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INTERVIEW
成長の踊り場、チームに停滞感。苦悩するチームを救うため、敏腕COOが行ったすべてのこと
INTERVIEW

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右肩上がりの成長が続くある種 “魔法の期間” が終わり、ついに業績は頭打ちし、踊り場に。しかも、その停滞感が蔓延して抜け出せず、社員は半ば諦めムード・・・どんなチームも一度は陥る状況かもしれません。

2004年に医師である石見陽さんが創業し、2014年に東証マザーズへ上場を果たしたヘルステックベンチャー「メドピア」もまた一昨年(2016年)、外部環境の変化も受けてそうした苦境に立たされ、組織改革の必要に迫られていました。その改革を主導したのが、同社取締役COO(最高執行責任者)の林光洋さんでした。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

林さんはDeNAに2003年から10年間在籍し、執行役員やEC事業の責任者として、その躍進に大きく貢献しました。その後2015年に、インキュベーション事業を行うベータカタリストを立ち上げ、取締役に就任。自身が手がける医療ベンチャーMediplatが2016年にメドピア傘下に入ったことを機に、メドピアグループの経営に参画しました

そこで感じたのは、「大手競合がいるから・・・、政府の規制があるから難しい」という経営陣やメンバーたちの間で漂う、後ろ向きな空気だったといいます。

果たして、そこで林さんはいかに意識改革を行い、事業成長を目指す組織へと変革していったのでしょうか。そしてそれを主導するリーダーに必要なマインドセットとは――。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

PROFILE

メドピア株式会社取締役COO 林光洋
林光洋
メドピア株式会社取締役COO
1996年藤田観光株式会社に入社。2003年12月に株式会社ディー・エヌ・エーに入社。子会社の社長を経て、2009年に執行役員 EC事業本部長に就任。大手企業とのJV設立や協業を手掛け黒字化まで推進。2013年3月に同社を退社後、ベンチャーや大手企業の各種プロジェクトを支援。2015年4月に株式会社ベータカタリストを創業し、取締役に就任。2015年11月に同社が設立した医療プラットフォームを提供する株式会社Mediplatの代表取締役 CEOに就任。2016年7月にメドピア株式会社に参画し、同年12月に同社取締役 COOに就任。

デジタルシフトの大チャンス・・・なのにどこか自信のない空気

―林さんから見て、入社当時のメドピアの印象はどうでしたか。

僕がジョインしたのは2016年のちょうど第4クオーターの決算月でした。そのとき・・・事実なので率直に言いますが、このままだと通期で赤字に転落するリスクがあったんです。通期目標にはまったく届く見込みのない状況でしたし、来期の見通しも中期計画のシナリオからはかけ離れていた。当時、石見(陽 代表取締役社長CEO)をはじめ経営陣、50名弱のメンバーたちに何か大きな問題があるとか、やる気がないとかではなかったものの、とにかく成果が出ていない、というのが実情でした。

―成果が出ていなかった理由をどう分析しましたか。

まずひとえに経営のリーダーシップワークしていなかったと思います。メンバーは医療への思い入れが強く、社会的意義に立脚している人がほとんど。それ自体はすばらしいことなんですが、一方であまりにビジネスに対して潔癖すぎるというか、社会的課題への意識と事業が結びついていませんでした

当社の主幹事業のMedPeerは10万人の医師が会員のUGC(投稿)型プラットフォームですが、長らく広告枠だけを売っている状態でした。本来なら、そのユーザーメリットを活用して、製薬会社へプロモーション施策を提案したり、スポンサードコンテンツを制作したり、さまざまな施策が考えられるのに、それすらできていなかった。FacebookやLINEなどさまざまなプラットフォームがそれぞれの強みを活かしてクライアントへソリューションを提供しているなかで、MedPeerの事業化手段にもさまざまな可能性があるだろうと思っていました。

『MedPeer』
『MedPeer』

製薬業界を俯瞰して見ると、ジェネリック医薬品の普及や、研究開発費の増加、薬価の改定などを背景に、製薬企業各社の利益率は低下傾向にあります。そうしたなかで、これまで1兆5000億円もの人件費使ってきたMRの活動以外に、より効率的に医師に医薬品の情報提供し、患者さんへ医薬品を届ける手段を考えなければなりません。まさにここにデジタルシフトが起きる環境がそろっているんです。

製薬会社に対して、僕らのノウハウやナレッジを活用した医師向けのデジタルマーケティングのコンサルティングを行ったり、オウンドサイト構築の支援だったり、新たなソリューションを提案していくことができる。既存の広告枠にとらわれず、もっと自由な発想でプラットフォームを活用することができる。これは僕らにとってチャンスのはずなんです。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

―チャンスにも関わらず、なかなか成果が出せていなかった、と。林さんがメドピアに入社して、どんな取り組みからはじめましたか。

入社する直前に経営陣と合宿を行ったとき、今言ったようなことを指摘しました。業界に詳しくないからこそ、なんでも言えるじゃないですか。性格的にも率直に言うほうですし、「なんでこういうことをやらないんですか」と、純粋に疑問に思ったことをぶつけました

