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INTERVIEW
資生堂、オンライン会議メークアプリの開発リーダーに学ぶ、横断プロジェクトの秘訣
INTERVIEW

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BOOK MARK

多様なはたらき方が広がりつつある現代において、少しずつ導入する企業が広がっているのが「テレワーク」や「リモートワーク」。在宅勤務で仕事を進める上で、コミュニケーションツールとして大きな役割を果たしているのがSkype for Businessなどのオンライン会議サービスです。

2016年10月、資生堂は日本マイクロソフトの協力のもと、「TeleBeauty」を開発しました。「TeleBeauty」とは、オンライン会議の際など、アプリを立ち上げて設定するだけで、好みのメークや肌の明るさがシミュレーションでき、会話相手にも表示されるアプリ。

「TeleBeauty」
「TeleBeauty」

スッピンのままでも「ナチュラル」「トレンド」「クール」「フェミニン」など、その場に合わせたメークをあたかも施したように対話相手に見せるもので、日本はもちろん世界37カ国のメディアで取り上げられるなど海外でも話題になっています。

IT企業という異業種との協業、そして化粧品メーカーにもかかわらず、実際の化粧品を使わず、「メークシミュレーションの映像を通信に搭載するサービス」という未知の領域への挑戦は、どのようにして行われたのでしょうか。プロジェクトを主導した資生堂宣伝・デザイン部の片岡まりさんに、「部署・会社の垣根を超えたチーム学習」を成功させる秘訣を伺いました。

資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり

PROFILE

資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり
片岡まり
資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長
慶應義塾大学文学部哲学科美学・美術史専攻卒業後、株式会社資生堂国際部入社。商品開発、マーケティング部門、結婚・出産後にお客さまセンター、経営企画部を経験後、販売会社企画統括部長、CSR部次長を経て現職。日本ヒーブ協議会第21期会長。夫と夫の両親、24歳の長女(ニューヨーク在住)の5人家族。趣味はゴルフ、読書、着物

社内の「知」を深め、目的に向かってイチガンとなったプロジェクト

ー「TeleBeauty」プロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

その前にまず、今回のプロジェクトの事務局として機能している「宣伝・デザイン部」についてご説明しますね。資生堂は創業140年以上の歴史があり、その初期から・・・当時は「意匠部」と呼んでいましたが、商品パッケージや広告デザインを担当する部門として脈々と続いています。

現在は総勢約120名、うち80〜90名のデザイナーがクリエーティブ業務に当たっています。これだけの規模を擁するインハウスのデザイン部門は日本では珍しいでしょう。普段はマーケティング部門から仕事を受託することが多いのですが、もっと自分たちのデザインの力を活用し、社会に発信していこうと、さまざまな実験的な企画を行っています。

詳しくは「こちら、銀座 資生堂センデン部」をご覧いただきたいのですが、これまでにもインターフェースデザイナーの中村勇吾さんとコラボした「LIFE COLOR CLOCK」、クリエイティブ・ラボPARTYとコラボした「LIFE COLOR WINDOW」など、デジタル・IT技術を活用した企画を実現してきました。

宣伝・デザイン部が発信するサイト『こちら、銀座 資生堂センデン部』
宣伝・デザイン部が発信するサイト『こちら、銀座 資生堂センデン部』

ただ、世界に多くの課題が山積する中、「単にキレイなものを作っているだけでいいのだろうか」という意見が、主に若手から挙がりました。「ソーシャルグッド」をコンセプトの中心に置いて、デザインの力でもっと社会に貢献できることはなんだろうか・・・と。そして2015年の夏、数名のクリエイターが立ち上げ、検討し始めたのがこの企画でした。

役員を交えた企画会議の際、この「TeleBeauty」のプロトタイプが出され、私はそのとき会議のファシリテーターを務めていました。「おもしろいね」とコメントしたところ、役員から「じゃあ、片岡を中心にやってみなさい」と指名を受けまして。それからオンライン会議システムへの実装に向けて企画が始動しました。

ープロジェクトチームはどのように発足したのでしょうか。

母体となった数名のクリエイターが普段行っているのはデザインワークですから、実際にその技術を開発することはできません。そのため、足りない技能を補完するようなイメージで、「部署外」の力を活用することにしました。

当社は90年代初期から、メークをシミュレーションするための技術開発を続けてきました。実際、店頭でビューティーコンサルタントが用いるiPadには、化粧を落とさなくても、さまざまなメークパターンをシミュレーションできるアプリを搭載し、接客に用いています。ですから、まずはそのメーキャップシミュレーター開発を担当する部署などとやり取りを始めていきました。

加えて、オンライン会議のプラットフォームに搭載する技術の開発など、より具体的に進める必要性を感じて、「未来創造局」に相談したんです。

ー「未来創造局」とはどんな部署ですか?

