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INTERVIEW
デザイン会社グッドパッチに学ぶ、長時間労働をせずに成長する組織のつくり方
INTERVIEW

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BOOK MARK

ベンチャーの起業家やそのスタッフなど、創業から数年のうちは急成長を成し遂げるために、「長時間労働をいとわない」「昼夜平日休日問わず、がむしゃらに」という働き方の人は大勢います。しかも、「好きで働いている」「働くのが楽しい」と考えている人も多いでしょう。

しかし、クライアントワークを事業にしている会社の場合、特急対応に追われ、好むと好まざるとに関わらず長時間労働が常態化している企業もあります。

会社のミッションや成功のため、あるいはお客さまのニーズに応えるため、長時間労働は仕方ない。むしろ、「働きたい」という気持ちをなぜ制限される必要がある?と、昨今の長時間労働問題是正の動きやその対策に対して、ある種の「モヤモヤ」を感じている人もいるのではないでしょうか。

会社の成長とトレードオフの関係と思われがちな、「長時間労働をしない」働き方。けれどもそれを両立させている企業があります。以前、この記事でも紹介したデザイン会社グッドパッチです。

UI/UXデザインを主軸に事業を展開るグッドパッチは「家族優先」の文化が根づいており、定時後には9割の社員が帰宅しています。今回は株式会社グッドパッチ代表取締役社長兼CEOである土屋尚史さんに、「長時間労働をせずに成長する組織のつくり方」を伺います。

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO 土屋尚史

PROFILE

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO 土屋尚史
土屋尚史
株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO
1983年生まれ。Webディレクターとして働いた後、サンフランシスコに渡る。btrax Inc.にてスタートアップの海外進出支援などを経験し、2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。UIデザインを強みにしたプロダクト開発でスタートアップから大手企業まで数々の企業を支援。2015年にベルリン、2016年には台北に進出。自社で開発しているプロトタイピングツール「Prott」、フィードバックツール「Balto」はグッドデザイン賞を受賞

急成長ベンチャーだけど「家族ファースト」な会社

—グッドパッチは数ある急成長ベンチャーのなかでも「家族優先文化」を標榜していて、異色の企業だと感じます。

確かに2年前、ブログに「家族がいる起業家の働き方」というエントリーを書いて、バズりました。起業家としてはめずらしいエントリーだったからだと思います。大多数の起業家は、ビジネスを優先したライフスタイルだと思いますので。

—土屋さんご自身はなぜ創業当初から家族を優先されていたのですか?

僕は、前職を辞めて起業する前に、妻と生後8カ月の娘を連れてサンフランシスコへ行って、インターンとして働きました。なかなかそれを許してくれるパートナーはいないですよね。けれども僕の場合、幸いなことにパートナーの理解があった。そのときにチャレンジを許してくれたからこそ、今がある。それから僕にとって、「家族と一緒に過ごすこと」が最優先になったんです。

起業する際、「世の中にインパクトを残すようなことをやりたい」「自分のやりたいことを実現したい」と思ってこのグッドパッチをつくりましたが、それと同時に、起業家だからこそ「家族と過ごす時間を優先する」という選択を取れるのではないかと思ったのは確かです。

子どもが生まれて小学校に入るまでって、いわば「ゴールデンエイジ」で、いちばん親孝行してくれる時期ですよ。「パパ、大好き」って。中学生にもなれば「洗濯物は別々に洗ってほしい」となるわけですから(笑) そんな時期を、「仕事で忙殺されて家に帰ったら寝るだけ」「土日も仕事で子どもと遊べない」というような状態で過ごしたくなかったんです。

うちのマネジャーに他社から転職してきた社員がいるのですが、「朝、子どもに見送られるとき、『パパ、また明日ね』と言われて、転職を決意した」と言うんですよ。でも、子どもからすれば寝るときには父親がいないんですから、当然ですよね。

もちろん、会社の仕事が立て込んでいたり、緊急性の高い仕事があったりすれば、それに取り組みますよ。20時に自宅に帰った後でも、子どもが寝静まってから作業することもあります。けれどもやはり、基本的な最優先事項は家族のことです。

定時を過ぎたある日のグッドパッチのオフィス
定時を過ぎたある日のグッドパッチのオフィス

いいインプットがいいアウトプットを生む

—土屋さんがそういうスタンスだったから、他の社員にもその姿勢が波及していったのでしょうか。

創業初期からインプットする時間の大切さ社員に意識的に伝えるうち、自然と定時には帰るような働き方になっていきました。社員の自主性にまかせてあるので場合によっては仕事を続けることもありますが、基本的に9割の社員は定時すぎには帰宅していす。

