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INTERVIEW
オープンイノベーションごっこを撲滅せよ。大企業がスタートアップと”本気で”手を組むときの鉄則
INTERVIEW

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BOOK MARK

イノベーションの創出を求める大企業の間で盛んになっている「オープンイノベーション」

スタートアップとの協働を促すためのコワーキングスペースの設立や、ハッカソン、ピッチイベントの開催など、オープンイノベーションを目的とした取り組みをさまざまな業界の企業が行っています。

一方で、「オープンイノベーションに成功した」と呼べるほど成果を挙げた事例はまだあまり多くはなく、むしろ失敗だったという声、大企業と協業するスタートアップからの苦言も聞かれます。

そんな中、当プロジェクトで以前取り上げた三菱UFJファイナンシャル・グループ(以下、MUFG)による取り組みが、既存のコアビジネスにまでよいインパクトを与えるなど、開始から3年を経て、成果を挙げつつあります。

MUFG Digitalアクセラレータ第3期 DEMO DAY
MUFG Digitalアクセラレータ第3期 DEMO DAY

果たして、どのような成果を挙げられたのか、その要因は一体なんなのか。そして、オープンイノベーションの成功の秘訣とは――。取り組みを主導するデジタル企画部へのインタビューを通じて、深掘ります。

コアビジネスへの貢献こそ、オープンイノベーションのゴール

MUFGのオープンイノベーションの取り組みは、以前、当プロジェクトでも取材させていただきました。それが最近、デジタル通貨「MUFGコイン」の開発や仮想通貨流出追跡プロジェクトへの参画など、その成果と言えるような事例が多数報じられるようになってきました。

多くの企業がオープンイノベーションに苦戦する中、成功しているように見えるMUFGの取り組み。当事者であるデジタル企画部は、オープンイノベーションは手段に過ぎないと断言。では、どのように一連の取り組みを設計してきたのでしょうか。

そもそも、オープンイノベーションを始める前に、自社の強みや業界におけるポジションを認識し、どういう方向へ向かうべきなのかを分かったうえで戦略を立てることが重要。そして、その戦略は必然的に産業や事業領域を超えたものとなるべきだと言います。

その新たに目指す方向と自社のポジションとのギャップを埋める手段がテクノロジーであり、それを活かしたプロダクトやサービスを生み出せるのがスタートアップ。そんなお互いの強みを掛け合わせ、目指すビジョンを実現することこそが「オープンイノベーション」の意義だと、MUFGは捉えています。

例えば、GoogleがAndroid社を買収してAndroidを開発したり、Appleが指紋認証技術開発のAuthenTec社を買収してiPhoneにTouch IDを搭載したりしたことは、同社が考える成功事例に当てはまるでしょう。つまり、スタートアップとの協業や買収が、企業のコア事業に何らかの形で貢献していることがオープンイノベーションのゴールの一つと言えるのです。

MUFGでも、最初は「Fintech Challenge」というコンテストで「新モバイルサービス・Webプロモーション手法」と「個人のお客さま向けの新しい決済サービス」というテーマから始まり、「MUFG Digitalアクセラレータ」で回を追うごとに、徐々に金融機関としてのコアビジネスにおける協業へと進んできました。

具体的には、直近のMUFG Digitalアクセラレータ第3期(2018年3月〜7月)でグランプリを受賞したクレジットエンジン社とのプロジェクトは、まさにコア事業に関わるもの。金融機関の融資をオンライン上で行えるようなオンラインレンディングサービスを開発して、三菱UFJ銀行と提携。同行がクレジットエンジンのプラットフォームのファーストユーザーになることが決まりました。

MUFGが協業するクレジットエンジン社のCEO内山誓一郎さん
MUFGが協業するクレジットエンジン社のCEO内山誓一郎さん

また、グループ会社である三菱UFJ信託銀行は今年7月に個人データ銀行事業構想を発表しました。その実現には、さまざまな領域のデータを集めるプラットフォームや、データ解析やセキュリティに関するテクノロジーの活用が不可欠。

そのニーズに応えたのも、スタートアップでした。アクセラレータ第3期で最終発表まで残った6社は、仮想通貨やレンディングといった金融に関わる領域だけでなく、量子コンピュータやIoT、不動産分野と多岐に渡り、そうした企業との連携がすでに生まれています。

足下ではまだ、コストを大幅に下げることができた、目に見える形で収益を上げられるようになった、これまで以上にスピーディにお客さまへサービス提供できるようになった・・・というところにまでは至っていません。

しかし、こうしてアクセラレータプログラムを続け、それに参加する社員も増え、継続的に社外パートナーとともにサービスを生み出すことができている。そういう意味で、一定の成果を挙げている手応えを感じていると言います。

三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 調査役の桂寧志さん
三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 調査役の桂寧志さん

「大企業とはやりにくい・・・」負のイメージをどう払拭したか?

一方で、他社のオープンイノベーションの取り組みでは、何の成果も挙げられずに終わったり、プロジェクトは立ち上がったものの事業化に至らなかったり、事業化はしたものの撤退に追い込まれたりと、なかなかシビアな状況も見受けられます。

MUFGがそれを避けるため心がけたことの一つは、オープンイノベーションを行う上でネックとなる「大企業のイメージ」を変えることでした。「大企業って、なんか組みにくいそうだな」、そう思うスタートアップもいるでしょう。組もうとしてもなかなか話が進まない、頭が固くて否定されがち・・・といったように。

オープンイノベーションというからにはやはり、スタートアップの機動性や先進性を見習いたいし、「尖ったことをやりたい」と思っているからこそやっている。ですから、スタートアップから見て、「この企業と一緒にやれば、新しいものが生み出せるかもしれない」と思えるようなアイデンティティを確立する必要がありました。

