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INTERVIEW
人生100年時代のエンジン「好奇心」をいつまでも絶やさない人になるには?
INTERVIEW

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BOOK MARK

人生100年」――。仮に60歳で定年退職しても、その後の人生が40年近く続くことを考えると、「第二の人生は悠々自適の生活」なんて、もはや幻想なのかもしれません。では、これからの時代の「ロールモデル」とはどのような像になっていくのでしょうか。

そんな課題意識から今回取材したのは、阿部潔さん、67歳。2010年にソニーを定年退職後、現在まで若い起業家が集い、最先端の機材でモノづくりをするためのコワーキングスペース「DMM.make AKIBA」で技術顧問として活躍。長年の回路設計などモノづくりの経験を生かしながら、今は若い起業家たちをサポートし、ワークショップの運営も行っています。

いつまでも「働くこと」を前向きに楽しんでいるように見える阿部さんですが、今の働き方は「思いがけなかった」そう。これまで築いてきた幸せなキャリアにはどんな出会いやきっかけがあったのでしょうか。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

PROFILE

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔
阿部潔
DMM.make AKIBA テック技術顧問
1974年秋田大学鉱山学部燃料化学科を卒業。1974年東北ムネカタ株式会社に入社、パナソニックブランドの家庭用オーディオ設計に従事。1977年ソニー株式会社に入社、最初の3年はオーディオ事業部でFMチューナー回路設計、後の30年はパソコン関連事業に従事。2010年同社を定年退職。2011年日本ディックス株式会社に入社、顧問としてアドバイス。2014年株式会社DMM.comに入社、.make事業部DMM.make AKIBAにてベンチャーのタマゴの皆さんの相談相手と電子工作教室の計画から講師までを担当。

「年寄りでもいいですか?」きっかけは学生バイトへの応募

―阿部さんは現在、どういった業務に携わっていらっしゃるのですか。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

このDMM.make AKIBAで技術顧問として、入居されているハードウェアスタートアップの会員のみなさんに技術支援を行っています。

会員の方から設計や仕様についての質問や相談を受けたり、危なっかしい作業をしている人には「これだとケガしちゃうよ」なんて、声をかけたり・・・お若い方も多いので、アイデア先行でつい、安全性が不十分なこともあるんですよね。ACアダプタなんか、安いものを使おうとしていると、日本の安全規格に適合していないものもあって。最低限、PSEマークがついているものを使おうとか、いろいろとアドバイスしています。

ただ、ずっと相談を受けているわけではないので、それ以外の時間はDMM.make AKIBAで開催するワークショップの企画や準備、試作などを行っています。真空管ヘッドフォンアンプの制作や、「フリスクのケースでヘッドフォンアンプを作る」なんていうのも人気なんですよ。

フリスクのケースで作ったヘッドフォンアンプ
フリスクのケースで作ったヘッドフォンアンプ

―阿部さんはもともとソニーへ入社されて、オーディオ事業部に勤めていらっしゃったんですよね。

入社して最初の3年だけでしたけどね。小さいころから電気工作に熱中して、「電気の力で、勝手に機械が動く」というのが大好きだったんです。それからトランジスタラジオを自作するようになって、オーディオマニアになって、ソニーに入社したわけですけど、オーディオというのはどうしても「お金の勝負」になるんです(笑)。ケーブル1本で数万円するものもありますから。そんなとき、社内報で「新規事業人材募集」の知らせを見つけたんです。それが、パソコン事業部の立ち上げでした。

それからは退職まで、パソコン事業部門や関連部署に勤めて、電子回路の設計などさまざまな業務に携わりました。最初は8ビットのパソコンを作っていましたけど、どんどん技術も進化して、部署の名前も「VAIO事業本部」に変わりましたね。

―まさにパソコンの進化を間近で見てこられたのですね。長年勤めたソニーを定年退職するときは、感慨深かったのでは?

