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INTERVIEW
何もしない自分を許そう。ストレス軽減&創造性を高める新ライフハック「ニクセン」とは?
INTERVIEW

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BOOK MARK

予定びっしりの忙しい毎日、「どうしたらストレスを軽減しつつ、充実した毎日を送れるか?」というのは、私たち現代人の切実な課題です。

そんな中、現在欧米でトレンドになっているストレス軽減法がオランダ発の「niksen(ニクセン)」。これはオランダ語で「何もしない」を意味する動詞で、文字通り何もしないことがストレス解消には効果的。さらにニクセンは、ひらめきを生み、創造性を高める手法としても注目されています。

オランダ在住15年のライターで、オランダ人の働き方やライフスタイルをレポートしてきた山本直子さんにお話を伺いました。

ライター 山本直子

PROFILE

ライター 山本直子
山本直子
ライター
慶応義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て2004年よりオランダ在住。オランダ人の働き方やライフスタイルをネットや雑誌で紹介している。

日本人に定着しなかった北欧風のライフスタイル

―ストレスフルな我々の生活の中で、北欧風の幸せの求め方がよくトレンドになったりしますね。

数年前にはデンマーク発の「ヒュッゲ」が注目されました。これは完全な訳語がないと言われているんですが、人と共有するほっこり楽しい時間とか、居心地がいい、くつろげる空間などを表したりします。

オランダ語にも「gezelligheid(ヘゼリグハイド)」という言葉があって、これはヒュッゲと似たような意味を持っています。例えば、友達を家に呼んで、くつろいだ空間の中でホームパーティを楽しむとか、居心地のいいソファで恋人とほっこりコーヒーを飲むとか、そういう和やかな雰囲気の中で生まれる幸福感みたいなものを指すんですね。

ほかにも、スウェーデンの「ラーゴン」がありますが、これは「ほどほど」を意味するらしく、ありのままを受け入れて、自分の心地よさを追求するスウェーデン人の生き方なんですね。

―でも、「ヒュッゲ」や「ラーゴン」はあまり日本人の間で浸透していない感があります。

そういう生活に憧れはするけれど、ただでさえ忙しいのにホームパーティを開いたりするのって面倒くさいって思ってしまうんですよね。人を呼ぶ時は掃除したり、料理もいつもより頑張っちゃったり・・・。

でもオランダ人なんかのやり方を見ていると、ホームパーティも実に気楽です。普段のままの食卓に人を呼んで、夕食はパンケーキだけ・・・みたいな感じでも和やかに過ごしていますから。おそらくデンマークでも普段の食卓で肩ひじ張らずにやれるから、「ヒュッゲ」が生活に定着しているんだと思いますよ。

でも、日本人だったら、人を招待しておいて味噌汁とごはんだけ・・・みたいにはできないですよね(苦笑)。

―そこで、オランダの「ニクセン」に注目。

はい。これはオランダ語で「何もしない」という意味の動詞で、文字通りに「何もしないこと」または、「目的なしに何かをすること」でストレスを軽減するというものです。オランダでも仕事のストレスによるバーンアウト(燃え尽き症候群)が増えてきたので、それに対処するためのコーチングなどで使われている手法です。

例えば、窓の外をぼーっと眺めたり、ソファに寝そべって音楽を聴いたり、近所をぶらぶら散歩したり・・・次の予定や今抱えている問題をいったん離れて、心を浮遊させるんです。これは一人でできるし、余計な労力を伴わないし、日本人にも取り入れやすいかもしれません。

ライター 山本直子

ニクセンはひらめきを生む

「ニクセン」を実践すると、どんな効果があるんですか?

まずは自分に「何もしない」時間を許して、自分を義務感や生産性から解放することで、心身がリラックスできるようになり、ストレスが軽減します。ストレスが減れば、バーンアウトを防いだり、免疫力を高めたりすることにもつながります。

それから、もう一つの効果として注目されているのが、「ひらめき」です。何も考えずにシャワーを浴びている最中とか、何気なくコップを洗っている時にいいアイデアがひらめいた経験のある人は多いでしょう。何もしていない時でも脳は情報を処理しているので、ぼーっとすることで脳の処理能力に余裕が生まれて、良い考えが生まれたりするらしいです。

幸福のための社会環境を研究しているエラスムス大学のフェーンホーフェン教授によると、ニクセンは忙しい社会環境ほど効果を表すのだそうです。

例えば、ある国際調査で「切手を買うまでにかかる時間」を測って、その社会の忙しさを比較したところ、オランダはインドネシアなどと比べてかなり生活ペースが速いという結果が出ています。だから、ニクセンはのんびりしたインドネシア社会よりも生活テンポの速いオランダでのほうが効果的。

日本人の私から見ると、オランダ社会はのんびりしているので、おそらく日本でのニクセン効果は絶大ではないかと(笑)。

―Googleが開発した「スプリント」という仕事術にも通じるものがありますね。

そうですね。Googleの「スプリント」は、5日間で開発プロジェクトの最大成果を出すというメソッドで、その5日間は本当に大事なことに集中するためにメールも見ない。休み時間も、メールやメッセージを見ずに徹底的に休む。そうすることで、結果的に創造性が高まるのだそうです。

「何もしない」時間を作ってメリハリをつけるというところは、「ニクセン」に似たことをやっていますね。

ライター 山本直子

ゲイツもベゾスも皿洗い、「何もしない」を実践する

―でも実際に「何もしない」のは結構難しいですよね?

