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INTERVIEW
労働時間をただ管理しても意味がない、「生産性」の意味を考え抜いたベンチャー社長が出した結論
INTERVIEW

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BOOK MARK

働き方改革の旗印として、「生産性向上」や「長時間労働の是正」が議論されている昨今。しかし・・・

生産性を高めるためには、労働時間を短くして人件費、つまりコストを削ればいいとだけ考えているようでは、経営者やチームのリーダーとしては「赤点」です。

こう厳しく断じるのは、WebサイトのUI/UX改善支援を行うKaizen PlatformのCEO、須藤憲司さんです。

しかも須藤さんは自身の会社では「単なる時間管理はしても意味がない」と明言。意外な経営方針ですが、会社は創業からの4年間で売上が年平均2.6倍のペースで成長を続けています。

そんな新しい働き方で業績を上げるベンチャー経営者の須藤さんに、独自の「生産性」の捉え方とチームの生産性を高めるためのリーダーシップについて伺いました。

Kaizen Platform, Inc. CEO 須藤憲司

PROFILE

Kaizen Platform, Inc. CEO 須藤憲司
須藤憲司
Kaizen Platform, Inc. CEO
1980年生まれ。2003年に早稲田大学を卒業後、株式会社リクルートに入社。マーケティング部門、新規事業発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室立ち上げに従事。株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員に就任。2013年にKaizen Platform, Inc.をアメリカで創業(2017年7月1日より株式会社 Kaizen Platform)

労働時間を管理しても意味がない時代に突入した

ー須藤さんは今の労働環境の問題について、どうお考えですか。

今までは「働くこと」について、「生産すること」を重視してきました。国の豊かさを測る指標がGDP(国内総生産)で、「生産すれば豊かになる」という考え方だった。

けれどもサービス産業が多くの割合を占め、生産したモノの「価値」を問われるようになってきた。さらに、人びとが何に価値を見い出すのかも以前とは変わってきているわけです。

今まではモノを生み出すことが価値が高いと考えられてきました。しかしこれからの時代に価値が高まるのは、「循環性」だと見ています。モノ、人、情報の循環です。

例えば、モノの循環について。今日ちょうどフリマアプリの「メルカリ」で自分のジーンズが4000円で売れたんです。でも、ここでGDPに反映されるのは手数料の400円でしかありません。

しかし、僕自身は「もう履かないジーンズが売れてよかった」と思っているし、買った人も「ジーンズを安く買えてラッキー」と思って、お互いに満足できている。

情報の循環についても同じで、「評価経済」と言われるようにフォロワーの多い人の投稿に1000いいね!がついたとすると、1000人以上がその情報に価値を感じたことになる。

このように、モノ、人、情報が循環し、そこで何か新しいモノが生産されているわけではありませんが、今までにはなかった「価値」を生み出しているわけです。

しかも今の時代は、テクノロジーを使って誰もがその「循環」を生み出せる。それができている人は、実は「働き方」においてもたくさんの選択肢を持てるようになっています。

だって、YouTuberが映像制作に10時間かけたからといってバズるとはかぎらない。だけどものの1時間で作った動画が話題となって、大きな広告収入を得ることもありますよね。

循環性の価値が高まっているという前提で考えたとき、明らかに今までのような時間を切り売りするという概念での「時間管理」は通用しませんよね。

今の働き方改革では能力が足りない人が放り出される

ー人の働き方が多様になっている中で、まだ企業の仕組みが追いついていないということですね。

そうです。とはいえ、なぜ多くの企業の仕組みが変わらないのかというと、日本では雇用の流動性が低いからではないかと思います。

「正社員になること」が既得権益化してしまっていて、高い価値を生み出している人も価値を生み出していない人も、その雇用は等しく企業が守られなければいけないわけで。

企業の経営者としても「一度、正社員採用すれば、そう簡単に他の人と替えるわけにはいかない」となると、採用そのものが大きなリスクを負った意思決定となります。

経産省が行った新しい働き方についての調査があるのですが、ゼロから独学で独立した人は少なく、ほとんどは会社勤めで得た経験をもとに独立しています。

そうなると、若者やローキャリアの人はしっかり守って教育してあげなくてはならない。新入社員にいきなりリモートワークをさせても、仕事ができるようになる前に破綻します。

