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INTERVIEW
「金融機関が変わる」三菱UFJフィナンシャル・グループのイノベーションを生む組織作り
INTERVIEW

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BOOK MARK

最大のメガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループが、金融業界で革新を起こそうと挑戦を始めています。

同社は昨年(2015年)から、ベンチャーとのオープンイノベーションの取り組みを開始。専用のAPIを提供し、新たなフィンテックサービスの共同開発、実用化に至っています。しかし、これはあくまでも表面的な変化。仕掛け人や参画する社内の人の内面では、革新に対する強烈な動機づけと、自分たちに染みついたメンタルモデルの刷新がダイナミックに行われています。

革新を起こす組織に欠かせない要素が詰まった同社の取り組みの裏側について、その仕掛け人であるデジタルイノベーション推進部、シニアアナリストの藤井達人さんにお話を伺いました。

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 シニアアナリスト 藤井達人

PROFILE

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 シニアアナリスト 藤井達人
藤井達人
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 シニアアナリスト
大手ITベンダーで金融機関向けのメインフレーム開発やインターネットバンキングの立ち上げ、コンサルティング業務に従事。外資系コンサルティング会社を経て、2013年に三菱UFJフィナンシャル・グループ入社。フィンテック導入のオープンイノベーション事業を担当し、「Fintech Challenge」「Fintechアクセラレータ」などの取り組みを主導している

これからの競合はIT企業、危機感が革新の内発的動機に

ーオープンイノベーションの取り組みについて教えて下さい。

ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた「フィンテック(Fintech)」の分野で、ベンチャー企業を支援する2つの取り組みを行っています。1つはハッカソンイベントの「Fintech Challenge」、もう1つはアクセラレータプログラムの「Fintechアクセラレータ」です。

2016年に開催した第二回のFintech Challengeは、「本邦初」の銀行APIハッカソン。振り込みや残高照会など、当社が提供するデモ用のAPIを活かした事業アイデアおよび実際に動くデモアプリを作り、参加者同士で競い合うイベントです。

後者のFintechアクセラレータは、「邦銀初」のスタートアップ・アクセラレータプログラム。選抜したベンチャーを、事業プランの磨き上げからアライアンスに至るまで4カ月間支援します。

アクセラレータプログラムは、一定の要件を満たしたベンチャーと弊社グループ各社との事業提携、あるいはMUFGグループのベンチャーキャピタルからの出資も視野に入れて開催しています。すでに新サービス構築に向けた協業を発表するなど、目に見える形で成果が出始めています。

Fintechアクセラレータの成果発表会「Demo Day」の模様
Fintechアクセラレータの成果発表会「Demo Day」の模様

ーオープンイノベーションに対する動機が生まれた背景は?

「テクノロジーを使ったお客さまとの関係作りについて、いよいよ真剣に考え始めないといけない」。そんな機運が、2013年頃から国内の金融業界でも高まってきました。当時「Fintech(フィンテック)」という言葉は、海外のテクノロジー業界で注目を集めていましたが、日本の金融業界ではほとんど知られていませんでした。

私は当時、外資系コンサルティング会社で金融機関を担当しており、その機運の高まりを別の立場で感じていました。その後、当社に転職し、「いつか自分でオープンイノベーションをやってみたい」と考えるように。一年半ほど試行錯誤を繰り返していましたが、「Fintech(フィンテック)」という言葉が業界内で使われ始め、「これから金融業界はこう変わる」という絵が見えてきたんです。

一言で言えば、「テクノロジー企業が、これからわれわれの競合になっていく」ということ。

電車でまわりを見渡せば、皆がスマートフォンを使い、そこで情報を手に入れて、それをきっかけに行動を起こしている。翻って、銀行は依然としてお客さまに店まで来てもらって金融商品を案内している。このままでは、お客さまとのインターフェースやリレーションという観点で、多種多様なプレイヤーとの競争に否が応でも巻き込まれていく。そう、確信しました。

ー自社だけでテクノロジーを駆使した革新を起こそうとは?

先端のテクノロジー企業と競争していかないといけない中で、自社「だけ」で新しいサービスのアイデアを考え、それを形にするのは無理だと考えるようになりました。それまでサービス開発の実装部分は外部のベンダー企業にお願いしていましたし、それに、自分たちだけでは思いつかないようなアイデアに、スピード感を持って取り組んでいきたいと思っていたんです。

結果として、自然と「オープンイノベーション」という形に向かっていきました。

ー社外の環境への危機感が、オープンイノベーションに対する内発的動機へとつながっていったのですね。

異業界では非常識? ベンチャーとのチーム学習で自らのメンタルモデルを自覚

ーベンチャーと協業する際、「ハッカソン」や「アクセラレータプログラム」の形式を採った理由は?

一連の取り組みを始める前にも、金融系のベンチャーからさまざまな提案を受ける機会はありました。しかし、「会議室で一時間話して、それで終わり」というケースが多かった。

やはり、たった一度の会議だけではお互いのことを理解しきれないし、もしかしたら「そのときはたまたまお互いのタイミングが合わなかっただけ」かもしれない。もっと腰を落ち着けて話せば、われわれもベンチャーの本来のポテンシャルに気づけるかもしれないし、そこからいろんなアイデアも生まれるだろうなと。

それに、社内の他の人にとっても、日々の業務に追われたり、オフィスでパソコンの前に座って一人で企画を考えるよりも、起業家のようなエッジの効いた人たちと対話することで、間違いなく思考の活性化につながる。あるいは、取り組みを続けていくうち、オープンイノベーションの文化が社内全体に広がっていくかもしれない、という期待もありました。

そうして、まずは部内で有志を3、4人集め、予算取りや協賛企業集めなどを私がこなし、イベントを形にしていきました。

ー社内の参加者とベンチャーとの「オープンな対話」を促すことが、イノベーションにつながる学習のカギとなりますね。何か工夫は?

