ログインして記事ブックマーク、コメント投稿などすべての機能を使う。

close

INTERVIEW
数字が苦手な人に知ってほしい、転職先を見極める「決算書で読むべき6つのポイント」
INTERVIEW

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

「決算分析」というお堅いテーマでありながら、発売からほどなくして「5万部突破」とヒットしているビジネス書があります。それが『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』です。

『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』

多くのビジネスパーソンにとってあまり身近でない「決算」・・・しかし、今なぜこの本が売れているのか。その理由について著者のシバタナオキさんはこう分析します。

「転職など人生の意思決定に活かすため、時代を少しでも先読みしたいからでは。自分が今いる会社、同じ業界で急成長する企業のビジネスを理解するうえで『決算=数字』は嘘をつかない」

今回はそんなシバタさんに、どんなに数字が苦手な人でも転職活動で企業を見極める際、「ここだけは押さえてほしい」という「決算の読むべき6つのポイント」を教えていただきました。

PROFILE

『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』著者 シバタナオキ
シバタナオキ
『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』著者
元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。シリコンバレーでスタートアップを経営する傍ら、noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。経営者やビジネスパーソン、技術者などに向けて決算分析の独自ノウハウを伝授している。2017年7月に書籍『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』を発刊。

結婚相手の「年収・出世の見込み」を気にするのと同じ

ーなぜ、転職活動で企業を見極める際に「決算」を読むべきなのでしょうか。

長く働いていく上で、「会社を選ぶ」というのはとても大事なこと。少なくとも1日のうちの8時間くらいをそこで過ごし、そこからもらう給料が収入源になる。つまり、人生をその会社にゆだねることになるわけですから。

例えば「結婚相手」を探しているとして、出会ったばかりのころはそうではないけれど、いざ結婚するとなると「相手の年収」や「その人は将来出世しそうか」も、一度は気にしますよね。

それと同じで、自分の時間、お金の多くをゆだねるわけですから、どういう相手(会社)なのかは結婚相手を決めるときと同じくらい気にしておきたいものです。

その点、「決算=数字」は嘘をつかない。メディアのインタビュー記事なら、会社にとって都合のわるいことは喋らなければいいだけ。そういった定性的なものと、決算のような定量的なものを組み合わせて判断するべきでしょう。

ーどんなに数字が苦手でも「決算のここだけは押さえるべき」というポイントを教えてください。

分かりました。全部で「6つ」のポイントがあります。

ポイント1:一番大事なのは「成長率」

1つめのポイントは、対前年同期比や対前四半期比などで見る「成長率」。つまり、過去と比べてどれくらい売上や利益が伸びているかということです。成長率が「20%」と「3%」の会社とでは、雰囲気がまったく違います。

この1〜2年で二桁成長している日本の上場企業だと、例えば楽天、LINE、「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイなどが挙げられます。一方で、後者、つまり成長率が一桁台なのはトヨタ、メガバンク、家電メーカーなどです。

楽天の2017年度第三四半期の売上収益成長率は前年同期比で24.1%増(出典:楽天株式会社)
楽天の2017年度第三四半期の売上収益成長率は前年同期比で24.1%増(出典:楽天株式会社)

個人の生活に置き換えると分かりやすくて、もし自分の今月の給料が去年の同じ月より20%以上も増えたとしたら、ものすごいインパクトですよね。

20%以上伸びている会社で働くと、部下の数が急に増えるなど、働く環境もダイナミックに変わるでしょうし、伸びていない会社だと、たぶん来年も今年と同じような仕事をやることになると思います。

どちらの会社がいいということではなくて、自分の性格に合った会社を選ぶことが肝心です。どんどんチャレンジしたい人は、早く成長している会社に行ったほうがいい。

ただ、保守的な性格の人が毎年20%も伸びているような会社に行くと大変なことになる。そんなミスマッチを「成長率」を知ることで避けられます。

ポイント2:本当に伸びているのかを知る「市場シェア」

例えば、ある会社が「新製品を出しました」というプレスリリースを毎月のように出していたり、「うちは売上が対前年同期比で10%のペースで成長しています」と発表していたとしましょう。

