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INTERVIEW
働き方の多様化は「不調の多様化」をもたらした。メンタルの不調を「技術」で解決するには?
INTERVIEW

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BOOK MARK

これからの「個の時代」、ますます自分自身を律することが求められるであろうビジネスパーソンが、「メンタルの不調」に直面することは増えていくと思われます。それを、気合いや根性論・・・ではなく「技術」で未然に防いだり、解決したりはできないでしょうか?

オンラインカウンセリングサービス「cotree(コトリー)」を運営する櫻本真理さんは、前職である証券会社勤務時代に、睡眠障害に悩み、クリニックに通うことに。しかしそこで、たった数分の診療で「軽いうつ状態」と診断され、すぐに治療薬を処方されたことをきっかけに、人びとが心の悩みについて気軽に相談できる環境をつくるべく、奮闘しています。

そのサービスを通じて、多くのビジネスパーソンのメンタルの不調に寄り添ってきた櫻本さんに、これからの個の時代に大切な「メンタルの不調に立ち向かう技術」についてお話を伺いました。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

PROFILE

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理
櫻本真理
株式会社cotree 代表取締役
京都大学教育学部卒。心理学を学んだのち、ゴールドマン・サックス証券にて株式アナリストとして勤務。複数のスタートアップ立ち上げなどに関わったのち、2014年に株式会社cotreeを設立。「やさしさでつながる社会をつくる」を企業理念に、IT x メンタルヘルスの領域で複数の事業を立ち上げている。

働き方の多様化は「不調の多様化」をもたらした

―まずは、現在手がけているサービスについて教えてください。

オンラインカウンセリングサービスの「cotree」は、臨床心理士やキャリアカウンセラーと、悩みを抱える人をつなぐサービスです。この他にも、起業家に特化してメンタル面でのサポートを行う「escort(エスコート)」や、認知行動療法をベースにしたうつ病コミュニティ「U2plus (ユーツープラス)」なども運営しています。

「cotree」
「cotree」

起業して5年が経ちますが、人と人との支え合いの中で人びとのメンタルヘルスを実現できたら、と思っています。

私自身、証券会社のアナリスト時代に、睡眠障害で眠れなくなってしまった時期があるんです。会社への忠誠心も持てなくて、何のために働けばいいのか・・・と、気持ちが落ち込んでしまって。リーマンショックが起きた2008年以降だったので、業界が伸びていくイメージは湧かないけれど、ハードワークが求められる、苦しい時代でした。

しかし当時、カウンセリングサービスは日本ではまだあまり馴染みがありませんでした。会社がカウンセラーを雇うことはあっても、その人に悩みを話したら会社にすべて筒抜けなんじゃないか、と考えてしまって、自分のことを誰かに相談しようだなんて、なかなか思えなかった。

眠れない状態が1カ月くらい続いたある日、とうとうクリニックに足を運ぶことに。すると、簡単な診療と薬を渡されるだけで、「じゃあ、また二週間後にきてください」とだけ言われたんです。要は対処療法しかやってもらえなかった。そうじゃなくて、人の人生にちゃんと向き合えるサービスをつくれないかと思い、起業して今に至ります。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

―これまで多くのビジネスパーソンの悩みに接してこられたと思いますが、今の時代、メンタルの不調を抱える人は増えているのでしょうか。

 ちょっと複雑になっていまして、急激に増えているというよりは、多様性が生まれてきています。

今までは、働きすぎや、組織に自分を合わせられないために、適応障害やうつ病を発症するケースが多かったんです。ですが、最近は、働き方改革が世界的に起こり、働き方の多様化が不調の多様化をもたらしています。個性と環境の数だけ、さまざまな不調が出てきているんです。

例えば、自由ゆえの鬱ですね。これには、いくつかのケースがあります。1つは、独立し、仕事をもらえて、ありがたいからこそ頑張らないといけない、とオーバーワークをしてしまうケース。もう1つは、周りが独立していくのを見て、「自分もできるんじゃないか」と甘く考えて独立し、実際にはうまくいかなかったケース。

