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INTERVIEW
お勉強モードでは何も生まれない、無駄な海外視察を続ける日本企業への忠告
INTERVIEW

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ドットコムバブル後に起きたシリコンバレーへの視察ブームが終焉を迎え、最近ではオランダ・アムステルダムやドイツ・ベルリンなどヨーロッパのビジネスハブ都市に注目が集まっています。

そのような流れをうけ、オランダで新規事業の立ち上げや海外進出支援を行っている吉田和充さんのもとには、ヨーロッパの動向を探ろうとする視察希望者からの問い合わせが後を絶ちません。

しかし、視察者のなかには明確な目的意識を持たず「観光気分のサラリーマンが少なくない」と、厳しい指摘。

これまでの経験から、吉田さんが不安視している日本からの視察団の姿勢、そして各所で見かける中国視察団との比較から、海外視察・海外企業とのコラボレーションのあるべき姿について語っていただきました。

オランダ在住クリエイティブコンサルタント 吉田和充

PROFILE

オランダ在住クリエイティブコンサルタント 吉田和充
吉田和充
オランダ在住クリエイティブコンサルタント
保育士、二児の父。広告代理店に在籍中、育児休暇を取得し教育移住先を視察するため家族で海外を放浪。一昨年3月に退職し、オランダに移住。教育移住や育児で感じたことをつづったブログ『おとよん』を運営中。専門は、経営戦略、広告戦略の立案、実施、プロデュース、商品開発、新規事業立ち上げ、海外進出プロデュースなど。

いつまでも「お勉強モード」では何も生まれない

先日は働き方改革先進国のオランダについてお話を伺いましたが、今回はその様子を知りたがっている視察団についてです。まず、これまでに吉田さんが携わられてきた視察案件について教えていただけますか?

オランダ視察の主なテーマは、働き方、教育、スタートアップ、農業の4つです。組み合わせもあるし、1個だけに絞ることもありますね。あとはドイツのベルリンやスウェーデンなど、複数の都市の組み合わせというパターンもあります。

視察の期間としては大体12週間。1日当たり2件訪問というのがよくあるケース。視察時期は現地の休暇や日本のスケジュールとの兼ね合いで決まった時期に集中するので、忙しいときは月に3つ入ることもあります。

視察の形態は大きく分けて2つ。ひとつは旅行代理店や広告代理店がスタディーツアーのようなものを企画して、視察団をまとめあげるケース。もうひとつは、企業から直接依頼をいただくもの。政治家や地方自治体からの依頼もありますが、一社というよりは誰かが間に入って取りまとめる場合が多いですね。

オランダ在住クリエイティブコンサルタント 吉田和充

視察希望者は増加の一途をたどっている一方、実りのない視察も多いとのこと。どんな問題があるのでしょうか? またその原因は何だとお考えですか?

一番の問題点であり、その他の問題を引き起こす真因でもあるのが「目的意識の欠如」です。視察希望者の70%くらいは「こういうことをするために、こういう企業を訪問して、こういう話を聞きたい」といった、具体的な目的を持っていません。

だから例えば、オランダの働き方について知りたいという企業からの依頼があった場合、僕がその企業のビジネスを勘案して、訪問先だけでなく視察のテーマまで企画するというケースも結構あります。

もちろん現地の情報が手に入らないから視察を計画しているわけで、訪問先の選定などは喜んで協力します。ただ、僕が視察の目的を設定することには違和感を覚えます。そして、目的がないから視察先を訪れても具体的な話が出てきません。

オランダ企業もそうですが、誰だって自分たちの会社に興味を持ってくれるのは嬉しいもの。だからしっかり準備して、全力でプレゼンをして、お土産をくれたりするところまであります。

でもそれは裏を返せば、「実のある取引を期待されている」ということなんですよ。受け入れ側は「視察=協業や投資について話し合う場」として考えている。なのに、視察を願い出た日本企業はその場でジャッジもできないし、そもそもそういうモードじゃない。彼らはあくまで「お勉強」しに来ているんです。

そうなると、受け入れ側からすれば「あの人たちは何をしに来たの?」となってしまうわけです。ここに大きなギャップ、受け入れ側からすればカルチャーショックがあります。

先日、スタートアップとのミートアップを企画したときもそうでした。選りすぐりのスタートアップと直接話せる場を設けて、投資や業務提携などの具体的な話を進めてもらおうと思っていたのに、「金額が合わない」とか適当な理由で結局何も形になりませんでした。

つまり彼らは「本気じゃなかった」。そこで話を進めちゃえばいいのに「いやいや、そういうんじゃない、勉強ですから」って。日本人は勉強は熱心なんだけど、本気じゃない。これじゃ何も生まれませんよ。

もちろんそうじゃない人たちもいます。例えばある財団は、視察中に収集した情報を本にまとめて、各地で講演をしたいという明確な目的を持っていました。だから受け入れ側もどんな話をすればいいかというのを理解していて、両者にとって実りのある視察になりました。

だけどほとんどは視察に来て、終わり。学んだことも成田空港に降り立ったら飛行機において全部忘れて帰るみたいな。

オランダ在住クリエイティブコンサルタント 吉田和充

視察で着々と勢力を伸ばす中国勢、置いていかれる日本

では、日本以外から来る視察団の状況はいかがでしょうか?