すると、「いや、そんな簡単じゃない」とか、「競合分布がこうだからこれ以上は伸ばせない」とか、できない理由がいろいろと出てきたんですけど・・・現場の肌感ではそうかもしれなくても、発想の持ちようでしょう、と。ほかの業界と比べたら、医療業界のデジタル化を手がける競合はさほど多くないわけです。事実、競合トップのエムスリーさんずっと拡大基調を維持していますし、マーケットは確実にそこにある。それなのに、「会員数で負けてる」「提案しても通らない」「それに規制もある」と。そんな発言が社内に蔓延していました。

「新規事業のやり方が分からない」とも言われたんですけど、そもそもMedPeerという事業を立ち上げて、上場まで果たしているわけじゃないですか。なぜそこまで自信を失っているのか・・・まずはそこが課題だと感じました。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

経営計画、メンバーの意識改革・・・第一歩は「自らやってみる」

―会社を覆っているネガティブな空気を払拭するため、どんなアクションを取りましたか。

冒頭にお話しした通り、社会的意義とビジネスの創造という二つの軸があまり健全なバランスではなかったところにメスを入れました。具体的には、「経営計画」を正しく設計し直すこと、そして「メンバーの意識改革」を図ることの二つです。

経営計画については、そもそも医療業界は薬機法や医師法など関連する法規制に左右されるところがありますから、僕らのような小さな会社が生き残るには、一定事業領域を広げて数本の柱を立てる必要がありました。しかし、当時MedPeer事業以外に屋台骨を支えうる新規事業を生み出せていなかった。

そこで、2つの会社のグループ化によって、オンライン健康相談サービス「first call」や管理栄養士による食生活コーディネート「Diet Plus」といったコンシューマー向けの新たな事業を始めました。さらに、それらを成長させると同時にもう1本別の事業の柱を立てることを目指しました。

意識改革については、先ほどの合宿でもそうですし、部長など主要なマネジメントメンバー一人ひとり1on1ミーティングなどで積極的にコミュニケーションを取っていきました。なぜ1on1かというと、みんなで集まる飲み会ではなかなか本音聞けないからです。一人ひとりと晩飯を食べに行ったりして話しました。

そこで、僕らがやっていることは事業であること。やりたいこと・・・社会課題を解決するためには、利益を出さなくてはならないこと。利益を求めることは悪いことではなくて、それなくしては持続的な社会事業は成し遂げられないこと・・・他のメンバーたちにも、日々の仕事を通じてそういった基本的な意識から共有していきました。

こうした意識共有単なる上からの押しつけになりやすいと思いますが、メンバーに対しては僕から直接言うことはなるべくしません。部長をはじめとしたマネジメントメンバーと話して意識をすり合わせた上で、メンバーには彼らから、日々のコミュニケーションの中でそうした意識を伝えてもらっています。こうした風土醸成に関することは、情報発信者が僕一人だけにならないようにする必要があると思っています。そうしたことを経てマネジメントやメンバーの意識は少しずつ変わっていきました。

その他には、現場レベルでとにかく多くの事業ラインのミーティングに参加して、実際どんな感じで仕事に取り組んでいるのか、見ていきました。見る・・・というか、僕は基本、全部自分でやってみます営業だったら企画書を作って実際にお客さまへ提案に行くとか。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

―COO直々に、ですか。

やってみないと分からないじゃないですか。言わば当時の僕は「異物」なんです。「これ、どんなふうにやってる?」とか、「どんな提案をしているの」とか、いろいろと質問しながら実際にやってみて、数カ月で業界動向や現場のことが分かってくると、僕からも「なんでこうしないの?」とか、「こうしたほうがいいんじゃない」ってことが出てくる。

みんな真面目に頑張ってはいるけど、もっとやれることはあるんじゃないか、ということが見えてくるんです。例えば、メルマガひとつ取っても、メルマガを送るべき時間、頻度、内容・・・CTR(クリック率)を高めるため、どうやったら医師たちを振り向かせられるか、もっと考えられることはあるはずでした

―やはり、メドピアで働くモチベーションが社会的意義に立脚しているからこそ、利益追求に嫌悪感を抱く人が多かったのでしょうか。

嫌悪感というより素直に、利益に対する意識がかったというか、株価が下がっていることに対する危機感もあまり共有できていなかったと思います上場して一番良かったときは240億円以上だった時価総額が、僕が参画した時点でその4分の1程度になっていましたから、少なくとももっとチーム全体で危機意識は共有されているべきだったと思います上場後、業界の規制強化や法改正などさまざまなことがありましたから、仕方ない部分はあったけれども、そこは乗り越えてきたわけです。ただ、その後の成長ストーリーを描けていなかった。

