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INTERVIEW
財務省、マッキンゼーを経て起業 千差万別の金銭感覚からわかったこと
INTERVIEW

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BOOK MARK

キャリアを形作るうえで、「いかに自己投資を行い、どうお金を使うか」は重要な課題です。いわゆる「エリート」と呼ばれるような華々しい経歴のビジネスパーソンは、一体どのような金銭感覚をもち、お金を使っているのでしょうか。

今旬のFinTech業界で資産運用サービスを提供するウェルスナビの代表取締役を務める柴山和久さんは、東大卒業後、当時の大蔵省に入省。ハーバード・ロースクールなど海外留学や勤務を経て、MBAを取得後、マッキンゼーに転職。2015年に自らの会社を起業しました。

何千億、ときには10兆円の資産運用という大規模なビジネスに携わってきた柴山さんに、キャリアを通しての金銭感覚の変化や、その変化から学んだキャリアに活かせるお金の使い方についてお話を伺いました。

ウェルスナビ株式会社 代表取締役 柴山和久

PROFILE

ウェルスナビ株式会社 代表取締役 柴山和久
柴山和久
ウェルスナビ株式会社 代表取締役
東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に従事する。その後、マッキンゼーでは、ウォール街に本拠を置く機関投資家を1年半サポートし、10兆円規模のリスク管理と資産運用に携わる。次世代の金融インフラを構築したいという想いから、2015年4月にウェルスナビを創業

「10兆円」の資産運用プロジェクトの経験が起業のヒントに

ー柴山さんのキャリアについてお聞かせください。

私のキャリアの始まりは公務員でした。2000年に財務省(当時、大蔵省)に入省して、最初の仕事は当時20〜30兆円とも100兆円とも言われていた、銀行の不良債権問題でした。それからハーバードで修士号を取り、ニューヨークで弁護士資格を取りました。2006年から2年間は交換人事でイギリスの財務省に出向し、約3000億円の新規予算の査定も担当。帰国後は、少額投資促進のためのNISA制度の設計にも携わりました。

その後は、イギリス時代に国際結婚していたことがきっかけとなり、将来のことは何も決めないまま2009年に財務省を退職しました。フランスのINSEADというビジネススクールに1年間留学。起業家育成に定評のある学校なのですが、当時は起業に縁があるとはまったく思わず、ずっとファイナンスを勉強していました。デリバティブの計算を延々と鉛筆書きでやっていたら、指が曲がらなくなったことがあります(笑)

ーそうした実績とMBAをもって、マッキンゼーに入られたのですね。

いえ、正直、拾ってもらったんです。20社くらいに応募したんですけど、よい手ごたえがなくて・・・。面接にすらたどり着けないケースが大半でした。公務員10年にMBAだと即戦力にならない、と判断されたのかもしれません。

書類選考や面接で落ち続けると、自分は世の中で必要とされていないのではないか、と感じるようになってきます。卒業後、3カ月経っても仕事がなく、財布を別々にしているアメリカ人の妻と合わせても預金残高が10万円を切るところまで減りました。

スタバの一杯のドリップコーヒーも二人でシェアしていました。ドリップコーヒーだと100円でおかわりできるので、午前中に一杯、午後にもう一杯。そうしていると、目の前にベビーカーに乗ってマンゴー・フラペチーノを食べさせてもらっている犬がいて、飼い主の老婦人から大切にされていて、「あぁ、うらやましいな」と思いました。

新卒MBAなのに11月入社という異例の形でマッキンゼーに入ったあとは、東京で1年、ソウルで3カ月、その後はニューヨークを中心にはたらきました。ウォール街を本拠にする10兆円規模の機関投資家のために、資産運用のシステムを刷新するプロジェクトにも携わったのもその頃ですね。

リスク管理のためのルール作りから始まり、投資委員会やリスク管理委員会といったガバナンスの仕組みも一新しました。その後、金融工学を駆使して、リスクを一定量に抑えつつリターンを最大化させるための資産配分モデルを、10カ月かけて作りました。

