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INTERVIEW
日本の会社は「社員が辞めないこと」を前提に経営されている
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BOOK MARK
日本の会社は「社員が辞めないこと」を前提にマネジメントしていますよね。それが会社の競争力を損ねることもあると思います。

これは、『“未来を変える”プロジェクト』が企画した読者イベントに参加された、ミャンマー駐在を経験したとある男性ビジネスパーソンの一言です。

経済の成長過程にある東南アジアでは、特に資金が潤沢な外資系企業による人材獲得合戦が業界問わず激しく、せっかく自社で採用し、育成した優秀な社員が「倍の給料」でヘッドハントされてしまうことも珍しくありません。

一方、日本の状況はどうでしょうか。転職する人が増えているとはいえ、人材の流動性は依然として低く、「社員が辞めない前提で経営されている」と言われば、確かにそうなのかもしれません。

しかし、日本も変わりつつあります。「副業」など個人の働き方は多様化し、自由を求めて行動する人はますます増えていくでしょう。社会がそう変化する時代に、マネジメントを変えられない企業は市場で淘汰されてしまうかもしれません。

そこで今回は、人材の流動が当たりまえの東南アジアで組織のマネジメントを工夫し、業績好調なネット広告ベンチャー「AdAsia Holdings」を経営する十河宏輔さんに、「優秀な社員ほど残り続けるマネジメントの秘訣」を伺いました。

AdAsia Holdings CEO 十河宏輔

PROFILE

AdAsia Holdings CEO 十河宏輔
十河宏輔
AdAsia Holdings CEO
写真中央。2010年、日本大学商学部卒業後、株式会社マイクロアドに入社。同社日本本社でトップ営業マンを経て、新卒3年目にしてベトナム法人の立ち上げにCEOとして従事。その後、約3年間でシンガポール、フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア法人のCEO、および日本本社の取締役も兼任。退職し、2016年にAdAsia Holdingsを創業

東南アジアの人材移籍市場は「常にオープン」

ーまずは、AdAsia Holdingsの事業内容についてお聞かせください。

昨年(2016年)4月にシンガポールでグローバル本社を設立し、東南アジア各国の主に大手企業のデジタルマーケティング活動を支援しています。

初年度での黒字化の達成、300社以上の顧客企業の獲得、社員数85名へ組織体制の拡大、6カ国7都市での拠点開設・・・ これらはすべて、創業からの一年間に成し遂げたことです。

シンガポール、タイ・バンコク、インドネシア・ジャカルタ、ベトナム・ホーチミン/ハノイ、台湾・台北、カンボジア・プノンペンに拠点を構え、東南アジア市場の攻略に注力してきました。

今年は、日本にも「逆進出」し、東アジアの市場を開拓していきます。そのために、4月にはアジアのネット広告ベンチャーのシリーズAとしては史上最大規模となる約13.6億円の資金調達を実施しました。

これからはAIを使ってサービスを強化、経営を合理化するなどして、さらに成長を加速していきます。

2017年1月にシンガポールで開催された社員総会
2017年1月にシンガポールで開催された社員総会

ー好調ですね。さて、東南アジアで組織を急拡大されたわけですが、「社員がすぐ辞める」という実感はありますか。

採用面も好調で、WPPやオムニコムなど外資系広告会社からも優秀な社員がジョインしてくれています。一年間で90名強を採用し、今の85名体制に。ここ一年で退職した社員は5名ほど、離職率は約5%で東南アジアでは標準的かと。

ただ、「引き抜かれる」みたいなことはやはりあります。逆にWPPなどに、元社員が「倍の給料」でヘッドハンティングされたり。仕掛けてくるのは、どこも資金が潤沢な外資系ばかりですね。

東南アジアでは「Linkedin(リンクトイン」がよく使われているんです。だから、活躍してメディアで取材を受けるなど、業界の中で目立つ社員ほど外から声がかかりやすい。他社の採用担当者から、友達でもないのにFacebookでメッセージが飛んでくるなんてことも珍しくありません。

