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INTERVIEW
部下がついてくるマネジャーは「3つの感情」に気づいている 脳神経科学者 青砥瑞人
INTERVIEW

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BOOK MARK

部下が「感情」を表に出すことは、多くの会社で良しとされていません。一方の上司もまた、実は部下が感情を表に出すことを望んでいない。会社の方針に疑問を投げかけてくるよりも、昇進や昇給を目指し、盲目的に努力してくれたほうがラクだからです。

しかし、「感情」を押さえつけ、「論理」だけで組織をマネジメントすることには限界があります。なぜなら、人間の思考や行動というものは「感情」に大きな影響を受けているからです。

こう語るのは、脳神経科学者の青砥瑞人(あおとみずと)さん。日本の高校を中退し、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へと進学。同校を飛び級で卒業し、現在は脳神経科学の知見を人材開発の分野に活かす活動に従事しています。

青砥さんは、論理的思考に長けた経営者やマネジャーほど、部下のある「3つの感情」をないがしろにしがちだと言います。裏を返せばそうした感情に気づければ、組織を飛躍的に成長させられるとも。果たしてそれらはどのような感情なのでしょうかーー。

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人

PROFILE

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人
青砥瑞人
株式会社DAncing Einstein 代表取締役
高校球児のころ、脳への興味が芽生える。日本の高校を中退し、大検を経てUCLAの神経科学学部へ進学、飛び級で卒業。帰国し、株式会社DAncing Einsteinを設立。脳神経科学の最先端の知見を人材開発や教育の分野に応用し、企業や学校を支援。大手印刷会社の凸版印刷と社員向け教育プログラムを共同開発した実績もある

脳神経科学が人材開発にもたらすインパクト

ーまずは青砥さんの異色の経歴についてお聞かせください。

僕が「脳」に興味を持ち始めたのは、高校球児のころ。ポジションはピッチャー。当時の恩師がマンガ『巨人の星』に登場する「星一徹」のような人で、「真剣の上を歩く」などあり得ないトレーニングをしていました。

その恩師から、「ピッチャーは集中力が大切。常に丹田(たんでん。へその下の辺り)を意識して呼吸しろ」と言われまして。試合前などにサボると、集中力が鈍る感覚があったんです。「この違いは何だろう」とずっと考えていました。

ケガで野球を止め、高校も中退し、書店で本を眺めていたら、集中力はどうやら脳と関係があることが分かり、それで「脳について学ぼう」と。日本に良い大学がなかったので、脳神経科学とスポーツの両方に強い、アメリカのUCLAに進学しました。

ー脳神経科学の知見を人材開発や教育現場に活かそうと思った理由は。

脳神経科学の魅力は、研究すればするほど分からないことが出てくること(笑) それで掘り進めようと多くの論文を読むうち、「この知見は学習や教育に携わる人にこそ価値があるもの」だと気づいた。「ならば、自分がその架け橋になろう」と。

帰国し、教育の現場へ。過去に「学級崩壊」を経験したある小学校の先生は、「子どもも教師も安心して過ごせるクラスを作りたい」と腐心していました。そこで、著名な教育者である菊池省三さんの「ほめ言葉のシャワー」を脳神経科学的に採り入れてみることに。

教室の前に子どもを一人立たせ、その子の良いところを他の子どもたちが発表していくのです。途中で飽きてしまう子どももいるのですが、続けるうちにクラスの雰囲気が良くなっていきました。子どもたちの「自己肯定感」を意図的に刺激したんですね。

ー興味深いです。そうした知見はビジネスにも応用できますか。

「脳神経科学をビジネスに活かしましょう」とは、僕は積極的には言いません。ただ、一つ確かなのは、「脳を知る」ということは「人間を知る」ということ。

人間やモノに対するパースペクティブ(見方)を変えることで、自分が知らない自分を発見したり、他人を深く理解したりするのを助ける。これが、脳神経科学の本質的な価値です。

「脳神経科学の知見が医学の世界だけに閉じこもっていてはもったいない」
「脳神経科学の知見が医学の世界だけに閉じこもっていてはもったいない」

会社は社員の「感情」をないがしろにしている

ー脳神経科学の観点から、今の組織マネジメントにおける課題は何でしょうか。

社員の「感情」に対する注意がおろそかになっているということ。経営者や活躍するビジネスパーソンの方々とお話しすると、関心が戦略や思考など、明確に言語化できることに偏っていると感じることが多いです。

しかし、「論理」だけで組織をマネジメントすることには、明らかに限界があります。なぜなら、論理的な思考やそれに基づいて決定される意思、行動というものは、かならずしも言語化できない「感情」に大きな影響を受けているからです。

ー感情がないがしろにされることが、なぜ深刻なのでしょうか。

人間の「記憶」の仕組みを見れば、それは明らかです。

記憶の種類(株式会社DAncing Einstein作成)
記憶の種類(株式会社DAncing Einstein作成)

この図のように、人間の記憶は、

  • 長期記憶:比較的長い期間保持される記憶
  • 短期記憶:反対に短い期間しか保持されない記憶

に分かれます。

さらに前者の長期記憶は、

  • 陳述記憶:言葉で説明できる記憶
  • 非陳述記憶:反対に言葉では説明できない記憶

に分かれます。

それらのうち「非陳述記憶」が、記憶の大部分を占める。つまり、人間は言葉ではうまく表現できないような感情に基づいて、多くの意思決定を行っているのです。

にも関わらず、多くの会社では「ロジカルシンキング」など論理ばかりが重要視されてきました。その結果が、今の「学歴社会」です。

社会に出ると、言葉ではうまく表現できないような問題に立ち向かうことになります。ですから、たとえ学歴が高い若手社員の間でも「能力」に雲泥の差が生まれてしまうのです。

