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INTERVIEW
なでしこジャパン選手のトレーナーが語る「世代交代」の最適な条件
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企業など組織が老齢化し、蓄積されたノウハウが陳腐化していくということは、変化の激しい現代において致命傷です。そうした事態を避けるための適切な「世代交代」がこれからますます重要になっていくでしょう。

世代交代といえば、真っ先にトップアスリートチームを想起する方も多いかもしれません。そこで今回は、スポーツの世界で起こっている世代交代にまつわる事象から、ビジネスの世界にも生かせるエッセンスを学びます。

女子サッカー日本代表、「なでしこジャパン」で活躍する大野忍選手や近賀ゆかり選手の専属トレーナーとして、トップチームを身近で支えるスポーツトレーナーの山田晃広さんにお話を伺いました。

The STADIUM 代表・スポーツトレーナー 山田晃広

PROFILE

The STADIUM 代表・スポーツトレーナー 山田晃広
山田晃広
The STADIUM 代表・スポーツトレーナー
1974年生まれ。高校卒業後、大手スポーツマッサージの治療院に入社。2000年にスペインに渡り、ローカルクラブでトレーナーを務める。2003年にスペイン1部リーグ所属のラシン・サンタンデールのトップチームトレーナー(スペインリーグでは日本人初)に就任。2004年末に帰国後、Jリーグ所属湘南ベルマーレのトップチームチーフトレーナー、なでしこリーグ所属INAC神戸レオネッサのチーフトレーナーを歴任。現在は治療院を運営する株式会社ロコケア、女子サッカー日本代表の大野忍選手、近賀ゆかり選手らのトレーニングとマネジメント業務に携わる株式会社The STADIUMを経営し、現在はプロトレーナーの育成に力を入れている。

株式会社The STADIUM

一流のひとほど “終わり” を見据えていまに向き合っている

ースポーツトレーナーとはどのようなお仕事でしょうか?

トレーナーは、選手のからだだけでなく、メンタルやそれに影響をおよぼすプライベートなど奥深いところにまで踏み込んで、選手たちをケアします。そのため、選手に関することならどんなに些細なことでも把握するようにしています。

例えば、ある選手は体重が2キロ増えているから朝食を食べないようにしている。ある選手は家族が上京してきて、ベッドを妹とシェアしているから疲れが十分に取れていない。そんなときには選手に事務所にある布団を貸し出すなど対応することも。

大切なのは、選手のからだと心のバランスを保つことです。コンディションにあわせ、適切な年代や性格のトレーナーが担当します。一般的に若手のトレーナーは選手との一体感を、ベテランのトレーナーは安心感を醸成するのが得意だと思います。

 

ー選手やチームのかなり深いところにまで関与するのですね。

はい、からだのケアのプロというだけではないのです。私がそのことに気がついたのは、スペインリーグにいたときの先輩トレーナーに「メンタル支配力」で負けたことがきっかけでした。

彼は、選手の悪かったプレーをずばり指摘したり、「あのプレーがすごくよかったから、日曜日のトレーニングでもう一度見せてほしい」とテクニカルなところにまで踏み込んで、選手とコミュニケーションをしていました。

そうすることで、選手の心に入っていったのです。誰より近くにいて、小手先ではないアドバイスで選手の相談や悩みを解決し、彼らを親身になって支えてあげる。それが、私が目指す「勝つためのトレーナー」です。

 

ーサッカー業界ではこれまで、世代交代はどのように行われてきたのでしょうか?

世代交代の前提として、男性と女性ではフィジカル面が異なります。

男性の場合は、25〜27歳ぐらいが身体能力がもっとも充実している時期。その後も伸ばしていくためには、トレーニングの質を高める必要があります。そういう意味で、カズさん(三浦知良選手)はものすごくストイックにやっておられます。

女性の場合は、ベテランと呼ばれるようになる30歳ぐらいから、さらに身体能力が伸びることもあります。

世代交代というと「引退」や「終わり」というイメージを想起されるかもしれませんが、どちらかというと「ステージが変わる」という感覚のほうが近いのだと思います。

例えば、活躍を続けながら年齢が上がると、年俸も上がるためクラブチームの経営を圧迫する場合もあります。であれば、所属するチームやときには国を変えたりする必要があることも。

そうして自分自身を違うところに身を置くうちに、自然とチームの世代交代が起こるということはあるでしょう。


ーステージを変えたい選手から相談を受けることもありますか?

