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INTERVIEW
オープンイノベーションのカギ、良い「集合知」はどうすれば生み出せるか?
INTERVIEW

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BOOK MARK

メーカーにかかわらず、多くの大企業が取り組み始めている「オープンイノベーション」。企業主導でコワーキングスペースを作ったり、スタートアップとのコラボレーションを進めたりする事例が増えています。

では、社会や企業の課題解決や新しい価値の創出につながるイノベーションを生むような「集合知」を作り出すにはどうすればよいのでしょうか。そのためにチームのリーダーがすべきこととはーー。

集合知の研究を手がかりに、「野生の研究者」が主役となった「ニコニコ学会β」を発足し、現在も共創プラットフォームの研究を続ける産業技術総合研究所主任研究員・江渡浩一郎さんに、「集合知」についてお話を伺いました。

メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β交流協会会長 江渡浩一郎

PROFILE

メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β交流協会会長 江渡浩一郎
江渡浩一郎
メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β交流協会会長
1997年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。在学中よりメディアアーティストとしてネットワークを使ったアート作品を発表する。2010年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。2011年ニコニコ学会βを設立。ニコニコ学会βは2012年にグッドデザイン賞、2013年にアルス・エレクトロニカ賞を受賞するなど高い評価を受ける。2017年に文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)受賞。産総研では「利用者参画によるサービスの構築・運用」をテーマに研究を続ける

集合知が生まれる仕組みはネットもリアルも変わらない

—江渡さんが集合知の研究からニコニコ学会βを立ち上げるに至った経緯をお教えいただけますか。

インターネット上の集合知というのは、ユーザーがブログやWiki(※システム)など媒体に集い、投稿や編集をすることで形成されます。僕はそれら集合知が作られる過程を研究するため、自分でシステムを作り、ユーザーに使ってもらって、どうすれば彼らの活動を促進できるのかを調べてきたわけです。

その中で分かってきたのが、技術的なことよりも、人がシステムを使ってどう感じるのか、考えるのかという高次元の設計思想が重要だということ。特に僕が注目していたのはWikiだったわけですが、これは建築家・都市計画家のクリストファー・アレグザンダーによって考案された「パタン・ランゲージ」に端を発するものです。

詳細は『パターン、Wiki、XP ―― 時を超えた創造の原則』に書きましたが、コンピュータにかぎらず、都市、建造物、コミュニティ・・・人間社会はすべて、さまざまな人が集まり、一つのものを作り上げるという仕組みで成り立っています。そこで機能するのが、ユーザー自らパターンを考え、収集し、パタン・ランゲージを形成するという発想です。

では、そのネットにおける集合知の研究を経て、自分なりに身につけた手法を、実際に人が集まる場・・・現実空間に適用するとどうなるだろうか、そう考え、2011年に始めたのが「ニコニコ学会β」です。

ニコニコ学会βシンポジウムの様子(撮影:石澤ヨージ)
ニコニコ学会βシンポジウムの様子(撮影:石澤ヨージ)

背景には、「インターネット時代における新しい学会」のあり方があります。どのようなテクノロジーを活用すれば学会のあり方にイノベーションを生み出せるだろうかーー。でも、「イノベーション」ってそもそも曖昧なものですよね。何がどうなればイノベーションが起きたことになるのか、ということは一様には語れない。

僕自身、メディアアートの文脈からアーティストとして活動してきた経緯もあって、正体がはっきりとしないテクノロジーに惹かれるところがあるんです。そこで、ニコニコ動画というプラットフォームに着目しました。

僕たちは「野生の研究者」と呼んでいますが、組織にとらわれることなく、自分自身の興味関心の赴くまま、研究に没頭し、そこでの発見をニコニコ動画という場で共有している人たちがいるんです。そのような人たちを横につなぐ場を作ることで、イノベーションが起こるのではないかと考えたのです。

メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β交流協会会長 江渡浩一郎

—「野生の研究者」とは、言い得て妙だなと感じました。

実を言うと私自身、ニコニコ学会βを始める前から野生の研究者とコラボレーションして研究を行っていました。研究とさえ思われていないような領域で新しいものを作っている人たちと交流をして、そこからイノベーションに関する考えを深めてきたのです。そのような「領域を超える発想」は、既存の研究所からはなかなか出てきません。

これまでも野生の研究者という言葉こそありませんでしたが、実はそれに類するような人たちが歴史を切り拓いてきた経緯もあります。例えば、「WWW(World Wide Web)」を考案したティム・バーナーズ=リーは、CERN(欧州原子核研究機構)に所属していましたが、何かテーマを与えられてシステムを構築したのではなく、あくまで個人として発案したわけです。それが、所内の情報共有システムという次元をはるかに超え、全世界をつなぐ情報共有システム WWWとして世界に広がっていきました。

野生の研究者というと、「研究機関に所属していない人」と捉えられがちですが、重要なのは所属云々ではなく、組織の中では受け入れられない早すぎるアイデアや研究を扱っていること。ニコニコ学会βという紹介の場を作ることでなるべく多くの人に見てもらい、さまざまな理解者や組織と結びつけ、可能性を広げていこうと考えたのです。

「仕込みiPhone」で知られる森翔太氏もニコニコ学会βで発表(撮影:石澤ヨージ)
「仕込みiPhone」で知られる森翔太氏もニコニコ学会βで発表(撮影:石澤ヨージ)

ニコニコ学会βはニコニコ動画というプラットフォームを使い、「面白い」という雰囲気を醸成したことで話題となり、理解者の母数が増え、可能性がさらに広がっていきました。

ニコニコ学会βでは科学の面白さを一般の人にも伝えることにフォーカスしていましたが、昨年いったん終了し、現在は「ニコニコ学会β交流協会」という形で、野生の研究者の交流の場を作ることを継続しています。

人を刺激し、集合知へと向かわせるのは論理よりも「熱量」

—ニコニコ学会βで良い集合知を生み出すため、意識されていたことはありますか。

ニコニコ学会βはアルス・エレクトロニカの栄誉賞を受賞したり、いろんな方々にお褒めいただいたりすることも多かったのですが、自分自身の主たる活動にもかかわらず、最近になるまでその意味がよく分かっていなかったんです。実を言うと自分では「普通に」やっていたつもりなんです。でもその「普通」が他の人と違ったんですよね。

それは、聴衆に良いプレゼンテーションを届けるために全力を尽くすということ。どの主催者も自分のイベントを作るために全力を尽くすと思いますが、そこでよく起こりがちなのが、登壇者に気を遣いすぎること。とにかく偉い先生が気持ちよく発表できるようにと、お客さま扱いしてしまうんですよね。

本当にお客さま扱いしなくてはいけないのは、聴衆なんですよ。登壇者と主催者は、聴衆にすばらしいプレゼンテーションを提供するためのコラボレーターであり、協力者なんです。きちんとその目的を明確にして、登壇者には「それに協力してください」と依頼するということ。ニコニコ学会βではあまりにお客さま扱いしなさすぎて申し訳ないくらいでした。

登壇者にかぎらず聴衆もそうで、本来であれば登壇者になってもおかしくない第一線で活躍する研究者が普通に参加者として混ざっていたりしていました。登壇しているか、していないかの境界線が曖昧になるんです。参加者が次回の登壇者になることもよくありました。

ニコニコ学会βシンポジウムでのセッション(撮影:石澤ヨージ)
ニコニコ学会βシンポジウムでのセッション(撮影:石澤ヨージ)

—それぞれバックボーンの異なる方々が一堂に会すわけですから、目的を明確にし、共有することが重要なのですね。プロトコルを合わせるようなことは意識されていましたか。

プロトコルを合わせるという意味では、初回のニコニコ学会βが重要でした。まず、独特の言い回しをいくつも新しく作ったんです。「野生の研究者」もそうですし、企画名の「研究100連発」もそう。「え、どういうことですか?」となりますよね。

