あなたも実践できる、Google発のマインドフル・メソッドとは?

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マネジメント層にとって、自身や部下のメンタルヘルスを良い状態へと導くことは、より良いパフォーマンスを導くためにも重要です。世界中の企業が職場に導入し始めた「マインドフルネス(クリアな心の状態)」を目指すプログラムは、その有効な手段の一つ。

Googleが開発し、SAPなど多くの企業で導入されているのが、「Search Inside Yourself」です。このメソッドを日本に紹介している、一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表の荻野淳也さんに、その実践法を伺いました。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

PROFILE

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也
荻野淳也
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役
リーダーシップ開発、組織開発の分野で、上場企業からベンチャー企業までを対象に、コンサルティング、エグゼクティブコーチングに従事。外資系コンサルティング会社、複数のベンチャー企業でのIPO担当や取締役を経て、現職。「企業課題の多くは、リーダーの在り方に起因しており、リーダーが本質的な変容を遂げれば、組織全体が自ずと改善、問題解決に向かう」が持論。マインドフルリーダシップの概念をいち早く日本に紹介し、Search Inside Yourselfのパブリックプログラムを日本初開催する。マインドフルネス、脳科学、ストーリーテリングなどの概念、手法を取り入れ、組織・リーダーの成長、変容を支援し、企業全体の変革を図っている。5月17 日には監訳を務めた日本語版の『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(英治出版)が出版予定。2016年10月にもSearch Inside Yourselfのパブリックプログラムを開催予定

Search Inside Yourselfを詳しく紹介しているMiLIのWebサイト

5月17日に出版予定の『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(英治出版)

頭と心の「とっ散らかった状態」を鎮める

—GoogleというIT企業が「Search Inside Yoursel(SIY)」を開発したのには、どんな経緯があったのですか。

SIYは2007年に始まったメソッドです。Googleの初期に入社した107番目の社員であるチャディー・メン・タン氏によって考案されました。

当初、彼を中心とした身内の研修プログラムでしたが、それがどんどん広まってGoogleの社員に最も人気があるコンテンツの一つになり、さらには著書として世の中に出版されました。

タン氏はGoogle初期の検索アルゴリズムを作った天才的なエンジニアで、組織の中枢でバリバリと活躍していました。しかしあるとき、必ずしも「仕事がこなせること」が「自身の幸せ」と結び付いてないことに気がついた。

そこで、このメソッドを開発しました。今Googleが掲げるのは、「世界一健康で幸せな会社を作る」というミッションです。

 

—SIYでは「何」をゴールに設定しているのでしょう。

仕事のパフォーマンス、リーダーシップ、ウェルビーイングの向上です。その基礎となるのが「マインドフルネス」であり、評価判断を手放した「今、ここ」の状態に向き合うことです。別の言い方ではクリアな心や頭の状態と言えます。

マインドフルネスの状態を説明するときに使っているのが、このスノードームです。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

これを振ると雪が舞い上がりますよね。忙しく仕事をしているときは、この中のように、思考や感情がとっ散らかった状態になりがち。特にリーダー的人材ほどマルチタスクで責任も多く、ストレスフルな環境に置かれています。

テーブルにスノードームを置いてしばらくすると、視界がクリアに晴れていくでしょう。これがマインドフルネスの状態。私たちはメディテーション(瞑想)を中心に、このマインドフルネスを体験・習得してもらう活動をしています。

自分の中に眠る、モチベーションの源泉に出会う

—具体的に、SIYではどういったことをやるのですか。

ワーク自体は短時間でできますが、マインドフルな状態をインストールするためには毎日の実践が大切です。別の言い方をすると「心の筋トレ」。誰でも習得可能ですが、本を読んでやった気になっても、まるで意味がありません。

まずは集中力を一点に高めるトレーニングです。呼吸に意識を向けて、いろんな雑念を手放していきます。

座禅などでは、和尚さんから「雑念が湧いてはいけない」と注意されますが、どうしても雑念は湧くもの。それに気づいて、雑念を脇に置き、また呼吸に集中すればいい。集中する、また戻る、の繰り返しで集中力が高まります。

 

—古来から行われてきた瞑想は、理にかなったものなのですね。

SIYでは、書く瞑想と言われることもある「ジャーナリング」というワークもあります。

一日の心と体を振り返って、3〜7分くらい集中して書く。自分がワクワクした瞬間、上司に対する感情など、テーマを決めて書き続ける。すると、自分が今どんな状態なのかに気づきます。

