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INTERVIEW
宇宙開発のJAXAに学ぶ、ミスが許されない職場における上司・部下の信頼関係作り
INTERVIEW

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BOOK MARK

7月7日、ロシアの宇宙船「ソユーズ」が打ち上げられ、日本の大西卓哉宇宙飛行士が宇宙へ飛び立ちました。9日には国際宇宙ステーション(以下、ISS)へのドッキングが成功し、約4カ月間の長期滞在中、科学実験を行う予定となっています。

宇宙開発の重要な拠点となっているISSですが、日本のJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)が大きな役割を果たしていることをご存知でしょうか。ISSにはJAXAが運用管理する実験棟「きぼう」があり、ISSへの資材補給もISS補給機「こうのとり」をはじめとする日米露の補給機が行っています。

宇宙を舞台に「絶対にミスが許されない」開発を事業とするJAXAは、上司と部下の活発なインタラクションを起こす、「究極の安全地帯」が必要な職場。チームビルディングはどのように行われているのか、JAXA有人宇宙技術部門で技術領域主幹を務める麻生大さんに伺いました。

JAXA 有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 技術領域主幹 フライトディレクタ 麻生大

PROFILE

JAXA 有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 技術領域主幹 フライトディレクタ 麻生大
麻生大
JAXA 有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 技術領域主幹 フライトディレクタ
人工衛星の追跡管制、管制設備の開発、ISS生命科学実験施設の開発(生命科学グローブボックス担当)を経て、現職。現在は「きぼう」ならびに「こうのとり」の運用管制、「こうのとり」のカーゴ搭載を担当している

安全地帯のカギ1:リーダーシップとフォロワーシップの両立

ー麻生さんが担当している業務はどのようなものですか?

JAXAでも異例なのかもしれませんが、今、3つのチームを兼務しています。

1つめの任務は、H-IIBロケットで打ち上げられる「こうのとり」の運用管制。2008年からはフライトディレクタを務めています。2つめは、2014年7月から「きぼう」の運用管制チームのリーダー。そして3つめは、「こうのとり」のカーゴインテグレーションチームのリーダーです。

カーゴのチームでは国際調整で決まった荷物の集荷と「こうのとり」への搭載を行っています。ただ「荷物を積む」と言っても、補給機の重心を最適化するために位置や搭載順番を決める必要があり、とても緻密な業務なんです。

ー宇宙開発の業務というのはどのような時間軸で進んでいくものなのでしょう。

1つめと3つめの任務である「こうのとり」は、2009年に初号機が打ち上げられ、以来、基本的には約1年に1回のペースで打ち上げられていますので、このサイクルで動いています。ただし、常に来年、再来年、その次の年の準備や組み立て、資材調達などが同時並行で進んでいます。

「きぼう」に関しては、ISSの宇宙飛行士滞在期間である3〜6カ月間のサイクルで動いています。つまり、3つの役割を兼務するということは、1日のあいだにさまざまな時間軸の仕事を並行して行うということになります。

ー高次なタスク管理能力が必要とされそうです。チームのメンバー構成はどうなっていますか。

3チーム合わせて22名ほどです。例えば、「こうのとり」の運用に関しては、4名程度。ただ、それとは別に同じ部署内の担当外の人、他の部署の人、メーカーの人などを含め、80名ほどのメンバーで8時間3シフトを回します。「きぼう」の運用担当が13名、「こうのとり」のカーゴ搭載が5名です。

かなり流動的なメンバー構成となるため、多方面に気を配っていかなくてはなりませんし、もちろんミスも許されません。そのため一般的な企業のように、「固定的な階層的体制」ではないんです。テーマや期間によって取りまとめ役とそれ以外が入れ替わるような関係で仕事をしています。

ー固定的な階層ではなく、どのような体制でしょうか。

よく「リーダーシップとフォロワーシップの両立」と言っているのですが、あるときはリーダーとして引っ張っていきながら、あるときはフォロワーとしてリーダーの力を引き出し、手助けする。

例えば、「きぼう」の場合、ある宇宙飛行士がISSに出発してから地上に帰ってくるまでの期間は6カ月間。その前半の3カ月を、ある人がリーダーとして責任を担い、不具合対応や、実験の調整などを行います。

けれども正直なところ、延々とその重責が続くと限界が来てしまう。ですから、後半の3カ月間は別の人がリーダーを担当して、いろんな人が重責を担うことで強固な組織が作られていくんです。

まるで、自転車レースの「ツール・ド・フランス」のように。集団の先頭を走っているひとが最後尾に行って、先頭の後ろにいたひとが今度は先頭を走って・・・ と順番に交代していくようにやっている。戦略は監督がここぞというときだけアドバイスしますが、戦術は集団の先頭にまかせる形です。

そうやっていくことで、先頭から、最後尾からといろんな視点が身につき、全員が全体を俯瞰できるようになる。リーダーがフォロワーを、フォロワーがリーダーを補完し合えるだけの広い視野。フォローにまわった際、設定されたパラメータを淡々とチェックする緻密さ・・・。

つまり、ミッションの達成に必要なメンバーの関係、個人のマインドとスキルを広義と狭義でどちらも身につけられる組織の仕組みになっているんです。必然的に、中堅を次期マネジャーに養成することにもつながっていますね。

