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INTERVIEW
サブスク化できない企業は衰退する。時価総額10倍、モチベーションクラウドに学ぶ成功の秘訣
INTERVIEW

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BOOK MARK

近年、Office365やAdobe Creative Cloudなどのクラウドサービス、NetflixやSpotifyといったストリーミングサービスの台頭で、定額課金制の「サブスクリプションモデル」が注目を集めています。

従来のように「プロダクトやサービスを売って終わり」ではなく、「売ってからが始まり」。新規顧客を獲得して、継続的に利用してもらえるようサービスを改善、拡充し、顧客満足度を維持することで、市場シェアを伸ばし、安定的に収益を得ることができるビジネスモデルです。

「サブスクモデルを導入したい」と考える経営者がいる一方で、これまでフロー型ビジネスで収益を上げてきた企業、テクノロジーの活用度が低い企業からは、どうやって始めたらいいのか、そもそも長期的に顧客との関係性を維持するためには何が重要か・・・と戸惑いの声も聞かれます。

そこで今回は、株式会社リンクアンドモチベーションで2016年に組織開発クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ、自社株の時価総額が10倍にアップと大きな成果を上げている取締役の麻野耕司さんに、サブスクモデル成功の秘訣や、そのために必要な組織変革などについて伺います。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

PROFILE

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司
麻野耕司
株式会社リンクアンドモチベーション 取締役
慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織変革コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。同社最大の事業へと成長させる。2013年には成長ベンチャー企業向け投資事業を立ち上げ、自らも複数の投資先企業の社外取締役、アドバイザーを務める。2016年、組織開発クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。2018年より現職。著書に『すべての組織は変えられる~好調な企業はなぜ『ヒト』に投資するのか~』(PHPビジネス新書)『THE TEAM 5つの法則』(NewsPicks Book)

サブスクモデル導入で自社株の時価総額は「10倍」に

―それまで組織変革コンサルティングを手がけていた貴社が、「モチベーションクラウド」というサブスクモデルの新事業を立ち上げたのはどんな背景があったのでしょうか。

モチベーションクラウドに限らず、新規事業を立ち上げる時に考えていることは二つあって、一つは市場におけるポジショニングをどうすべきか、そしてもう一つは事業モデルをどうするか、ということです

その二点でいうと、どちらかといえばモチベーションクラウドは市場におけるポジショニングから考えました。そして、顧客に対してどんな価値を提供すべきかと考えていくと、組織変革に携わる中で感じたは、定量指標という「物差し」の重要性でした。

例えば、個人レベルで考えると、ダイエットをするためにはもちろん、エクササイズとかサプリとか、手段はさまざまあると思いますが、そもそも体重計に乗らずに成功した人はほとんどいませんよね。体重を知ってPDCAサイクルを回すことで、目標体重を達成することができる。受験勉強するにしても、模試を受けずに合格する人はいないはずです。いい学習方法や記憶術を試す以前に、まずは偏差値を知って、PDCAを回すわけです。

当然、ビジネスにおいても同様です。企業の経営指標としては、BSとかPL、CFとかさまざまな指標がありますが、組織に関しては何も指標を持たず、勘や経験でマネジメントを進めているというのは、健全な状態ではありません。これまで何か指標があるとすれば、従業員満足度だったんでしょうけど適切に調査して、活用されているかどうかと考えると、正直なところ疑問符がつく。適切な定量指標を提供しているプレーヤーが市場にいなかったんです。

こういった背景もあり、モチベーションクラウドでは従業員の期待度と満足度を把握することで「エンゲージメントスコア」を算出し、組織の定量指標としてPDCAを回せるようなサービスを提供できないかと考えたのです。

エンゲージメントスコア(イメージ)
エンゲージメントスコア(イメージ)

そしてどんな事業モデルにするかと考えたとき、PLのようにずっと企業に使ってもらえるようなビジネスにしたかったので、必然的にサブスクリプションモデル(以下、サブスクモデル)を選択することになりました。定期的に課金していただいて、使い続けてもらえるような事業モデルがいいだろう、と。