過去には、「このまえ○○社から『ウチに来ないか?』って声かけられました!」と、わざわざ報告してくる社員もいましたよ。「ん? これは給料を引き上げるための一種の交渉術か?」と、たくましく感じましたね(笑)

僕は社員を「同志」だと思っているので、「社員は辞めるもの」という前提で経営をしているわけではありません。ただ、ジョブホッピングも市場のルールのうちだと常に覚悟しているというか、確かに割り切って経営していますね。

「会社を辞めること」への意識が日本人とまったく異なる

ー東南アジアの人たちは「会社を辞めること」についてどう感じているのでしょうか。

当たり前ですけど、「キャリアアップの手段」ですよね。優秀な人ほどどの会社もほしがるので、オポチュニティー(機会)にあふれている。そして、それに対する「瞬発力」が強い。

少なくともウチが採用しようとねらっている若くて優秀な人たちは、「とにかく若いうちから活躍したい、少しでも上に行きたい、お金も稼ぎたい」と鼻息があらいんです。

日本人との違いがいちばん表れるのは、「実際に転職するまでのスピード」でしょうか。

日本人を採用すると、最終面接で内定を出しても、「今の会社を辞めるまでに、引き継ぎで半年かかります」、とか。これが東南アジアの人だと、一カ月後には来てもらえるんですが。

むしろ、そのくらいのスピードで採用していかないと意味がないんです。東南アジアのように成長著しい、変化の激しい市場においては、半年後もその人が必要か、市況の予測なんてできませんから。

特に事業が急拡大しているというタイ・バンコクのオフィス
特に事業が急拡大しているというタイ・バンコクのオフィス

しかし、その「遅さ」がときに日本人の良いところであったりもしますよね。内定をもらったからといって、すぐに会社を辞めたりして他の人に迷惑をかけたくないと思える「仁義」とか。

たとえ、雇用契約書には「辞める一カ月前に通知すればOK」と書いていたり、「引き継ぎって言ったって合理的に考えれば一カ月もあれば終わるはず・・・」とこちらが思っていても、ですね。

日本ってまだまだ「会社を辞めること」自体がネガティブに捉えられていませんか? 辞める=「逃げる」とか、同業他社に行く=「裏切り」とか。

海外だと、Googleの元社員がFacebookに行くとか当たりまえですよね。そんな厳しい市場で戦って他社に勝つから、世界中で「すごい」と認められて優秀な人材を惹きつけることができる。それは、アジアも例外ではありません。

それが日本だと、「あの人に嫌われたくない」とか、そういうのが先に来てしまう。ビジネスの結果とか、個人のキャリアに対する思いをストレートに表現できないのは、きっと環境がそうさせているのでしょう。

でもそんなスピードだと、会社も個人も、少なくとも世界では勝っていけません。

「社員は辞めていくもの」を前提にした会社のマネジメント

ー「社員が辞める」ことがごく自然になると、マネジメントは変化しますか。

ごく自然というか、それもビジネスという戦いのルールの一つだとするならば、必然的にマネジメントを変えざるを得ません。

ではどう変わるかというと、ある文献で知った海外の研究者が導き出したという「人の働く動機の6つのカテゴリー」の話ですね。人の次の6つのことのために働く、と。

  1. 楽しみ:仕事自体が楽しい
  2. 意義:仕事と自己実現の方向性が一致している
  3. 可能性:仕事が自分の将来にとってプラスになる
  4. 経済的圧力:報酬のため・処罰から逃れるため
  5. 感情的圧力:恥、恐怖、同調圧力などプレッシャー
  6. 惰性:働いている理由さえも分かっていないが働く