いや、それがあまり自分の生活が大きく変わる、という感じでもなかったので、そこまでの感慨はなかったんです(笑)。

定年の5年くらい前から、人事部との面談でも「社外にはソニーの技術を求めている方も大勢いるので、退職後もぜひ活用してくださいね」と言われていましたし、定年退職した後、早期退職した同僚から「品モノラボ」に誘われたんです。品モノラボには、ソニーの現役社員や退職者だけでなく、職場も近いコクヨの社員さんや近隣の企業で活躍されている方々、学生さんたちなど、「ものづくりが好き」な人たちが集まっていて、それぞれ好きなものを作って、飲みながら自慢し合うような、そんな活動をしていたんです。

そうやって、メイカーフェアに出展したり、新しい電子回路の情報交換をしているうちに、Facebookを通じて、同じ興味を持った友人が増えてきました。そこで知り合った友人がソニーの本社に「クリエイティブラウンジ」というファブスペースを作ったので、退職後はそこに入り浸って工作するようになりました。

メイカーフェアに出展する阿部さん
メイカーフェアに出展する阿部さん

―そういったつながりから、DMM.make AKIBAで働くことになったのですか。

最初はバイトのつもりだったんですよ。知人が「新しくDMM.make AKIBAという拠点ができるので、手伝ってくれる学生アルバイトを募集します」と、Facebookに書き込んでいたんです。それで、「年寄りだけど、応募していいですか?」とコメントしたんです(笑)。暇ですから、夜勤もできますよ、と、気軽な気持ちで応募しました。それで面接したら、「ぜひ、顧問に」ということで、思いがけない申し出でしたね。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

若い人と教え合う「新しいことを敬遠するほうが馴染まない」

―定年退職して、アルバイトでも・・・と考えていたところが、技術顧問に就任。さぞや、使命感にあふれていたのでは?

いえいえ、そんな大げさなものではありませんよ。ただ、DMM.make AKIBAに来てみると、それこそ大企業並みにすばらしい設備や機械が揃っているのに、「箱から出しただけ」みたいな感じで置かれた状態だったんです。それをきちんと使えるように整備するところから、私の仕事が始まりました。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

―DMM.make AKIBAには若い起業家や技術者の方が集まっています。それこそ親子以上に歳が離れていることもあるかと思いますが、どんな対話を心がけていますか。

会員さんによって、それぞれ取り組んでいるものも違って、メイカーフェアへ出展する人もいれば、Kickstarterで出資者に配る製品を制作したり、その製品をAmazon経由でより多くの方に販売する、という会社もあります。そうするとやはり、どこまで製品評価を行うのかが重要になってくるわけです。

なんらかの形で製品を世の中に発表して、企業として採算がとれるように彼らは取り組んでいますから、すぐに壊れてしまったり、火事になって責任を問われたりするようなことがあってはならない。その点、私の経験として、どんなところに気をつけるべきか、何を優先すべきか、時には細かくアドバイスしています。

それでもみなさん、「あ、それは気づきませんでした」「うっかりしていました」と、素直に受け止めてくれます。そもそも、今はネットのおかげで基本的な知識のレベルが上がってきていますし、最先端の知識という点では、若い方には絶対にかないません。それぞれに得意分野もありますし、お互いの知識や経験を踏まえて、歳は関係なく、必要に応じて相談したり、教え合ったりしています

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

若い人にはむしろ毎日刺激をいただいていますよ。「え、こんなことができるようになったの?」と、新しい技術を教えてもらっている。技術の進歩は早いですね。それは、ソニーにいたころから肌身で感じているんですよ。たかだか40年、50年くらいで、デジタルの世界は大きく発達しましたから。

VAIO事業部門にいたころも、半導体メーカーから主要回路の方向性について、たびたびプレゼンをいただいて、情報共有をしていました。その方向性に基づいて、私たちはパソコンを設計することになるのです。ですから、仕事には常に最先端の情報が不可欠でした。「新しいことはよく分からない」と敬遠するほうが、私には馴染みませんね。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

―阿部さんの若い人との接し方はとてもフラットな気がします。何かコツはあるのでしょうか。

私の場合、ある種環境に恵まれていた部分はあったと思うんです。VAIOを立ち上げるときにもそんなことがあって、それこそ年上から若手まで、ビデオやハンディカムの事業部や液晶テレビの事業部など、さまざまな部署から技術者を集めたんです。

あるとき、年上のトップエンジニアがこう言うんです。「いやぁ、若いやつらにはかなわないよなぁ、阿部さん」と。いや、まだまだ高い技術をお持ちじゃないですか、と声をかけると、「そうは言っても、これまで使ってた電子部品は5mm角だったけど、今度のは1mm角だろ? それじゃもう、眼が見えないよ!」と、笑ってね。これはもう、物理的にどうしようもないですから、かないませんよね。

それと、ソニーでは全員「さん」づけで呼び合うんですよ。盛田名誉会長だって「盛田さん」でしたから。ソニーにいた30年間、いろんな部署を経験しましたけど、どこへ行っても「○○さん」と呼び合った。意外と大きな影響があったかもしれませんね。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