はい、多々あります。

なでしこジャパンの大野忍選手が海外に行きたいと相談してきたときは、スペインリーグの知人を紹介したりしました。本業だけでなく、新天地での生活に馴染むこと、引退したあとの人生のことなども考えなければなりませんから、実現するのは簡単ではありませんが。

また、逆に選手がステージを変えるために抜けたことでチームにできた穴を埋めるのをサポートすることもあります。

 

ーうまく自分のステージを変える選手に共通することは?

これはビジネスにも通ずるところがあると思いますが、早いうちから自分が将来的にどうなりたいか、そのためにどのようなステージを積み重ねていかなければならないかを知っておいたほうがよいでしょう。

サッカー選手でいえば、現役選手の頃から、解説の仕事をやってみたり、英会話教室の通学などセカンドキャリアを支援するような制度を活用するなど。引退後も活躍する一流選手ほど、いまのステージが終わるときのことを考えているように思います。

たしかに「目の前のサッカーやビジネスに向き合うべき大事な時期なのに、将来のことに目を向けたりするのは少し違うのではないか」という気持ちもわかりますが、やはり現役でバリバリやっているときから意識すべきです。

朝起きてジャージに着替えて、練習をして帰宅するルーティーンに身をまかせるのは楽でしょうし、大勢のひとたちがそうしています。しかしそれではいま向き合っている目の前のことが終わったときに、何も残らなくなってしまいます。

 

ー選手たちはどのようにして先々のことを見据えるようにしていますか?

一流の選手たちほど、シーズン中でもスポーツのことを一旦頭のなかでリセットするのが上手い。そして、自発的に自分とは異なるスポーツ選手以外のひとと会う機会を持つようにしています。相手がビジネスパーソンであることもめずらしくありません。

その道で活躍しているプロフェッショナルなひとたちと話すことで、自分のステージを再確認することができるのです。そして、将来や次のステージを見据えることで、いま目の前の仕事に対する打ち込み方が変わることを、彼らは知っています。

The STADIUM 代表・スポーツトレーナー 山田晃広

適切な世代交代のために若手が担うべき役割

ーチームとしての理想の世代交代とはどのようなものでしょうか?

世代交代をした結果、常に年上のひとも年下のひともバランスよくいることです。サッカーの場合、ベストなのは下部組織からトップチームに良い選手を引き上げることです。

 

ーなぜ世代のバランスが大切なのでしょうか?

本質的にはチームのフィロソフィーを語れるひとが常にいることが大切です。チームのフィロソフィーとは、目指すチームや所属する選手の理想像、そのチームの成り立ちのことを指します。

Jリーグでいえば、J1の「セレッソ大阪」などは外国人選手にできるだけ頼らず若い選手を上手に育成することで、継承を促していますね。

 

ーフィロソフィーの継承がなぜ重要なのでしょうか?

なぜなら、チームに一流の選手がいたときに、そのひとの努力した過程や、どんなふうに打ち込んでいたかというメンタリティーを知ることが、ほかのひとの刺激になるからです。

私が携わってきたサッカーの海外のクラブチームの多くは、チームの在り方やヒストリーをチームドクターから掃除係まで全員が語れるように組織的にしていました。

ビジネスシーンでいえば、その企業やチームの立ち上げ期から発展途中の歩みを自ら知っている、もしくは語れるひとが欠かせないということ。そのような人物がヘッドハンティングで抜けてしまって、ノウハウが誰にも受け継がれていないということは避けなければなりません。

 

ーフィロソフィーを語るべきはベテランの選手や社員でしょうか?

そうとはかぎりません。フィロソフィーを共有することは長期的なビジョンの達成に関わること。であれば、ベテランだけでなく若手もいつでも語れるようにしたり、率先してさらに若手に共有していくそれを中間管理職らがサポートしていくことが大切です。

またフィロソフィーを語るべきひとの立場と、勝ち負けや実力の優劣は関係ありません。ベテランへのリスペクトは忘れてはいけませんが、若手で実力が劣っていたとしても、フィロソフィーをチームのなかで口にしたり、共有することをためらう必要はないのです。

 

ー山田さんが経営されている会社でも継承は実践されていますか?

まさにこれからです。スポーツの業界は特にそうなのですが、選手やトレーナーがフィロソフィーやメソッドを体系立てて継承するということはあまりありませんでした。個々人が失敗を重ねて、各々が勝手に育っていくことが多かった。

しかしトレーナーの仕事の場合、そのやり方では失敗のしわ寄せが選手に行ってしまいます。であれば、次世代のひとたちに経験ではなく、知識として早いうちに継承できるようにしたい。そうして、「成功する」ではなく、「失敗しない」トレーナーを世に送り出したいと考えています。

The STADIUM 代表・スポーツトレーナー 山田晃広

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[取材・文] 狩野哲也

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