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INTERVIEW
人工知能が答えを教えてくれる時代に「実力」の差はどこで生まれるのか?
INTERVIEW

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近い将来、私たちが人工知能を仕事に活用するようになると、業務の効率化が図れることが期待されます。「ビッグデータ」と呼ばれる膨大なデータを解析し最適解を導き出すという作業は、人間よりもコンピュータのほうが得意なはずだからです。

人工知能がビジネスの最適解を導き出してくれる未来の職場ーー。想像すると、ふとこのような疑問が湧き上がってきませんか?「人間は “考える” ということを、これまでよりもしなくてよくなるのだろうか」。と同時に、「それでいいのか・・・」とも。

はたして、人工知能時代におけるビジネスパーソンの「実力」はどこで差がつくのでしょうか。また、コンピュータが導き出した “最適解” を、私たち人間は、「はい、わかりました」と素直に受け入れるようになるのか。

そんな疑問を、コンサルティング会社 経営共創基盤が2015年に設立した、人工知能・ビッグデータ専門子会社「IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス」の代表、塩野誠さんにぶつけてみました。

塩野さんは、以前『”未来を変える”プロジェクト』で取材した人工知能の第一人者、松尾豊さんと共著も出されるなど、日本では数少ない人工知能に造詣の深いビジネスパーソンのお一人です。

IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役 塩野誠

PROFILE

IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役 塩野誠
塩野誠
IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役
ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア証券(取締役副社長)などで事業戦略立案・実行、資金調達、M&A、投資に従事。テレコム・メディア・テクノロジー業界を中心にベンチャーから企業再生までを経験。経営共創基盤参画後は、新規事業開発、危機管理、クロスボーダーM&A等の国内外の企業へのコンサルティングに従事。

人間は人工知能が導き出した答えを受け入れるか?

ーはじめに、塩野さんが携わる人工知能関連のお仕事についてお聞かせ下さい。

主に大手企業の人工知能に関わる新規事業の開発や戦略の立案を行っています。人工知能に関する企業の最近の課題意識は二つあります。

一つは、ある種「バズワード」としての人工知能やビッグデータに取り組まないといけない。では、そのようなことが普通になるような将来に向けて、経営者や企業はどのような準備をしておけばよいのかと模索するもの。

もう一つは、具体的で、人工知能を活用することで「顧客」をより精緻に捉えたいというもの。アメリカの小売大手「ターゲット」が顧客の購買情報から、「10代の女性が妊娠していることを、父親よりも早く知ることができる」と言っているように。

直近で、人工知能が大きな影響を及ぼしていくのは「工場」でしょう。熟練工がしていた仕事を、機械が自ら改善しながら行うようになる。それを行う複数の工場の稼働状況を見える化と自律化することで、企業は正確な需要予測に基づく生産管理の最適化が可能になります。

 

ーインパクトが大きいですね。ずばり伺いたいのですが、人工知能を活用するようになると、人間は “考える” ということを、これまでよりもしなくてよくなりますか?

基本的に、人工知能はデータがないと何もできません。意味のあるデータを与えることで、初めて意味のある答えを返してくれる。

例えば、世界中の株式市場をウォッチしている世界中の人間のアナリストが作成したアナリストレポートを、一人の人間が一秒間で読み込むことはできませんが、機械ならできてしまいます。そして、そこからなにかしらの示唆を与えてくれる。

しかしその示唆は、人間にとっては突然箱から出てきた「お告げ」のようなもので、それが導き出された理由はわからない。そういう状況になるでしょう。

「理由が分からない、答えらしいものを受け入れることはできない」。新しいテクノロジーに対してリバタリアン的であるエンジニアやサイエンティストとは異なり、一般的なビジネスパーソンのなかにはこういうひともいるでしょうね。

 

ーその感覚は自然だと思います。

そうは言っても、人間がすべてを分かっている、なんてことは今でもないですよね。それに、はじめは抵抗感を感じていても、そのうち「慣れ」ます。

現に今だって、エクセルの関数や、グーグルの検索エンジン、iPhoneのSiriが導き出す答えを信じているひとは多いでしょう。だけど、だれも「エクセルに仕事を奪われている」とは思っていない。

今までのところ、人間はテクノロジーに慣れてきた歴史があります。それに今後は、答えが導き出された理由を人間でも理解できる形に人工知能がしてくれるようになりますよ。すると、人工知能のアルゴリズムを理解しなくてもよくなります。

 

ー慣れるものなのですね。

はい。人工知能を使いこなして、他のビジネスパーソンと差をつけられるかは、人工知能のアルゴリズムへの理解力よりも、「マインドセット」によるところが大きいでしょう。

特に「Before iPhone」、「After iPhone」。つまり、初めて手にしたモバイル端末がガラケーだったか、スマートフォンだったか。その世代差によって、マインドセットや感覚は大きく異なると思います。

After iPhoneの世代の人たちは、モバイル端末やクラウドを自己を拡張させた「お守り」のように感じていますよね。彼らにとっては、リアルもデジタルの世界も同じ「現実」。そのようなマインドセットをもった人たちは、人工知能をすんなりと受け入れるでしょう。