それと、ソニーで慕われていた上司を思い出すと、だいたいどこか抜けているところがあるんです。ファッションがちぐはぐだったり、あまり人が関心を寄せないことに関心があったり・・・なんでもいいんですよ。ただ、マネジメントはしっかりしていて、締めるところは締めている。厳しい面があっても、どこか抜けている人なら、憎めないじゃないですか。

私もよく、ダジャレを言うんですよ。こないだ、海外からお客様が来られたので、英語でご案内していたんですけど、「私は顧問というより、“common use(コモンユース)”なんです。だから、なんでもやりますよ」と(笑)。

いつまでも尽きない好奇心は「不純な動機」から生まれるもの

―若い人との接し方もそうですし、それだけ好奇心を持ち続けられる源泉はどこにあるのでしょうか。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

それは、もうちょっと切実というか、先輩から「何もしないでゴロゴロしてると、ボケるからね」と聞きますし、そうなってしまうのは本意ではないな、と。確かに、私より上の世代には、「定年後に海外移住して、悠々自適で暮らす」という人もいたようですが、私自身としては、定年まで長年働かせてもらって、そこで得た知識を社会に還元しない手はない、と考えているんです。でもそんなに大そうなことをしようと思っているわけではありません。

ワークショップで教えるのも、そんなに難しい内容ではありませんけど、そこで実際に何かを作ることで、基本的な工具の使い方だけでも覚えて帰ってもらう。そうすると、その後、またここに来てくれたときに、彼らのスキルが格段に上がっているんですよ。そんな様子を見ていると、あぁ、少しでも役立てているのかな、とうれしくなります。

阿部さんが運営するワークショップの様子
阿部さんが運営するワークショップの様子

そういう心持ちというのも、ソニー時代の環境によるところが大きいかもしれませんね。同僚にもなんだか「変な人」が多かった。真冬でもアロハシャツを着ている人や、ことあるごとに「表に出ろ!」とケンカっ早い人とか・・・(笑)。なんでだろうって今振り返ると、普通のことをやっても市場を取れなかったから。私たちが作る商品は、「えっ、そんなことをやっちゃうの?」と思われかねないような突飛な発想から生まれてきたんです。

ソニーは、基本的に「ミーハー」なんですよ。パナソニックさんみたいに冷蔵庫とか洗濯機とか、「なくてはならないもの」を作ってきた会社ではありません。確か、盛田(昭夫 ソニー創業者)名誉会長(当時)さんがおっしゃっていましたけど、「我々は、なくてもいいけどいいものを作るんだ」って。ウォークマンなんてまさにそんな製品でしたからね。恋人同士でイヤフォンで同じ曲を聴くだなんて「チャラい」でしょう(笑)。

盛田さんも「ミーハー」な人で、いくつになってもスキーやテニスに興じたり、スキューバダイビングに挑戦したりして、好奇心豊かな人でした。それが社風にも反映されていたように感じます。

まぁでも、人間の動機なんて、不純なものですよ。好奇心だって、ある種そんなものだと思うんです。技術が発展してきたのだって、「歩くのが面倒くさい」というところから始まって、馬に乗ろう。何人も乗りたいから、馬車にしよう。そうすると馬が疲れちゃうから、電車ができて、車ができて・・・と連綿と続いてきた。

いつまでもミーハーでいることは、自分の成長にもつながると思うんです。モノづくりでいうと、ラズベリーパイが流行っているけど、いくつになっても「俺もラズパイでこんなの作ったぜ」と自慢したいがために、最先端の技術を勉強しようと思える。最先端のものって、やっぱり面白いんです。

阿部さんがラズベリーパイで制作したプロダクト
阿部さんがラズベリーパイで制作したプロダクト

別に、モノづくりに限らなくてもいい。「株式取引で少しでも儲けたい」みたいな動機でかまいません。すると、今、勢いのある企業はどこか・・・メルカリか。IPOするけど、どんな事業戦略を持っているんだろう・・・と、調べようと思えば今はどんどん調べられます。そうやって新しいことを知ると、若い人との会話も楽しくなりますよね。

仕事で行き詰まったら、いつもと違うところへランチを食べに行ってみる。いつもハイボールを飲んでいるなら、試しにワインを飲んでみる。いつもはやらないことを、ちょっとでもいいからやってみる。ほんの少し冒険してみて、だんだん大きなチャレンジにしてみるといいんじゃないでしょうか。いや、食欲までなくなった時は、もう本当におしまいですよ(笑)。ぜひ、そうなる前に、新しいことを。

DMM.make AKIBA テック技術顧問 阿部潔

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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