社会全体として、個人のエンプロイアビリティ(雇用に値する能力)を高めていかないとフェアではありません。

しかし、今の問題は守られるべき人とその必要のない人が一緒くたになっていること。すでに新しい働き方ができている人は、雇用主である企業に守られなくても生きていける人です。

それが、みんなで一斉に「新しい働き方をしましょう」となると、若者やローキャリアの人は特に必要な能力を身につけられないまま、外に放り出されてしまうのです。

自由な働き方には「自分で仕事を勝ち取る」責任が伴う

ー「働き方改革」という言葉にある種の「押しつけられ感」を抱いている人は、そういう懸念があるのかもしれませんね。

副業、兼業、パラレルワーク・・・と新しい働き方についての議論が盛り上がっています。しかし、やろうと思うと簡単なことではないのです。

「自分を経営する」という意識を持たなければいけないのです。かぎりある自分の時間を管理し、自由に選び取れるからこそその結果にも責任が伴う。

「自分の職責として果たすべきことはこれだけど、それだけでは物足りない」「興味があるから追求したい」・・・など、その働き方の意義やそのための仕組み作りを意識したほうがいいですよね。

「誰かに言われたことだけやるとか、自分がやるべきことだけをやる」というマインドでは、「自分を経営する」ことはできません。

これまでは会社や上司が仕事を与えてくれていたけれど、今は会社の寿命が個人よりも短い時代です。仕事は自分で勝ち取るものだと思わないと。

ーそう考えると、働き方改革の旗印が長時間労働の是正・短縮ばかりに偏っているのは、違和感がありますね。

ルールの部分ばかりが議題に上がっているからでしょうね。もちろんルールは大事です。コンプライアンスや労働時間という枠があって、そのルールの中でどう仕事をすれば、優れた成果を出せるのか、しっかり考える必要があるということです。

それは、決して企業だけが考えるのではなく、個々人も考えていく必要があることを忘れてはいけないと思います。経営者が言っても「お前が言うな」という感じかもしれませんが。

今までだってルールはありましたよね。しかしそれを守っていない企業が多かったということ、サビ残とか休日出勤とか。けれども今はもうそういうことが認められる社会ではなくなった。

その上、雇用形態、勤務形態、国籍などそれぞれ異なる背景や条件を持った人が一緒の職場で働くわけですから、当然マネジメントの難度は高まっているわけです。

その環境の変化を理解していない経営者、マネジャー、従業員が、今までのやり方が通用しない事態に直面しているということでしょう。

「生産性」は個人だけでなくチームとしてトータルで測るべき

ーKaizen Platformではリモートワークを導入していて、労働時間による管理をしないと伺いました。これはどういうことでしょうか。

「管理をしない」というと誤解を招くのですが、労働時間だけを判断基準にしない、ということです。

極端な例を出すと、宮崎駿監督や庵野秀明監督と、他のアニメーターの1時間は、おそらく数千倍違いますよね。ものすごく残酷な言い方ですけど、それが現実です。

クリエイティブな仕事ってものすごく残酷な世界なんです。ですから、時間を測って、時間で管理すること自体が無意味なんです。

そして、今既存の仕事の延長ではなく、クリエイティビティが問われる領域が拡がっています。ということは、その残酷な世界がありとあらゆる仕事と無関係ではなくなっているということです。

ー確かに。けれども多くの人が「その他大勢」ですよね。それを言われてしまうと元も子もないというか・・・。

でも、仕事ってほとんどが「チームプレー」じゃないですか。

宮崎さんや庵野さんのような天才が一人で完結する仕事はなくて、天才のまわりには数多くのアニメーターやプロデューサー、プロモーターがいて、そのチームがいるから天才の仕事が価値あるものとして世に出ることができる。

ですから、その他大勢の人は間違いなく必要なんです。

その上で、チームとしての生産性を測るべき。なのに、個人の「時間」だけで生産性を測っても意味がない。

そういう前提の環境変化なしに、労働時間を短くすれば時間あたりの生産性が高まると考えている経営者やリーダーは、生産性を議論するスタートラインにすら立てていないのではないかと思います。

ーKaizen Platformではどのようにチームの生産性を高めているのでしょうか。

やり方としては、とても属人的です。部署や役職に捉われず、やれる人がやれることを進んでやるを是とするコンセンサスでやっている。

この話をすると「Kaizenの社員だから成り立つ話なんじゃないの?」と言われます。これが正しいという確信を持ってここに至ったというのではなくて、個人が能力を存分に発揮できる組織を作ろうとしてきた結果論でしかなくて。