ーミスが許されない現場だからこそ、誰か一人にばかり負荷をかけるのではなく、いろんな人がリーダーを担当することで、組織としての強度を高めていくんですね。

JAXA 有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 技術領域主幹 フライトディレクタ 麻生大

安全地帯のカギ2:ベテランの「当たり前」をアップデートする仕組み

ー始めはフォロワーである若手のポテンシャルを引き出すためにどのようなことを行ってきましたか。

宇宙開発の現場では、もともとの予定になかった異動も起こります。おそらく一般的な組織もそうだと思うのですが、ベテランの人ほど抜けたときの穴は大きいんですよね。ですから、常に若手を育てていかなくてはならないという課題意識がありました。

けれども、「こうのとり」のプロジェクトなどは1年サイクルで進めていく以上、スケジュールはみっちりと決まっているので、なかなか若手を養成するには難しい部分もあるんですね。

その矢先、2013年に打ち上げた4号機とその次の5号機の間が2年空くことが決まったんです。その機会を若手育成の機会と捉えて、80名のチームの4分の1に「こうのとり」運用未経験の若手を起用することにしました。

ー「チームの4分の1が若手」というのは、かなり大々的な若返りです。

開発に携わっていたようなベテランのメンバーは、「この機器にはこういう制約があるから、こういうふうに運用しないといけない」と説明されなくても知っています。

けれども、開発を経験していないメンバーは、その制約や手順になっている理由がわからないわけです。ですから、「この手順を逆にしちゃダメなんですか? そのほうが効率的なのでは?」と疑問をもつんです。

どの会社でもそうでしょうけど、マニュアルには「こうしなさい」というのは書いてあっても、「〇〇だから」という理由はあまり書いてありません。けれども若手にとっては、その「理由」こそが重要なんです。

ー確かに、若手への理由の説明はおろそかになりがちかもしれません。

例えば、「機器の温度が上がり切って設定周波数が安定するまで、ここで20分間待つ」ということを納得してから実際に運用することが大事なんだと、新人たちからの質問で気づかされました。

「当たり前」というのが、ベテランと若手の関係を軟化させたり、技術の安定を図ったりするためにもよくないんですね。

そうやって、いちいち若手からの「なぜ?」を拾い出していくと、10回に9回は「こういう理由があるから変えられない」となって、その理由をマニュアルの備考欄にどんどん追加していくのですが、10回に1回は「確かにそのほうが良い方法だ」となって、議論してマニュアルを変更することになります。

ー若手のポテンシャルを引き出すことが、チームの成果につながっていますね。

はい。この仕事は、常に変化に対応していかなければならなくて、それはずっと意識していることなのですが、正直なところ、技術力や新しい情報の吸収力は、若手にはかなわないんです。

私が大学時代に学んだことは、今や基礎研究になって、彼らは大学の時点ですでにその先を行く応用研究を行っている。そういう点では彼らを認めていますし、彼らの提案をすべて受け入れる用意があります。

けれども私たち管理職の存在意義として、彼らとは経験の長さが違うので、「将来を予測するときの『引き出し』をもっている」ことが大きいんですね。「あぁ、これは15年前に失敗したときに似ている」という将来予知能力が役に立つんです。

というか、アドバイスできることだけが管理職のアドバンテージです。それに対するソリューションは彼らの高い技術力に頼ります。

そうやって、彼らのことを信頼・尊敬していて、彼らも「麻生さんが『AよりもBのほうがいい』というなら、Bだろう」と信頼してくれるのが、職場の「安全地帯」の理想の状態ですよね。

JAXA 有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 技術領域主幹 フライトディレクタ 麻生大

ー若手との信頼関係を築くために必要なのは、どういうことでしょうか。

基本的に必要なのは、「よく話すこと」だと思います。ドイツにあるヨーロッパ宇宙機関(ESA)に1年滞在して勤務したことがあるのですが、そこは個室だったんです。そうすると「こんなことまで聞いて申し訳ない」ということまで相談するのは難しかったんですよね。

いま私は、70名くらい収容できるフロアにいて、左が「きぼう」、右が「こうのとり」のチームになっているのですが、その真ん中に私がいるんです。案外それが気に入っていて、「きぼう」の話も「こうのとり」の話も、どこからともなく聞こえてくるんですよ。

向こうのほうで若手が話していて、「あぁ、これは厄介なことになりそうだから、たぶん相談に来るだろうな」というのも予測できます。

最近のオフィスだと比較的、情報機密の問題で部署ごとに部屋が分かれていることも多いようですが、日本企業に昔からあるような「大広間の職場」って、日本の文化になじんでいるような気がするんです。

ー麻生さんにとって、理想のリーダー像はありますか?

将来を見越す力とチームを見渡せる力、両方もてたらいいなと思いますね。

一昨年、優秀な新人が入ってきたのですが、往々にして「できるひと」のところに仕事が集まるものなんですよね。現時点では処理できているとしても、ずっと負荷がかかってしまっていたら、いつか問題が生じるかもしれない。それを見越して、「手伝おうか」と言えるひとでありたい。実際にやってあげる、くらいでもいいと思うんです。

「新人の仕事を管理職がするなんて」と思われるかもしれないけど、「なんか困ったことがあったら相談してね」と示すことにもなりますから。そう言いながらも、基本的には若手を信じて、まかせる。そのバランス感覚が重要です。

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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