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INTERVIEW
イノベーションを妨げる「無意識バイアス」を組織が克服するには? Facebookに学ぶ
INTERVIEW

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BOOK MARK

メディアやSNSで毎日のように話題になる「ダイバーシティ」をめぐる議論。政府は企業の女性管理職比率を2020年までに30%にする目標を掲げ、障がい者の法定雇用率は2.0%から2.2%に引き上げるなど、企業にダイバーシティを促す動きは揺らがないものとなってきています。

しかし、経営陣の全員あるいはほとんどが男性という会社は大企業にもベンチャーにも多く、依然として女性社員の登用が進まないことが現実としてあるように、なぜ表向きには「差別はない」にも関わらず、多様性に乏しいと言わざるを得ない事態が起こっているのでしょうか。

そこには、誰しもが持つ「無意識バイアス(Unconscious Bias)」が関係していると語るのは、フェイスブック ジャパンでダイバーシティ&インクルージョンを推進するKonomi Lackeさんです。

無意識バイアスは人の意思決定や判断にどんな影響をおよぼすか。そして、多様性豊かな組織を作ることがイノベーションの創出にどんな効果をもたらすのか。無意識バイアスとの「適切な付き合い方」について伺いました。

フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム Konomi Lacke

PROFILE

フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム Konomi Lacke
Konomi Lacke
フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム
獨協大学外国語学部卒業。2009年サイバー・コミュニケーションズ入社。2011年7月にFacebookの広告販売の日本立ち上げのコアメンバーとして、国内最大手の代理店に常駐し、販売と運用に従事。2013年11月からセプテーニ・アメリカにアカウントマネジャーとして、海外を基盤とするアプリデベロッパーの日本のユーザー獲得をサポート。2014年8月から現職。また、Diversityにパッションをもち、FacebookのDiversity & Inclusionのチームメンバーとして2年近く携わる。

これまで隠れていた差別意識が顕在化してきた

―Facebookではなぜ、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しているのでしょうか。

Facebook のミッションは「よりオープンでつながった世界を実現する(Making the world more open and connected)」から派生して、現在は「人と人がより身近になるような世界を実現する(Bring the world closer together)」というものになっています。そして、「人と人との関係性をサポートし、一人ひとりの声を拾い上げ、エンパワーメントする(Give people a voice and help people connect)」というコンセプトが根づいています。

ある意味、Facebookのサービス自体がそれ(ダイバーシティ&インクルージョン)を体現しているものと言えるかもしれません。投稿するにしても、ただ力のある人、お金がある人だけが投稿できるのではなく、あらゆる人がそのプラットフォームを使って、さまざまなことを発信することができます。みんなにそういった場をフェアに提供しているわけです。

そうした多様性を受け入れるようなサービスを社外へ提供するにあたって、画一的な社員だけでは成し遂げられません。さまざまな人種・性別・年代など多様な人材がアイデアを出し合うことで、プラットフォームを改善していくことができる。それが、ダイバーシティ&インクルージョンを推進している目的です。

Facebook

―昨今、ダイバーシティを推進する企業が少しずつ増えているのはどういった背景があるのでしょうか。

やはり、ダイバーシティを大切にしなければ、グローバルビジネスにおいてイノベーションや持続可能な成長は難しいと言わざるを得ません。また、日本においても労働者人口が減る一方で、女性の労働力を活用する必要がありますが、まだまだ女性比率の低い企業も数多くあります。多くの経営者にとって、いますぐに取り組むべき課題のひとつだと考えています。

―確かに、日本では2017年時点で、男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」が世界144カ国中114位と、未だ性差別があることは明らかです。一方で、シリコンバレーでもCEOクラスの差別的な発言が問題視されたり、それが理由で失職を余儀なくされたりと、先進的な業界でも根強い課題があることを実感させられました。

そうですね。各国のリーダーでも問題発言をされていたり、社会問題が報道されたりしているのを見ると、個人的な気持ちと照らし合わせると「どうしてだろう」と考えてしまうのですけど・・・。