そのために、自社メディアの「INNOVATION HUB」で情報を発信、拠点となるコワーキングスペース「MUFG The Garage」を開設、ハッカソンやミートアップを開催して、積極的に接点を創出。また、社内組織だったイノベーション・ラボを発展させる形で新会社Japan Digital Designを設立し、外部との協働で実証実験や開発を進めていく姿勢を明確に打ち出しました。

2018年5月24日、プログラム折り返し時点で行われたインターナルDEMO DAY
2018年5月24日、プログラム折り返し時点で行われたインターナルDEMO DAY

「そうした取り組みは、社外やスタートアップに対してだけではなく、社内向けの発信という意味でも重要でした。せっかくすばらしいスタートアップと協働に向けて話を進めようとしても、当社で働く事業側の社員の協力を得られなければ、受け皿がなく、無駄になってしまいますから(デジタル企画部調査役 桂寧志さん)」。

そのように情報発信とアクセラレータプログラムの運営を地道に続けてきた結果、参加し、スタートアップと本気で事業をやり切ろうとしてくれる社員が増え、さらに期間中に別部署に異動した社員が異動先でまた仲間を募って参加するケースも出てきました。

オープンイノベーションの取り組みは参加した社員にもよい影響を与え始めています。大企業とスタートアップがお互いの仮説や課題を出し合って初めて出るアイデアがあること、そもそも起こり得なかった協業が少しずつ形になり、回を重ねるごとにコア事業に貢献しうるものになってきているという実感を得ています。

秘訣はスタートアップと「同じチーム」としてコミットすること

それでは、どうすれば集ったスタートアップとの協業を新規事業など確かな成果につなげてしていくことができるでしょうか。

大企業主導のアクセラレータプログラムがイベント的に終わってしまう理由の一つが、オープンイノベーションを行うこと自体が目的になり、とりあえず「やれるところから取り組んでいこう」と始めてしまうこと。すると、「忙しいから難しい」とか、「そもそもなんでやってたんだっけ」と頓挫してしまいがちです。

オープンイノベーションを行ううえでそもそも重要なのは、大企業が自分たちに何が足りていないかを分かっていること。そして、その欠点を埋めるためにはどの企業と組めばいいのか、スピーディかつコストを抑えながら、より良いプロダクトをマーケットに投入して競合に先んじることができるのか、考え抜いたうえで実行することです。

協業するスタートアップを選ぶ際には、「目先のアイデアや『この会社さんは今話題だから』とかで選びがちですけど、そうするとうまくいく可能性は下がってしまいます。やはり人が重要です。どんなにすばらしい技術を持っていても、ちゃんとコミットして、やりきれる人でないと、一緒にプロジェクトを進めるのは難しいです(前出の桂さん)」。

三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 調査役の桂寧志さん

さらに、事業側とスタートアップ、そのマッチングの質を高めるため、MUFGではとことん事業側と丁寧に対話を重ねます。

例えば、二次選考でスタートアップピッチを行う際、事業側にチームの印象や雰囲気、戦略との適合性などアンケートを取って、「4カ月間一緒にやっていきたい」と思えるチームを真剣に考えてもらう。10社をどう5社に絞るか・・・一時の判断でいい芽を摘んでしまうかもしれないし、何度も議論を重ねながら決めていきました。

「その際、事業側に無理矢理時間を割いてもらって、見てもらって・・・というスタンスではうまくいかないんですよね。事業側が本気でやりたいと思っているかどうか。それくらい本気で考えようとしている人かどうかというのは、かなり重要です(桂さん)」。

一方で、プログラム自体相当なリソースを割いて行うことになるので、おのずとそこまで本気じゃない人は離脱してしまうこともあると言います。

実際に、クレジットエンジンとの協業の事例では、毎週1回メンタリングでアイデアやビジネスプランの磨き上げを行っていましたが、途中から人数を絞ってクレジットエンジンとファシリテーター、メンターを務めるVCと5名ほどで行うようになりました。そこで1回につき1つのアイデアを徹底的に詰める形でプランを明確にしていき、最終的には事業側の三菱UFJ銀行との提携につながりました。

もし事業側の社員が日頃から解決したい課題をしっかり考え抜いている人ならば、スタートアップと対峙する場を設けると「おのずと惹かれ合う」のが分かるそう。つまり、事業側がある種「発注者」的な意識になってしまうのではなく、事業側とスタートアップがともにチームとして一体化することがもっとも大切なことなのです。

三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 調査役の桂寧志さん

その一体感を醸成するため、MUFGのオープンイノベーション事務局はチームごとにファシリテーターを立て、飲み会やお花見などオフラインでの交流の場を設けたり、お疲れさま会を行ったり・・・4カ月間、メンタリングとコミュニケーションを続けました。

結果、DEMO DAY(最終発表会)ではその熱気が最高潮に。今回グランプリを獲れなかったメンターは「次回こそは」と意気込み、晴れてグランプリを獲ったチームのメンターは嬉しさのあまり涙するほどでした。

「僕は第3期で初めて運営を担当したんですけど、正直ここまで細かく見てケアしていかないと、意味のある結果は出ないんだなと思い知らされましたね(桂さん)」。

アクセラレータプログラム第4期の応募も始まりましたが、今後は日本に限らず、海外のスタートアップとの協業事例も実現していくなど、さらに大きな展望を描いています。

「『MUFG Digital アクセラレータ』がある種のブランドになれたらと考えているのですが、ここに採択されることがスタートアップにとっても大きな強みになるといいな、と。そのためにはやはり大きなビジネスになるような成功事例を、ここから作っていきたいですね(桂さん)」。

三菱UFJフィナンシャル・グループ

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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