—多くの起業家は、特に創業初期に「寝食を忘れて、必死に働く」のが当たり前になっています。土屋さんから見て、そういう人びとは仕事の進め方を変えるべきだと思いますか。

正直なところ、うらやましいですよ。だって、そりゃ僕も独身で子どもがいなかったら、そういう働き方をしていたと思いますから。起業家や投資家との会合の場で、新たなビジネスが決まったり、出資が決まったりそういう機会や可能性は、僕自身には少ないわけです。

時間がかぎられていることは「制約」だと捉えています。けれども、「たられば」を言うようでは仕方ないですよね。

—ご自身がはっきり「制約」と感じているにもかかわらず、グッドパッチが創業以来、成長を続けているのにはどんな理由があるのでしょうか。

スマートフォンがちょうど普及期に入るなか、UI(ユーザー・インターフェース)の重要性に関心が寄せられているときにマーケットインしました。その直後ニュースアプリ「Gunosy(グノシー)」のデザインをお手伝いさせていただいたのが大きかったですね。

そして、「最初から無理あると分かっているスケジュールでもクライアントの要望に応え締め切りになんとか間に合わせる」といった旧態依然としたデザイン業界のやり方は変えないといけない、というのは課題意識としてありました地道に適正なスケジュールやデザインプロセスをクライアントに提示し続けてきたことも成長の要因だと思います。

僕らがやっているUI/UXデザインという領域は、マーケットトレンドの流れも速いので、ちゃんと情報を更新しながらインプットしていないと、いいプロダクト生まれません。新しい体験を生み出す仕事は、頭のなかに余白がないと、絶対にいいアウトプットはできないんです。

けれども多くの会社では、無理な納期に間に合わせるために終電まで働かせるのが当たり前。インプットする時間もありません。すると、脳がやせ細るばかりでアウトプットの想像力も欠けてしまう。長時間拘束することにはまったく意味はありません

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO 土屋尚史

—土屋さんが創業する以前に勤めていた会社では、やはり厳しい労働環境だったのでしょうか。

起業するまでに数社経験していますが、厳しい環境というか、1社目は「上司が帰らないと帰れない」「土曜日も出勤」みたいな会社でしたね。

2社目は、エンジニアを大切にする会社だったんです。当時どこの会社もエンジニアは過酷な状況で働いているのが当たり前だったんですが、僕が働いていた会社はエンジニアはみんな19時に上がっていく。「ありえない」と驚きましたね。でもそこである意味、意識が変わったかもしれません。

2011年に渡ったサンフランシスコ時代は、日本人以外の同僚は朝もパラパラと来て、19時くらいに帰っていましたけど、日本人だけはいつも仕事の切りがつくまで残っていました。

僕自身、これらの経験を経て、ワークスタイルの違いを許容できるようになったかもしれません。だからグッドパッチにも、メリハリのあるカルチャーが根いていると思いますね。仕事に切りがついたら、1〜2週間長期休暇を取ってバケーションに行っているメンバーもいますから。

メリハリのあるカルチャーはベルリンオフィスにも根づいているそう
メリハリのあるカルチャーはベルリンオフィスにも根づいているそう

ビジネスの成功と理想の働き方は両立できる

—デザイン業界にかぎらず、クライアントワーク(受託系)の多い仕事の場合、なかなか長時間労働を是正するのが難しいように感じます。どのようなアクションが必要となってくるのでしょうか。

そもそもの課題意識としてあるのは、働き方を無視して、社員に案件を4つも5つも詰め込んでしまったら、まず今の時代は人が集まらないし、定着しません。それによってクオリティが下がって、評判が下がって、仕事が来なくなるという悪循環に陥ります。

ありがたいことにグッドパッチに仕事依頼が絶えないのはおそらく、社員を案件に集中させて、クオリティの高いものをリリースして、制作実績としてマーケットにプロモートして、それを見たクライアントから相談が来るという好循環が回っているから。

事前に適正な価格を提示し、しっかりコミットして、一つの案件に集中するので、成果が出やすくなっているのだと思います。クチコミでも「グッドパッチは他と比べるといちばんクオリティが高いし、コミットしてくれる」という声をいただきます。