自由になるって、楽なことじゃないんですよね。会社員の時は、そんなに考えなくても、仕事は降ってきていたかもしれません。それに、あらゆることを自己決定する訓練をしていない。業務だけでなく、部署の異動や住む場所すら会社に決められますから。

ですが、独立後は、自由だからこそ、自分がどうあるべきかを考え、ニーズにうまく適応していかなければなりません。何か問題が起きた時、今までは会社のせいにできていたかもしれませんが、すべて自己責任。それに、半年先の仕事は見えないですし、いざという時に「会社」という守ってくれる盾もない。

自由であるがゆえのシビアさに直面して、苦しくなって、鬱になり、引きこもってしまうケースは今の時代、増えてきています。ですが、そういうケースって、必ずしも顕在化しないんですよ。仕事量が減って悩んでいても、生き延びていれば、表には出てこないですから。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

他にも、副業を始めて、本業とのバランスが取れなくなってしまう人もいます。メインの仕事があるうえで、自分の楽しみとしてうまく副業を活用できていればいいのですが、本業を圧迫してしまうケースや、副業が楽しいゆえに、本業に迷い始めてしまうケースも。

副業が盛んな今の時代には、「バランスをとること」も、求められる新しいスキルなのかもしれません。ただ、「稼ぐは本業、好きなことは副業」などと、うまくすみ分けを考えられる人は、少数派。だって楽しいほうに傾いてしまうものだから。

要は、立場によって適切な振る舞いや、自分自身の楽しみの見つけ方が分からないままだと、しんどくなってしまう時代なんです。会社員は、自分でコントロールができない苦しさが、フリーランスはコントロールしないといけない大変さが、副業はバランスが、求められますから。

“病みやすい人” はいない。不調は環境との歪みで起こる

―メンタルの不調に陥ったとき、日本では「根性論」に結びつけ、自分をふるい立たせる方向で頑張ってしまう人が多いように感じるのですが、それはなぜなのでしょうか。

 教育の中で日本の文化に根付いているものだと思います。武士道の影響もあるでしょうね。かつては、逃げることは恥であり、切腹する人もいましたから。

ですが、今の時代は、違いますよね。選択肢はいくらでもあるし、2年くらい休んだって死ぬことはない。「本当にここにしか選択肢はないのか」と問い直して、一旦距離を置くというのは全然ありだと思うんです。逃げるという言い方をしつつも、新しい選択をする、新しい場所を選ぶということなので。若い世代の価値観は、そうシフトしてきているとは思います。

それに、「根性論」的な価値観は、日本特有なんですよ。日本では、カウンセリングやコーチングは「特別な時に受けるもの」という認識だと思いますが、アメリカでは、メンタルヘルスの面で先を行っていて、自分が悩んだ時に相談できるプロを近くに置いている人は少なくありません。フォーチュン誌が選ぶ「世界で最も賞賛される企業 ベスト500」の経営者のうち25%は専門のセラピスト、30%の人はコーチがいるというデータもあります。

やっぱり、文化、宗教上の違いが大きいんですよね。欧米は個人主義で、神様を信じ、一人ひとりが一生懸命生きていくという考えが根強い。一方、日本は集団主義で、仏教しかり、他者がいて自分がいるという考え方。なので、自分だけを変えていくという思想とあまり相性が良くないんです。自分だけが心理療法を受けたとしても、それほど本質的な関係性の変化にはつながらないと考えてしまう、といいますか。

そもそも、スピリチュアルや占いを通して、誰かに「答え」を与えてもらうほうが日本人は好き。運命は決められていて、大いなる力によって自分はこうなるのであるという考え方が、しっくりきやすいんです。だから、カウンセリング市場が300億円に対して、占いやスピリチュアルの市場は1兆円と言われています。自己決定に対する考え方が明確に違うんですよね。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

―メンタルの不調に悩みやすい人、というのはいるのでしょうか。一概には言えないと思うのですが。

それは、環境と掛け合わせて考えないといけないと思いますよ。どんなにメンタルが強い人でも、アウシュビッツ強制収容所に閉じ込められたら、その多くが病んでしまいます。環境との歪(ひずみ)で、その人が発揮したい価値が発揮できないときや、過重労働に陥ったときに、メンタルの不調を起こしやすくなるんです。