すごく難しいですね。窓の外を見ながら何も考えないというのは、それこそ禅の修行にも通じるものがある。

これは、オランダ人にとっても難しいそうです。オランダでも「ニクセン」というのは、本来はどちらかというとネガティブな意味があります。オランダの文化は、もともと勤勉と貯蓄を重んじるキリスト教のカルバン主義の影響が強いので、「ニクセン」というのは、「何も生み出さない」というような否定的な意味を含んでいたんですよ。だから、ニクセンを自分に許すのは、彼らにとっても結構努力がいる。

でも窓の外を見ながらぼーっとするのが苦手な人は、「目的なく何かをする」でもいいんですよ。例えば、何も考えずに洗い物をしたり、単純作業をしたり、編み物をしたり・・・その作業に集中することなく、「セミオートマチック」にできること。何も考えずにスマホのゲームをするのもニクセンになるんだそうです。これだったら、日本のサラリーマンも電車の中でやっていたりしますよね。

要は、自分に合ったニクセンを見つけて、それを仕事の合間に少しでも取り入れてみる。

―スマホのゲームもニクセンになり得るんですね。でも、そんなことをやっている自分に罪悪感を感じてしまいそう(苦笑)。今ある問題にフタをしているだけ、というか・・・

そこは、問題にフタをして現実逃避していると考えるのではなく、何もしないことで脳内の考えを「熟成」させていると思って。あえて「何もしない」時間を作る。ビル・ゲイツ氏やアマゾンのジェフ・ベゾス氏も家で皿洗いをする時間を設けているそうですよ。

―山本さんご自身はどんなニクセンを取り入れていますか?

私は基本的に自宅で仕事をしているので、仕事の合間にぼーっと洗濯物をたたんだり、セミオートマチックに弾ける曲をピアノで弾いたりしています。でも、洗濯物をたたみながらふっと、「あのメールの返信しなくちゃ」とか思ってしまうんですが・・・まだまだニクセン修行中です(苦笑)。

ライター 山本直子

オランダ人に学ぶ「何もしない」休暇

―周りのオランダ人はどんなニクセンを実践していますか?

平日日中の公園でのんびり過ごすオランダの人びと
平日日中の公園でのんびり過ごすオランダの人びと

仕事の合間にニクセンを意識的に取り入れている人はまだあまりいないかもしれません。ただ、週末とか休暇とかに徹底的に休む人は多いです。

重要なポジションにいる人たちは、休暇中もメールの返信などしていると思いますが、「何月何日まで休暇中ですので、お返事はその後になります」という自動返信メールを設定する人も多いですよ。周りの人たちも休暇中はその人が完全にいないものと思って対処している。

私も夏休みはオランダ式にがっつりお休みをいただくんですが、どうも休暇中のレジャーもあれこれ詰め込んでしまいがちなんですよね・・・。オランダ人に「夏休み、どうしてた?」と聞かれて、「北海道でラフティングとかしたよ」と答えたら、「あなた、休みの日に何かする人なんだ! 僕なんか、ずーっと海辺で本を読んでた」と言われました。そういう彼も海に出かけたりしているわけですが、休みの過ごし方のゆったり感が違いますよね。

―僕も旅の予定などぎっちり入れてしまいがちです。

ゆっくりするのが苦手な日本人は多いですよね。オランダ人もニクセンは苦手という話でしたが、私から見ると、彼らはニクセンが得意だと思います。長期休暇でもあんまり特別なことはしない。

フランスとかイタリアとかに家族で数週間キャンプに出掛ける人が多いですが、場所は移動しても、オランダの普段の生活をそのまま持っていく感じで、向こうで自炊して、洗濯して、ひたすら本読んだり、子供たちを公園で遊ばせたり・・・。オランダからジャガイモとかまで車に積んでいったりしますからね。何のためにフランスまで行くのかよく分からんという話でもあるんですが(苦笑)。移動しても、その先でゆっくりするんですね。

ライター 山本直子

―日本人はどうして休暇を徹底的に休めないんでしょうね?

私は子供のころの夏休みの過ごし方が影響しているのかな・・・と思っています。まず、小学生の夏休みの宿題が多すぎる。私の小学校時代は、休暇中でありながらいつも「◯◯をしなければならない」という義務感が渦巻いていました。

オランダの小学生は宿題ゼロ! 現地校に通ううちの子供たちも休みの間はひたすら遊んだり、だらだらしたり・・・こういう子供たちが大人になったら、きっと仕事とニクセンの切り替えがうまくできるんじゃないかと思いますね。

―なるほど、子供のころからニクセンがある程度しみついているわけですね。

だから私はまず、日本の教育委員会に「夏休みの宿題は絵日記のみにするべき」と提案したいです(笑)。

しかし、もっと身近にできるところでは、大人が休みを徹底的に休むのがいいかな、と思います。ただでさえ短い休暇なんですから、海外に行ったり、ディズニーランドに行ったり、あんまり特別なことは頑張ってやらなくてもいい。もちろん、それがストレス解消になるならやるべきだと思いますが、無理するのは楽しくないですよね。子供も意外と家でゆっくりするのは嫌いじゃないと思います。

―まずは休暇中に徹底的に休む大人の背中を見せると。

そうですね。まずは今週末から「何もしない」予定を入れてみてはいかがでしょうか?

ライター 山本直子

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[取材・文] 岡徳之 [撮影] Keiko B Goto

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