言えるのは、ドライブしたい方向を指し示して、そこにみんなの目線を仕向けること。価値観を共有すること。やらないことを決めること。一人ひとりを信頼して、僕のことも信頼してもらうこと。

これだけ仕事が高度化すると、仕事をすべて機能的に整理して、指示出しでやっていくというのは難しいですよね。経営は、性善説でやっていくしかないと思います。

「成長したい」と思わない人はいないと信じる

ーある種放任的なマネジメントですが、もし生産性の下がっている社員がいたらどうしますか。

会社として重大な損害になりかねないようだったら介入しますが、個別の事例を追ったり、解決のために汗をかいたりはしません。

人はシステムではありませんから、相性の良し悪しはどうしてもあります。そういうとき「分かるよ」「そうだね」と共感するだけでも、意外とラクになる。

自分の過去を振り返ってみても、「放っておかれてよかったな」と思うことが多いんです。「信頼」というと聞こえはいいのかもしれませんが。

ーそれでも大丈夫なのは、Kaizen Platformに優秀な社員が集まっているからでは?

どうでしょうか。本来、人は「成長したい」欲求があると思うんです。本人がそれを意識しているかどうかは別としても。できることが増えたり、人から感謝されたら嬉しい、そういう根源的な欲求って誰もが持ってると思うんです。

「成長したくない」と思っている人って、どういうことだろう。「心の底からサボりたいだけ」と思っている人がいたら、逆に真意を聞きたいくらい。

相手を心の奥底から信じないと仕事ってうまくいかないし、何を言っても伝わりません。

生産性を高めたいリーダーは「3年後」を見るといい

ー一般的な大企業にいる社員の場合、まだその切実さは感じていないかもしれませんね。

大企業の場合、決められたやり方でやるとそれなりの成果が出る仕組みができている。失点や失敗をなるべくしない方向性ですよね。

僕らのようなスタートアップの場合、かぎられた燃料でどうすれば大気圏外に行けるかというゲームなので、失敗の数とかどうでもいい。

致命傷にならない程度の失敗をし続けて、「敗北しなければ、失敗してもいい」と突っ込んでいくわけですから、マネジメント手法が異なるのも当たり前なのかもしれないです。

—「致命傷にならない」ラインを見極めることが重要ですね。これからの時代、一人ひとりの生産性や創造性を高めるため、リーダーに求められるのはどんなアクションでしょうか。

今は10年先のことを考えることさえ難しい時代。10年前に「iPhoneが誕生する」なんて、誰も考えてなかったじゃないですか。ですからとりあえず、3年。

今から3年後を考えながらフロントガラス越しに未来を見て、今度はその3年後から今をバックミラー越しに見る、みたいな。その行ったり来たりを延々と繰り返すんです。

そうしているうちに、今と未来の間のどこかに落ち着く。

経営の意思決定というのは、現実と未来の間のどこかに現実解を求めていくものだと思っています。それはチームとしても個人としても、戦略を考えるのはすべて同じ。その中で現実解を見い出し続けていくしかないと思うんです。

それはキャリアを考える上でもマネジメントを考える上でも同じで、今と未来、理想と現実の間で葛藤していくのだと思います。

人の時間は人生や命に匹敵するというリスペクトを

—最後に、「労働時間を削れば売上など業績が下がってしまう」と働き方改革に躊躇しているリーダーにかける言葉があるとすれば?

もっと「相手の命を使っている」ということについて深く考えたほうがいいと思います。

時間って、いわば人生や命に匹敵するもの。それを預かっているということを、経営者やリーダーとしてどう感じているのか、と省みる必要があると思います。

ただそれはリーダーだけが感じていてもダメで、若手社員レベルまでそう思っていなければすぐに変わることはできません。

「残業減らして」とかすぐに言うけれど、その前にリスペクトあってこそ。会議の1時間を共有しているなら、その時間をいかにお互いにとって実のあるものにするか。そこからですよね。

みんなが仕事の中にドラマを見い出せるくらい、その時間を価値あるものにしようという意識を持っていると、仕事って結構楽しくなると思うんです。

お互いの命を使っているんだから、いい時間にして、いい仕事したいよね、ということから生産性の話を始めたらいいんじゃないですかね? 誰もが自分の命を無駄にしたいなんて思ってないはずなんですから。

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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