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INTERVIEW
ポケモンGOで福岡市のまちづくり「スーパー係長」中島さんの半端ない仕事術
INTERVIEW

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BOOK MARK

福岡市に「スーパー係長」と呼ばれる市の職員の方がいらっしゃいます。現在、福岡市からの出向で公益財団法人福岡アジア都市研究所にお勤めの調整係長、中島賢一さんです。

中島さんは、都市政策をベースとした研究事業にコーディネーターとして従事。その傍ら、大のゲーム好きとして空き時間で趣味の『ポケモンGO』をわずか17日間でコンプリート。

そのポケモンGOを趣味だけでは終わらせず、ポケモンGOと地方活性を掛け合わせたイベントを企画、実現し大反響。地域活性をしたい他の自治体の方からも声がかかるように。

このように底知れぬ意欲と行動力を武器に、自分が仕事を楽しむのはもちろんのこと、福岡市という所属する行政組織の課題解決にも貢献し続けてきた方です。

今回はそんな公務員らしからぬ(?)中島さんに、圧倒的に「働く」を楽しむための半端ない仕事術を伺います。

公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一

PROFILE

公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一
中島賢一
公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長
1971年熊本生まれ。民間IT企業を経て、福岡県に入庁。ITやコンテンツ産業振興に携わる。2013年福岡市に移籍。ゲーム・映像係長や創業支援係長として、クリエイティブ分野やスタートアップ企業のビジネス支援に従事。その後、公益財団法人福岡アジア都市研究所にて都市政策をベースとした研究事業のコーディネーターとして活動

IT企業から福岡県職員へ… 本人さえも意外な転身

—中島さんの現在の職務内容はどのようなものでしょうか。

現在は、福岡市からの出向で「福岡アジア都市研究所」にいます。

福岡アジア都市研究所は、市の都市政策に関わる調査研究を行うシンクタンク。福岡市のまちづくりやアジア地域への貢献に寄与するテーマを研究しながら、出向前から引き続きクリエイティブ分野やスタートアップ企業のビジネス支援も行っています。

おそらく私のことは『ポケモンGO』を絡めた講演やイベントがきっかけで知っていただいたかと思うのですが・・・あれだって単にゲーム好きの私の趣味の延長ではなく、れっきとした「まちづくり」の一貫できちんとした「お仕事」なんです(笑)

詳しくは後ほどお話ししますが、17日間でポケモンGOをコンプリートしまして、「せっかくならこれを仕事にしたい。ポケモンGOを学術的に検証したら、市民の行動データ分析になる。これってまちづくり?」と思いつきまして、結果を発表したら大反響。

そのうち他の自治体の方からも「福岡市のスーパー係長、うちでも講演してくれ」と声がかかり、最近も地方をまわっています。

撮影中もポケモンGOをプレイする中島さん
撮影中もポケモンGOをプレイする中島さん

ポケモンGOは自分で始めたことですけれど、その他にも私のところには「まちづくり」と呼べなくもない、無茶な提案がたくさん来るんですよ(笑) 無理そうな場合でも、とりあえずうちで引き取って、なんとかする、みたいな。「調整係長」ですから。

例えば、ちょうど先日映画『ゴースト・イン・ザ・シェル(攻殻機動隊)』とIoTを絡めたトークセッションと試写会が融合したイベントが開催されたんですけど、それはとある企業の方から企画をもらって、「1カ月後に開催? 年度末だし無理だろう…」みたいなところから始まりまして。

それで他の企業に持ちかけて、イベントの情報拡散やIoTの展示を福岡市で協力し、イベント運営はご相談いただいた企業さんにやっていただくことで、関わった団体や企業全部がWin-Winになるような形でなんとか実現しました。

実現した『ゴースト・イン・ザ・シェル』のトークセッション
実現した『ゴースト・イン・ザ・シェル』のトークセッション

—勝手なイメージで恐縮なのですが、行政の方らしからぬ考えで興味深いです。そもそも、中島さんはなぜ民間から行政へ転身されたのですか。

だいたいピボット(方向転換)するというか、あまのじゃくなんです。大学では化学専攻で研究室まで行ったのに、いざ就職するときに「いや、化学ってなんか煙が出るし、環境によくないな」と思って。

ちょうどインターネットとか「NCSA Mosaic(ブラウザ)」が1993年ごろに出てきて、「これはすごい!」と思って、教授に反対されながらもIT会社に就職。するのですが、30歳くらいのときに「これからはコンサルをメインにやっていきたい」と思い始め・・・。

そんなとき、妻から「福岡県が特別職を募集しているらしいよ」とおもむろに新聞の切り抜きを渡されて。最初は「いやぁ、公務員はないだろう」って感じだったんですよ。

でも福岡県には500万人の住民がいて、一人ひとりをクライアントとしたら、ダイナミックなことができるじゃないですか。それで、受けてみたらたまたま受かったんです。

ただ、福岡県でも最初は前職時代と同じITのしかも地味な仕事を振られて・・・すぐに辞めてやろうと思いましたけど(笑)、それでも経験を活かしてやっているうちにだんだんと存在感が出てきたんです。それまでITの専門家が職場にいなかったこともありまして。