1〜3は仕事そのものと直接的な関わりがあり、社員のパフォーマンスを引き出しますが、4〜6は仕事とは間接的な関わりしかなく、パフォーマンスを損ねる傾向にある、と。

参考:『従業員のパフォーマンスを左右する6つの動機』|ハーバード・ビジネス・レビュー

日本の多くの会社のように「社員が辞めない」と分かっていれば、4〜6でも通用するのかもしれません。だって、簡単には辞めませんから。

ですが、東南アジアのように、優秀な社員は常に移籍市場ではオープンな存在で、同業他社からもねらわれているとすれば、それは通用しません。

AdAsia Holdings CEO 十河宏輔

この手の話になると、やはり「Google」が良いお手本ですよね。弊社にとっては東南アジアにおける競合企業でもあるのですが。

もちろんGoogleにも人の入れ替わりはありますけど、「その会社で働いていること」を誇りに思っている社員が、あの会社は本当に多い。東南アジアにいてもそれは感じますよ。

打ち合わせでオフィスを訪ねると、会議室に直行すればいいのに、頼んでもいないオフィスツアーをしてくれるんです。「飲み物もウチはこんなにチョイスがあるけど、宏輔、どれがいい?」とか(笑)

日本だとサイバーエージェントもそうかもしれませんね。とにかく、「俺、Googleで働いているから」みたいな人が多くて、これは「優秀な社員だとしても残るわ」と感じさせます。

そしてそういう企業はもれなく、マネジメントチームが社員のコミットメントを高めることに圧倒的に力を入れて、時間を割いています。ウチの組織制度も、実はGoogleを研究して設計したんですよ。

Googleを参考にして行動規範とグレード制度を定めたそう
Googleを参考にして行動規範とグレード制度を定めたそう

優秀な社員を「楽しみ・意義・可能性」を伝えるヒント

ーすると、十河さんは「楽しみ・意義・可能性」で社員を惹きつけていますか。

  1. 楽しみ:仕事自体が楽しい
  2. 意義:仕事と自己実現の方向性が一致している
  3. 可能性:仕事が自分の将来にとってプラスになる

先ほどのフレームワークを意識してやっていたわけではありませんが、自分やマネジメントチームのこれまでの行動を振り返ると、そう言えますね。

「2. 意義」は、「次世代の人たちは皆、デジタルネイティブ。大企業や中小企業を自分たちが主体となって巻き込んで、自分たちの力で世界をデジタルシフトさせていこう。そしてレガシーな会社に勝とう」と、社員に常に話しています。

また、弊社は実は、「初年度の売上」であのソフトバンクを上回ったんです。そういう客観的なデータや、今回の取材もそうですけど、メディア露出の実績も社内にシェアすることで、会社や自分たちが社会に与えているインパクトを伝えています。

十河さんの起業家としての受賞実績も社員に力を与える
十河さんの起業家としての受賞実績も社員に力を与える

「3. 可能性」は、社員の評価制度を明確にして、求められる結果を出したときには給料を上げるのは当然のこととして、さらに責任のある仕事、ポジションを与えています。

例えば、新卒社員をわずか入社3カ月で営業マネジャーに抜擢して、給料も入社当時の3倍に引き上げたり。日本でいうと、いきなり大企業の部長クラスの給料を手にするのに相当するでしょうか。

こういう意義とか可能性を社員に感じてもらいやすくすることを目的にして、そのための手段として売上や利益率など「会社に関わる情報」をとにかくオープンにしているんです。

そしてオープンにした情報を、毎月末の全社ミーティングや、毎月出張で7拠点をまわって社員と対面する際に、会社のビジョンやこれからの方向性と合わせて伝えます。

情報をオープンにするから、社員は「社長がそう言っているから」ではなく、数字という目に見える形で自分たち自身の成長を感じられて、「この会社にいれば、どこまでも上を目指せる」と信じられるようになる。

