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INTERVIEW
これから必要とされるのは強さだけでなく、「弱さをも見せられるマネジャー」
INTERVIEW

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BOOK MARK

ビジョナリー・カンパニーとして知られる「GE(ゼネラル・エレクトリック)」が、昨年人事制度を大変革しました。変革は「2本柱」からなります。

  1. 上司・部下間で行う評価サイクルを「一年に一度」から「リアルタイム」へ
  2. 社員を業績とバリューの2軸で評価し、9つのグループに「ランク分けする制度の撤廃」

特に後者の制度は「9(ナイン)ブロック」と呼ばれ、これまで多くの日本企業が模範としてきました。それを廃止したのですから、GEが全世界で浸透している現状の人事制度になんらかの「限界」を感じていることは明らかです。

さらにこの変革、深掘りしてみると実は、「これからの時代に出世できる人材の条件」と「今後求められる新しいマネジャー像」が透けて見えてきます。

GEの改革リーダー山本英雄さんは、「これからのマネジャーの仕事はマネジメントではなくなる」、そして「必要とされるのは強さだけでなく、弱さも見せられるマネジャーだ」と語ります。果たしてその真意、そしてこれからの時代に求められる人材とはーー。

GEジャパン株式会社 人事部C&Bグループ C&B マネジャー 山本英雄

PROFILE

GEジャパン株式会社 人事部C&Bグループ C&B マネジャー 山本英雄
山本英雄
GEジャパン株式会社 人事部C&Bグループ C&B マネジャー
大学卒業後、富士通にて営業部門人事、グローバル人事部に所属。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、デロイトトーマツコンサルティングにおいて約9年間、人事コンサルタントとして国内外企業の人事制度改革プロジェクトに携わる。2012年よりGEジャパンにて、報酬・福利厚生の制度企画部門に所属

社外の変化するスピードが社内を簡単に上回る時代

ーGEの人事制度が抜本的に変わりました。そのねらいは?

「カルチャーチェンジ」、つまり文化や風土を変えることです。制度変更はそれを加速させるための手段にすぎません。

「これから訪れる “IoT時代” を見据えて事業を変革していかなければ、ハードウェアの世界で確固たる地位を築いてきたGEでも存続することさえ危うい」、GEの経営陣は本気でそう思っています。

それで、ハードウェア・テクノロジーだけでなく、ソフトウェア・ソリューションも提供する「デジタル・インダストリアル・カンパニー」へと生まれ変わろうと。

そのためには、市場の変化やお客さまの声をすばやくソリューションへと反映させることが重要です。しかし、それまでの制度では、社員がそのように動けるようになっていなかったのです。

ーどういうことでしょうか?

IoT時代、つまりあらゆるモノがインターネットにつながり始めると、人びとの生活や体験の質は、これまでのパソコンやスマートフォンだけだった時代とは比べものにならないほど激変します。

すると、GEが提供してきたハードウェアの存在意義も自らの力だけではコントロールできなくなる。これまで以上に外部環境の変化に柔軟に対応し「続ける」必要があるのです。

一方、弊社が採用していた上司・部下間で行う評価サイクルは一年に一度。期初に目標を定め、期末にそれをどれだけ達成できたか評価していました。

達成すべき目標が明快かつ不変であれば、この制度は機能したのでしょう。またこの制度の下では、一度打ち立てた目標に疑問を差しはさむことなく、達成に向けてひたすら努力し続け、やり遂げられる人材が育ち、高く評価されます。

しかし、前述したように、期初に立てた目標だけを期末まで追い続けるようなスピード、フットワークではこれからの時代、目まぐるしく変化する市場やお客さまのニーズに対応できません。

例えば、お客さまからの要望を一度会社に持ち帰り、綿密に準備して提案しても、「そのニーズ自体、もう失くなってしまったから」と言われてしまう事態が、頻繁に起こりうるわけです。

「社外」の変化するスピードが「社内」のそれを簡単に上回ってしまう今の時代において、それはより顕著でしょう。

ー実際、制度疲労のようなことは起こっていたのでしょうか?

そうですね。これまでは何かを実行する際、事前に綿密に調査・分析をし、ミスなく確実に進めることが評価されてきたのですが、それでは変化の速い市場やお客さまのニーズをとらえ損ねることになると気づきました。失敗しても良いから、試して、修正しながらスピーディに進めることが求められるようになってきたのです。

こうした事態もあって、あれだけ「チェンジ、チェンジ」を繰り返してきたGEですら、もう何十年も経験してこなかったほどの大きなチェンジを迎えている。それが今回の人事変革です。

GEジャパン株式会社 人事部C&Bグループ C&B マネジャー 山本英雄

目標管理はしない、顧客のビジネスに与えたインパクトで評価

ー人事制度は具体的にはどのように変わったのでしょうか?

