産業医 大室正志医師に聞く「ワーキングマザーの悩みと同僚ができる解決の糸口」

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職場ではなかなか表に出てこない、ワーキングマザーの悩み、そして彼女たちの周囲にいる同僚たちの「本音」。それに日々接している、産業医の大室正志医師にお話を聞きます。

大室医師は、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の統括産業医を経て、現在は約30社の企業で社員たちのからだと心の健康をケアし続けています。

その現場で聞こえてくる社員たちの言葉には、ワーキングマザーを取り巻く問題と、解決の糸口となるヒントが混じりあっていますーー。

産業医 大室正志

PROFILE

産業医 大室正志
大室正志
産業医
産業医科大学医学部医学科卒業。専門は産業医学実務。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医を経て、現在医療法人社団同友会 春日クリニック 産業保健部門 産業医 。現在日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社の産業医業務に従事

ワーキングマザーの悩みもひとそれぞれ、だから、対話し続けよう

ー先生のところに来るワーキングマザーは、どのような悩みを抱えていますか?

やはり、仕事と家庭との両立ですね。

ワーキングマザーは、子育て中であることを理由にいろいろ言われたくなくて会社では気を張って働いています。それに、時短勤務で早く帰った分、帳尻を合わせるために家で仕事しているというひとも多い。

だから、僕のところに来るワーキングマザーの方のなかには、「眠りが浅い」といった自律神経失調症のような症状を訴えるひとが多いです。会社の人間関係に悩むひとは少なくないですね。

 

ーどういった人間関係で悩んでいるのでしょうか。

ワーキングマザーに対して、デリカシーのない言動をする男性は減ってきています。肯定的に言えば、彼女たちを支援するための制度が整備され始めており、彼女たちに対する理解が深まっているからです。少し意地悪な見方をすると、本当の意味で理解はしていなくとも「触らぬ神にたたりなし」と、男性はディフェンシブになっているとも言えます

むしろ、これまでワーキングマザーとしてバリバリ働いてきた女性の先輩社員、もちろんその一部のひとたちではありますが、彼女たちの「最近のひとは甘えている」といった冷たい一言などに傷つくことが多いような気がしています。

 

ーワーキングマザーはいろいろなところに気を遣いますね。

そうですね。事情は複雑なんです。

例えば、繁華街の交差点で渋滞が起こっているとして、「もっと路上駐車取り締まればいいのに」と「そもそも論」を訴えるひとは多いでしょう。もちろんその通りなんだけど、いま渋滞にハマっている個人としては「いかに目の前の渋滞を切り抜けるか」のほうが大事だったりしませんか?

ワーキングマザーの問題もそれと同じ。

彼女たちが「国が、勤務している企業が支援する制度をもっと充実させるべき」とそもそも論を唱えることはできるかもしれませんが、そうすると「めんどくさいやつ」だと思われて、返ってはたらきにくくなったりしますよね。だから、ワーキングマザーは「この瞬間」を乗り切るために、別にあやまるようなことをしているわけではないのに、上司や同僚に対して申し訳無さそうな顔をしてはたらくのです。そのほうがはたらきやすいから。

たしかに、「これはワーキングマザーの権利」とばかりに、「時短勤務で業務量を減らしてもらって当然」という顔で突っ張っているとまわりの空気を悪くしてしまいますよね。つまり、「本来申し訳ない顔をする必要はないのに、空気を読んでしたほうが得」というジレンマを抱えているんです。いま「この瞬間」を「個人」として乗り切るためだけならそれでもよいのかもしれない。だけれど、そうしているからワーキングマザー「全体」としての問題はなかなか解決されないんです。

 

ーそのようなワーキングマザーのことを周囲がもっと理解するにはどうすればよいでしょうか?