そもそも意義とか可能性って、他人に「これだよ」って与えられるべきものではありませんから。

「僕だけではなく、社員が会社のビジョンを信じているのがウチの強みです」
「僕だけではなく、社員が会社のビジョンを信じているのがウチの強みです」

ただし情報をオープンにしていますから、頭の切れる社員は「自分を会社に残すことのROI」を計算して、給料アップの交渉を持ちかけてきたりしますよ(笑) でも、そういう優秀な社員にこそ残ってほしいんですよね。

では、人にとって働く最高の動機である「1. 楽しさ」って何かっていうと、それはもう自分の今のベストを尽くしてお客さまのビジネスに貢献して感謝されたり、それが嬉しいと感じること。

そういった成功体験と、「意義」と「可能性」とが合わさって、仕事の「楽しさ」は生まれる。ですから、マネジメントは社員をボーナスで釣ったり、「楽しさ」を履き違えさせてはいけません。

まかせても安心な優秀な社員を「同志」に変えろ

社員に「楽しみ・意義・可能性」を感じさせる上で、情報をオープンにすることと並んで大切なのが、「ざっくばらんな対話」です。

弊社では四半期に一度、社員の目指す方向性を知り、それを会社のベクトルとすり合わせるために、メンバーとその上司が1on1で「キャリア相談面談」をやっています。

まずは、「新しい職種についてどうだったか」「今後はどういうふうにキャリアアップしていきたいか」「次は何に挑戦したいか」と耳を傾け、話を聴く。

その上で、「これだけの結果を残せるスキルがあれば、次はそれに挑戦してもいいはずだ」と伝えます。優秀な社員を惹きつけるには、「魅力的な先を見せること」と「そのタイミングの見極め」が重要です。

社員の「今こそ挑戦したい」というタイミングに気づき、適切なオファーを提示しないと、東南アジアでは同業他社の魅力的なオファーに負けて、社員がすぐに辞めてしまうおそれがあります。だから、本音での対話が欠かせないんです。

ー「これをやったら優秀な社員が辞める」というご法度のようなものはありますか。

これはもう「ほったらかし」、です。優秀な社員ほど権限を移譲したくなるものですが、社員の受け取り方次第では、それはただの「放置」かもしれません。その違いは紙一重です。

「あいつは辞めない、大丈夫だ」とほったらかしにしていると、腹を割ってコミュニケーションを取ったり、その人と会社のベクトルをそろえるための努力がおろそかになります。

すると、どうしても「自分はあくまで会社のコマ」と感じてしまい、楽しさや意義が薄れてしまう。もはや、「同志」とかではなくなってしまう。だから、辞めてしまう。

AdAsia Holdings CEO 十河宏輔

僕も以前、やってしまったことがあるんです。「十河さん、なんか昔より遠くなった感じがするので、私もう辞めます」って。そこまで直接的にではないですけど、期待していた社員に言われてしまいました。

トップと社員との距離が広がってしまうことは、組織が拡大する成長企業では仕方のないこと。ではあるのですが、だから上に立つ人ほど「人を育てる」ことが大切なんです。

「社員は辞めていくもの。いるうちに使いたおせ」ではなく、「優秀な社員ほど辞めていくもの。そんな彼らを同志として巻き込むには?」という気概を持って、マネジメントしなくてはいけません。

ましてや、「社員は辞めない」をこのままマネジメントの前提にしていれば、これからの時代、間違いなく市場で淘汰されることになるでしょう。日本ならまだしも、世界という土俵では確実に。

それは日本であっても同じ。これから働き方が多様化し、人材の流動性も高まっていくでしょうから、優秀な人ほど、「私にとっての選択肢は、何も今の会社だけじゃない」と思うのでは。

ですから、会社のマネジメントは変わっていかなくてはいけません。次世代の価値観を持った、若い人たちが生き生きと働ける会社を目指さなければ。

弊社も、東南アジアで磨いてきたウチならではのマネジメントで、これから満を辞して日本に進出していきます。

AdAsia Holdings CEO 十河宏輔

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[取材・文] 岡徳之

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