ただ、実は「市場全体が20%伸びている」ようなマーケットだとしたら、その会社は競合企業よりも走るペースが遅いということになってしまいます。

もしくは「話題作りのために矢継ぎ早に新製品を出してはいるけれど、結局それぞれがビジネスとして成長しておらず、経営が苦しい」ということもありうる。

「伸びている」ようには見えるけど、自分が入りたいと思っている会社が本当に伸びているのか。それは競合企業の業績と比較して市場シェアを見てみることで確かめられます。

ポイント3:その会社、実は今がピークで頭打ち?「伸びしろ」

それまでまったく見向きもされなかった企業でも、成長し、いい噂が流れ始めると入社希望者が殺到するようになります。

しかしその会社、実は今が成長のピークで、自分が入社したときには横ばいか、そこから右肩下がりということも。転職を決める前に、その会社の「伸びしろ」を確かめる必要があります。

そのためには企業の決算書だけでなく、調査会社が出している「市場規模」の調査結果と突き合わせるといいでしょう。例えば、「スマホ」にまつわる市場はどうでしょうか。

日本のスマホ普及率(黄緑)は70%台で伸び悩み(出典:総務省)
日本のスマホ普及率(黄緑)は70%台で伸び悩み(出典:総務省)

上の資料を見ると、日本でスマホの普及率は約70%、これ以上はそう伸びないと読み取れます。だとすれば、例えば携帯キャリアの「通話料」や「データ通信量」は、これからそう大きくは伸びていかないはずです。

一方、スマホユーザーが老若男女に広がったことで、スマホユーザー向けのメディアを運営しているような事業では「アクティブユーザー」や「広告単価」をいかに上げていくかの競争に入っていきます。するとその会社ではどのような人材が求められるようになっていくのか。

その会社一社の決算だけではなく、市場の今後のトレンド感と掛け合わせて見ることで、その会社の伸びしろとそこで求められる人材像が見えてきます。

ポイント4:一般消費者が知らない「隠れた有望な事業」

「食べログ」という飲食店のクチコミサイトがありますね。あのサービスが何でお金を稼いでいるか、ご存知でしょうか。

広告? たしかにそれもありますが、実は新たな収益源も生まれている。下に紹介する2018年3月期第2四半期の決算説明資料を見てみると、最も好調なのは「ネット予約サービス」とあります。レストランなど飲食店向けに予約受付システムを提供しているのです。

食べログの新たな収益の柱「ネット予約サービス」(出典:株式会社カカクコム「2018年3月期第2四半期決算説明資料」)
食べログの新たな収益の柱「ネット予約サービス」(出典:株式会社カカクコム「2018年3月期第2四半期決算説明資料」)

同じように、Eコマースサイトの「アマゾン」は何で稼いでいるでしょうか。Eコマースでモノが売れたときの販売手数料?

それもたしかにそうなのですが、実は直近の成長率ではAWS(アマゾン Web サービス)という「クラウドサービス」のほうが伸びていて、北米のEコマース事業より利益率も高くなっているんですね。

決算資料には、その会社が今後注力していきたいと考える「隠れた有望事業」も書かれています。もし自分がチャレンジしたい性格なら、そうした新規事業の有無や成長率にも注目するといいでしょう。

ポイント5:その新規事業は当たるのか?「先端企業との比較」

食べログの予約受付システムのように、その企業が新しい収益の芽を育てようとしているとして、果たしてそれが本当に上手くいくのか、これもある程度予測できます。

最も効果的な方法は、その業界の先端を行く企業と比較することです。ときには同じ日本企業ではなく、アメリカなどその業界が最も進んでいると言われる国の企業と比較する場合もあります。

先ほど例に挙げた食べログだと、ネット予約サービスにおける日本の先駆者には、リクルートの「ホットペッパーグルメ」があります。

海外企業なら、アメリカのグルメクチコミサービス大手「Yelp(イェルプ)」も有名です。Yelpはレストランなど店舗のクチコミサイトですが、同社も数年前から予約受付システムの事業を始めています。

かつ、Yelpはネット予約サービスも好調に伸びている。だとすれば、たとえ日本という違う国であっても食べログの新規事業には一定のニーズがあるのかもしれません。

その企業のスナップショット(その時点の状況)だけでなく「会社軸」をずらして他の企業、特に先端企業と比較することで、戦略の正しさを大雑把に推測することができるんです。