ただ、そういった問題が顕在化してきたことは、必ずしも悪いことではないと思うのです。今までもずっと存在してきた問題が明らかになったことで、多くの人にとって考えるきっかけになる。実際、Facebookや他のSNSでもさまざまな意見が交わされていますよね。そういう意味では「興味深いな」と、やっと問題視されるようになったとポジティブに感じます。

―ある種、性別や国籍、年齢、LGBTや障がい者など、さまざまな背景を持つ人びとに対する「偏見」が浮き彫りになってきていますよね。

それがまさに、「無意識バイアス(Unconscious Bias)」というものです。さまざまな属性に対して、無意識的に「この人はこういうもの」とあらかじめ先入観が固定化してしまい、バイアスがかかっているのです。

それは、その人が暮らしてきた中で触れてきた文化や教育、家族からの影響などによるもの。さまざまな経験をして、知識として学んで成長していくことによって、自分の中でルールが形成されます。「思考のショートカット」がどんどん生まれていくのです。その中で、マイナスに働くものについては、その作用に自ら気づいて、アプローチしていくことが必要です。

フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム Konomi Lacke

―無意識バイアスは、具体的にどのようなものが挙げられるのでしょうか。

無意識バイアスとしては、4つあると考えています。

  1. パフォーマンス・バイアス・・・能力や結果よりも属性により成果を判断
  2. パフォーマンス・アトリビューション・バイアス・・・属性をもとに仕事への貢献を過少/過大判断
  3. コンピテンス・ライカビリティ・トレードオフ・バイアス・・・能力と好感度との両立はできないという先入観
  4. マターナル・バイアス・・・母親や妊婦は仕事に専念できないという先入観

それぞれ、仕事の中で関連づけてみると、「1」は、例えば男性と女性でまったく同じ履歴書を提出したとき、男性のほうが採用されやすかったり「男性は数学が得意」とされたりするなど、特に根拠はないけど属性によって成果を判断されてしまうこと。

「2」は、例えば男性と女性がまったく同じ仕事をして、それに対してなんらかの貢献をしたとき、男性は「自分の能力が高かったから」と判断することが多いのに対して、女性は「周りの人がサポートしてくれたから」と自分を過小評価することが多く、また周囲もそう考えがちなこと。

「3」に関しては、リーダーにはある種「ボス」っぽいアクションが求められることがありますが、女性がそれを行うと過剰に攻撃的に受け取られたり、生意気に感じられたりすること。例えば、会議で「これ、間違ってますよ」とか、「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」などと冷静に指摘すると、男性だったら「仕事ができる人」とみなされるのに、女性だと「生意気だ」と煙たがられてしまうこともありますよね。

「4」は言葉の通り、「妊娠中や子育て中の女性は仕事に専念できない」という先入観があって、本人に確認することなく、仕事の量を軽減したり、重要な役職から外したりすることです。

―こうして挙げていただくと、個人レベルでも組織レベルでも無意識バイアスがあるものなんですね。

そうですね。「差別する側」「される側」などと明確に表れていることもあれば、自分自身に対しても無意識バイアスをかけていることは往々にしてあると思います。

とある調査では、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)に記載された要件に対し、男性は6割ほど満たしていれば応募する資格があると考えるのに対して、女性は100%満たしていなければ応募することはできないと考える傾向があるといいます。「自分には営業なんてムリ」と、知らず知らずのうちにチャレンジすることを諦めてしまう。そういう面は私の中にもあるなと感じます。

―「どうせうまくいかないだろう」と、女性は自分であきらめてしまうんですね。

根本的に、女性が自分の力に対して自信を持ちづらい環境にあることも関係していると思います。何か成功体験を得ても、「周りが支えてくれたから」「ラッキーだったから」と、自分自身も周りも理解していて、それが繰り返されることで自分への評価が固定化していく。そうすると、会議でも「私の意見はさほど重要ではない」と、手を挙げることができなくなっていきます。

逆に、女性がリーダーとして振る舞おうとすると、そもそも女性は「リーダーを優しくきめ細やかにフォローする」ことを求められているので、その規範から脱することになり、周囲から極端に反感を持たれてしまうこともあります。

フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム Konomi Lacke

誰しもがマイノリティにも支援者にもなり得る

―Facebookでは、無意識バイアスをなくすためにどんな取り組みを行っているのでしょうか。

・・・そもそも、無意識バイアスを「なくすべき」とは考えていないんです。

―えっ、そうなんですか?