—ご自身の趣味だったゲームを仕事にも活かせるようになったのはなぜですか。

そうそう、で、そもそもゲームが好きだったんですよ。学生のころにボードゲームやゲームブックを自作して、みんながワイワイ楽しんでいる空気感が好きで。あ、そういやゲーム開発者になりたかったんだ、と思い出しまして(笑)

次の勤務部署を志望できることになり、それでコンテンツ振興の部署に異動願を出しました。

福岡県には『妖怪ウォッチ』で有名なレベルファイブなどゲーム制作会社やIT企業が数多くあって、秋葉原でのゲームイベントや人材育成セミナーなどを企画しました。そのうち、(麻生渡前福岡)県知事から「Rubyを旗印にIT振興をやってくれないか」とお達しがあって、福岡県Rubyコンテンツ産業振興センターを立ち上げました。

Rubyをベースにシリコンバレーの企業や大学との交流を図るべくスタンフォード大学で開催したイベント「FukuokaRubyNight」
Rubyをベースにシリコンバレーの企業や大学との交流を図るべくスタンフォード大学で開催したイベント「FukuokaRubyNight」

ようやくやりたかった仕事に少しは近づけたわけですから、新事業提案なんかをパワポで上司にプレゼンするんです。だけど、上司からは「紙一枚でまとまらないの?」なんて指摘されることもあって。当時の県庁には企画をパワポにまとめて提案する文化がなかったんですよね。

そういう大変なことはいくらでもありましたが、少しずつ起案したものを実行できるようになって、やるからには結果を出すしかないから、死に物狂いでやってきた。

それで、一通りがんばれたかな、と思って民間企業に転職する予定だったんですけど、福岡市の方から「あなたみたいな人は行政側にいるべきだ」という意見もあり、福岡市に移籍。そこで用意されていたポストは、「ゲーム・映像係長」。他の自治体にはないユニークな係でした。

「ワクワク」の再構築でまわりを巻き込む

—中島さんはポケモンGOの講演イベントを全国で行っているとのことですが、どういう経緯だったのですか。

公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一

昔からゲームは「誰よりも早く全部クリアする」というポリシーだったんですよ。地道にやっていったら、誰でもいつかはレベルが上がるじゃないですか。だからスピード勝負。

ポケモンGOも初日にダウンロードして、捕まえたモンスターの種類と日時をGoogleのマイマップに記録していくと、早くクリアするためのコツというか法則性が見えてくるんです。水辺には水属性のものが多い、とか。

それで仕事の休憩時間、プライベートでは休日の寝るときと食べるとき以外はずっとプレーして、17日間でポケモンGOをコンプリートしたんですね。

せっかくならこれを仕事にできないかな、と思って。それで企画した講演が、「中島、コンプリートしたってよ ~ポケモンGOと地域活性化の可能性を探ろう~」。映画『桐島、部活やめるってよ』にインスパイアされたのは内緒です。

講演「中島、コンプリートしたってよ」の様子
講演「中島、コンプリートしたってよ」の様子

最初にも言いましたけど、れっきとした「まちづくり」の内容なんです。「ポケモンGOを学術的に検証したら、人間の行動を示す重要なデータ分析になるかもしれない」と考えまして。

例えば、レアキャラがよく出る大濠公園の最寄駅の乗降者数やテレビ局の視聴率などデータを集めたところ、ピタッと相関関係が表れた。つまり、エンターテインメントにはまちづくりの力があり、福岡市の新しい観光資源になり得ることを証明できたんです。

ポケモンGOリリース直後に大濠公園最寄駅の乗降者数が増加
ポケモンGOリリース直後に大濠公園最寄駅の乗降者数が増加

その研究結果と合わせて他の地域の事例も紹介しつつ、エンターテイメントとまちづくりの親和性について講演とワークショップを行ったところ、地域活性をしたい他の自治体の方からも声がかかるなど思わぬ反響をいただきました。

—まさに自分の強みを発揮して成果を生んでいるのですね。けれども、そのためには周囲を巻き込んだり、「自分ゴト化」してもらったりする必要があると思います。何か秘訣はありますか。

私、「根回し」は苦手なんですよ(笑) だから、やらない。その代わり、自分が「めっちゃ面白い」と思えることを探すんです。「根回しなんかしなくても伝わるだろう?」ってくらい、自分が面白いと思えるものを見つけられるまで、探す。

公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一

最初の攻殻機動隊の企画にしても、ただ受け取るだけじゃなくて、「知人に『攻殻機動隊 REALIZE PROJECT』に携わっている人がいるから、タチコマ(作品内に登場する多脚戦車)を展示したら面白いんじゃないですか?」と、逆にめちゃくちゃワクワクしながら提案すると、相手も「いいですね」となるじゃないですか。

メールの転送みたいに受け渡すだけでは、「年度末で忙しいので」と断られてしまう。やっぱり相手に自分ゴト化してもらうためには、まず自分が自分ゴト化して、楽しみを再構築しないといけないんですよ。

