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INTERVIEW
何度も生きがいを見つけられる人は、何が違う? 2度目の起業、平野未来さんに聞く
INTERVIEW

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自分の可能性を一社に限定せず、働き方や生き方を自らがデザインしていく時代が訪れつつあります。そんな中、時間やスキルなどリソースに余裕はあるものの、それを情熱を持って傾けられる仕事、すなわち「生きがい」を見いだせずモヤモヤする人も増えているかもしれません。

「リソースは飽和しているが、生きがいは枯渇しているのではないか」——そんな仮説に基づき、「人はどうすれば生きがいを見つけられるのか?」という問いを、シリアルアントレプレナー(連続起業家)の平野未来さんにぶつけます。

平野さんは、東京大学でコンピューター・サイエンスの修士号を取得し、大学の友人らと Naked Technology(ネイキッドテクノロジー)を在学中に創業。ガラケー・スマートフォンのミドルウェアテクノロジーを開発した技術が評価され、会社を2011年にミクシィに売却しました。

しかしその成功にあぐらをかくことなく、2012年には2社目となるCinnamon(シナモン)をシンガポールで創業。当初は写真チャットアプリを開発するも、方針転換し現在はAI技術を駆使し、ホワイトカラーの生産性を最大化するシステム開発を手がけています。

数年ごとにピボット(方針転換)しながら、自身を変化させ、ワクワクし続ける平野さんに、「生きがいの見つけ方」をテーマに語っていただきました。

株式会社シナモン代表取締役 平野未来

PROFILE

株式会社シナモン代表取締役 平野未来
平野未来
株式会社シナモン代表取締役
東京大学大学院在籍中に自身の研究がIPAの育成事業「未踏ソフトウェア創造事業」に採択。在学中に設立したIT企業 ネイキッドテクノロジーを2011年にミクシィに売却。2012年に共同創設者と2人でシナモンを設立。写真チャットアプリ「Koala(コアラ)」の事業を、事業統括をシンガポール、開発をベトナムとタイ、マーケティング・営業を台湾でそれぞれ行う4拠点の体制で運営していたが、その後ピボット。現在は、人工知能に関連するプロダクトの開発やコンサルティングを行う。プライベートでは2017年に第一子、2018年に第二子を出産。ママになったことで生み出すプロダクトが変化したと言う。

仕事の生きがいは最初からは見つかるものではない

連続起業家として2度の起業経験を持つ平野さんは、どのようにして生きがいを見いだしてきたのでしょうか。

私も、今の生きがいを最初から見つけられていたわけではありません。こういうことをやったら面白い、事業化してみよう、などの衝動に突き動かされていくうち、自分のやっていることの社会的意義がうっすらと見えてきて、次第に生きがいに変わっていきました。

最初は大学時代の仲間内の小さなプロジェクトからスタートし、その後、在学中に当時の仲間と起業し12年以上の起業家人生を送る中で、その時々の生きがいを見いだしていったのだと。その過程では当然、私も生きがいを見失っていた時期もあるわけです。 

そんな今の私の生きがいは、人類の生活を進化させるサービスをつくり出すこと。例えば、原始時代に石器を発明し、それは第一の技術革新だと言われました。また、蒸気機関車や自動車などエンジンの発明、インターネットの発明など、あらゆる技術革新で、人類の生活は大いに進化しました。同じように、自身のサービスで人類を進化させたい。「進化の幅」が広ければ広いほど、強い生きがいを感じます。

現在手がけているのは具体的にどのようなサービスなのでしょうか。

ホワイトカラーの面倒な仕事をすべて担うためのAIサービスです。そうすることでホワイトカラーの生産性を最大限に向上させたいと思っています。

主力事業である『Flax Scanner』は、手書きの書類やEメールなどから必要な情報を抽出し、新たなドキュメントを作るプロダクトです。これにより、銀行や保険会社の手書きの申込書を自動入力することで従業員の方の業務負担を軽減させます。

あるいは、音声認識を扱うプロダクトがローンチまであと数歩のところまできており、これが叶えば、音声認識のみの議事録作成、コールセンターの記録作成に貢献でき、面倒でそれなりに時間がかかる仕事から解放されることになります。

面倒な仕事がなくし、長時間労働も是正したい。雑務から解放されてやりたい仕事にフォーカスすることで、一人ひとりが圧倒的な成果を生み出す可能性を秘めています。

ホワイトカラー層の生産性を向上させたいという今のやりがいはどのように着想したのでしょうか。

それも最初は小さな衝動がきっかけだったんですよ。とある人材紹介会社からこんな相談をいただいたんです。「職務経歴書に書かれている手書きの個人情報をすべて手入力するのは手間なんだ」と。