「学校で『非言語』の力も育めると良いのですが・・・」
「学校で『非言語』の力も育めると良いのだが・・・」

部下の葛藤・ストレス・違和感に目を光らせる

ーでは、会社が着目すべき社員の「感情」とは何でしょうか。

「葛藤」「ストレス」「違和感」です。まず、葛藤からご説明します。

みなさんは普段、多くの葛藤を経験していると思います。「仕事の成果が上がらない」「職場の人間関係がギクシャクしている」「今取り組んでいる仕事に意味があるのか」。「葛藤せずに済むのなら、そのほうがいい」と思う人もいるでしょう。

上司なら、葛藤する部下と接し、助言する難しさを感じているかもしれません。葛藤すると、パフォーマンスが下がったり、停滞することはどうしても避けられない。一日も早く葛藤から抜け出し、仕事の成果につなげてほしいと感じるでしょう。

しかし、葛藤は人間にとって大切です。なぜなら、そういうモヤモヤする状況に陥ると、脳が「なんとかしよう」と頑張り始めるからです。

なぜ、「過保護な親はよくない」と言われるのか。それは、葛藤に脳が対処し始めようとする前に、先に手を打ってしまうからです。それでは、脳がいっこうに成長しない。実際、自制心が弱い子どもの親は過保護であることが多いです。

「愛情があるなら、葛藤させたほうが良い」
「愛情があるなら、葛藤させたほうが良い」

職場でも同じです。部下に何もかも教えてしまう “優しい” マネジャーは、果たして「良いマネジャー」なのか。短期的な成果にはつながるかもしれませんが、残念ながら成長を遅らせていることのほうが多い。

すごいリーダーの人って、意外と漠然とした状態のまま、部下に仕事を投げるじゃないですか。あれは「そのほうが部下が伸びる」ということを、経験的に知っているからなんです。

部下のパフォーマンスが落ちた瞬間、すぐに悩みを論理的に解きほぐそうとしてしまう上司は、部下の葛藤を一度受け止め、ヒントを与えるぐらいの気持ちで見守ることを心がけてください。

スティーブ・ジョブズは違和感に気づく天才だった

ー部下の「ストレス」とはどのように向き合うべきでしょうか。

ストレスも、言葉にしづらい悩みの一つ。気だるさやモチベーションの低下を感じても、その原因を説明できる人は少ないでしょう。また、ストレスは仕事や生活から一切排除されるべきだとも思われています。

もし部下が、ストレスを慢性的に感じているとすればそれは良くありません。しかし、ストレスそのものはかならずしも悪いものではなく、むしろ「適切なストレス」を受けることが記憶力や注意力、集中力を高めるのには必要なんです。

ー「適切なストレスの受け方」とはどのようなものでしょうか。

部下のストレスをケアする上で、大事なことが3つあります。

  • 部下のストレスを察知したら、リラックス状態に誘導してあげること。過度なストレスは認知機能(記憶や注意など)を下げてしまいます
  • ストレスの原因を特定すること。実際に行動・作業していることに対するストレスはパフォーマンスを高めてくれますが、実行動と関係のないストレス(例えば、上司からのプレッシャーや隣の席の人がうるさいなど)は、単なるディストラクション(混乱や動揺)でしかないので注意が必要です
  • 部下のストレス感受性を観察すること。ストレスの適切な度合いには、ストレスホルモンの出方や受容体の発現率などによって個人差があります。部下を観察し、一人ひとりに合わせて、ストレス、リラックスの誘導をし、またストレスの種を実行動由来にするなど協力してください

ー最後に「違和感」はいかがでしょうか。

違和感とは、「何かが違う、おかしい」という感覚のこと。人間にとって基本的に不快なものです。しかし、自分が良いと信じているアイデアに、他の人が違和感を感じていたら、それを説き伏せてしまいたくなりませんか。

例えば、部下が今の仕事に「違和感」を感じているとして、「どのあたりに違和感を感じているのか。どうすれば違和感を解消できると思うか」と尋ねて、部下が答えられないと、「だったらまずはやってみろ」と言ってしまいたくなる人はいるでしょう。

しかし、この違和感を察知する力というのは、それだけで貴重です。なぜなら、違和感を抱けるのは、社会や会社の常識にとらわれず、むしろ抗おうとしている人の特権だからです。

故スティーブ・ジョブズ氏は、過去のデジタルデバイスに対して、異常なまでに違和感が鋭かった人ですよね。部下の「何かが違う」という声に耳を傾ける姿勢と、余裕を持ちたいものです。

「今は『共感の時代』と言われますが、『違和感の時代』でもあると思います」
「今は『共感の時代』と言われますが、『違和感の時代』でもあると思います」

「感情」を振り返る時間を確保しよう

しかし、経営者やマネジャーの方々には、確かに部下の感情に目を向けることも大切なのですが、それ以前にまずは「自分の感情」にしっかりと気づいてもらいたいです。

「仕事」の振り返りをすることはあっても、「感情」の振り返りをしたことがある人は少ないでしょう。「自分はいつ、何をした」ではなく、「自分はそのとき、どう感じたか」を振り返り、自分がどのような人間なのかに気づいてほしい。

なぜなら、先ほども言いましたが、人間は論理だけで動くようにはできていません。いくら他人に何かを言われたり、偉人の書いた本を読んだところで、「感情」がついてこないかぎり動けないのです。

目標や理想の状態を決めたら、次は自分の今の感情を知ること。そうすれば、成長のためのスタートをこれまでよりも上手に切ることができるでしょう。

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脳神経科学が解き明かす感情と行動と成果の秘訣
脳神経科学をキャリアに活かす実践的なアプローチをご紹介します。
https://mirai.doda.jp/theme/neuroscience/emotion/

[取材・文] 岡徳之、大矢幸世

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