今でこそ、サブスクモデルのSaaSアプリは数多くありますが、2016年時点で組織開発の分野に導入したのは日本初だったと思います。現在では10人未満のスタートアップから数万人を超える大企業まで、4000社を超える企業に導入していただき、そこで働く100万人以上のモチベーションに関するデータが蓄積されています。

―サブスクモデルを導入したことで、どんなメリットがありましたか。

分かりやすいところで言うと、モチベーションクラウドのリリース以降、自社株の時価総額は約10倍になりました。当然、見える景色は大きく変わりましたよね。自社の収益も大幅に安定します。

ただ、自社に限らず、サブスクモデルはすべてのステークホルダーにメリットがあるんです。投資家にとっては、企業にサブスクによる継続収入があるため、ある程度収益の見込みがつきやすく、投資対象としてハズレがない。顧客にとっては、システム導入のリスクが軽減されるため、「試しに導入してみよう」と意思決定しやすい。

これまで、日本企業の多くがシステム導入する際、オンプレミス(自社運用)でシステム構築していましたが、それこそボタン一つ増やすのに100万円掛かったり、そのコストを自社で全部抱えたりしなくてはならなかった。それが、サブスクモデルのSaaSアプリなら、少額投資からスタートできるのです。

売り手側としても、短期間で解約されてしまうとコストを回収できないため、できる限り顧客本位のサービスを提供するようになり、それが顧客満足にもつながります。非常に合理的な事業モデルですよね。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

―サブスクモデルを軌道に乗せるには、どんな指標を追っていけばいいのでしょうか。

サブスクモデルで売上見込みを算出するなら、継続率×新規顧客獲得数×商品単価」という方程式になりますが、優先順位としてもこの順序になります。

施策としては、顧客満足を高めて継続率を上げるためにカスタマーサポートを充実させたり、新規顧客獲得のためにセールスマーケティングに投資したり、段階的にオプションを用意して、アップセル(顧客単価向上)できるようなプロダクト設計にするといったことが考えられます。

それと非常に重要なのは、チャーンレート(解約率)をいかに低く保つか、ということです。仮に平均単価を月額20万円とすると、年間継続して使ってもらう率が95%か90%になるか、あるいは80%になるかで10億円単位で売上が変わります。目の前の1000万円を追うよりも、継続率を1%上げることが重要なのです。おそらくこの点は、これまでフロー型ビジネスをしていた人からすると、大きく意識を変えざるを得ない部分でしょう。

―モチベーションクラウドの指標としては、どんな状況ですか。

2016年7月のローンチから2年半経ちますが、おそらく他のSaaSと比較してもかなり高い継続率になっていると思います。解約率もかなり低いです。アップセルについても、社員数や部署が増えるなどして、既存顧客だけでもビジネスが成長しています。フェーズとしては、さらなる新規顧客獲得に向けて、テレビCMなどマスマーケティングに積極投資している状況です。

サブスクには多様な人材が必要、まとめあげた「チームの法則」

―なぜ今、多くの企業がサブスクモデルを導入しているのでしょうか。

確かに多くの企業が次々と導入していますが、サブスクリプションのすばらしさは、時代を超えていると思うんです。実は、僕らがベンチマークしている企業の一つが、セコムなんです。

セコムは1960年代に「SPアラーム」というセンサー式の警備装置を開発したのですが、創業者の飯田亮さんがはじめから「売り切りではなくリースにする」と決めたのです。売り切ってしまうと、顧客満足をおろそかにしてしまうから、リースにして継続的にお客さまとやり取りをしていこう、と。

「安全をお金で買う」という意識すらなかった時代に日本初の警備会社として発足し、BtoBのガードマン派遣をはじめ、セキュリティーシステムを開発し、BtoCのホームセキュリティーサービスを展開し、時価総額2兆円を超える一大企業となった。まさに「安全を産業にした」のです。

