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INTERVIEW
楠木建さんに聞く、情報を自分の骨肉に変える「解釈力」の磨き方
INTERVIEW

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BOOK MARK

今は情報過多の時代ーー。玉石混淆な情報を興味関心の高さに応じて、どこまでも取得することができます。一方で、「その情報をいかに咀嚼し、解釈するか」ということにリソースを割くことのできない人も多いのではないでしょうか。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科で教授を務める楠木建さんは「競争の戦略」を専門とし、企業経営者や、ときにキャリアに課題を感じるビジネスパーソンまで、彼らの悩みを解きほぐし導きます。そのとき語られるのは、書籍や映画、音楽、偉人たちの言葉など、新旧問わずあらゆる分野の価値観です。

そんな楠木さんに、日ごろからどのように情報を収集し、独自の解釈を加えているのか、そのノウハウを伺いました。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木建

PROFILE

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木建
楠木建
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
1964年、東京生まれ。1992年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。同大商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、同大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年より現職。専攻は競争戦略論。著書に『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)、『「好き嫌い」と才能』(東洋経済新報社)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)など多数

情報に触れる際、頭の中に自分の関心があることが重要

ー楠木さんは、最近のご著書『好きなようにしてください』で悩めるビジネスパーソンのキャリア相談に応えていました。彼らの「考える力」についてどのような印象をもたれていますか。

僕は編集部から定期的にもらう相談内容でしか知らないので、その人のことを本質的に理解しているわけではないんですよね。ある種、僕自身が関心のある方向に持っていっているので、相談者の関心からはズレているかもしれません。

その前提で申しあげれば、「手っ取り早く理解したい」「すぐに成果を出したい」という人が多いように感じます。何か課題を解決するための手段として、即時即物的に役立つ「情報」を取りに行くことばかりをしている。これは、若さのある側面でもありますね。

僕は、人間はたとえそれが何かの直接的な手段になっていなくても考えるものだと思うんです。「考えることを放棄する」のはあまりに動物的で、人間に生まれたのにもったいない。結局、教養とは「自分の考えを自分の言葉で、自分以外の誰かに伝えることができる」ということでしょう。

ー楠木さんご自身はどのように情報を収集されているのでしょうか。

「情報を収集しない」ということに注意を払っています。もちろん必要に応じて、インターネットなどでデータを調べることはありますよ。けれども特に「情報収集」はしないようにしています。スマホはもちろん、インターネットも必要にせまられたときぐらいしか使いません。

僕の場合、「自分の考えを自分の言葉で、自分以外の誰かに伝えること」が仕事になっていて、それはつまり論文や講義、著書としてアウトプットするということ。その “原材料” として情報をインプットするわけです。

けれども身ひとつですから、アウトプットできるキャパシティは決まっています。いくら情報をインプットしても、処理できる情報量は変わりません。やみくもに情報を取得しても、解釈しきれない情報が手つかずの部品というか原材料として “工場” に溜まっていくだけで、アウトプットとしては形を成し得ません。これは生産者である僕にとっては非常に不健康な状態です。原材料は実際に使うだけあればいいわけです。

ーインターネットを介してある種「情報の洪水」に取り込まれてしまっている多忙な現代人の姿とは一線を画していらっしゃるのですね。

そもそも、はたして現代人が多忙なのかどうかとも思うんです。かつて農耕生活を送っていた人びとは自然を相手に、常に仕事に追われていました。休むのは年末年始にお盆くらい。あとは毎日農作業や炊事、洗濯と大忙しで、考える暇なんてなかった。

今は技術革新によって知的作業に充てられる時間が増えたことで、ある種贅沢な悩みとして「情報の洪水」なんて言っているわけです。四の五の言わずにはたらいていた昔とくらべれば、今のほうが間違いなく暇ですよ。

ー目から鱗です・・・。楠木さんの「情報を収集しない」方法について、さらに詳しくお聞きしたいのですが。

重要なのは「順番」。まず情報に触れる際、頭の中に自分の関心があるかどうかなのです。関心があって、自分の注意が振り分けられることで情報を得ることができる。解釈というものは常に動いていて、情報と情報が合わさることでまた解釈が変化していきます。

情報の99%は自分の関心とは関係のないものなんです。それを判断するためには、自分の関心がはっきりしていないといけない。私の場合、専門は競争の戦略ですので、関心は、なぜある商売は儲かり、別の商売は儲からないのか、その論理を考えるということ。

関心を明確にするためには、とにかく考えることが重要です。そうしなければ、解釈や注意の貧困が起こります。ただ、僕の場合はそれ自体が仕事になっているので、特にそう思うのかもしれません。

解釈力を磨くには、「言語化する」仕組みをもて

ー多くの人は、ぼんやりと情報に接しているか、情報を取得しては鵜呑みにしてしまいます。そういった方々が情報を取捨選択し、解釈していくにはどうすればいいのでしょうか。

前提として、一日24時間をどう配分していくかということですね。考える時間を確保するために、情報を得る手段を絞るというのは一つの方法です。僕の場合、テレビはよほど非常事態でないかぎりは観ません。仕事も早朝からはじめて、夕方にはいったん締めます。お酒は飲みませんし、18時には帰宅します。そうすれば、22時に寝るとしても3時間は読書の時間を確保できますよね。

インプットとして圧倒的に多いのは読書によるものなんです。新聞や雑誌、インターネットなどは即時性の高い断片的な情報の集積ですが、もっとまとまっているもの・・・ ロジックがあるものとしては本がいい。なぜなら本は「考えている」人が書いているものだからです。僕は仕事に直接関係のないものを除いても、年間300冊くらいは読んでいます。

それと同時に、読書したときに自分自身が考えたことをノートに書き留めておきます。要約や引用ではなく、どんなことを考え、何を得たかということですね。そしてそれをよく読み返します。僕自身は、「考えるために考えている」んです。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木建

ーインプットにこだわって、毎月何冊も本を読む人がいますが、意外とそういうことをしている人は多くないかもしれませんね。

たまに即時即物的に役立つことがあっても、あくまでそれは情報の氷山の一角です。なぜ自分の考えを書き留めるのかというと、「言語化」することが目的なんです。タイピングでも音声入力でもかまいません。書くことで自分の考えを定着させることができるんです。

よく「違和感がある」という言葉を使いたがる人がいるけれど、これは言語化をなまけていますよね。何に賛成で、何に反対なのかを言わないというのは、情報に接してはいても考えておらず、考えが浅い。思考というのは「違和感」の先や奥にあるものです。

ー「テレビを観ない」「ネットの接触を最小限に留める」など、情報取得の手段を絞ることにはなかなかそこまで割り切れなさそうです。

情報を収集しないと不安になると考えるのは自然なことでしょう。僕も何が必要で何が不要なのかは中年になってからわかったような。そういう年を取ったらわかるような事後性が強い事柄について、今もがいている若者にああだこうだ言っても仕方ありません。

けれども、「その時代を乗り越えた先人たち」の話を聞くことは重要です。読書の本質的な恩恵は、事後性の克服です。一通りの経験をした人がいろいろ考えた上で行き着いたことが書いてある。完全には事後性を克服できないにしても、事前に「なるほど、そういうものかな・・・」という予感をもつことはできる。知性とはそういうものです。

考えを醸成し、解釈する力を培ううえで、もっとも価値があるのは、人と会うことです。それはなぜかというと、人と対話する過程で、言語化することを強制されるから。考えは常に言語化することで、人に伝えられるものでないといけません。自分の意見はこうで、何に賛同できないのか、そしてそれはなぜなのか・・・ その反芻こそが「考える」ということなんです。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木建

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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