長時間労働を根本的に解消する「たった一つの価値観」とは?

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「長時間労働」の問題を解消すべく、読者の中には職場やチームの働き方改革に取り組む管理職の方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら日本では長年、この問題が取り沙汰される事態が続いています。根本的な改革を果たした海外の国とは何が違うのでしょうか。

そこで今回は、働き方改革の先進国「オランダ」に学びます。同国は労働者の生産性でOECD加盟国上位。親が子どもと過ごす時間が長く、ユニセフに「世界一子どもが幸せな国」と認められた国でもあります。現地の事情に詳しい、オランダ在住の吉田和充さんにお話を伺います。

クリエイティブコンサルタント 吉田和充

PROFILE

クリエイティブコンサルタント 吉田和充
吉田和充
クリエイティブコンサルタント
保育士、二児の父。広告代理店に在籍中、育児休暇を取得し教育移住先を視察するため家族で海外を放浪。昨年3月に退職し、オランダに移住。教育移住や育児で感じたことをつづったブログ『おとよん』を運営中。専門は、経営戦略、広告戦略の立案、実施、プロデュース、商品開発、新規事業立ち上げ、海外進出プロデュースなど

吉田さんが運営する海外育児ブログ『おとよん』

根本的課題は「家族ファースト」の希薄さ

ー長時間労働について考えるために、働き方改革先進国の「オランダ」について伺うわけですが、日本のビジネスパーソンがオランダに着目すべきいちばんの理由は何でしょうか?

いちばんは、ビジネスパーソン、特に男性に浸透する「家族ファースト」の価値観でしょうね。それが徹底していて、日本人と明らかに違う。「見習いましょう」って言って見習えるような代物でもないと思うのだけど、その差をすごく感じます。

オランダの政策や個人に与えられる権利というのは、「家族と一緒にいられる時間をどこまで増やせるか」、もうそれ「だけ」を改善するために設計されていて、「出生率向上」のため、「待機児童ゼロ」のためとかでは決してないんです。

しかも、その意識について国も企業も個人もみんな、「金太郎飴」のように語る。「平日の夕方6時に家族そろって家でご飯を食べるためにはどうするか」、それしか考えていないのではと思えるくらい。在宅勤務もワークシェアリングの制度も、すべてはそのための手段なんです。

これが日本だと、「会社が早く終わったからと言って、自分には趣味なんてないし、じゃあ飲みに行くかというとお金がなくなるから嫌だ」みたいな議論になりそうですが、根本には、「家族ファースト」の意識の違いがあるんです。

クリエイティブコンサルタント 吉田和充

家族ファースト、だけど日本人と同じくキャリア志向

ーオランダのビジネスパーソンの典型的な働き方/プライベートの過ごし方を教えていただけますか?

子どもが小さかったら、基本週4日勤務。夫婦で平日の休みをずらして子育てしている家庭も多いです。

とにかく仕事の効率が良くて、なにごとも時間を決めてすることが多い。「打ち合わせは何時まで」と終わりの時間はかならず決めて、だらだらやらない。個人の責任、裁量が明確なので、それさえ守っていれば、家で働こうが、早く帰ろうが問題ない。

そうしたフレキシブルな働き方は、女性も男性も同じ。基本週4日勤務と言いましたが残りの平日一日は「パパの日」で、男性が家事をしたり、子どもを公園に連れて行ったり。土日はもちろん家族と過ごします。平日も夕方4時くらいに帰宅し始めるイメージです。

特にクリエイティブな職種の人は、そもそも出勤がマストになっていません。「通勤にかける時間とお金がもったいない」と、このあたりも合理的で。かたや、オフィスはクリエイティブに設計されているので、チームでコラボレーションするための場所として、それはそれで必要とされている。

ー日本で起こっている長時間労働の話をオランダ人に話すとどんな反応ですか?

「日本人は、仕事のために仕事をしていますよね。僕らは、家族で過ごすために仕事をしています」と。

では、彼らはキャリアに興味がないのか? 出世をあきらめた意識の低い人だけがそういう働き方をしているのかというと、そういうわけではないんです。むしろ、やるときはすごくやる。ただ、その「やる」というのが、なにも「会社にいる」ことを指すのでは決してなくて。

それに、あるオランダ人起業家に、「オランダ人は仕事よりも家庭に大事にしているけど、収入やお金は大事ではないんですか?」と聞いたことがあるんです。

すると、「『お金は必要ない』なんて一言も言っていない。クルマにガソリンが必要なように、僕らが生活するにはお金が必要。だけど、ガソリン=お金を稼ぐことは『目的』にはなりえない。家族と過ごすために必要なお金を稼いで何が悪いんですか?」と。

オランダに来て、吉田さんも平日にお子さんと過ごす時間が増えたそう
オランダに来て、吉田さんも平日にお子さんと過ごす時間が増えたそう

テクノロジーの「使い方」に大きな差

ーほんとうに「家族ファースト」ですね。しかし、そのようなフレキシブルな働き方が可能なのは、そのための「環境」が充分に整っているからこそ。どのような環境でしょうか?