今プレゼンスを発揮しているのが「中国」です。彼らは明確な目的を持っているし、意思決定もスピーディー。

僕が住んでいるユトレヒト市が先日、中国からの視察団を誘致していました。彼らは「視察前」にすでに社内で話をまとめていたので、視察時は市内のこの企業にどれくらい投資する、ということだけ決めてさっさと帰って行ったんです。

目的がハッキリしていて、話も早く進み、さらに資金も潤沢にある。となると当然美味しいところはみんな中国に持っていかれてしまい、受け入れ側の日本に対する興味は薄れてしまっています。

中国の視察団の場合、技術を盗まれるリスクが高いようですが、それでも現地企業は日本よりも中国企業と仕事をしたいと思っているんです。中国の次に勢いがあるのは、インド、イスラエルですかね。

そうなると日本からの視察団受け入れに後ろ向きな受け入れ先も出てきているのではないでしょうか?

だから僕は視察させてもらう企業に「お金」を払っているんですよ。じゃないと受け入れてもらえないから。だけど、「視察先にお金払うのはおかしいでしょう」という日本人もいます。

でも今の日本企業にはお金以外にギブできるものがないんです。日本のマーケットや業界の情報を渡したところで、現地企業にとっては中国市場のほうが魅力的ですから。

受け入れ先の時間と人的コストを使って情報をもらっているにも関わらず、テイクばかりでギブができない。だから「また日本人か」と言われてしまう。なので最近は視察の依頼を断るケースさえあります。僕なりの「無駄な視察撲滅運動」です。

依頼を受けるか否かの判断基準については、分かりやすいところでいうと「お金を払うかどうか」です。それは僕が稼ぎたいからというよりも「本気度」を確かめるため。視察に対する本気度が低いところはお金を渋りがちなんです。

例えば、コストを下げようと「吉田さんが通訳できないんですか?」と聞かれることがあります。受け入れ先からの「情報」こそが視察の最大の収穫物であるはずなのに、そこにかけるお金さえケチるというのは本気じゃない証拠です。

そもそも、きちんとした通訳者にお願いするのが視察先への礼儀ですよ。それにコーディネートや受け入れ側とのやりとり、視察者の食事や移動の手配などをやっている僕が通訳をして、100%の力を発揮できるわけがないじゃないですか。

挙げ句の果てに「議事録も作ってくれ」だとか、そろそろ日本食食べたいですとか、コンビニないですか、とか。

オランダ在住クリエイティブコンサルタント 吉田和充

座組みなんかどうでもいいから、具体的な「実」を持っていけ

そんな日本からの視察団に対するアドバイスをお願いします。

とにもかくにも「具体的な話を持ってくる」ということ。こういう案件があって、一緒にやれるところを探したいとか、こういうことをしたいから、これについての知見を持っているところに会いたいとか。

海外のスピード感は、日本人が考えているよりもずっと早い。日本の人って「座組み」を作るのが大好きですよね。こっちの人にとってはそんなの関係ない。持ってきた話が面白いかどうか。面白ければ、「いいね、やろう」で話がまとまります。そうじゃなかったら、「いいね。で、何やるの?」で話が止まってしまいますから。

具体的な話をすれば、かなり前向きに聞いてくれます。例えば、オランダに出店するラーメン屋の店舗デザインをお手伝いしたとき、店内でインスタレーションをやろうという話になって、アムステルダムの「Tellart」という日本のチームラボみたいな会社にその話を持っていきました。お金という意味では案件の規模は小さかったんですが、その場で「クールだね、やろう!」と話がまとまりました。

これまで話したことって、なにも視察にかぎらない話なんですよ。国内の異業種交流会とかオープンイノベーション系のイベントとか、日本の大企業が「とにかく会って何かしよう」っていう場面はたいてい誰がどんな目的意識で意思決定しているか分からない。そのくせ提案だけは何十回もさせられる、みたいな。

日本人のサラリーマンって、世界で独特なんですよ。

相手の時間をもらうことへの意識は超がつくほど希薄。オランダは時給計算社会ですから、相手と対面する時はその場で自分のすべてを出そうとものすごい準備をしてくる。だけど日本人は会って満足、勉強して満足。話が進んでも「やっぱり止めます」とか普通にある。中国のビジネスパーソンたちは「札束を持っていって、この金で自分の会社をどう変えてやろうか?」と必死ですよ。

その意識を変えるのは一朝一夕にはいきませんし、まずは第一歩として繰り返しになりますが、具体的な案件なり想定している成果物なり「実」を持って視察に臨む、というのが僕からのアドバイスです。

今勢いのある国はどこも、実のある視察を通じて猛烈につながり始めていますよ。今変わらないと、中国などこれからの先進国との差はただただ開いていくだけでしょうね。

オランダ在住クリエイティブコンサルタント 吉田和充

吉田さんが教育移住や育児で感じたことをつづったブログ『おとよん』

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[取材・文] 行武温、岡徳之

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