アイデアが次々に出てくる「ブレスト体質」になるには? ブレストの達人、佐藤ねじさんに聞く

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イノベーションの必要性が叫ばれる現代。ビジネスパーソンはつねに新しいアイデアを求められています。

アイデア出しと言えば「ブレスト」。一般的に知られるブレストの原則には「発言の質ではなく、量を重視すること」「ブレスト中に判断・結論を出さないこと」とあります。しかし一方で、「質の低いアイデアをいくつ出したところでビジネスにはつながらない」など、その実効性を疑う声も聞こえます。

どうすればブレストから実効性がある質の高いアイデアを生み出すことができるでしょうか――?

「ブレスト大好き企業」として知られる面白法人カヤックを経て独立、『変なWEBメディア』『5歳児が値段を決める美術館』など独創的なアイデアを次々と形にし、グッドデザイン賞など多数の実績を重ねてきたブルーパドル代表・佐藤ねじさんに独自のブレスト術を聞きました。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

PROFILE

ブルーパドル代表 佐藤ねじ
佐藤ねじ
ブルーパドル代表
1982年生まれ。面白法人カヤックを経て、Blue Puddle inc.を設立。『変なWEBメディア』『5歳児が値段を決める美術館』『Kocri』『くらしのひらがな』『レシートレター』『しゃべる名刺』『貞子3D2』など、さまざまなデジタルコンテンツを量産中。2016年10月に著書『超ノート術』を出版。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術祭・審査員推薦作品、Yahoo Creative Award グランプリ、グッドデザイン賞BEST100、TDC賞など。

いきなりブレスト始めてないですか?

―「ブレストをやっても実効性のあるいいアイデアが出ない」と言う人がいます。いいブレストにするには、なにが大切になりますか?

いきなりブレストを始めないことじゃないでしょうか。ぼくがやる場合には、ちょっと亜流なやり方かもしれないですけど、必ず最初に「ブレストのブレスト」をします。「切り口のブレスト」とも言うんですけど。

ぼくは自分の会社をやってますけど、クライアントワークであれば必ずお題があるじゃないですか。社内でやる場合もそうですよね。例えば「森らしいサイトを作る」というお題が最初に設定されている。ここでいきなり「森らしいサイトってどんなのがあるかな?」とやると、迷子になるんです。

同じ「森らしいサイト」について考えるにしても、考えるルートはいろいろとあります。「直感的に自分がいいと思うものをとりあえず出す」「見た目のデザインから考える」「そもそも森とはなにか」「最近流行っているコンテンツは?」・・・。まずはこういう考えるルートを出すことから始める。これが「切り口のブレスト」です。

口で言ってるだけだと伝わらないかもしれないので、ちょっとやってみますか。なにか適当なお題はありますか?

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

―じゃあ「いいチームをつくるには?」とか。こんな抽象的なのでもいいんですか?

うん、そのままだとアイデアは出てこないですよね。でも、クライアントから出されるお題ってそういう抽象的なものが多いじゃないですか。そのままだとお題が大きすぎる。だから迷子になる。なのでまずは、アイデアが出る最適なサイズになるまで分解していくんです。

「会議の方法」「働く時間」「モチベーション」・・・。元のお題が大きすぎるからこれでもまだ大きい。それぞれをさらに分解します。いいチームにするための「会議」にはどんなものがあるか。「うまくいっているパターンを探る」切り口もあれば、「まったく新しい会議の方法はなにか」みたいなものもある。これくらいまでやるとようやくアイデアが出てきます。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

その上で大事なのは時間配分です。ビジネスシーンでやるブレストでは通常、1時間なり1時間半なりの制限時間があるはず。その中でアイデアを出し切らなければならない。

先ほどのように「切り口のブレスト」をやっていくと、元々のお題からアイデアを出すルートがどんどん分岐していきます。理想は時間内に、そのすべてを満遍なく網羅すること。全部で1時間しかないのに、30分経ってもまだ「新しい会議」だけやっていたのではダメなわけです。