ポイント6:会社の風通しを表す「決算の開示スピード」

最後は決算の内容ではなく「決算を開示するスピード」です。四半期やその年度が終わってから、どのくらいの期間で決算資料が公表されるか、ということ。

学校で出された「夏休みの宿題」でも、すぐに終わらせる人と、夏休みが終わる直前まで手をつけずにいる人といますよね(笑) それに似ているかもしれません。

開示するスピードが早いということは、会社の財務・会計の仕組みがしっかりしているということ。逆に開示スピードが遅いと、「日々現場から経営ボードに情報が上がるのも遅いんじゃないか?」と勘ぐってしまいます。

開示するスピードが速くて、しかも内容がきれいで読みやすいと、それだけで印象がよくなります。会社の性格そのものを表すと思うからです。

なぜ「決算」と聞いて、難しく感じてしまうのか?

「決算」と聞いて、難しそう・・・と苦手意識を感じてしまう日本人は多いですよね。決算資料を読んだことがある人はおそらく「1割以下」。自分の会社の決算資料にすら目を通したことがない人もめずらしくないでしょう。

反面、今僕が暮らすアメリカは、経営者やアナリストだけでなく、”普通に働いている人” の数字を読むリテラシーが高いと感じます。一番の理由は、人種が多様で、コミュニケーションの前提となっているカルチャーがバラバラであること。

日本のように「忖度する」「空気を読む」「良きに計らえ」が通用しない中で、会社を一つの方向にドライブしていかなくてはいけない・・・ その点「数字」は誤解が生まれる余地が少ない。ですから、数字に強く「ならざるを得なかった」のだと思われます。

「決算短信」の参考様式(出典:株式会社日本取引所グループ)
「決算短信」の参考様式(出典:株式会社日本取引所グループ)

もう一つ、日本人が決算に苦手意識を持っている理由が、上場企業が出す「決算短信」のフォーマットがとても読みにくいこと。もう数十年も変わっていなくて、しかも難しい専門用語だらけ。あれを見て「うわあ、読みたくないなあ」と思ってしまう気持ちは、僕もよく分かります。

たしかに決算短信は読みにくいのですが、最近はそれとは別にパワポのきれいなスライドで「決算説明会資料」を作って、ネットで公開している上場企業も増えています。

「決算」に対するハードルを上げすぎて、食わず嫌いになっている人は、まずは自分がいる業界で好調な企業、自分の好きなサービスを提供している会社の決算説明会資料を眺めてみてください。「意外と読めるじゃん」となると思います。

入門書としてオススメなのは「サイバーエージェント」の決算説明会資料です。

サイバーエージェントの決算説明会資料(株式会社サイバーエージェント)
サイバーエージェントの決算説明会資料(株式会社サイバーエージェント)

サイバーエージェントは多岐にわたる事業を展開していますが、事業ごとに情報が細かく開示されていて、しかもそれぞれの成長を過去にさかのぼって時系列で示してくれるので分かりやすい。「読む人の立場に立って作られているなあ」と感じます。

「ブランド大好きな日本人に数字に強くなってほしい」

面接で「御社の決算資料にこう書かれていたんですけど」と言われたら、強烈ですよね(笑)「御社のホームページにこう書いてありますね」よりも、ドキッとさせられるというか、「あなたの会社を勉強してきたんだ」という姿勢が伝わる。

それに、決算を読むスキルは、転職をした「あと」でも役立ちます。自分が営業担当で営業資料を作るとして、なんとなくの思いつきではなく、「決算資料からして競合企業は今こういう状況です。ですから御社はこうすべきです」と提案されたほうが説得されやすい。

欧米人と比べて、日本人は特に「ブランド大好き」だと感じます。みんなが知っているコンシューマーブランドの企業に勤めていれば大丈夫だろう、と。

でももうそんな時代じゃない。ここ数年で「絶対安心だと思っていた会社が、実は安心じゃない」ということに、みなさん気づき始めているんじゃないでしょうか。

だからこそ、決算、数字を読むスキルをみなさんの武器にしてほしいのです。

シバタナオキさんのご著書『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣

【 本記事の読者にはこちらもお薦めです 】
不確実性と直観に学ぶ、これからの仕事選び
「キャリア」に変化が押し寄せている今、仕事を選ぶための「軸」をご紹介します。

[取材・文] 岡徳之

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

いいね!していただくと
最新記事をお届けします。

コメントを送る

関連する記事

連載一覧を見る

タグ

タグ一覧を見る