ただ言えるのは、自分がどんな人なのかを分かっていれば、ストレスを避けやすいということ。実はアウシュビッツ強制収容所にいながらも、精神を病まなかった人はいます。病んだ人と、病まなかった人の違いは、「分かる(把握可能感)、できる(処理可能感)、意味がある(有意味感)」という感覚を持っていたこと。同じ環境でも気持ちの持ちよう、捉え方によっても、メンタルの不調を未然に防ぐことはできるということです。

メンタルの不調を未然に防ぐ・早期に解決する「技術」

―メンタルの不調を未然に防ぐには、どうしたらよいのでしょうか。

自分のストレス源がなんなのかを、探ること。それが分からないのにつらい状況が続いてしまうのが一番大変ですから。原因が分かれば対処できることも増えるので、まずは言語化していくことです。「漠然としたこの不安はいったいなんだろう」って。

ただ、自分のことって、相対化して、客観的に見ないと分からないものなんです。オススメなのは、過去や未来と今を相対化すること。過去を振り返ったり、未来から自分を見るイメージを持つと良いです。どんなときが楽しかったか、落ち込んだか、これからどんな未来にしていきたいか。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

また、人と話すことで、他人と自分を相対化して、自己理解が進むこともあります。自分で自分に質問を投げかけても分からなければ、友達、家族、専門家と話をすること。

あとは基本的なことですが、生活習慣は非常に重要。身体とメンタルはつながっているので、バランスよく食べる、適度に運動する、しっかり眠る。

他にも、人と関わること、また、動物などペットを飼うのもいいと思いますよ。幸せホルモンのオキシトシンが分泌されますし、自分以外と関わることで、自分自身から焦点を外すことができるんです。これはとても重要で、不調の人って自分のことばかり考えすぎてしまう傾向があるんです。誰かのため、この子のためというふうに、視点をスライドさせるほうが、人は元気になりますね。

―メンタルの不調のサインに、早期に気づくためにできることはありますか。

うちのデータを分析しても、メンタルが不調の人は、「みんな・いつも」という、抽象的で漠然とした言葉を使うことが多いんです。「いつもうまくいかない」「みんな冷たいね」だとか。一人ひとりの他者に目が向けられていなくて、漠然と大いなる何かと戦って、恐怖を感じてしまったりするんです。要は、世界に対する解像度が下がっている状態。そういう感覚があったら、解像度を上げて考える必要がありますね。「誰が、いつ冷たいんだろう」って。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

他にも多いのは、心の変化を抑圧して、自分の感情に気づけなくなっているケース。人が悲しんでいても悲しく感じられない、なんでもロジックだけで考えてしまう…みたいに。そういう人は、自分の痛みへの閾値が下がっているので、身体から不調が出るケースが多いです。純粋に眠れない、体が痛い、頭が痛い、疲れが抜けない、集中力がなくなってきているなども、分かりやすいサインですね。

―もしも、今不調そうな人が周りにいたら、その人にできることはなんでしょうか。

 質問してあげるのがいいです。「最近困っていることある?」って。本人が自分の内面に向き合えるような問いかけをしてあげましょう。どのくらい深い質問をするかは、相手次第、関係性次第。大事なのは「あなたのことを気にかけているよ」と伝わることだと思います。

誰しも軽い不調はいつでも起こるものだと思うんです。チームで助け合ったり、自分ならではの改善法を見つけられたらいいですね。私自身、不調を感じたら、自宅やカフェで仕事をしたり、好きな人と喋る、海外旅行に行くなどして、対応をしています。「私が不調のときはこんな感じになるよ」ってお互いに共有したりもしているので、チームもそれを分かってくれていて、助かっていますね。

cotreeは、優しさでつながる社会を目指しているので、まずは一緒に関わってくれる人を大切にして、関わってくださる方を増やしながら、よりサービスを広げていければいいなと思います。

株式会社cotree 代表取締役 櫻本真理

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[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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