まず、「インターネットの活用の度合い」がすごいですよね。税金の申告だとか銀行の振込だとか、すべてネット。ATMすら、使うことがほとんどない。ネットインフラの充実と、それに対する国民の信頼度の高さは目を見張るものがあります。

ネットインフラ自体は、日本も充実しているとは思うんです。だけど、その「使い方」が違う。「なぜ、これがネットでできないの?」みたいな理不尽さがない。こういう合理的にネットを活用できる柔軟性があるから、働き方もフレキシブルにできる。

例えば、シスコシステムズのオランダ法人で働く女性の友人は、基本在宅勤務で、2週間に1日だけ出社すればいい。「だって、出社していたら子育てできないでしょう?」って。「IT企業なんだから、IT使わないと」とも。日本だって、技術的には同じことができるはずなんですけど。

2人で1.5人分の仕事を分担するような「ワークシェアリング」の仕組みも、必要な環境の一つですよね。週3〜4日しか働かないパートタイムとなると、日本だと待遇がわるくなると思うのですが、オランダだと「単に時間が短い」というだけで、その他の待遇はフルタイムの社員と一緒。

問題は制度ではなく「使い手の意識」

ー企業の育休制度もやはり充実しているんでしょうか?

実は、育休日数は日本のほうが多いんですよ。日本だと一年間とか取得できますよね。でも、実際に取る人が少ない、これが問題。日本にも良い制度はすでにあって、要は「それを使うか使わないか」なんです。まわりの人の目が気になったり、遠慮して使わないんでしょうね。

「実は、日本は育児しやすい国だと知って驚きました」
「実は、日本は育児しやすい国だと知って驚きました」

日本の方がオランダに視察に来ると、「育休で週4日勤務になって、他の人に仕事のしわ寄せが行きませんか?」と聞かれるんです。すると、オランダ人は「何を言ってるんだ? 自分の権利を行使しているだけなのに、どうしてまわりに気をつかう必要があるんだ、意味が分からない」って。

責任の範疇が明確なので、週4日勤務でもその責任を果たせるのであれば、会社にどれくらい来るかなんて関係ない。もちろん、必要に応じてまわりもよろこんでフォローする。当然、育休から戻ってきたときのために、その人のポストも空けておく。

ーフォローする上司、同僚にも「家族ファースト」が浸透しているから、受け入れるだけの度量が生まれるんでしょうね。

吉田和充さんのお子さまが描いた絵

「自分にとって大切なこと」にもっと素直になっていい

ーどうすれば、日本の男性も「家族ファースト」になれるでしょう?

まわりが、つまりみんなが、家族ファーストでいることですよね。そうすればオランダみたいに、父親が平日に子どもと公園に行っても、「この人、仕事していないの? もしかしてリストラされた?」みたいな視線を感じることがなくなる。

「結局、オランダの話でしょう? 日本とは状況が違うでしょう?」とかも言われますけど、さっきも言ったように、実は育休制度とか日本のほうが充実していて、僕が「一年間も育休を取った」と言うと、「すげえな」とオランダ人に驚かれます。つまり、「マインド次第」ですよね。

良い制度があるなら、ちゃんと使えばいい。そのためには、まずは「自分が何を大切にしていて、どんな生活をしていたくて」ということに、素直になること。まわりに配慮できるのは日本人の良いところでもあるんだけど、今はちょっと過剰に気をつかいすぎている。

日本も少しずつ変わりつつはあると思うんですけどね。『ライフ・シフト』という本が広く読まれたり、「副業OK、週4日勤務OK」の会社も出てきているし、今まさに過渡期な感じがします。今回こそはブームで終わらせず、ドライブしていけるといい。

自分のやりたいことに素直になれる人って、今の日本では「辺境にいる人」みたいに思われるかもしれません。しかし、そういう人が途中で折れず、少しずつ変わっていけば、まわりも変わっていくはずです。「変化」っていつも、「辺境」から生まれるんですから。

クリエイティブコンサルタント 吉田和充

[取材・文] 岡徳之

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