2015年に社長の魚谷(雅彦)直轄で経営戦略部内に立ち上がった部署で、社内変革と新規事業の創出を支援しています。先ごろ発表した保育事業への参入や、9月にオープンした社員向け多目的ワーキングスペース「SHISEIDO PIT」なども、未来創造局の取り組みによるものです。

そして、社内の各部署にまたがる横断的なチーム編成をさらさらと描いてくれました。チームとしてスタートしたのは、今年の2月ですね。

「TeleBeauty」プロジェクト体制

ー部署問わず、さまざまな社内のキーパーソンを巻き込んでいかれたのですね。

マイクロソフトとの社外協業が成功した「一番の理由」

ー社外パートナーである日本マイクロソフトへは、どの段階で声をかけたのでしょうか。

チームが正式に発足する前の15年10月だったと思います。ただ、その時点ではどのくらいの確度でプロジェクトに参画してもらえるのかは未知数でした。「一緒に何かできたらいいな」という希望はありながらも、相手に興味を持ってもらわないことには始まりませんから。

私たちとしては、ひとまずコンセプトとして発表して、そこに日本マイクロソフトの「Skype for Business」という名前があると心強いかぎりだな・・・と希望的にしか考えていなくて。

けれども、プロトタイプのビデオをお見せしたところ、「非常におもしろい!」と興味を持ってもらえました。Skype for Businessを担当する執行役員の方にもプレゼンの機会をいただき、協力してもらえることになったのです。

テレワークはさまざまな国や地域で当たり前のように使われて、日本では政府や企業が旗振り役となっているものの、依然として非常に堅いイメージがあります。けれども、「この企画は女性の目線で考えてあり、テレワークのあり方に一石を投じるものだ」と。

そしてその役員の方が、「これから本国に交渉しに行く」と、すぐにアメリカに飛んで協力への許可を取ってきてくださいました。

資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり

ーすばらしいですね。アプリの開発は日本マイクロソフトと共同で行ったのでしょうか。

基本的には、当社の持つ「メーキャップシミュレーター」の技術を応用し、当社で開発しました。それを通信に搭載する技術開発をベンダーに依頼し、日本マイクロソフトからはSkype for Businessというプラットフォームを提供していただいた形です。

また、実際に多くの人たちがテレワークを行っている日本マイクロソフトの女性社員からヒアリングを行い、開発に活かしました。

ーテレワークを行っている社員からは、どのような要望がありましたか?

当初、私たちは店頭でお客さまに提案するように、トレンドやナチュラルだけでなく、多くのメーキャップパターンを考えていました。

けれども、マイクロソフトの社員の方からは「もっと自然に」「いつもの自分らしいメークを」という意見が多く寄せられました。子育て中の方も多くいらっしゃいますから、「普段からこんなにしっかりとはメークはしない」と。

また、海外とのやりとりも多いマイクロソフトならではの意見として、欧米では人気の高い「クール」寄りのメークにもニーズがありました。

ー日本マイクロソフトという外部パートナーとのやりとりで、文化や考え方など、違いを感じられた点はありましたか?