ストレスを抱えがちであることより理解してあげることでしょうか

これはワーキングマザーにかぎらずですが、ひとってストレスがたまって疲れると感情的になりやすい。そうすると、些細なことでもイライラして人間関係がギクシャクしてしまう。しかもそのことで自分が原因とばかりに上司に注意をされたり、周囲から「あのひとは態度が大きすぎる」という目で見られると、さらに悪循環に陥ってしまう。

これはワーキングマザーでないひとでも同じですね。もしやりとりのなかでなにか問題が起こったとしても、「お互いにただ余裕がなくなっているだけなんだ」と冷静になれるとよいですね

 

ー「働きたいけど前と同じように働けない」と悩むワーキングマザーも多いと聞きます。

ワーキングマザーに対して、上司側も人事や労務に関する「制度」というブレーキがあるから思いっきりアクセルを踏めていないですよね。上司が自分ひとりの裁量のなかで解決できることではないですから、遠慮している側面はあると思います。

それに、満足いく仕事をさせてもらえないと不満を持つワーキングマザーがいる一方で、業務時間や仕事量を調整できることをありがたいと思うワーキングマザーもいます。つまり、「引き受けます」と言ったら与えられた仕事はやらないといけないと思って苦しむワーキングマザーもいるし、「その仕事は引き受けられません」って言ったらまわりから浮いてしまうと思って苦しむワーキングマザーもいるということです。

一緒にはたらいているワーキングマザーがどういうタイプなのかを、上司がきちんと見極める必要があります。

しかも、「このひとは、こういうタイプ」と一方的に決めつけられるものではありません。子どもが小さいうちは仕事量をセーブしていたけれど、大きくなったらもっとはたらきたい。そういうひとはたくさんいます。きちんと、そしてずっと、対話し続けるのが望ましいでしょう。

「習うより慣れる」本人もそのまわりも

ーワーキングマザーが時短勤務になると、それを同僚がカバーすることもあります。それに対して不満を漏らしているひともいますね。

制度を理解しているけど実は不満を抱えているというひとは多い。自分に仕事のしわ寄せが来ると「同僚の女性社員がしょっちゅう子どもの熱で会社を休むんですけど」と相談に来たりします。

でも、子どもってしょっちゅう熱を出すんですよね。30代でも独身者が増えていたり、40代以上だと子どもがすでに大きくなっていてそういう感覚をすっかり忘れていたりするから、そういうことを言ってしまうんだと思います。もちろん「独身だから」とか偏見を振りかざすつもりはありませんが、人間は経験していないことを理解するには「腹落ち」に時間がかかるものです。

また特に男性上司は、多方面調整が苦手な方が多い印象があります。会社の方針として「ワーキングマザーに対する権利の奨励だ」と決定したら、(表面上は)女性にはいきなり優しくなるのに、「その分の補填はどうするのか?」というところまで考えが行き届いていない傾向があります。

チーム内の環境づくりにもっと気を配らないといけないと思いますね。

 

ーそのような場合、しわ寄せが来ている部下を上司はどのようにフォローしていかないといけないのでしょうか?

「コンサルティング」と「カウンセリング」のバランスが必要です特に女性社員に対しては、そのひとが置かれている状況の難しさに共感してあげるカウンセリングが大事。それに加えて、いつこの状況が改善されるのかをアクションプランとして提示するコンサルティングを行うといいでしょう。

もちろん、カウンセリングを求める男性社員もいれば、コンサルティングを求める女性社員もいるでしょう。突発的に仕事を振られることにストレスを感じるひともいれば、そうでないひともいます。ですから、上司は一人ひとりの特性を踏まえて、コンサルティングとカウンセリングのバランスを見極めて、対応する必要があります。

 

ーワーキングマザーとそれ以外の社員が気持ちよくはたらける環境を作るには、どうすればよいでしょうか。

とにかく「習うより慣れる」ことが大事です

ルールブック通りにはいかないことも多いので、そのひとそのひと、その場その場での判断が必要です。始めはいろいろなところにしわ寄せがいってつらいかもしれないですが、会社、チームとしてそれに慣れることが大事。

その耐性を身につけていくことで、結果的にいろんなひとが気持ちよくはたらける、ダイバーシティー(多様性)に富んだ職場環境を作ることにつながるはずです。チーム内にワーキングマザーがいても、工夫することでチームがうまくワークしたとしたら「実は残業なんていらなかったんじゃないか」という気づきを得られるかもしれませんよね

これからはワーキングマザーに限らず、介護者を抱えているひとや外国人など、多種多様なひとと働くことも増えるでしょう。そういうダイバーシティーに対する耐性を、一人ひとりが鍛えていかなければいけません。

[取材・文] 大井あゆみ、岡徳之

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