そして、そのように初回のニコニコ学会βを成功させた後は、動画を見せて説明します。「15分間でご自身の研究を20個発表してください。他の登壇者も合わせて5名で、計100個の研究発表となります。詳しくはこの動画を観てください」とニコ動のリンクを貼る。

ニコニコ学会βの人気企画「研究100連発」(撮影:石澤ヨージ)
ニコニコ学会βの人気企画「研究100連発」(撮影:石澤ヨージ)

すると、その場の空気感・・・ものすごい「熱量」として伝わります。いつものシンポジウムとはまったく違うし、ただ「ニコニコ動画を運営するドワンゴの学会」でもない。新しい概念を伝えるには、そのように動画で見せて伝えるしかないのです。

そして、次回登壇してほしいと思っている人に、聴衆として来てもらう。お客さんとして来てもらった上で現場で説明すると、何をしているのか、どんな意図を持っているのかも伝わって、スムーズに進められますよね。

—確かに、熱量を感じられるほどの研究発表の場、というのはなかなかありませんよね。

ニコニコ学会βで、藤堂高行くんという人がAKB48の柏木由紀さん似のアイドル型ロボットを発表したのですが、プレゼンテーションではあたかもそのロボットと会話しているように発表したんですよ。するとトラブルが起きて動かなくなってしまって。

柏木由紀さん似のアイドル型ロボットを披露する藤堂高行さん(撮影:石澤ヨージ)
柏木由紀さん似のアイドル型ロボットを披露する藤堂高行さん(撮影:石澤ヨージ)

そうすると「ゆきりん、動かなくなっちゃったの?」と話して、大爆笑が起きたんです。プレゼンテーションとしては失敗なんだけど、それがニコニコ学会βのハイライトの一つになったんですよね。「あのとき、面白かったよね」とその後も話題に上がって。

「面白い」というとなんだか瑣末に感じられるかもしれないけど、つまりそれは行動経済学のダニエル・カーネマンによる『ファスト&スロー』で言うところの「システム1」、つまり「直感的思考」にあたるわけです。

よく人を巻き込もうとする際、論理、ロジックで語ろうと考える人はいるけれど、人間は結局は動物であり、その判断の前提となるのはシステム1によるものなんです。笑ったり、面白いと感じたり、つまり「感情が動いた」という事実ほど、原動力として強いものはないんです。

もちろん、人間の意思決定には「システム2(論理的な熟慮)」も存在しているけれど、実を言うとその前提がシステム1によって決められている、ということ。熱量を感じることで生じる動物的な判断を甘く見てはいけなくて、それこそが論理的な判断の「暗黙の前提」になっているんです。

リーダーが問われる、集合知の芽が出るまで育て続ける「覚悟」

—ニコニコ学会βのような共創プラットフォームのノウハウを、会社組織に適応してみるとうまく機能するでしょうか。

正直に言うと、僕はそういった明解な組織に属して成果を出したことがありませんので、お役に立てられるか自信がないのですが・・・今、「オープンイノベーション」がキーワードとなり、いたるところでアイデアソンやハッカソンが行われてますね。でも、そんなに簡単に成果が出るわけではありませんよね。継続して実施されるケースや、見える成果につながるケースは少ない。

もちろん、そういうことをやりたい気持ちは分かります。「他の企業もやっているから」ですよね。確かに、他の組織や一般の人を巻き込んでワークショップやハッカソンを行うことは悪いことではないけど、それを成果につなげるには、運営者が「工夫」しなければならないと思うんです。

そのために重要なのは、生まれたばかりのアイデアは「みすぼらしい」ということを理解すること。ハッカソンにかぎらず、新規事業全般も含めて、これまでの既存の枠で考えて評価すれば芽が出ないのは当たり前なんです。重要なのは「違いを作り出す」ことで、その違いは最初はパッと見ても分からないくらい、小さな違いなんですよ。