―そうですよね。

アイデアが出ないところに執着していてもしょうがない面もあります。出ないならすぐに次に行かないといけない。

一方でアイデアを出していくと、途中で「ここを探ったらいいものにたどり着きそうだ」と感じるタイミングがあるじゃないですか。そこで「もう一丁出してみますか」とさらに時間をかけるのか、それともそのまま横に広げていくのか。この判断がブレストの成否を分けるんですよね。

ファシリテーターがブレストの成否を決める

実は、一人でアイデア出しをするのと複数人でブレストをするのに、本質的な違いはないんです。やることは基本的には同じ。でも、一人でやる場合は自分で自由に進め方をコントロールできるけど、みんなでやるブレストはそうはいかないじゃないですか。

コントロールするのはファシリテーターの役目。だから、ブレストをいいものにするには、なによりファシリテーターのはたらきが重要になるんです。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

ファシリテーターの仕事は、ひとことで言うなら「ブレストがうまく流れるようにすること」です。出てきたアイデア一つひとつについて、いいか悪いか判断していると時間がかかってしまうし、否定してしまうと参加者のモチベーションが下がってしまって、アイデアが出てこなくなる。

・・・まあ、この辺のことはブレストの原則的なものとしてみなさんご存知でしょうが、そうならないように場全体をコントロールしていくのがファシリテーターというわけです。

―分かります。でも、実際のブレストは気心の知れない人と一緒にやることが多いわけで、その中にはブレストのなんたるかを分かっていない人もいるじゃないですか。

いますよね、出てきたアイデアをすぐに否定したり、自分の持ってる知識を披露したりしてブレストの流れを止めてしまうめんどくさいおじさんが。5分も喋ったのに新しい案が1つも含まれてない、みたいなことが実際よくありますよ。

―そういうとき、ねじさんはどう対応するんですか?

まあ、そういうめんどくさいおじさんには、基本的にまずは従いますね。おじさんが返してくるイマイチなフィードバックに対して、内心は良くないと思っていたとしても「ああ、いいですね!」とか言って肯定しときます。

―ははは。

ただしそのときに、「それなら例えば、こういう技術を使えばさらに良くなりますね!」とかって、ちょい足しすることで、「ダメな案」を「まあまあいい案」に変えて出すのがポイントなんです。

―ああ、ブレストの一般的な原則にも「いい発言があれば、そのアイデアを結合し発展させること」っていうのがありますね。この場合、元のアイデアは「いい発言」じゃないけど。

そうすると、この「まあまあいい案」は、元の「ダメな案」を出したおじさんとの共作になるじゃないですか。おじさんからすると自分の手柄のようになるから、気分が良くなりますよね。その上、ファシリテーターであるこちらへの信頼が上がったりすると、そのあとはこちらのやり方が通りやすくもなる。

会全体としても、アイデアが出ている間はみんなのモチベーションが上がるから、さらにアイデアが出るいい循環につながります。逆にアイデアがなかなか出ない時間が続くと、「この会なんだか意味ないな」という空気が流れてしまって、さらにアイデアが出にくくなってしまう。

だから、こういう「ダメな案」に乗っかって「まあまあいい案」を自ら作るというのも、ファシリテーターの重要な役目なんですよ。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

―もうひとつ、そうやってたくさん出した案はどうすれば「その後」につながりますか? というのも「ブレストをやるといっぱいアイデアは出るけれど、それがビジネスにつながらない」と思っている人も多いようなので・・・。

たしかに、バーっとアイデアを出したはいいけど、とっ散らかっているというのでは、なかなか「その後」にはつながらないですよね。「その後」を気持ちよく進めるためには、やはりブレストの最後にまとめなくちゃならない。

ぼくがファシリテーターをやる場合は、ブレストを進める中で出てきた「ちょっと良さそう」なアイデアに、その都度印をつけていきます。どのアイデアに印をつけるかは、これもまた判断だし、センスなんですけど。で、最後にいくつかつけた印の中から、最終的に残す候補を4つ5つ決めて終わる、みたいな感じです。

時間配分をミスると、これができないまま終わってしまったりするんですよね。そうすると次につながらないし、なんだか後味も悪くなる。

アイデアを出せる「ブレスト体質」になるには

―いいファシリテーターがいれば、参加したメンバーはみんな活躍できるものなんですか?