思考力の差を作るのは「アナロジー力」、その磨き方

ー人工知能が最適解を導き出してくれるとき、人間の思考力の差はどこで生まれるのでしょうか。

先ほどの話の裏返しで、人間はデータが「ない」ときでも、点と点をつなぐ「アナロジー」を考えることができます。

例えば、スポーツで起こっているチームプレーなどの事象から、ビジネスにおける行動様式など類似することに関する示唆を類推することは人間のほうが得意です。これを、ゼロからコンピュータに考えさせるというのは難しい。

そんなアナロジーから、人間がこれから真に求められる「クリエイティビティー」は生まれます。それは、新しいこと、「その手があったか」というのを思いつくこと。

2015年12月より公開されている映画『スティーブ・ジョブズ』なんかは、アナロジーの賜物です。言わずと知れたテクノロジー界のカリスマの伝記モノを、野外シーンはたったの二回の「演劇」に仕上げてしまった。主人公がジョブズでなくてもいいほどの傑作です。

 

ーそれほどまでにクリエイティビティーが求められるのですか。

本物の思考力、クリエイティビティーを求めるなら、そうです。ですから、ある意味、極めて残酷な世界なのです。

そう考えると、今の世の中はそんなにクリエイティブではないと気づかされます。「電車の中で何人の人が本を読んでいるか、物事を考えているか?」という問いに対する現状にも如実に表れていますね。良い、悪いではないけれど、今の人たちだって、すでに思考することを止めているのではないでしょうか。

IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役 塩野誠

ー厳しいですね・・・。どうすれば、アナロジーの力は養えるでしょうか。

「好奇心」だと思います。何に対しても、「これは自分には関係ない話」だとは思わないこと。「自分は学習するマシンなんだ。いくらでもインプットすることが可能なんだ」と思い込み、新しいことをひたすらに追い続けるのです。

それは別に、「雑学王になれ」という話ではありません。学び方にはコツがあります。それは、「抽象化と具象化を瞬時に行き来できる」ようになることです。

「何々に例えると」と思考する癖を身につけるのが一つの手でしょう。例えば、外交問題の話をテレビのバラエティー番組の構造に例えてみる。外交問題にしてもバラエティー番組にしても、周辺国(ひな壇芸人)に話を振って、ガス抜きしないと、というふうに。

そうして抽象化と具象化を瞬時に捉えられるようになると、新しいこと、その手があったかということを思いつくようになる。そして、他の人に対してもよりよい質問ができるようになり、相手からもクリエイティビティーを引き出すことができるようになるのです。

点と点をつなげる「アナロジー」こそが、これから価値が高いと言われるであろうビジネスパーソンの実力というものです。

アナロジー力はコミュニケーション能力をも左右する

ー「相手から引き出す」というお話が出ました。これは人間のビジネスパーソンにこれからますます求められる力ではないでしょうか。

そうかもしれません。が、実は一部はコンピュータに置き換えられることも起きているのですよ。

1960年代にセラピーのための自然言語処理プログラム「イライザ」が開発されました。これは患者である人間がした質問(「頭が痛い」など)に対して、会話(「なぜ頭が痛いのですか」など)を返すというもの。当時の実験では、被験者は「癒し」を感じたそうです。

イライザが返す会話は「パターンマッチ」という技術に基づいたもの。しかし、被験者はそこに「人間」を感じ、共感を覚えた。それくらい、人間は単純なんです。

では、これから人間に求められる「コミュニケーション能力」とはなにか。私は、「松岡修造機能」なんかがあると考えています。

 

ーテニスの松岡修造さん、ですか?

はい。「今よりも明るい、ポジティブな未来、将来に価値あることを語れること」、これが、これから人間に求められるコミュニケーション能力です。そうしたことを語るインターフェースとして、人間は機械よりも適しているからです。

同じ語り口ではいけないわけですから、相手のことを理解した「ディスカッションパートナー」としての価値を発揮しなければならない。松岡さんは、ときに相手を怒らせたり、泣かしたりしながら、相手からやる気や本来の力を引き出していますよね。

それができるのは、先ほどの「アナロジー力」に長けているからです。相手は「A」という考え方をもっている。それに対して、「B」を投げかけると新しい「C」が生み出されるのではないか。つまり、相手の反応を見越した上での投げかけ力が大切なんですね。

これは、会社のリーダー人材、上司も同じではないですか。若手には備わっていないであろう領域横断的な質問力をもって部下を育てる。人工知能時代には、会社の上司にこそ、このアナロジー力が求められるのです。

ビジネスパーソンのアナロジー力を鍛えるには、先ほどの「例える癖」のほかに、「想像力」をもつことでしょう。想像力がないと相手を理解したり、相手に優しくなれないですから。

紙の端で自分の指を切っても「痛い」ぐらいですから、空爆されている世界のどこかの国で暮らす人の「痛み」を想って、自分ゴトとして捉えられるような想像力。そういう「優しい上司」は、いつの時代も人工知能に置き換えられることはないでしょうね。

IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役 塩野誠

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[取材・文] 岡徳之、井上美穂

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