「無意識バイアスは、当たり前にあるもの」として認識することから、すべてが始まるのだと思います。

重要な決断を迫られるタイミングで、無意識バイアスを自覚することなく、「情報のショートカット」だけで判断してしまうのは、さまざまな面で機会ロスが生じてしまうリスクをはらんでいます。その判断基準に対して、「自分には無意識バイアスがある」と認識し、適切にアプローチすることで、そのリスクを減らしていくことが重要なんです。

―では、無意識バイアスを「認識する」ために、どんなことを行っているのでしょうか。

Facebookでは2014年から段階的にトレーニングを導入し、現在では「Managing Unconscious Bias」「Managing Inclusion」「Be The Ally」という3つのトレーニングを行っています。

Managing Unconscious Biasについてはオンラインで指針と方法を公開していて、先ほどお話しした4種類の無意識バイアスについて、グループでワークショップを行いながら、自らの無意識バイアスに気づき、それに対してどのようなアクションを取るかをシミュレーションして、それらを共有します。

例えば、「誰かを属性や好き嫌いによって判断したことがあるか、あるいはそういった場面に遭遇したことはあるか」を共有して、それを踏まえて「選考前にジョブ・スクリプションに関して明確な基準を設定する」とか、「プロジェクトに割り当てるための客観的基準やパフォーマンス評価を事前に設定し、チームメンバーに共有する」など、具体的なアクションとして考えていきます。

Managing Inclusionについては、Managing Unconscious Biasと同様、それをさらに深めた内容を6時間に渡ってトレーニングします。

そして、Be The Allyはまさに「アライ(支援者)になろう」ということ。セッションの中で、困っていることや、「実はあのとき、こう感じた」というような日常の細かい気づきをシェアしながら、お互いの感情や考え方の違いに気づき、日常に戻ってからも継続的に助け合えるような仲間づくりを促します。

―「日常に戻ってからも助け合える仲間」がつまり、「アライ」ということなのでしょうか。

そうですね、もっと具体的に言うと、性別や年齢、国籍、社歴などさまざまな属性やレイヤーがあって、集団構成によってマジョリティになることもあれば、マイノリティになることもある。その中で状況に応じてマイノリティもマジョリティも支えてあげる人・・・それが「アライ」です。

つまり、みんなマイノリティになることもあれば、アライになることもある。その中で、一人ひとりが自分らしさ・・・素直な自分を出しながら、お互いに関わり合い、シナジーを生んでいくことが「ダイバーシティ&インクルージョン」ということなんです。

―なるほど。

やはり、誰しも迷うときがあるんですよね。私、差別を受けたかもしれない、だけど気のせいかもしれない、と。でも「これってどうなんだろう」と感じたとき、アライがいれば相談することができます。それで、「やっぱりおかしいよね」となったら、直接その人に対して指摘することもあれば、アライから指摘してもらうこともあります。

例えば、「会議で私の発言を全然聞いてもらえなくて、困っている」ということがあれば、アライに相談して、マネジャーに対して「チームメンバーが『発言権がない』と感じているようなので、改善してもらえますか」と促すこともできます。

フェイスブック

―とはいえ、「自分が困っていること」をアライへ打ち明けるにも、アライを通じて指摘してもらうのも、なかなか勇気がいりそうです。

やはり、根底には社員同士の信頼関係が築かれていること、そして性善説に立つことはとても重要ですよね。もしも差別的な態度や発言があっても、悪気があってそうしているわけではない。「この人は悪い人ではない」と思っているからこそ、あくまで善意で「それって違うんじゃないの?」と率直に指摘し合うことができるんです。

それと、「プロセスにフォーカスしない」ことも重要です。ゴールにたどり着く方法はやはり人によって違いますから、いろんな人の意見を聞きながら、一人ひとりを信じて、とにかく結果にフォーカスするのです。

―社内でダイバーシティ&インクルージョンを推進した結果、どのような変化がありましたか。

2014年から比較すると、グローバルで働く女性比率は31%から36%へ増加し、テクニカル分野の女性は15%から22%、シニアリーダー層の女性は23%から30%へ増加しました。また、ビジネスやセールス分野におけるアフリカ系従業員は2%から8%、ヒスパニック系従業員は6%から8%へ増加しています。