社会的意義はもちろん重要です。しかし、ビジネスとしてある程度のスケールを目指さないことには、社会的なインパクトをもたらすことは到底叶わないちなみに僕自身、ノルマって嫌いなんです。やりたくなきゃ、やらなきゃいいじゃんと思う。でも、僕らのミッション、存在意義は「Supporting Doctors, Helping Patients.(医師を支援すること。そして患者を救うこと)」で、「集合知により医療を再発明する」というビジョン、目指す姿があり、それを成し遂げたいから、みんな好きで集まってるわけじゃないですか。じゃあ、その実現に向けて今期はこれくらい、来期はこれくらい目指そうよ、ということでしかないんです。

―それまでそこまでは強く言われてこなかった売上や利益といった数値目標が強調されるようになって、社員からの反発や抵抗はありませんでしたか。

一部ではあったと思いますし、実際に辞めていったメンバーもいます。でも前提として、どうすればいいのか、なんとかしないといけない、という前向きな危機意識あったからこそ、僕がジョインすることになった。多少の痛みはあっても、変わるためには意識の変化は必要不可欠だったと思います。

でも、この前ばったり辞めたメンバーの1人と会って、「いま、何やってるの?」なんて普通に挨拶した後にメールやり取りしたら、当時僕が話していた言葉を覚えてくれていて、「転職して入ったいまの会社のメンバーにもよく伝えてるんですよ」と言ってくれました。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

ぼんやりと「組織を再生」ではなく、目の前にいる人の成長にコミットする

―林さんのその自信が、自信を失っていたメンバーにも波及していったのではないでしょうか。実際、組織はどのように変わっていきましたか。

ジョインしてから半年くらい経ったころでしょうか。さまざまなメンバーが活躍してくれるようになったんです。例えば、デザイナーの人が自主的に中期的な事業プランを図案化して提案してくれて、「それ、すごくいい。完全に僕も同意だから、やろう」ということで、実際その方向へサービスの舵を切ったり、採用担当者が非常に優秀な人材を目標人数以上に採用してきてくれたり、セールスが新しいプランを企画したり・・・そういったボトムアップの動きがどんどん出てきました。

僕は、自分の意思でこの会社にきて、自分のミッションはチームを成長させることだと考えていたけど、何よりいちばんよかったのは、各領域にも同じような志で、自らの意思で会社の成長を牽引しようとする人が現れてくれたことだと思います。それがいままさにこの会社の成長を支えてくれています。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

―変革を進めたことで、業績にも変化はあったのでしょうか。

幸い、比較的すぐに各事業の指標が右肩上がりになりましたここ2年でも、売上は年率40%成長ですし、DAU(Daily Active User)、MAU(Monthly Active User)も倍以上に増えてきましたただ、これはあくまで通過点で、まだまだ目標はその先にあります

―社内から組織変革を行うリーダーに必要なマインドセットとは、どういったものでしょうか。

・・・いや、変革なんてそんな大それた話ではないと思うんですよ。企業風土が一気に変わったわけでもなく、もともと持っていた良さが目に見えるようになった、というだけの話。もし、僕の影響があったとすれば、きっかけづくりくらい。突然、ヤンヤ吠えるやつが来て、目標設定とその共有が明確になって、成果が出たことでみんなの意識が変わった。順番的には意識が変わるのが先なんだろうけど、そこで成果が出ないとまたすぐもとに戻るんですよ。成果が出たからこそ、自然とみんな前向きになれたんです。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

で、その前提で何かマインドセットがあるとすれば、ぼんやりと「組織を再生する」と考えるのではなく、いま目の前にいる人の成長にコミットすること。それこそがマネジメントですよね。だから、別に部下に嫌われることを恐れないというか、厳しいことを言わなければいけない局面では、それを厭いません

あと、これは僕ならではのやり方かもしれないけど、まずは自分でやる、ということ。セールスも人に会うことも絵コンテづくりも、自分でやってみるし、メンバーと一緒にやっていく。彼らは僕が知らないことをやっているし、真面目に事業に取り組んでいるので、そこには大いにリスペクトがあります。だから、まずはそこに寄り添うというか、「教えてよ」というスタンスで一緒にやってみるその上で、そこから何か背中を見せられたらいいな、と思います。

それともうひとつは・・・人は変わると思っていること。自分がまさにそうだったんですけど、どうしようもないやつだったんですよ(笑)。大学時代体育会のサッカー部に所属して、就職する気なんてひとつもなかった。呉服屋をやってた祖母に諭されて、なんとか藤田観光に就職することにはなったんですが、3月31日まで卒業旅行に行ってたくらいで。入社して、ベルボーイやウェイターを経験してから、3年目で本社に異動し、リゾート開発のセクションに配属されました。でも、本社に行ってからあまりに仕事ができなさすぎて、当時の上司に直談判したんです。「すいません、僕、もう給料もらえないです。もらえるようなことしてないです」って。そうしたらその上司が、「いいんだよ、会社はおまえに投資してるんだから。ありがたくもらっておけ」って言ってくれて・・・。そこから必死で働いて、いまがある。だから、人は変われる。そう信じているので、その思いでメンバーとも接しています。

メドピア株式会社取締役COO 林光洋

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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