人工知能とは、どんなものでしょう。また、KIBITのような優れた人工知能を使いこなすために、これから人間が発揮すべき能力とは。UBICのCTOで開発者の武田秀樹さんに伺いました。

UBIC執行役員CTO/行動情報科学研究所所長 武田秀樹

PROFILE

UBIC執行役員CTO/行動情報科学研究所所長 武田秀樹
武田秀樹
UBIC執行役員CTO/行動情報科学研究所所長
1973年生まれ。96年早稲田大学を卒業。専攻は哲学。複数のベンチャーで新規事業の立ち上げに参画後、2009年UBIC入社。人の行動や思考パターンを解析する「行動科学」と、自然言語処理や機械学習などを駆使した「情報科学」を組み合わせた「行動情報科学(Behavior Informatics)」を提唱。人工知能を情報発見の分野に応用することを得意とする。多彩なバックグランドを持つ研究者や開発者を集め、人工知能「KIBIT」の研究開発を指揮。不正調査や裁判の証拠発見での人工知能の適応に取り組み、世界に先駆けてアプリケーション開発に成功した。言語処理学会、人工知能学会会員

少ないデータでも学習し判断の精度を向上させる人工知能

—日本国産の人工知能システム「KIBIT」について解説をお願いします。

UBICが開発を進めているのは、テキストデータの解析に特化したエンジンです。KIBITの原形になるものをリリースしたのが、2013年の3月でした。

いわゆる機械学習を利用するには十分な量のデータが不可欠ですが、ビジネスの場では、大きな命題に対して十分なデータを持っていないことも多々あります。KIBITは、少量のデータのインプットでも適切な答えを返せるのが特徴です。

 

—具体的に証拠発見・調査分野という領域においては、どのように運用されるのでしょう。

最初は10~100件ぐらいのデータを弁護士がKIBITに入力して、調査対象のデータを判断させます。KIBITが判断した結果を弁護士が見て、さらに判断の精度をブラッシュアップしていくのです。

人間が優れているのは、少ない情報からコンテクストを読み取る力。KIBITの判断する精度が人間の介在によって向上していくように、人間は人工知能にとっての「教師」としての役割が求められます。

 

—どうやってKIBITは「判断」しているのですか?

KIBITの証拠に対する判断は、人間が見つけたい意味を対象データがどの程度もっているかをスコアリング(点数付け)によって表します。ある報告書を調べる場合、スコアの高いものから順に見ていくと、証拠が早く見つかりやすい、といった仕組みです。

ブラッシュアップを経たKIBITを使うと、人間がメールやドキュメントなどを精査するのに比べて時間効率が2〜3倍上がり、コストが5分の1になるケースもあります。

すでに起こりつつある「3つの分野」における革新

—今後、KIBITの活用が見込まれる分野として、どんなものがあると思いますか。

「ビジネスインテリジェンス」「医療」「マーケティング」の3つの分野があると考えています。

まずは、ビジネスインテリジェンスへの活用です。いろんな企業が外部とデータをやり取りしたり、蓄積していますが、それらをさまざまな観点で解析するのに人工知能は役立ちます。

1つは、VoC(ボイス・オブ・カスタマー=顧客の声)の分析です。例えば、アパレル企業がユーザーからのニーズをより正確に汲み取れるようになります。CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント=顧客関係管理)を解析して、ベストパフォーマンスをもっている営業マンの知見を可視化するのも有効でしょう。

2つ目は医療分野です。これまでメディカルの領域では、テキストの記述を極力なくしてきました。でも、解析技術をしっかりと駆使すれば多くの情報を読み取れるはず。特に、看護・介護や精神医療の領域は、患者の記録をテキストに残す慣習がある領域です。

今、NTT東日本関東病院と転倒転落防止について研究しています。これは電子カルテを読み取って、転倒しそうな患者を予測する試みです。また、日本医療研究開発機構(AMED)によって選ばれた取り組みで慶應義塾大学などとともに研究が始まっているのは、精神疾患の自動診断。医師の問診内容を解析して、例えば、どれぐらい鬱状態に近づいているかをKIBITが判断します。

最後はマーケティングです。レコメンデーションエンジンを高度化して、ユーザーに対する商品、情報、例えばレストラン、映画の推薦をもっと魅力的にしていけると思います。

KIBITはコンテクストを読むので、セレンディピティー(偶然の幸福な出会い)の演出もできます。例えば、映画『スター・ウォーズ』が好きな人に黒澤明の映画を提案するとか。これは、ジョージ・ルーカスは黒澤明が好きだったというコンテクストを踏まえているからです。旅行予約サイトを見ていたひとにガジェットを提案するなど、ジャンル横断的なレコメンデーションも可能です。