従来の社員を一年に一度、目標と業績・バリューで社員の評価をマネジメントするという制度の考え方を変え、社員の成長を促進することをねらいとした、「パフォーマンス・ディベロップメント」を導入しました。

目標とその達成度の管理のみに注力するのではなく、ディベロップメントに軸足を置き、お客さまのビジネスに与えたインパクトで、社員を「リアルタイムに」評価するようになりました。

例えば、部下がお客さまへの提案を終えた後すぐに、上司が「今日の提案についてちょっと話そうか」と声をかけるなど、適宜コミュニケーションを取るのです。移行後は、毎日オフィスのどこかしこで上司・部下が対話する姿が見られるようになりました。

ー新制度での社員の評価基準は何でしょうか?

評価基準は、「プライオリティ(何を)」と「行動(どのように)」。行動は、GE全社員の行動指針である「GEビリーフス」と照らし合わせ、プライオリティはその実践度で測られます。それらを合わせて、最終的にはお客さまのビジネスに対して与えた「インパクト(結果)」で評価されます。

「GEビリーフス」。「お客さまに選ばれる存在であり続ける」「より速く、だからシンプルに」「試すことで学び、勝利につなげる」「信頼してまかせ、互いに高め合う」「どんな環境でも、結果にこだわる」
「GEビリーフス」。「お客さまに選ばれる存在であり続ける」「より速く、だからシンプルに」「試すことで学び、勝利につなげる」「信頼してまかせ、互いに高め合う」「どんな環境でも、結果にこだわる」

従来の制度では、例えば営業なら、主に「何件受注したか」など内向きな数値で目標管理をしていました。今はそれだけではなく、お客さまに価値を提供できたかどうかが問われます。

ー顧客のビジネスに与えたインパクトはどのように評価するのでしょうか?

上司と部下の間で、「何がどのようなインパクトだったか」を徹底的に話し合うしかありません。期中にその話し合いの積み重ねがあれば、最終評価において評価される側の納得感が高まります。

各社員の報酬も、各部門に報酬の原資が割り振られ、各上司が、部下との対話(タッチポイント)の総括(サマリータッチポイント)を基に決定します。

こうすることで、社内の事情ではなく、常にお客さまのほうを向いてニーズを満たすよう考え、自律的に動ける人材が育つようになります。

ー会社と個人の関係がきわめてフラットなように感じます。

そうですね。実際、社員をお客さまのビジネスに与えたインパクトで評価する新しい制度の下で高く評価される人材というのは、上司・部下という縦の命令系統やレポートライン、部署という枠組みにとらわれず、お客さまにインパクトを与えるために、あらゆる人を巻き込んでコラボレーションできる人材です。

それに伴って、「プロジェクトベース型」の組織編成が増えています。同じ部署の人がまったく別のプロジェクトにアサインされるとか、上司は変わらないけど他の人の下で仕事をするとか。ですから上司が手厚すぎると、逆に動きにくいということも起こってしまうんです。

「人事制度が、その企業が求める人材像を方向づける」
「人事制度が、その企業が求める人材像を方向づける」

ーだとすれば、どのような人材が出世していくのでしょうか?

GEは外資企業ということもあり、あまり「出世」という言葉は社内では耳にしません。

その代わり、「ロール(役割)を大きくしていく」ことを目指す人が多いのですが、自分の頭で考え、機会に手を挙げて実績を残し、よりエキサイティングな機会を手にすることで自分が影響をおよぼす範囲をさらに大きくしていく、「自律」した人材でしょう。

自律するということは、会社からの命令に対して自分の意見を述べることもアリだということ。私もきちんと思いを伝え、納得してもらったことがありますけど、それ自体はGEにおいては出世に何の影響も与えません。自分で選んで、自分で決めるからこそ、いざ取り組みが始まると強いんですよね。

マネジャーの役割は「マネジメント」から「ディベロップメント」へ

ー求められる人材像が大きく変わりますね。

はい。だからこそ、今回の改革の成否のすべては「マネジャー」にかかっているんです。

「自分たちの役割は、部下を管理する『パフォーマンス・マネジメント』から、部下の成長を支援する『パフォーマンス・ディベロップメント』に変わるのだ」と、彼らがマインドチェンジできるか否かに。私自身、部下に「命令」や「指示」をすることはなくなりました。