私は解決策を提案しながら、ふと、「これは業種に限らずホワイトカラー全般に通じる問題ではないのか」と気づきました。バラバラのフォーマットから自動入力したり、反対にバラバラの情報の中から必要な情報を抽出して、アウトプットできるようになれば、世の中に与えるインパクトはかなり大きいと踏んだのです。

実はこの事業が形になったのも、直近一年くらいのこと。それまではAIのコンサルティングをしており、プロジェクトベースで受託開発を行っていたんです。それはもう全然違う会社ですよ(笑)。やはり、生きがいは最初から見つかるものではないんですよね。

生きがいは固定しない、アップデートしていくもの

連続起業家として、今の「リソース飽和・生きがい枯渇」時代をどう見ていますか。

株式会社シナモン代表取締役 平野未来

そもそも「生きがい」という言葉には、ライフワークのようなニュアンスが含まれていると感じています。つまり、長期的であり、じっくり実現するものだと。

一方で、私が体現してきたことというのは、短期的であり衝動的な思いです。「面白そうだから起業してみよう」、「そうだ、海外で起業しよう!」みたいな強い衝動。シンガポールで起業しようと決めて、その半年後には会社を作っていました。エキサイトメントなことを次々求めていくのが元来好きなんです。同じことを2度できない飽きっぽい性格であるとも言えるのですが(笑)。

ですから、生きがいを見つけたい人は、逆説的ではありますが、生きがいを見つけようとするのではなく、自分の成長に合わせてどんどん生きがいをアップデートすれば良いのではないかと。

―長期的な生きがいは、短期的な衝動に駆られて動いているうちに見つかるものだと。

はい。例えば、もともと私はネット中毒者で、夜な夜なネットサーフィンに没頭するような女子高生でした。大学では、コンピュータ・サイエンスを専攻したわけですが、そのタイミングではまだ衝動や生きがいのようなものには出会えていないわけです。

しかし、大学の授業で、「インターネットサービスは自分で作れるんだ」ということに気づく。私にとっては、この気づきこそが「消費者から供給者へと」発想を転換したきっかけ、生きがいを見つける原点となりました。それからは大学の仲間らとTwitterのような「一言SNS」を一緒に作るなど、物づくりに没頭しました。

また、同じころ、政府主導の「未踏ソフトウェア」というプロジェクトに参加したことが転機となり、「世の中を変えるようなアイデア」を模索するようになりました。プロジェクトに採択され、開発資金として、学生には高額な資金が提供されると、起業の基本である、「人、商品、お金」の3つが揃ったのだと思いました。そこでプロジェクトの仲間とともに在学中に起業し、起業家人生を歩み始めました。

シンガポールで起業してからは、視野が広がりました。それまでは日本に住み、日本人のための日本人仕様のプロダクトを作っていたのですが、今後は世界を唸らせるプロダクトを作ろうという生きがいに変化しました。

昨年、子どもが生まれてからは、この子の未来がより良いものでなくてはならないという使命感を抱くようになりました。それまではインパクト重視で技術開発を行なっていたのですが、世の中に「良い」インパクトを与えるのかといったフィルターにかけるようになりました。つまり、善悪の概念をのせるようになったと。

そして現在は「ホワイトカラーの生産性を最大限に向上させる」という生きがいとともに、この先の未来を見つめています。

つまり、私は何をしたいのかというと、よく「夢をアップデート」するという表現をするのですが、一年前の自分が最大限描ける夢の大きさと、今の自分が最大限に描ける夢の大きさは変わっていて欲しいのですね

ですから、自己啓発書などで見かける「50歳の理想像を描き、そこから逆算して行動しよう」という考え方は、私にはどうも合いません。だって、事前に50歳の自分を固定させてしまったら、それ以上夢は広がらないじゃないですか。

株式会社シナモン代表取締役 平野未来

突破口は自分が「息をするようにできること」

平野さんが最初の生きがい、衝動を見つけたきっかけは、消費者から供給者への発想の転換でした。しかし、技術者でもクリエイターでもない人たちは、そのような機会になかなか恵まれないのでは。生きがいを見いだすコツがあれば教えください。

やはり、自分の得意なことを伸ばしていくこと。ただし注意点が1つあります。それは、多くの人が得意だと思い込んでいることは、実はそうではないということ。おそらくそれは、他者からフィードバックをもらいながら、本人が努力して上手になったものであることが多いです。自分に負荷をかけて体得したものですから、長く続けようとすると息切れする可能性があります。