ーその経験が、2015年に創業されたウェルスナビの事業のヒントになったのでしょうか。

ウェルスナビが提供する資産運用サービス
ウェルスナビが提供する資産運用サービス

はい。マッキンゼーでは資産運用のプロにアドバイスをする専門家の集団がいます。欧米を中心に、数千億、数兆円規模の機関投資家向けにアドバイスをしており、ベストプラクティスや知見が、理論だけでなく実践を伴った形で共有・更新されているんです。そして、それがクライアントにも共有されている。

このようなベストプラクティスや知見は、機関投資家向けのサービスはもちろん、個人向けの資産運用サービスにも活用されています。ところが、日本の個人向けの資産運用サービスは欧米に比べて20年以上遅れていると言われています。実際、「資産運用は怖い」「投資はギャンブル」「お金の話はタブー」のようなイメージが強く、個人資産の半分が預金となっています。

そんな日本と欧米先進国の資産運用に関するギャップを埋めるために、個人投資家が機関投資家と同じようなアプローチで、金融工学的に最適化された資産運用を自動で行うことができるウェルスナビのサービスを始めたんです。

きらびやかなフリンジ・ベネフィットの先にあった虚しさ

ー柴山さんのキャリアを伺うと、まさに「華々しい経歴」というふうに感じるのですが、ご自身の金銭感覚に変化はあったのでしょうか。

キャリアの上では何千億、何兆円という金額を取り扱ってきたことは確かですが、そもそものスタートが公務員ですから、必要最低限で生活することに慣れてしまっているんですよね。

財務省に入ったばかりの頃は、留学に向けて英会話スクールに通うためにローンを組み、英語が上達するとローンもさらに増えていきます。財務省の食堂で、560円の和定食か470円のA定食かで悩んでいました。

マッキンゼーに入ってからは、最初から外資系企業や投資銀行ではたらく人は金銭感覚が違うな、と感じました。さらにニューヨークに住むようになると、物価の違いもあいまって、公務員のときの100円とニューヨークにいるときの1,000円が同じくらいの感覚になります。しかし、公務員のときからの習慣か、むやみにお金を使うことはなかったように思います。

そもそもアメリカって意外とお金を使うところがないんですよ。野球やオペラ、ミュージカルなどに行けばそれなりに高くかかりますが、東京ほどエンターテイメントがあまりなくて。ミシュランの三ツ星、二ツ星レストランも東京にはたくさんありますけど、アメリカは星付きのレストラン自体が少ないんです。

飛行機も国内の移動手段としては当たりまえで、空飛ぶバスのような感覚。ファーストクラスに乗ったところで、フィルターを通った蒸留水が出てくるだけ、ミネラルウォーターすら出てこない(笑) ですから、金銭感覚が変わるようなことは特になくて、ただ、お金のことを考えなくてよくなったのは恵まれていたと思います。

ーマッキンゼー時代は特に何不自由ない生活だったのではないかと想像します。それを手放した理由はあったのでしょうか。

外資系ではたらいていると、さまざまな形でフリンジ・ベネフィット(給与以外の経済的利益)が付くことがあります。

例えば、仕事で頻繁に飛行機に乗るので、マイルがあっという間に貯まります。そうすると、自動的にファーストクラスに乗れたり、航空会社の担当者が毎回「たまたま」通りかかって出迎えてくれたりします。飛行機から降りると、迎えの人がいて、入国審査に並ぶ必要もありません。航空会社が用意してくれた黒塗りの車で、そのままマンハッタンや東京のホテルに送ってくれます。

ホテルも最上級会員になって、カナダ人の専属コンシェルジュがつき、名前を名乗るだけで世界中どこでも、ライバルブランドのホテルすら予約してくれます。プライベートの旅行でも、スイートルームにアップグレードしてくれます。しかし、そういうことが当たりまえのようになってくると、だんだん、虚しくなってくるんです。うまく言葉にできないのですが、何かがひどく間違っているような気がしてきて。

もちろん、ある時までは人並みに、「プラチナカードを手に入れたい」「いつかはファーストクラスで旅してみたい」なんて思っていました。でも、実際に手に入れてみると、むしろ不安にかられました。