その代わり、「コンテクストは何か」と部下に問いますね。課題が山積すると、すぐに「ソリューション」を出しがちだけど、本当の原因は何なのか、そもそも解決する必要がある課題なのかを問い直し、自分ゴトとして捉えられるようにならないと、せまい視野でしか考えられなくなってしまいます。

改革を進めるため、マネジャー向けに部下との対話の場面を想定した研修を実施し、部下の言葉にどのように反応すべきか少人数のチームで考える機会を設けるなど、社内の「チェンジ・エージェント」として私もはたらきかけています。

「マネジャーには、制度変更の背景にある『カルチャーチェンジ』について語り続けています」
「マネジャーには、制度変更の背景にある『カルチャーチェンジ』について語り続けています」

強さだけでなく「弱さも見せられるマネジャー」

部下の成長を促すマネジャーには何が求められますか?

自律した部下が増え、組織がフラット化し、プロジェクトベース型の組織になればなるほど、上司・部下という縦の関係にとらわれていては、変化の波に乗り遅れてしまいます。

社員一人ひとりが関わる人が、組織や部門の枠を超え、どんどん多様化し、日々変化していく。そんな中で、部下のコミットメントを高め、成長を促すためには、部下との「信頼関係」を築くことがいっそう重要になります。

そのためには、部下個人、「その人が分かる」ことが大切。そんなとき、実は「強さ」だけではなく、「弱さも見せられるマネジャー」こそが強いんです。

山本さんが口にしたのは意外にも「弱さ」という言葉
山本さんが口にしたのは意外にも「弱さ」という言葉

ー「弱さ」ですか。

はい。信頼関係を築くためには、自分に対して部下に「安心感」を与えなければいけません。かといって、部下にいくら「失敗してもいいから、どんどん挑戦してほしい」と言っても、失敗に対するおそれはそう簡単に失くなりませんよね。

ですが、マネジャーが常日頃から自分の過去の失敗談を話したり、弱みや人間くさいところを見せたりしていれば、それを聞いた部下は、「上に立つ人ですら、こんな失敗をしてきたのか」と安心感を抱く。すると、失敗への恐怖を乗り越え、挑戦しようと発想しやすいですよね。

ーGEでも自ら弱さを開示できるマネジャーは生まれていますか?

これまではGEでも元CEOのジャック・ウェルチのように、トップダウンで統率していく「強いマネジャー」が良しとされてきました。弱みなんか見せない「マッチョな存在」というイメージです。

しかし、このようなマネジャー像は10年ほど前、GEの行動規範に「包容力(Inclusiveness)」、つまり「多様な人の意見に耳を傾けて、周囲を巻き込んでいくこと」が盛り込まれたころから徐々に変わってきたように思います。

マネジャーにも一人の人間として弱みや欠点、悩みがあって当たり前。それをオープンにすることで部下一人ひとりとの信頼関係を強くし、その関係があればこそ部下に挑戦を促し、各人の力を最大限に発揮させられる。このような意識が、GEの中でもトップに近いひとほど浸透しています。

ー彼らが部下にあえて弱みを見せながらも、チームを強くするために実践していることは?

GEではチームビルディングの一環で、「トラストセッション」というプログラムがあります。自分年表に人生の起伏、成功談や失敗談を書き込み、それをオープンに話すのです。過去を思い出して感極まり、発表の途中で部下たちの前で泣いてしまう人も結構いるんですよ。

マネジャーが率先して自らを開示する
マネジャーが率先して自らを開示する

「あぁ、この人の今の考え方や価値観が形成された背景には、こういう経験があるんだな」というのを共有し合うと、「その人が分かる」んですよね。だから、新しくプロジェクトチームが発足されても、お互いのことが理解できているので断然、仕事もしやすくなります。

次世代のマネジャーは、組織の頂点に立ってメンバーを統率する存在から、メンバーの挑戦とコラボレーションを下支えし、成長を支援するファシリテーター的な存在へと変わっていくでしょう。

そうして、メンバーが失敗に対する恐怖を乗り越え、挑戦しようとするから、時代の変化やお客さまのニーズにスピーディーに対応し続けられるカルチャーが築かれていくのだと、私は信じています。

GEジャパン株式会社 人事部C&Bグループ C&B マネジャー 山本英雄

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[取材・文] 松尾美里、岡徳之

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