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INTERVIEW
上司とリハビリをするように。ワーキングマザーがいる職場作りの鍵を中野円佳さんに聞く
INTERVIEW

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社会的に子育てを支援しようとする潮流はたしかに存在します。しかし、実際に働きながら育児をしている一部のワーキングマザーからすれば、育休制度や時短の働き方など、育児を支援しようとする既存の制度や取り組みがあっても、仕事で活躍するには「限界」が見えているようです。

その限界とはなにか。そして、女性が仕事と家庭の両立をより図りやすくするために、私たち個人や企業にできることとは何なのでしょうか。女性の社会問題に詳しいジャーナリストの中野円佳さんに、ご自身の経験も交えながらお話を伺いました。

ジャーナリスト(ChangeWAVE) 中野円佳

PROFILE

ジャーナリスト(ChangeWAVE) 中野円佳
中野円佳
ジャーナリスト(ChangeWAVE)
東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社に入社。同社で育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に通い、そのとき執筆した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)として出版。その後、企業変革パートナーの株式会社ChangeWAVEに参画、東京大学大学院博士課程在籍。東大卒のママコミュニティー「東大ママ門」の代表も務める。

機能しているかに見える育児支援制度の限界

ーいまの育児支援制度の課題は何でしょうか。

ワーキングマザーの仕事と育児の「両立支援」は整ったけれども、それが「均等推進」にはつながっていないことです。男性と女性、子どもがいるひとといないひとの均等推進です。

例えば、大企業の正社員であれば、育休を取れますし、時短の働き方もできるでしょう。ただそれが「やりがいのある仕事をしたい」など、仕事を通じて自己実現を目指す女性、そして女性活躍推進を目指している企業や政府のニーズに応えられているかは疑問です。

どういうことかというと、少し前までは、ワーキングマザーが専業主婦の妻がいる男性と同じように働くための選択肢は、例えば育児は祖父母にお願いして、自分はキャリアを選ぶというものしかありませんでした。

しかしいまは、時短制度など仕事と育児を両立するために活用できる制度が用意されているので、ある程度自分で手をかけることもできる。であるがゆえに、そうした制度を利用しないで、子供との時間を犠牲にしてキャリアに邁進することには罪悪感を覚えやすい環境になっていると思います。

つまり「仕事も子育てもどちらもきちんとやらなければならない」という女性へのプレッシャーは高まるばかり。制度的に仕事と育児を両立しやすくなったとはいえ、女性に求められるハードルは上がり、それが女性の活躍の障壁となってしまっているのです。

 

ーなぜ女性に求められるハードルが上がっているのでしょうか。

社会的な要因が大きいでしょう。政府の政策は、企業に対して女性社員を積極的に管理職に昇格するよう促す一方で、「希望出生率1.8」を目標に据えて子どもを2人産むことを女性に対して求めています。

また、その認識が広がること自体は悪いことではありませんが、高齢での出産や不妊リスクが広く知られるようになったことで「女性は子どもを早く産んだほうがよい」という世の中の空気が作られています。

そうした社会的な背景がある中で、企業がこれまで導入してきた育児を支援する制度、育休や時短などだけでは、ワーキングマザーの活躍には限界があります。

育休や時短制度を活用すればするほど、どうしてもキャリアのブランクが空いてしまいますし、かといってそれを解除すると「今日からは深夜まで働けるのね」と思われてしまうのが多くの企業の実情です。

つまり、60%の力で働くか、それとも120%の力で働くかという二者択一になっており、定時で帰れるような、80%や100%の力で働く選択肢はないという極端な状況になっているのです。なので、名目上は時短を申請して、定時まで働いているというワーキングマザーも非常に多いようです。

 

ー育休や時短もよいことばかりではないのですね。

時短や定時で働いている女性の中には、残業できない分、とにかく無駄を省いて効率的に働いているひともいるでしょう。中には残業をしているひとと同じか、それ以上のパフォーマンスを発揮しているひともいるはずです。

しかし、残業ができない、時短を申請しているというだけの理由で、評価や給料が下がっているケースはよく見られます。それだけならまだましで、会社が用意している研修に参加させてもらえない、出張に行かせてもらえないなど、成長機会を奪われることも。

また、社内の昇進ルートからは外されがちで、時短というだけでそもそも業務内容を変えられることさえあります。例えば、営業担当だったひとが、育児中は外回りをさせてもらえなくなっただとか。

そうして、本人のモチベーションは下がり、実際に管理職には上がっていけず、育休から復帰したあとに会社に留まる女性の比率も落ちてしまう。このように、育児支援をしようとする社会や企業の思いとは逆行するようなことが起こっているのです。

育児支援制度の理想と現実について語る中野さん
育児支援制度の理想と現実について語る中野さん

「段階的復帰」を叶える働く環境づくりが鍵

ーいまの「非均等」な状況を解消するためにできることは何でしょうか。

一つは、ワーキングマザーにかぎらず、男性であろうが女性であろうが、子どもがいようがいなかろうが、そもそもすべての社員の長時間労働をなくすことです。そうすれば、皆が定時までの100%を発揮すればいいので、先ほどの「60%か120%か」という選択肢自体がなくなります。これは、社員のメンタルヘルスを正常に保つという観点からしてもポジティブなことです。