「働き方改革」と言われると、「時間的な制約だけ課せられて、仕事を取り上げられる」みたいなイメージと危機感があるけど、まず前提に健全なビジネスモデルがあってこそ、ですよね。それを無視して働き方だけを変えるのは意味がないと思います。

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO 土屋尚史

—グッドパッチの「高成長と良好な労働環境の両立」の裏には、「どんな仕事を請けるか」という判断がうまく機能しているような気がします。どんな基準で請け負う仕事を決めているのでしょうか。

仕事を選ぶ基準は明文化されているのですが、一つ目は、うちがパフォーマンスを出せると思えるかどうか。きちんと仕事内容をヒアリングして、相手のビジネスに貢献できるというイメージが湧くかどうかがポイントです。

二つ目は、モチベーション。僕たちは、クライアントと一つのプロジェクトチームを作ります。ですから、メンバーがそのプロジェクトに対してコミットメントするためにモチベーション高く保てるか、新しい挑戦ができるかを見極めます

三つ目はクライアントのパッション。その仕事を依頼してくれたクライアントの熱意も重要です。一つのチームとして一つのプロダクトを開発するので、こちらも中途半端な気持ちではやりませんし、信頼関係があるからおのずと対等な関係性を築くことができるんです。

そして四つ目は、社会的なインパクトを与えられるかどうか。それもあって社会を本気で変えようとしているスタートアップと一緒にプロダクト開発をすることが多いですね。もちろん大企業でも担当者が「本気で社会を変えたい」と思っているなら、その思いには応えたいと思っています。

—どうしても以前からの関係性があったり、「クライアントに言われるがまま制作する」のが当たり前になっていたりすると、なかなかそれを変えることが難しいですよね。

「言われた仕様だけやっていればいい」とかですね。なかなかモチベーション高くできませんし、パフォーマンスも下がってしまいます。

「仕事に裁量があるかどうか」ってとても重要ですよね。早く帰るのも、「最低限これだけは仕上げておきたい」と残業するのも、つまりは裁量。それが「選択可能」である状況ということが大事なんだと思います。

僕自身がやるべきことは、どんなクライアントと、どんな案件に取り組むか、そしてどんな人材を採用するのか。ビジネスはそにかかっています。

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO 土屋尚史

—土屋さんはどんな人材を選んでいるのですか。

グッドパッチは「デザインの力を証明する」というミッションを掲げているので、まずデザインに対する情熱を持っているかどうかが重要ですね。

日本におけるデザインのマーケットは3000億円ほどなのですが、日本よりも人口も少なく、GDPも低いイギリスでさえ4000億円あるんです。アメリカなんて、2兆円ですよ。

つまりデザインに投資する環境ではないんです。デザイナーは上からの意見を押しつけられ、自分たち提案の余地はない、年収もせいぜい400万円程度という状況がずっと続いている。そんな日本のデザイン業界を変えたい、なんとかしたい、デザインの力を証明したいという思いに共感できるか。

最近、グッドパッチらしさをあらためてブランドステートメントにしたんです。社員からサーベイを取り、ディスカッションを重ねて4つの言葉に落とし込みました。「Passionate(情熱的)」「Curious(好奇心旺盛)」「Humanity(人間らしい)」「Hands on(実践)」この4つがグッドパッチを表す最大公約数で、これらに共通する人が集まっていると思います。

東京オフィスのチームのみなさん
東京オフィスのチームのみなさん

—これから、他の会社がグッドパッチのように「長時間労働しなくても成長できる会社」を目指すには、どうすればいいのでしょうか。

どの会社も「本当はこうしたい」「本来ならこうあるべきじゃないか」という思いがあっても、古くからある組織構造といろんなバイアスがあって、実現できないんだと思います。僕たちもまだまだ目指す姿への途上ですから。

僕はグッドパッチを起業するとき、何のしがらみもなかったからこそ、ゼロから自分が働きた理想の会社を作ることができたのかもしれません。すでに一度完成しきっている会社がこれから変えようとするのは、簡単なことではないと思います。

今あるものを変えるには、強い意志を持ったリーダーシップが必要でしょうね。「一時的に売り上げが下がってもいいから、社員の生活を優先させよう」という覚悟。みんな、「本来どうあるべきか」というのはもう分かっていることでしょうから、あとはもうトップが覚悟して、それを実行しなければ、実現できないことだと思います。

株式会社グッドパッチ 代表取締役社長兼CEO 土屋尚史

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https://mirai.doda.jp/theme/essence/move-vs-stay/

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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