活躍・・・できるかは怪しいですね。やはり本人が喋らなければダメだから。でも、いいファシリテーターがいると、結果としていい案がたくさん出てくるとは言えると思います。

それはアイデアを出せる人が最悪一人でもいるから、なんですけど、でもその人が一人でアイデア出しするときよりも、人とブレストをしたときのほうが出るものは広いです。

アイデアって組み合わせじゃないですか。くっつける瞬間がアイデア。だから、アイデアを出すためには素材が必要なんですよ。例えば、さっきの「新しい会議」でいうと、「スポーツ×会議」という切り口を思いついたとすると、アイデアを出していくためにはまず、「スポーツの種類」をリストアップする必要がありますよね。

その際、人には必ず思考の癖があるから、例えばぼくの場合だと、なぜかは分からないけど、ウインタースポーツは出にくいんですよ。でも、そこでだれかが「スキー」と言った瞬間に世界が広がる。すると一人では出せなかったアイデアにつながる可能性がある。そういう意味では、だれもが活躍できると言えますね。

―なるほど。

ブレストでやっていることを分解すると、「アイデアを出すこと」「アイデアを出すためのパーツを出すこと」の2つがあると思うんです。だから「アイデアを出すこと」が苦手な人でも、「アイデアを出すためのパーツを出すこと」でならば貢献できる。

プランナータイプで「アイデアを出すこと」が得意な人でも、出すためのきっかけがほしいんです。会話はそのきっかけになります。いいファシリテーターがいると、そこがうまくつながる。だから結果としていいアイデアがたくさん出るんです。

―直接アイデアを出せない人にも活躍の余地はある、と。とはいえやっぱりアイデアを出せる人が多いほうがブレストの質は上がるわけですよね? どうすればアイデアを出せる人になれますか?

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

それはもう、ブレストを数やるしかないでしょうね。ブレストをしているときって、なんとなく ”脳が開いている” んですよ。だからアイデアが出やすいんだと思うんです。そういう意味では、カヤック時代はとにかくたくさんブレストしましたね。日常的にやるブレストのほかにも、ブレストをやるための合宿が定期的にあったりとか。

あるいはプライベートでも。ぼくは元々アイデア出しをするのが大好きな「ブレスト体質」なので、金曜の夜にプランナー仲間と集まって、時間もゴールも決めずにダラダラとやるブレストが至福の時間なんです。「恋バナ」好きの人が延々と話していられるのと一緒ですよ。

必ずしも座ってする必要だってないです。仲間内で昔よくやっていたのは「路上ブレスト」。歩きながら、目についたものを起点にひたすらアイデアを出し合うんです。「このカメラ、なんだか花に似てるね。ところで植物×カメラってどんなものがあるかな?」とか。ブラタモリとかモヤさまみたいな感じで。

―それはたしかに楽しそう!

子供の会話みたいなものですよね。子供も目についたものにすぐに反応して「あれはなに?」「ああなってるのはどうして?」って始まるじゃないですか。だからほんの数メートルの距離を歩くのに、なかなか進まないということになる(苦笑)。

でも、そんなぼくもカヤックを離れて独立して、いっときブレストをやる機会が減ったんです。なんだかんだ言って、プランニングするには一人でやったほうが効率がいいところもあるから。その結果「アイデアを出している量が減ったなあ」と危機感が募って。それで最近はまた意識してブレストの回数を増やしていたりもします。

―ブレストはやり続けていないとアイデアが出にくくなるものなんですね。

うん。出ないということはないけど、日常的にブレストをやって、ブレスト的な思考の癖がついていると、「いいチームにするための会議とは」から始めてイチからきれいに項目を切り出さなくても、いきなり「スポーツ×会議」みたいなものがポンっと出たりする。

「ブレスト体質」の人は、抽象化してレイヤーを上げたり、逆に下げたり、あるいは横に転がしたりということが自在なんですよ。そうすると、自分が出した「ボクシング会議」というアイデアが、真面目な女子から「血が出るからダメ」と否定されたとしても、「ボクシング会議というのは結局、格闘技×会議ということだから・・・」と考えて、「じゃあ合気道会議は?」とすぐに次のアイデアが出てくる。