もしこれが仮にできない場合には、多くの企業で曖昧になっている、仕事の配分と報酬など評価の関係を見直すことで、改善の余地があります。ホワイトカラーの社員の成果を定量的に図るのはなかなか難しいのですが、目標管理制度などで「効率性」を評価の観点に盛り込んでいる企業は実際にあります。そうでない企業の多くでは、長く会社に残って仕事をしているひとが評価されるような状況になっていると思います。

それでも量に差がつく場合は、ボーナスなどの短期的な評価で差をつけるべきだと思います。例えば、時短で働いているひとが、残業して働いているひとに残った仕事をまかせる場合には、その引き受けたひとのその期の報酬は、追加された負担の分だけ上げてあげるべきです。一方で、たとえ残業なしで働いていても発揮しているパフォーマンスが高いひともいますので、昇進や成長機会の提供に使うような長期的な評価指標では、すべての社員を質的な部分、例えば「生産性」の観点などで評価するようにすべきでしょう。

 

ー非均等な状況を解消するために、社員が個人でもできることはありますか。

ワーキングマザーである女性も「60%か120%か」の働き方ではなく、より段階的に育休取得前の働き方に戻していけるよう努力することができるかもしれません。時短で働いていた状態から、残業もできるフル勤務に一気に戻すというのはとてもハードルが高い。二人目の子どもを考えていたり、「小1の壁」が気になっていたりすればなおさらです。

そのためには、会社の上司とコミュニケーションをとって、例えば週に1〜2日は残業できる日を決める。自分の思い入れの強いプロジェクトだけは無理してでもやらせてもらうようにするなどして、責任のない仕事に塩漬けになっている状態から脱するようなチャレンジをしてみるということが有効ではないでしょうか。

周囲からは「わがまま」と言われるかもしれませんが、なにかそれで子どもの反応で問題が起これば元に戻すというのも選択肢に入れながら、上司と一緒にリハビリをするように自分のできることを増やしていくというのはどうでしょうか。

私も新聞社で育児中に働いていた頃は、まずは日帰りの出張、次は一泊、そして次は2泊というように、段階的にできることを増やしていきました。そうすることで、本人もチャレンジする気が湧いてこないし、上司も部下にチャレンジさせてあげられない状況を脱していくのではないかと思います。

上司や同僚と相互理解を深める対話のコツ

ーすると、上司と結構突っ込んだ話をする必要がありますね。

上司との対話がまったくできない、しかも会社に変わる気配がないのなら、残念ながら別の道を探すしかないかもしれないですね。

もしも上司と対話したり、会社の中で声をあげられる場合は、自分の事情だけを感情的に話してしまうと「権利主張」のようにとらえられて、周囲に話を聞いてもらいにくいかもしれません。

本来、企業とポテンシャルのあるワーキングマザーはWin-Winの関係にあるはず。別に自分がサボりたいがために働き方について相談しているわけではなくて、所属する会社に貢献したいから話をしているということを、ロジカルに説明して理解してもらう必要があります。

社内で力のあるひととインフォーマルな場で対話するのも手でしょう。

 

ー上司の多くも育児を経験しているはずなのに、なぜ対話に苦労するのでしょうか。

上司の配偶者の多くが専業主婦だったり、実家の育児支援を手厚く受けられたケースだったからでしょう。

例えば、上司の配偶者は専業主婦で、子どもは幼稚園に通っていたとすると上司は「どうして君の家の子はそんなによく風邪を引くんだ。うちでは子どもの体調管理はきちんとしていたよ」と言われる。保育園は0~2歳からある程度長時間預け、多少の風邪でも皆が連れてくるのでうつしあってしまうということが分からない。これは単に、本当に分かっていない、想像できていないだけなので、ワーキングマザーのほうも状況を丁寧に説明する必要があると思います。

このような世代間ギャップが背景にあるミスコミュニケーションは、同じ女性の間でも起こりえます。上司がワーキングマザーの先輩で、子どもは実家にあずけて、自分は子どもと過ごす時間をこれまで犠牲にしてきたひとの場合などです。

 

ーそれは苦労しますね。

しかし、いまの女性管理職で苦労してきたひとたちの中には「後輩を応援したい」というひとも多いです。

ですから、下の世代のワーキングマザーも「自分は上の世代みたいにはなりたくない」と壁を作らずに、いまのような時代を築いてくれたひとたちとしてリスペクトして対話する必要はあると思います。

対話しないと、職場で、誰かひとりのできるワーキングマザーとそのひとのやり方ばかりが持ち上げられ、それを自分にも押し付けられることにつながりかねません。育児の状況は一人ひとり違いますから、それぞれの状況について、お互いが理解を深めることが大切です。

社内で対話する相手を見つけることが難しければ、会社の垣根を越えて、ワーキングマザー同士が交流できる場に参加するのもいいでしょう。最近はそのようなイベントもよく開催されています。

そうした場で、完璧なロールモデルはいるわけがないので、断片的なロールモデルを探すのがいいと思います。「あのひとはこういう工夫をしている。こういうことに苦労している」というティップスを集めていくと、自分の目指すワーキングマザー像も見えてきますし、ほかの女性をより理解できるようにもなります。

そういう対話や交流をせずに、同僚の噂話などだけで「あの女性の先輩はこういうひとだ」とイメージを作ってしまってはミスコミュニケーションを生むだけです。実際に話を聞きに行ってみると喜ばれたり、働き方に関するアドバイスをくれたりする先輩も多いのではないでしょうか。

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[取材・文] 岡徳之

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