「未来を見つけるジャーナリング」というのもあります。例えば5年後、自分の理想が「最大限に」叶ったとしたら、どんな状態でありたいかを書くのです。

資格を取る時間がない。お金がないからできない。誰でも、現実を見て理想を制限してしまうもの。それらを取っ払ったとき、どんな状態でありたいかを考えると、モチベーションの源泉が見つかるはずなんです。

 

—自らの内部にある答えに光を当てるのですね。

日本の受講者に人気がある「自分が尊敬する人物の共通点を見つける」というワークもそうです。これは3〜4人の姿を思い浮かべ、自分が尊敬できる要素とともに抽出します。

私なら、まずイチロー。有言実行でファンを大事にするところ。吉田松陰。軸のぶれなさ。ヨーダも尊敬します。誰よりもマインドフル、でも戦うと強いですから。

こうした尊敬する人物を通じて分かるのは、自分が何を大切にしているかという自分自身の「価値観」です。戦後の日本人は価値観教育を受けてないので、このワークを通じて自分が本当に大切にする価値観に気づくことが多いようです。

日常的に続ければ、心の「筋トレ」は可能

—これまでの話には、いわゆる「内観」のような、あるいは就活の自己分析のような手法に共通する印象があります。

確かにSIYは、文字通り自分自身の内面を探求していくためのメソッドですから。すべての元になるのは、マインドフルネスを用いて「エモーショナル・インテリジェンス」を高めていこうという発想です。

 

—エモーショナル・インテリジェンスとは?

いわば「心の知能指数」のことで、リーマンショック以降から世界的に注目を集め始めました。

日本ではEQと呼ばれていた概念ですが、一度は下火になりました。これはリーダーや組織にとって重要さはわかるものの、具体的にどう開発できるかのメソッドが確立されていなかったのが理由です。

でも、脳科学の発達で環境が変わりました。メディテーションを続けると衝動的な反応を抑えられたり、自己認識力や共感力が高められたりするといった明確な効果が、科学的に証明されるようになったのです。

 

—ビジネスのシーンで、どのような活用が見込まれるでしょう。

アメリカ人のうち、実に約50%の人が「今、ここ」にいないという調査結果があります。

会議のシーンを例にとっても、上司に注意を受けたことをモヤモヤと考え続けるなど過去を引きずっていたり、自分のプレゼンに備えてパワーポイントのファイルをいじっていたり、未来に意識がいっていることがある。

これに対して、相手の話に耳を傾ける「マインドフルネス・リスニング」は、目の前の人に集中して話を聴く手法です。

例えば、「仕事ができない部下」といった先入観があると、大事な報告をフルでクリアに聞くのは難しいもの。そうした評価判断を、いったん脇に置く訓練が大切です。

あるいは、上司がパソコンの画面を見ながら報告を聞いていては、部下の顔色が良くないといった体調の変化に気づけず、パフォーマンスが落ちていく点を見逃してしまう。

「今、ここ」にいる人に対して、心の解像度を極力上げてコミュニケーションを図ることが、組織にとっても大切です。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

もっと「戦いの鎧」を脱げるような社会へ

—では、荻野さんが考える「理想の組織」のあり方とは?

オープンネスを大事にしている組織です。お互いの個性としての価値観を認めている組織では、自分の弱さ(Vulnerability=ヴァルナラビリティ)さえも認め合えるはず。組織全体がマインドフルになれば、コミュニケーションの阻害要因となる相手への評価を手放せます。

反対に、お互いが「戦いの鎧」を着ているような組織では、足の引っ張り合いで疑心暗鬼になっていく。不安が渦巻いて、どんどん鎧が脱げなくなる。すると本来の自分から離れていってしまいます。

リーダーと部下が「本当に大事にしたいもの」を共有し、ちゃんと深いところでつながっている、それが信頼関係であり、ウェルネス経営では欠かせないものです。これが、組織開発であらためてクローズアップされています。

 

—マインドフルネスを実践するためには、どういったところに気をつければいいでしょうか。

一人でメソッドをこなすのは大変ですから、チームで取り組むのもお薦めです。Googleでは「G pause(ジーポーズ)」というグループを世界中で作っていて、彼らは週に一回、昼間の時間帯にメディテーションを行っています。

一人の場合でも、今は実践のためのアプリがいろいろありますから、例えば通勤電車の10〜20分とかで活用するのもいいですね。

もっと自分も部下もマインドフルになったら、組織や社会が変わっていくはずです。

右は荻野さんの著書『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門』(日本能率協会マネジメントセンター)
右は荻野さんの著書『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門』(日本能率協会マネジメントセンター)

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[取材・文] 神吉弘邦、岡徳之

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