比喩的な説明になりますが、「植物」と一言で表すとみんな一緒に思えるけど、「草」と「木」って根本的に違うものですよね。でも、芽が出たときにはそれが草か木かはよく分からない。雑草と間違えて、全部刈り取ってしまうかもしれない。1年経ってようやく草か木か分かる。木だと分かったら、きちんと植木鉢に植え替えて成長するようにしなければならない。

メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β交流協会会長 江渡浩一郎

イノベーションってなんだかよく分からないものなんですよね。それがはっきり分かるんだったら、みんな大儲けできますよ(笑)

でも非常に難しいのは、ハイプ曲線というものがありますけど、あるとき世の中が大きく変わって、以前は非現実的だったものが急に現実的になることがある。環境変化によってそれまで細々と続けてきた活動が急に大きな利益につながることもあるんですね。それまで育て続ける覚悟がリーダーにあるか、ということです。

良い集合知の前提にあるのは、良い「単独知」

—会社組織に目を向けると、同じ会社の中ではどうしても同質性が高く、良い集合知を生み出すことが難しい気がします。その中でどのような取り組みが手がかりとなるでしょうか。

目的設定は大事ですよね。何を改善したいのか、何が課題なのかはっきりしなければ、士気も上がらないし活発な参加は生まれない。

非常に良い例だと思ったのは、アニメ制作会社のピクサーが行っている「ノーツ・デイ」というもの。ざっくり言うと会社の未来を考える場です。「これを解決したい」という課題を設定して、それについて話し合う議論の場。

最初のノーツ・デイで出されたテーマは「経費削減」。現状、1本の映画につき「2万2000人週」の経費がかかっているのを、1本「1万8500人週」以下に減らしたい。つまり、コストを10%削減したい。こんなふうに極めて具体的な目標を設定したところ、技術から会社の環境まで、ありとあらゆるテーマに関する反応が社員から返ってきたんです。

このノーツ・デーが成功した理由は、なによりもトップが本気であることを示したこと。イベントの冒頭で、制作チームのチーフであるジョン・ラセターが発言したのですが、それはイベントに先立って受け取っていた数々のコメント、中には批判も含まれますが、それを卒直に受け止めたということ。

そんなふうに批判も含めて受け止めて、率直に言い合う場を作る。それをトップが率先することで、「会社に対して自分が貢献できる」と感じられる場を作ることができるわけです。

—これからのオープンイノベーションにつながる集合知は、どのようなものだと考えますか。

メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β交流協会会長 江渡浩一郎

イノベーションって、「起きる」ものなんですよ。「起こす」ものではなくて。あくまでも重要なのは、イノベーションの芽を摘まないこと。なにかが起きようとしたときに、止めるという行為をしないだけで、いくらでも活動は湧いて出てくるはずです。まずはそうやってたくさんの活動が生まれてくる環境を作ることが重要だと思います。

それと、集合知は前提として「単独知」が重要なんです。その場の思いつきを持ち寄ってもアイデアは発展しない。一人ひとりが真剣に考えているもの、それを共有するからこそ意味のあるものになる。

そして、重要なのはやはり「熱量」。イノベーションは事前には正しいかどうかなんて分からない。でも分かるのは、その人にとって重要かどうかということ。熱っぽく語っている人に、人は惹かれるじゃないですか。そういう人が引っぱっていくことで、最終的には活動が大きなものになります。熱量って、人から人へ感染するんです。熱量が高い人のところに近づくと、一定レベルにまで引き上げられて、それがさらに広がっていく。

現代は、「椅子に座ってパソコンを叩くのが仕事」と誤解されているところがありますよね。でも本当に重要なのは、物事を動かすことで、そのためには自分自身も活発に動き回らないといけない。自分の感情を大事にして、自分から直接人に会いに行ったり、考えていることを熱っぽく語ったりする。それが、動物的な判断、つまりシステム1や直感的思考につながる。それが、実はイノベーションにとって一番重要なことなんじゃないかと思うんです。

メディアアーティスト・国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員・ニコニコ学会β実行委員長 江渡浩一郎

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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