KIBITを搭載したロボット「Kibiro」をインターフェースに対話することで、レコメンデーションをより魅力的にすることも可能
KIBITを搭載したロボット「Kibiro」をインターフェースに対話することで、レコメンデーションをより魅力的にすることも可能

人工知能がすべて解決してくれるという誤解

—私たちがビジネスで人工知能を使いこなす際、気をつける点はどこにありますか。

人工知能に「こんな感じのものを探してほしい」とぼんやり聞くと、曖昧な答えしか返ってきません。適当にデータを打ち込めば人工知能がすべて解決するというイメージを持たれている方もいますが、それは誤解です。

私たちはこの1年半でデータ解析を60件ほど手がけましたが、うまく行かなかったケースに共通して「なかったもの」があります。それは、実際に「何を解決するのか」という “解決の方針” でした。

 

—なぜ、そうした失敗が生まれてしまうのでしょう。

人工知能自体は、社会知や常識、活かしたい知識をあらかじめ持っているわけではありません。それらを蓄積しているわけでもなく、人間のような欲望があるわけでもない。だから、目的を与えてあげることが大事なのです。

何が課題なのか。それにはどのようなアプローチが必要なのか。それを考えるのは、あくまで人間の役割。「分析したデータを使ってどのようなアクションをするか考えるのも、人工知能の仕事でしょう?」と言われてしまうと、人工知能を使いこなすのは難しいですね。

人工知能で分かるのは、ある特定の課題に対しての相関性や予測、つまり「点と点」です。例えば、「こういう患者さんはこれからこうなる」といった判断ですね。

それに対して、新たにセンサーを着けるとか、リハビリで歩く回数を増やすとか、判断と実行を人間の活動のなかで行っていくのは、同じ人間の仕事だと思います。

ユーザーの立場から課題を「線」で考える力

—人工知能を活用して課題を解決する際に、人間側の有効な手立ては。

ユーザーの立場になって「Why」を考えることです。

例えば、私たちは企業の情報漏洩など、内部犯罪につながるメールを自動監査するソリューションを提供しています。そのとき、不正をする人の立場になって考えるのです。

従来は「情報」にばかり着目をして、それが外に出ないように漏洩を水際で防いでいましたが、私たちは「人」に着目して、実際の犯罪につながるまでを3段階のフェーズに分けています。

最初は、組織への不満が高まるなど不正への動機やプレッシャーが醸成される段階。次に、組織内の情報が持ち出せるか調査する段階。自分が過去に関わったプロジェクトなどの情報へアクセスを繰り返すようになります。最後は、情報を外に持ち出す実行段階です。

このように、課題を点ではなくて「線」で捉えるのが大事です。

データを集めることをまずやる。そのうえで、何が本質なのかを考えます。何が分かれば課題解決につながるのか、具体的にどうなったら解決するのか。基本的には、ずっと課題について考えるのです。

UBIC執行役員CTO/行動情報科学研究所所長 武田秀樹

最後に「決める」のは人間

—本質的な課題を見つけて初めて人工知能が解決を手伝ってくれるのですね。

そうです。あとは、この次に何が必要なのかというゴールを設定し、人工知能が提示した仮説に対する答えを人間が先延ばしにしないこと。

先程のメール自動監査のソリューションで言うと、人工知能は不正の兆候を検知することができる。しかし、人間が正しい対策をとらないと不正を防止することは難しく、事が起こってからでは手遅れとなってしまう。

つまり、意思を決められず、判断を下せない人は人工知能を使いこなすことができません。限られた時間のなかで決断するというディシプリンと力も、ビジネスパーソンに求められる能力でしょう。

【 本記事の読者にはこちらもお薦めです 】
49%の職業が消えゆく人工知能時代に知っておきたい「天職」3つの観点
人工知能の浸透という大きな変化に、私たちビジネスパーソンはどのように挑めばよいでしょうか。
https://mirai.doda.jp/theme/ai-robot/calling/

[取材・文] 神吉弘邦、岡徳之

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

いいね!していただくと
最新記事をお届けします。

コメントを送る

関連する記事

連載一覧を見る

タグ

タグ一覧を見る