それと、福岡市では積極的にSNSを使っていきましょうという感じなんですね。なのでFacebookで仕事のことも発信しつつ、その合間に「このゲームをクリアしました」なんて投稿をすると、「あ、中島さんゲーム好きなんだ」「こういう仕事してるんだ」と多くの人に認識してもらえて、市役所の中でも外でも仕事につながってくるんです。

地方行政は発信力が弱いので、一人ひとりが発信することが重要です。髙島市長からも「取材を受けてるのを見たよ」と声をかけられることもあります。どんなに良かれと思ってトガっても、トップがNOといえば、何もできませんから。

—福岡市が特別なのか、いわゆる「縦割り行政」といったイメージが覆されるようです。

「行政」と一括りにすると単一のイメージになってしまいますが、小さな会社の集合体のようなものなんです。市民の皆さんの生活に必要な福祉、税、教育などのセクションは、硬いというか法にのっとって毅然とした対応するところです。

私たちは経済セクションですし、福岡は商人の町で新しいもの好きでどんどん取り入れてきたところがあるんですよ。それこそ広告会社出身者とか、柔軟な考えやスピード感のある人も多くて、それは幸いだったかもしれません。

「新しい」〇〇メソッドで公務員像を刷新

—行政にかぎらず、大企業などレガシーな組織の中で、なかなか思うように身動きが取れない人もいます。そういう場合に周囲を巻き込んで改革していくには、どうすればいいでしょうか。

公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一

私自身も、「レガシーな組織で新しいことはやりにくい」と悩んだこともありましたが、その突破口は外に仲間を求めたことにありました。組織で孤立してしまっても、まず外に同志を作って、アイデアの裏づけが取れると、中にも「話を聞こうかな」という人が出てきます。

ただ、一人よがりになってしまうのはよくない。組織のグランドデザインを理解した上で、事業に関連づいているからこそ、自分のやりたいことができるんです。外部の人にも同僚にも、上司にも思いを熱く語って、少しずつ仲間を増やしていけばいつかは実現できます。

三人に打ち明けて、三人とも「いや、それは違うだろ」と言われるような考えだったら、立ち止まってみたほうがいいでしょうね。

—人を動かすのは熱意、なんですね。

そう、熱意、それと「数字」。数字で語られているものについては、ストーリーを補足してあげたほうがいいです。

例えば、「なぜRuby?」と問われたら、プログラミング量が1/○に軽量化できて、IoTへの搭載も容易になって、コストも1/○になる。設備投資も少額に済んで、福岡だけでモノづくりが完結できるようになる…という道筋を立てれば、あまり関心のない人も「なるほど、詳しく話を聞いてみようか」となるじゃないですか。

あと、上司や同僚とは積極的に会話をするようにしています。仕事の話というより、プライベートな話題が多いかもしれません。よく、「苦手な上司がいる」っていう人がいますけど、私はあまりそういうことはないんですよね。

そりゃ、仕事の話だと基本、しかめっ面になりがちじゃないですか。でも、どんな人でも仕事を離れれば、基本いい人だと思うんです。なので、たとえ上司が興味なさそうな話でも、「昨日こんなゲーム買ったんですよ。やります?」「いや、俺はやらんよ」「でも面白いですよ、これ」なんて、無駄話に見えますがこうした会話が重要だと思っています。

そうするとお互いの理解が深まって、いざというときの結束力につながるんです。人生の多くの時間を仕事が占めているなら、「あんな上司、気にいらん。辞めてやる」じゃもったいないじゃないですか。そういう人にこそ話しかけたほうが、意外と円滑に進むんです。

—中島さんが働く上で大切にされていることはなんですか。

やっぱり、どうせやるなら面白いほうがいいと思うんです。面白くないものも面白くする。上司を理詰めで説き伏せても、心の中でちゃんと「面白い」と思ってもらえていなければ、うまく進みません。

プライベートでもトレーディングカードゲームのイベントを主催していて、子どもたちからは「デュエルマスター」と呼ばれてるんですけど、もう10年以上も完全にボランティアでやってますから。それだけ続けていると、趣味でも認めてもらえるんですよね。

トレーディングカードゲームのイベント
トレーディングカードゲームのイベント

そうやって仕事も趣味も、自分が面白いと思うものを極めることが大切だと思うんです。

それと、たとえ何か成功したとしてもその成功に安住しないこと。私が手がけてきた成功事例でも、それをレガシーとして残して踏襲しようとすると、うまくいかなくなることもあるんです。だから私自身は、なんでもかんでも頭に「新しい」をつけてみることにしています。成功しても、一旦横から見てみる。

「新しい」会社説明会、「新しい」病院の待合室…なんかちょっといつもと違うことをしないといけなくなるじゃないですか。「新しい」ゴミ拾いとか、行きたくなるでしょう。そうやってマンネリを刷新していくと、また新たな成功につながるんじゃないかと思うんです。そう、「新しい」公務員とか、なんかやってくれそうでしょ(笑)

公益財団法人福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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