ブレストをしていると、どうしたって自分のアイデアが否定される場面があるじゃないですか。そういうときに、アイデアがあまり出ない人はすぐにムスッとしてしまう。自分で「ちょっとでもいい案が出せたぞ」と思うと、それに固執してしまって、会の流れを止めてしまうことにもなる。

アイデアがたくさん出る人は、そこでいちいちヘコまないんです。「それがダメなら、じゃあこれは?」というふうに、すぐに横に転がすことができるから。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

ブレスト以外にも役立つ「ブレスト的」スキル

それに、ブレストをやり慣れていると、ブレスト以外の場面でもいいことがある気がしますね。例えば、なにかをクライアントに提案するとき。提案したものがそのまま「いいね」と採用されることばかりじゃないですよね。明らかに「ああ、これ刺さってないな」ということもある。そういうときにすぐに引き下がって「出直してきます」とやると、それはあとが大変ですよ。

「ブレスト体質」の人はそういうとき、その場でブレスト的なことをするんです。さっきのめんどくさいおじさんへの対応と一緒ですよ。相手からのイマイチなフィードバックに対して、まずは「いいですね!」とポジティブに受け止めておいて、その場でその案を少し修正した形で提案し直す。それで合意が取れると、結果としてはこちらの提案したかったこともおおむねOKになっていることが多いんです。

―その瞬発力は普段からブレストに慣れているからこそですよね。

ヒアリングでもそうです。ただ相手の要求を聞いて終わりにするより、その場でブレストのようにしてざっくりとしたアイデアをぶつけておくことで、より相手の好みを理解できたり、方向感がつかめたりして、次に提案を行う際に役に立ちます。

その意味では、ブレスト的なスキルはだれもが持っていて損のないものだし、持っていると強いのは間違いない気がしますね。

―ビジネスの現場にいると、どうしても最短距離で正解にたどり着きたいと考えがちだから、ブレスト的に考えるのが苦手な人は多そうですね。

カヤックのヤナさん(代表取締役CEO・柳澤大輔さん)が『鎌倉資本主義』の中で「縦方向の思考」「横方向の思考」と表現していたんですけど、うまいこと言うなあと思いました。カヤックはどちらかというと横に広げる思考が得意な人が多かった。ぼくも元々はそうで、それだけじゃダメだと思って縦方向を後から身につけていった形。

ブレストの目的はアイデアを出すことだから、すぐに縦に潜ろうとする ”ダイバー” の存在はマイナスにはたらきます。”本質おじさん” とも言うんですけど。でも、仕事は本来的に問題解決だから、深堀りして答えに行き着くことが大事。だから別に、縦方向の思考がベースで問題はないんだと思いますね。それに加えて横にも動けるといいよねってだけの話で。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

―両方使い分けられたら最強だよね、と。

そうそう。ビジネスの世界でも、本当にすごい人は縦横を自由自在に、なおかつすごい速さで動ける人だと思うので。

そういう人っていうのはおそらく、「ここを掘ったら答えに行き着く」ということは分かっているんですよ。けれどもそこですぐに掘るのではなく、「たしかにそこを掘ったら答えに行き着くかもしれないけど、とりあえずここも見ておこうよ」みたいに考える。直感的に「ここがいい」と分かっていても、「あえてここも探ってみようぜ」みたいないたずら心がある

世の中って二項対立が多いじゃないですか。「ブラック企業はダメだ。ホワイトになろう」とか。そこでGOの三浦崇宏さんは「カラフル」と言いましたけど、そんなときにブラックでもホワイトでもない、第三の道を探れる人こそが、「ブレスト体質」を備えた縦横自在の人という気がします。

そういえばヤナさんもよくそれを言っていたなあ。ぼくがカヤックを辞めると言ったときも、「辞めるか辞めないかじゃなく、辞めつつカヤックともつながる第三の道を探そうよ」って。

―白か黒かしか答えがない世界と比べてずっと優しい世界ですよね。

そうですね。やり方は人それぞれだけど、いいブレストができるとすごく気持ちがいい、幸せな気持ちになるというのには、そういう側面もあるのかもしれないです。そういう意味でも、ぼく自身「いいブレスト」の多い人生にしていきたいなあと思いますね。

ブルーパドル代表 佐藤ねじ

[取材・文] 鈴木陸夫、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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