すべての取り組みを通じて、ベンチャーとの協業の土台となる「フラットな関係作り」を強く意識しました。

最近でこそさまざまな企業がアクセラレータプログラムを開催していますが、よく陥りがちなのが、「ベンチャーのアイデアが提案先の企業からのフィードバックによって捻じ曲げられてしまい、最終的にはそのプログラムでしか通用しないサービスができてしまった」というケース。これではベンチャーの成長を妨げることになるし、プログラム自体の評判も悪くなってしまいます。

当社とベンチャーのフラットな関係を築くために、まずはベンチャーの銀行に対する「お堅い」イメージを払拭し、良い意味で「裏切る」よう工夫しました。

アクセラレータの事前説明会でするプレゼンの内容が、「いかにも銀行で行われそうな報告」にならないよう、数日前に社外の人に集まってもらってリハーサルをしたり、ベンチャーが入居する都内のコワーキングスペースにチラシを置いたり、当日の運営者は全員、ロゴ入りのシャツでそろえたり。

昨年の説明会、藤井さんの胸にはイベントロゴが
昨年の説明会、藤井さんの胸にはイベントロゴが

ーベンチャーたちにのびのびと参加してもらおうと、「心理的安全」をもたらそうとしたのですね。

そのような観点では、当社のオフィスとは「別の場所」にアクセラレータプログラム専用のスペースも用意しました。もしこれが、「打ち合わせの際はかならずベンチャーが銀行に出向く」だと、ただそれだけで上下関係が生じたり、出向いたベンチャーが銀行のオフィスの空気に飲まれたりしてしまいます。

また、先ほどはあえて外部の開発会社のことを「ベンダー企業」と呼びましたが、参加する社内の人には、「主役は『ベンチャー』。そして、『ベンチャー』は『ベンダー企業』ではありません。われわれ大企業のリソースを彼らのためにどう活かせるか、考えていきましょう」と、ことあるごとに伝えていました。

ー発注者であることが多いご自身たちの「メンタルモデル」を自覚してもらおうとしたのですね。ベンチャーとの協業を通じて、社内に変化はありましたか?

特にアクセラレータプログラムの場合は、ベンチャー一社一社との関わりが深くなり、「侃侃諤諤」の議論ができる関係性を築けたと思います。

そうしたベンチャーとの関わりを通じて、「何か新しい取り組みを始める際、『すべて決めてからでないと動けない』という自分たちに染みついた慣習が、今の時代には合っていない」ことに気づけました。「すべて決めてからでないと動けない」ということは、「事態がどんなに変わっても、もう承認を取ってしまったので変えられない」ことと同じである、と。

こうした考え方の変化は、今回の取り組みの運営にも表れています。

「始めから大きなアウトプットを出さなくてもいい」というマネジメントの理解も得られ、「小さくとも何かしら成果を出そう」という方針で取り組んでいます。そうした方針を確立できたおかげで、各プログラムでベンチャーに何かを無理強いすることなく良い提携が生まれ、また社内での知名度も徐々に上がり、「次回はもっと多くの人を巻き込んでやれるね」と盛り上がってきています。

革新する組織、仕掛け人の「心得」

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 シニアアナリスト 藤井達人

ー新たにオープンイノベーションなど革新のための取り組みを始める際のポイントは?

まずは、自分と同じように「やりたい人」を見つけることです。私の場合は、「Fintech(フィンテック)」や「オープンイノベーション」に興味がある人を社内で見つけては、声をかけていきました。

逆に、「やろうよ」と誰かを説得することはありませんでした。「やりたくない」人を「やりたい」と仕向けるのはとても難しい。立場や忙しさ、本来やるべきこととのバッティングなどどうしようもできない理由もありますから。

ベンチャーなら新しいことをやりたい人ばかりが集まっているのかもしれません。しかし、組織が大きくなると、必ずしもそういう人ばかりではない。大きな組織ならではの事情があることは心得ておくべきでしょう。

もう一つ、取り組みの輪は少しずつ広げていくこと。そのためのポイントは2つ。

1つは、取り組みの間隔をなるべくあけないこと。私たちはハッカソン、アクセラレータプログラムのほかに、最近、「オープンイノベーション」をテーマにしたWebメディア『MUFG Innovation Hub』も開設しました。このように取り組みを継続的に行っていると、まだ参加していない輪の外にいる人たちがいつでも入ってこれるのです。

もう1つのポイントは、後から参加してくれた人には、取り組みの「美味しいところ」を担当してもらうこと。楽しいと感じて、また協力してくれたり、他の人を巻き込んでくれたりします。まるで通常業務のように、「手間」だと思われたり、「よし、計画を立てよう」と誰かが気負ったところを見せてしまうと大変です。

われわれのような「金融機関」でもこういう取り組みができたのですから、他の企業にも決してできないことはないと思いますね。

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[取材・文] 多田慎介、岡徳之

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