―ビジネスにはどんな効果がありましたか。

一例を挙げると、インドでは、女性ユーザーのプロフィール写真がネット上で勝手に悪用される問題が起こっていました。その問題をインド人女性のプログラマーが拾い上げ、実際に「スクリーンショットできない機能」を実装したんです。

これは、シリコンバレーの白人男性社員ならその必要性に気づかなかったかもしれないし、実装されなかったかもしれない。ちゃんと意見を表明し、それを受け入れるオープンなカルチャーがあったからこそ、実現したことだと思います。

そういった雰囲気を醸成するには、やはりただ意見を「そうだね」と聞くだけではなく、「それってどういうこと?」と深掘りするような質問をしていく。相手のことを理解しようとするアクションを繰り返すことで、お互いに自分の言葉をシェアしたくなるんです。

Facebook、インド・ハイデラバードオフィス
Facebook、インド・ハイデラバードオフィス

多様性は対立概念ではなく、シナジーを生むもの

―他社に目を向けると、ダイバーシティに取り組み始めている企業もある中、「女性の一般職から総合職へ登用しようとしても、なかなか手を挙げる人がいない」「性差別をしているわけではないが、管理職をまかせられるような人材を選ぶと、自然と男性が多くなってしまう」といった声も聞かれます。

まさに、そこに無意識バイアスが介在しているんですよね。女性が自分の能力を過小評価してしまったり、人材を選ぶときに属性によって判断基準がブレてしまったりする。同質性の高い組織の中で、「差別するような人なんていないでしょう」と、無意識バイアスが「ない」ことにされてしまうのです。特に、日本人には「和の文化」がありますし、同調することがよしとされるので、それを覆すことは難しいのも分かります。

そんなときにこそ、アライの存在が必要なんです。マイノリティの声に対して、「ちょっと詳しく聞かせて」「あぁ、私もこういう経験があったんだよね」と拾いあげるだけで、雰囲気は少しずつ変わっていきます。その発言をなかったことにせず、正当にサポートするのです。

―無意識バイアスを認識し、適切なアプローチを行うことによって、組織はどのように変わっていくのでしょうか。

これまでは、フルタイム長時間働けるような男性社員がロールモデルとなった同質性の高い組織だったので、そこに「そうでない人」を加えようとすると、どうしても限界があったわけです。

無意識バイアスに気づき、お互いの差異や強みを認めること。そして、一人ひとりが固定観念を少しずつストレッチしていって、いい意味で裏切っていけば、その枠組みは広がっていきますし、組織の多様性が豊かになれば、ビジネスやイノベーションの可能性も広がっていきます。

フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム Konomi Lacke

―とはいえ、組織の多様性が豊かになると、既存社員の中には「自分の地位や役職が脅かされる」と考える人もいるのではないでしょうか。

組織の中で考えると確かにポジションは有限に見えるかもしれませんが、一人ひとりのスキルセットや個性、強みはかぶることはありません。ですから、単純な競争は起こらないはずなんです。逆に、その人がいることによって、自分の能力が活かされることもあるかもしれません。

「男性か女性か」「日本人か外国人か」などといった対立概念ではなく、それぞれの強みをアドオンすることで互いに学び合い、シナジーが生まれ、チームないしは企業としてのパフォーマンスが上がるのです。

―ある種、意識改革が必要かもしれませんね。

大きく変えようとするのは、やはり難しいですよね。ですから、小さなことから始めてみるといいと思います。

私も毎日、自分の期待をいい意味で裏切るようにしています。そうすることによって、自分もどんどん挑戦できるようになるし、それを見た周りの人も、「自分もこうしてみていいんだ」と思ってもらえたら、すごく嬉しいこと。そうやって、「あ、そういう方法もあるよね」「それいいじゃん」って、お互いに認め合っていくと、少しずつ挑戦できる領域が広がっていくのではないかと思います。

フェイスブック ジャパン クライアント・ソリューションマネジャー/ダイバーシティ&インクルージョンチーム Konomi Lacke

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[取材・文] 大矢幸世 [撮影] 伊藤圭

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