僕らも「モチベーションがビジネスになるはずがない」というところからのスタートなので、セコムのことは本当にリスペクトしています。

それに世の中の大きな流れとして、フロー型ビジネスは少しずつ衰退し、サブスクに取って代わっていくでしょう。マイクロソフトやAdobeですら、過去のあれだけの成功体験を捨てて、サブスクモデルを導入し、再び成功を掴んだわけです。

それこそ企業の生死を分かつというか、サブスクモデルに転換しなければ、市場での生き残りはますます厳しくなっていくのではないでしょうか。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

―SaaSアプリというまったく新しい事業を始めるにあたって、どんなことから始めたのでしょうか。

そもそも、社内の温度感がまったく違いましたよね。最初に役員会議で提案したときには、かなり懐疑的というか、「そんなのいる?」みたいな経営陣の反応があったのも確かです(苦笑)。当然、会社としては売上や利益を上げることを重要視していましたし、投資に積極的ではありませんでした。

まずは手元の人員からプロジェクトを立ち上げる、という感じで。けれども投資家が真っ先に反応してくれたんです。「サブスクモデルを導入するなら、ぜひ投資したい」と。外部から好意的に受け入れられたことで、経営陣も協力的に投資しようと方針転換してくれました。

―社内のリソースやノウハウも限られていたと思いますが、どのようにチームを編成していったのでしょうか。

これまでのビジネスでは、一人か二人のチームで一つのプロジェクトを遂行していたので、最初から最後まで一人で完遂できるようなバランスが取れた人材が必要でした。言ってしまえば、僕が100人いれば勝てるわけです。

けれどもモチベーションクラウドには、僕が100人いてもどうにもならない。プロダクトマネジャー、UI/UXデザイナー、エンジニア、インサイドセールス、フィールドセールス、コンサルタント、オペレーター、カスタマーサポートなど「多様な人材の掛け算」が必要となってきます。

これまで当社は新卒採用が基本でしたが、インターネットビジネスへの参入自体がはじめてだったので、既存メンバーをコアとしながらも、エンジニアを中心にどんどん中途人材を採用しました。それでも間に合わないので、パートナーとしてフリーランスのエンジニアやデザイナーなども含めて、チームを編成していきました。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

―これまでとはまったく違う職種の方を迎え入れることで、カルチャーギャップは生じませんでしたか。

これまでは近い属性のメンバーでしたから、そんなに気を遣わなくてもうまくいっていた部分もありました。けれどもやはり、中途のメンバーが加わったことで、連携不足で開発が滞るなど「阿吽の呼吸」とはいかなくなってきました。

そこで指針にしたのは、経営学や心理学、言語学、組織行動学など学術的な知見から編み出した「チームの法則」です。チームづくりにおいて重要なのは、次のAからEからなる「5つのポイント」です。

  • Aim(目標設定)
  • Boarding(人員選定)
  • Communication(意思疎通)
  • Decision(意思決定)
  • Engagement(共感創造)

僕らのチームが重点的に改善していったのは、Cのコミュニケーションでした。よく起こりがちなのは、「チームに気が合わない人がいる場合、どうすればいいか」という悩みですが、そもそも「自分と他人は分かり合える」という前提でモノごとを捉えすぎなのです。まったく同じ環境で育ってきた人なんていないわけですから、気が合う人なんていないと思ったほうがいい

すると、「違う中でも共通するものはなんだろう」と、健全な視点に立つことができます。はじめのうちは「なんで分かってくれないんだ」と衝突しがちだったのが、「違って当たり前だから、それを踏まえて話すこと」を徹底していくことで、格段に関係性は良くなってきました。

それと、Eのエンゲージメント。これは「チームを何によってモチベートするか」に関わってきますが、次の4つの要素(4P)が関わってきます。

  • Philosophy(理念・目的)
  • Profession(仕事・事業)
  • People(人材・風土)
  • Privilege(特権・待遇)