本当に得意なこととは、息をするようにできることです。他の人が絶対にやりたがらないことを、自分はなんの苦もなくできてしまうという風に。当然ですが、そのほうが他者と比べて圧倒的な成果を生み出すと私は考えています。

ちなみに、私が息をするようにできることは、ビジョンや未来を描くこと。誰にも頼まれなくても、無意識で未来を思考してしまうのですから、つまるところ妄想屋なんですよね(笑)。

本当に得意なことは、本人はなかなか気づけないことも少なくないと思います。ですから、「自分が息をするようにできることって何だろう?」と一人で考え込むのではなく、ぜひ、「私の得意なことってなんだと思う?」と周囲に聞いてみてください。客観的な意見に耳を傾けると何かと発見が多いものです。

株式会社シナモン代表取締役 平野未来

それと、口にしてみることはすごく大事です。もし衝動に駆られるものや生きがいのようなものを見つけたら、人に話してみてください。話し相手は会社のメンバーでも家族でも構いません。自分がやりたいこと、ビジョン、生きがいを話すことで、思考がクリアになり、具体性を帯びてきます。それと、話した以上は後に引けなくなって、結果行動に移すという効果もあります(笑)。

会社で生きがいを見つけるのは可能か?

―社会で働く人のほとんどが「会社で働く人」であるとすれば、せっかく衝動に駆られるものや生きがいを見つけても、上層部の反対勢力などにあい、最初の一歩を踏み出しづらいのではと思います。

おっしゃる通りかもしれません。私は組織に属したことが少ないので、教訓らしきことは言えないのですが、私なら相談する相手を変えます

例えば、「Slack(チームコミュニケーション・ツール)」を導入したいと上司に提案したとして、「スイッチングコストかかる」などとつれない態度を取られたとします。私なら、Slackを導入するスタートアップに話を聞きに行きます。その上で有益な情報を持ち帰って再度上司を説得するもよし、そのままどこかに転職してしまうという選択肢もあるでしょう。

あるいは、もっと大きな話で新規事業を上司に提案したとして、「うちの会社じゃマーケット小さくない?」などと否定されたとします。私ならベンチャーキャピタルなどにまったく同じアイデアをぶつけてみるでしょう。

会社は、すごく小さい世界です。チームだとさらに小さい世界。せっかくのアイデアを数名に否定されただけで「ボツ案」にするのはもったいないと思います。

株式会社シナモン代表取締役 平野未来

今の会社でやりたいことを表現できないなら、思い切って環境を変えてみてもいいのではないかなと。一日8時間以上その会社で働くわけです。起きている時間の半分を悶々として過ごすより、ワクワクしながら大好きなことをして過ごしたほうがきっとハッピーになれます。

最近は、副業でやりたいことを実現する人が増えました。終身雇用の時代と比べたら気負わず新たな一歩が踏み出せる時代になったと感じますよ。

「こうしたい」がなくても「こうありたい」を大切にする

―この記事の読み手の中には、こうありたい《being》という理想はあるのだけど、こうしたい《to do》にたどり着けていない、という人も多くいらっしゃるように思います。この状態を、平野さんはどう見ますか?

チャンスだと思います。

というのも、私が起業家人生を10年以上やってきて最もしんどかったのは、アプリ事業からAI事業に移行するときでした。開発したアプリがことごとく不発に終わり調達した資金が底をつきそうになり、会社存続の危機に立たされてしまった。精神的に追い込まれているのに、当時の私は第一子を妊娠中で、肉体的にもしんどかったのです。会社を畳むという選択もあったはずですが、私は「起業家であり続けたい」という《being》を捨てきれませんでした。何の事業をやるのか、どうやって稼ぐのか、何の見通しもないのに、です。あるのは、《こうありたい》という理想だけでした。

とにもかくにも、すぐにでも資金が必要なので、日本に帰国し、身重の体で営業活動に奔走したわけですが。苦しみもがいていると、光がさす瞬間がありました。「そうだ、私には学生時代に学んだ人工知能の技術があったのだ」と原点回帰することにしたのです。今のシナモンがあるのは、「起業家であり続けたい」という《being》を捨てなかったからこそだと思っています。

ですから、たとえ、売る商品がなくても、やりたいことが見つかっていなくても、まずは《こうありたい》《こんな生き方をしたい》という思いを大切にしてください。その思いを持って行動した後の自分は、過去の自分とはもう違っていて、だとすれば、頭に浮かんでくる衝動や見える景色は変わってくる。そこから生きがいを見いだしていくのだと。これからが楽しみな人、なんですよ。

株式会社シナモン代表取締役 平野未来

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[取材・文] 両角晴香、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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