たまたまクライアントにとって何年か一度の特別なプロジェクトを担当しているので、そういう生活ができているけれど、あくまでそれはかりそめのものです。マッキンゼーというブランドを離れた途端に消えてしまう「カボチャの馬車」のようなものなんだ、と。

それに気づくと、毎週、アメリカ国内を飛行機で飛び回ったり、毎日、ニューヨークでタクシーで移動し続けるような生活に、真実味がなくなってくるというか、真の価値を見い出せなくなってしまった。そこにあるのは、金メッキのような、表面的な華やかさ。それがマッキンゼーを離れて、一人の人間として立ったとき、市場原理がはたらけば、果たしてその状況は維持できるのかどうかと。

そうすると、「本当の豊かさとはなんだろう」「自分にとって大切なものとはなんだろう」という本質的な問いかけが始まります。どうすれば本当に価値のあるサービスを作れるのか、自分が正しいと思うものを追求し、世の中に普及させようと尽力しているほうが、内面から出てくる充実感があるのではないかと思うようになったんです。

ウェルスナビ株式会社 代表取締役 柴山和久

「内なる声」に耳をすませ、自らの望みに正直になれ

ー内面からの充実感を求めたことが起業にもつながったのでしょうか。

そう言えたら格好良いのですが、実際には、半分は思いつきと勢いです(笑)

今は自宅から自転車通勤していて、本当はロードバイクか、せめて電動自転車が良かったけど、現実には予算オーバーで、ギアなしのママチャリで通勤しています。日中もそのママチャリに乗って、メガバンクやベンチャーキャピタルとのミーティングに行って・・・。でも少なくとも、自分が正しいと思っていることをひたすら追求していられるのは幸せです。

プライベートは質素というか、娘の教育費を除けば、これまでと変わらない感じ。航空会社やホテル、プラチナカードのステータスはすべて失いましたが、その代わりに得た内面の充実は大きいです。

また、起業家としては6億円以上の資金調達を行い、事業を成長させる上で必要であれば大胆な投資も行います。他方で、オフィスの机はIKEAで買い揃え、自分たちで組み立てたものです。社内LANもエンジニアが自分たちで金曜日の夕方に床を開けて配線工事をしています。お金の使い方にはギアを入れて、メリハリをつけていますね。

ーなるほど。キャリアにおいて「良いお金の使い方」とはどのようなものだと思われますか。

おそらく、自分の内なる声を聞くのが一番ではないかと。「大企業を辞めてベンチャー企業に行く」「MBAを取得して投資銀行に就職する」といったキャリア選択があるとして、それが果たして本当に自分が望んでいることなのかどうか、問いかけてみる。そして、それが本当に望んでいることなら、ありとあらゆる手を尽くしてでもやるべきなんです。

私の場合、客観的に考えてみても、マッキンゼーにそのままいたほうが合理的です。ベンチャーは一見華やかに見えますが、実際には泥臭く、地道な作業の繰り返しです。そして、その先に成功があるかどうかも、分かりません。そもそも、確実に成功するビジネスなら、絶対にベンチャーがやるべきではありません。

けれども、計算しつくして、合理的な選択ばかりを取っていては、自分を偽ることにもなるし、そのほうが後悔の念に苛まれるはず。理想を追い求める高い志でも、人に言うのもはばかられるような低俗な目標でも、自分に正直でいることが重要なんです。

もしその望みが、「空港のプラチナラウンジに行く」「高級車を手に入れる」とかであってもいいと思うんです。友達に話すのが後ろめたいようなくらだらない目標だったとしても、それでも、自分が本当に望むもののために、一生懸命やったほうがいいと思う。

自分のお金を実際に使ってみないとわからないこと、学べないものってあると思うんです。「高級車が欲しい!」と考えて、実際に手に入れてみたら、案外「単なる車」に思えて、「そのお金で今度は高級車ではなく、若い起業家に投資してみよう」となるかもしれない。

そういう何かに一生懸命取り組んだり、キャリアや自分のためにお金を使う体験を繰り返していくうちに、自分自身も成長していける。目の前の目標を超えてはじめて、また別の景色が見えてくる。そうして、また次の目標も出てきて、それを繰り返しながら、人として成長していけたらと思います。

ウェルスナビ株式会社 代表取締役 柴山和久

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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