主体的に考え、行動する力はどう育つ? 海外オルタナティブ教育に学ぶ

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子どもに海外の教育を受けさせようと移住する人が増えています。クリエイティブコンサルタントの吉田和充さんもその一人。今年3月まで日本の広告代理店に勤めていましたが、退職して「オランダ」に移住することを決めました。

吉田さんは二児の父。2014年の第二子誕生にあわせて育児休暇を取得し、教育移住先を視察するために家族で海外を放浪しました。そうして海外の「オルタナティブ教育」に触れるうち、「教育こそが、仕事や生き方に対する価値観を作るのではないかと思った」と言います。

吉田さんがさまざまな学校を訪れ、肌で感じた、日本の一斉教育とは異なるオルタナティブ教育が形作る価値観とはどのようなものか。またその価値観はどのような教育によってもたらされているのか、お話を伺いました。

教育移住だけでなく、自分が受けた教育が大人になってからの価値観をどう形作るのかに関心がある読者、また「自分の仕事や生き方に対する価値観がなにかにとらわれている気がする・・・」、そんなモヤモヤを感じる方にぜひ読んでいただきたいです。

クリエイティブコンサルタント 吉田和充

PROFILE

クリエイティブコンサルタント 吉田和充
吉田和充
クリエイティブコンサルタント
二児の父。広告代理店に在籍中、育児休暇を取得し教育移住先を視察するため家族で海外を放浪。今年3月に退職し、オランダに移住。教育移住や育児で感じたことをつづったブログ『おとよん』を運営中。専門は、経営戦略、広告戦略の立案、実施、プロデュース、商品開発、新規事業立ち上げ、海外進出プロデュースなど。日本と世界をつなぎながら、企業や店舗、個人の事業拡大に携わる

吉田さんが運営する育児ブログおとなになったらよんでほしい

主体的に考える力を養うための教育

ー育児休暇を教育移住のための海外視察に充てられたのでしたね。

はい。子どもが二人(どちらも男の子)がいまして、以前から海外の教育を受けさせたいと考えていました。2014年に第二子が生まれたタイミングで育児休暇を取得し、生まれたばかりの下の子を連れて家族で海外をまわりました。その過程で出会ったのが、オランダの「イエナプラン教育」です。

イエナプラン教育は、「オルタナティブ教育」の一つ。黒板に向かって同じことを教える日本を含むアジアで主流の一斉教育に対して、子ども個々人の興味関心に合ったことを教えてそれを伸ばすスタイルです。マーク・ザッカーバーグやオバマ大統領もオルタナティブ教育を受けて育ったと言われています。

イエナプラン教育の一番の特徴は、4〜6歳、7〜9歳、10〜12歳と、「3つの異学年の子どもたちで一つのクラスを作ること」。

日本だと定期テストがあって、できる子とできない子とではっきりと分かれますが、そのような学力テストはありません。年上の子ができて、年下の子ができないことが当たり前なので、点数で比べたりせず、年上の子が年下の子に教えたりしながら、個人の成長を自分たちで引き出す仕組みです。

 

ー点数ではなく、何をもって「学んだ」ことを測るのでしょうか。

できる、できないではなく、どれだけできるようになったかという達成度で測ります。しかも先生と子どもが、「今学期はこうだった。次の学期はこうしよう」と話し合いながら。時間割も含めて、自分たちがやることは自分たちで決めるのです。

先生の役割も日本の一斉教育とは異なります。先生は、このときこういうことを子どもと話したという記録帳を持っていて、過去を振り返りながら子どもに「これが得意そうだからこっちをやってみない?」とヒントを投げかけます。

そのため先生たちには、子どもたちの個性や関係性をよく観察しておくことが求められます。ですから自然と、生徒30人に対して先生2人とか、生徒一人あたりの先生の数も多くなる。おかげで子どもたちは主体的にモノゴトを考えられるようになるんですね。

ちなみに、いま世界で起こっているリアルなことを学べる科目があるのも特徴の一つ。世界で起こっている事象から、いま自分たちがやるべきことを考えるような内容です。

1階はイエナプラン教育を採用している学校、2階は異なるオルタナティブ教育を採用している別の学校。違う学校だが、同じ校舎を使っている
1階はイエナプラン教育を採用している学校、2階は異なるオルタナティブ教育を採用している別の学校。違う学校だが、同じ校舎を使っている