プロジェクトにおいて、共有している「コア」がありましたから、そこまでの違いは感じませんでした。

コアとは、「TeleBeauty」のコンセプトとなっていた、「デザインと化粧の力で豊かな未来を作る」ということ。キックオフのときにも、「女性がいつも自分らしく、キレイでいられるようなものを開発しよう」。そして、「豊かなライフスタイルの提案を目指して、みんなでがんばりましょう」と申し上げました。

後日談ですが、先ほどのマイクロソフトの役員の方が「お手紙」をくださったんです。そこには、彼のお母さまのことなどが書かれていました。「化粧をすることによって元気づけられている母親を間近で見ていて、今回の取り組みは重要なことだと思っている」と。

そのお手紙を読んで、たとえ会社や業界は違っても、「美しくありたい」「自分らしく生きたい」という普遍的な思いは変わらない。その思いを共有できていたんだなって。企画のコアがしっかりしていれば、どんなチームの障壁も超えていけるんです。

資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり

チーム学習の原動力、それを率いるリーダーの信条とは

ー今回のプロジェクトは、化粧品を使いません。「化粧品が売れなくなるのでは」などと反対意見は出ませんでしたか?

懐疑的な声はありました。「化粧品が売れなくなる」というよりは、「資生堂がデジタルの領域に踏み込む意義」を問うものでした。

「化粧品の資生堂がデジタルの領域に踏み込む意義・・・」
「化粧品の資生堂がデジタルの領域に踏み込む意義・・・」

ーどのように説得していかれたのでしょう。

化粧がもたらす効果を心理学的に研究しているビューティークリエーション部のメンバーに相談しながら、「化粧は自己表現とコミュニケーション手段の一つ。このプロジェクトを推進することが、『リアルでもメークをしてみよう』という思いにつながる」と、チームで再確認しました。

これが一つのターニングポイントとなって、「人にとって化粧とは」などをテーマに、あらためて化粧の意味をみんなで考え続けました。

ーここでも先ほどの「コア」となる考え方が前提となっていますね。

はい。けれども、危惧している人がいるのも確か。ビューティークリエーション部が担当役員を巻き込もうと言ってくれて、そのおかげで役員も応援をしてくれたんです。それを聞いて、懐疑的だった多くの方々が「美容のプロが言うなら」と納得してくれた。

先日のプレス発表会の際にも、記者の方から同じような(デジタルの領域に踏み込むことに関する)質問が出ましたし、おそらく「チームの中でそれに対する明確な答えを持っておくように」と言う意味合いだったのだと思います。

ーそうして社内が一丸となっていった。

そのための素地として、社内では今、「トライ&エラー&トライ」がキーワードの一つになっていて、現場でやるべきと考えたことは、ハードルが高くてもトライしてみようという空気があります。

化粧の意味を考える

ーいろんな人から意見を吸収することで、根源的な大切なところに立ち返ることができたのですね。それにしても、かなり短時間でプロジェクトをまとめ上げたのですね。

そうですね。プロジェクトの始動から2月のチーム結成、10月の「TeleBeauty」プレス発表ですから。それには、メンバーが非常に自律的なプロフェッショナルとして動いてくれました。

ーモチベーション高く、自らのミッションとして取り組んでもらうために、何か秘訣はありますか。

プロジェクト自体、関わっているみんなにとって「おもしろい」と感じられるものだったからではないでしょうか。そしてみんなが「良い」と思える明確なコンセプトがあった。

どんな仕事でも、突き詰めていけば、目的が明確になります。チームがバラバラになっているときは、往々にしてそれが曖昧になりがちです。

ー読者の企業や組織でも、「TeleBeauty」のような取り組みを成功させるには何が重要でしょうか。

とにかく、リーダーが「自分の足を止めない」ということですね。

よく起こりがちなのが、何かを始めても「打ち上げ花火」に終わってしまうこと。当社も会社規模が大きいので、「社内確認ばかりで止まってしまう」という事態にはよく突き当たります(笑) プランニングするだけで満足するのではなく、いかに具体的なプロダクトやサービスに着地できるかがカギだと思います。

それに、関わってくれる人が増え、「これは絶対におもしろいから、やりましょう!」という声を聞くと、それが原動力にもなります。お互いをリスペクトし、信頼関係を構築していくと、お互いプロフェッショナルとして下手なことはできないな、と。ですから、メンバーとの対話は絶やさず、熱を冷まさないことが大切。ことあるごとに声かけをするようにしています。

ー最後に、チームでなにかに取り組むときに大切にしていることは?

「明るく・楽しく・前向きに」・・・頭文字をとって「ATM」です(笑) リーダーが暗い顔をしていたら、チームメンバーも嫌な気持ちになってしまうじゃないですか。どんなことがあっても、「指一本」でも前に行こう、というのが信条ですね。

資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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