今は特にエンジニア不足なので、「エンジニアだけ年収が高い」みたいな会社もあるようですが、それは上記に当てはめると「Privilege」になりますね。けれども僕らはどの職種も、それぞれ欠かせない役割を果たしているので、エンジニアだけ特別待遇などはしていません。

そうではなく、「組織にモノサシを」「すべての組織が、これで変わる」といった、9つの「Philosophy」で人を惹きつけています。チームのみんなにとっては、モチベーションクラウドを通じて、社会をよりよくしていくことが大切なのです。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

目先の利益を求めるのではなく、長期的な視点でビジネスを動かす覚悟を

―サブスクモデルを成功させるために留意すべきなのはどんなことでしょうか。

とにかくフロー型ビジネスとはまったく経営方法が違うので、それを念頭に置くことに尽きますね。

フロー型ビジネスでは売上を伸ばし、利益を確保するためにコスト削減することが良しとされていますが、サブスクモデルの場合、初期段階は特に利益はまったく重要ではありません。むしろ利益が出過ぎていたら、先行投資ができていないということなので、失敗につながります。とにかく顧客の継続率を上げて、シェアトップさえとれたら、後からいくらでも利益を出すことはできる。発想の転換が重要です。

本気でサブスクをやろうとすると、PLの利益重視の視点から、継続率やLTV(ライフタイムバリュー、生涯顧客価値)へと経営指標をドラスティックに変えないといけません。これまで会社はPLで成功体験を積み重ねてきたなか、それこそ命がけの戦いをして、目先の利益や評価にとらわれることなく、中長期的にやるべきこと、必要とされることをやる胆力が求められるのです。

ですから、とにかく経営陣は腹を括らなければなりません。一部の株主からは目先の利益を求められるかもしれないけど、遅かれ早かれサブスクへシフトしなければ企業は生き残れない。経営陣が「利益もしっかり上げつつ、なんとかサブスクも売ってくれ」みたいな姿勢では、うまくいくはずがないのです。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

―そこで事業責任者に求められる役割やスキルはどういったものなのでしょうか。

一つはやはり、ビジョンを掲げることですね。目先の損得にとらわれず、中長期的にモノごとを動かし、ビジネスを大きく転換するために、自分自身や周囲も転換していかなくてはなりません。サブスクってもてはやされていますけど、正直長い戦いになりますし、根気がいるので、ビジョンなしでは力尽きてしまうんですよ。ビジネスを進めていくことによって、どんな未来を実現しようとしているのか。それをチーム全体で共有しておくことが重要です。

二つ目は、管理指標を細かく見ていくこと。それこそ、サービスサイトに訪問した人がいつ問い合わせボタンを押すのか、その違いだけで新規顧客獲得率が0.01%から0.1%に変わったりする。できるだけ細かく管理指標を設定して、それぞれ高速でPDCAを回す力は今まで以上に重要になってくるでしょう。

三つ目は、多様なメンバーを集めてチームを構成して、一人ひとりを理解すること。どれだけビジョンを掲げたとしても、自分のことを理解してくれない人の言葉なんて、まったく響かないじゃないですか。

「どうせエンジニアのことは分かってくれない」「カスタマーサポートを大事に思ってくれない」と思われたら最後ですから、苦労している人には寄り添いますし、感謝の思いは積極的に伝える。そうやって、相手の心情を理解して、チームとしてマネジメントしていくことが大切です。

もちろん、チームが大きくなると全部見るのは難しくなりますから、どれだけそれを理解しているリーダーを増やしていくか、というのは課題となります。

そして最後は、顧客を大切に思う気持ち。売り切り型なら繕えるようなことでも、長い付き合いとなると、企業本位な部分は絶対ににじみ出ますし、伝わってしまいます。本当に顧客本位のサービスやプロダクトを提供できているのか。インサイドセールスでしっかり並走して、カスタマーサポートでフォローできているのか。それをつぶさにマネジメントしていくことが大切です。

株式会社リンクアンドモチベーション 取締役 麻野耕司

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[取材・文] 大矢幸世 [撮影] 伊藤圭

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