大人になってからのクリエイティビティーに影響

ー海外の教育に関心をもったきっかけを教えてください。

広告代理店に勤め、日本のトップ企業を担当させてもらっていました。しかし、テレビ離れ、広告離れがささやかれ始める数年前の2003年頃から、顧客企業の担当者のなかに自分の意見を持てない人が増えていったように感じたんです。

例えば、海外ロケに行くと、「いま撮ったカットが良いか悪いかその場では判断できない」と言われるようになりました。担当者が自分で責任を取るのをおそれて判断しようとしないわけです。気合いを入れて提案するこちらとしては、「肩すかし」というか・・・。

もちろんそれは一部の人にかぎったこと。でもそのような仕事の仕方を続けていると、いつか自分も意見を言えなくなるようになってしまうのでないか・・・ そうモヤモヤするうちに、根本的な原因として日本の「教育」に疑問をもつようになりました。また、実は自分たちが受けてきた日本の教育が、自分の意見を言えなくなる原因なのではないかと思うようにも。

それに、自分の子どもには自分の意見を言えるような社会人に育ってほしい。そのためには、日本ではなく海外の教育という別の選択肢を見てみないことには大変なことになる。そう思って海外への教育移住を決意したんです。

クリエイティブコンサルタント 吉田和充

ーイエナプラン教育と大人になってからの価値観につながりを感じましたか?

イエナプラン教育には、広告クリエイターにかぎらず、あらゆる職業に求められるクリエイティブなマインドを育てる要素が詰まっていると感じました。その最たるものは、「問いを立てる力」です。

自分たちで時間割を決めるやり方を採ることで、子どもたちは自ら取り組む命題、アプローチを考え、そのアプローチが正解か不正解かであったかを検証する力を培うことができます。あらゆる仕事に直結するスキルですよね。

もう一つの培われるマインドが、「他者の個性を認める力」。イエナプラン教育には、先生と子どもたちが一つのサークルを作って対話する授業があります。異学年クラスと同様、そこには先生と子どもという優劣や垣根はなく、各人が自分の考えを発表します。

そうするうちに、自分とは違う意見をもつ人たちを受け入れるスタンスや、彼らと協働して何かを成し遂げられる力が身につくそうです。こうした教育のあり方が、社会の仕組みや大人の行動にも反映されていくのでしょうね。

他人とは異なる競争軸、違う居場所が見つかるかもしれない

ー「社会の仕組みや大人の行動にも反映されていく」とはどういうことでしょうか?

日本の一斉教育と社会の仕組みを考えてみるとどうでしょうか。日本だと、偏差値60よりも70のほうが偉いというような、一律の序列や競争軸が学校でも会社でもはっきりしている。少なくとも私にはそう見えます。

会社のヒエラルキーとは異なる競争軸があってもいいのではないでしょうか。例えば、「Aさんはいま、課長という肩書きだから課長の仕事をしているけど、本当はサッカーでいうディフェンダーの仕事のほうが合っているのではないか」のような。

そのような多様な軸が組織で生まれたり、もしくはビジネスパーソンが自分らしい「居場所」を見つけるのに、教育って一役買うと思うんです。

日本の一斉教育で育ってきたいまの大人にはそれは難しいかもしれない。だけれど、その中に少なからずいる、「変わりたい。変えたい」と思っている人なら、これから企業組織における学びでいくらでも変わっていけると思いたいです。

 

ー自分らしい「競争軸、居場所」、どう見つければいいでしょうか。

私が、「海外の教育を見に行かないと」、そう決意したエピソードを最後に紹介させてください。

以前、広告会社の仕事で、九州で田んぼを借りて、生産者と消費者をつないでそのコミュニティー自体を価値化させようと取り組んだことがありました。その田んぼに、「おたまじゃくし」がいたんですね。

そのおたまじゃくしを見て、「僕らの田んぼは無肥料、無農薬でやっているから、このおたまじゃくしは幸せだろうな」と思いました。

隣の農薬を使っている田んぼにも、もちろんおたまじゃくしはいました。でもそのおたまじゃくしは、外には無農薬の田んぼがあることも、そして農薬を使っている田んぼがあることさえ知らない。

それを見て、「この田んぼのおたまじゃくしは、自分が属している企業組織以外のルールを知らない日本人と同じだ。自分もそうだ」って思ったんです。

自分の知らない世界があることを認め、それを知ろうと一歩踏み出すこと、それが、いまとは異なる競争軸、自分ならではの新しい居場所を見つけるための第一歩ではないでしょうか。

クリエイティブコンサルタント 吉田和充

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[取材・文] 狩野哲也、岡徳之

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