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INTERVIEW
観光気分の視察はもうやめて。相手の時間を奪うだけの日本企業へ、世界最先端の電子国家から忠告
INTERVIEW

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世界最先端の電子国家エストニアには、日本企業からの視察要望が絶えず届いています。しかし、視察団に対応する担当者から、最近こんな苦言が聞こえきました。

最近、日本人が大量に来すぎて少し困っている。視察や取材というより団体旅行気分の人たちを何度か見かけて、本当に視察がしたいのか疑問に感じてしまう。

本来、現地企業への視察はビジネスの成果につなげるための手段、エストニア企業もそれを期待している。それなのに、目的や持ち帰るべき成果物が不明確で、具体的な案件の話もないようでは、お互いにとって有益な視察にはなりえません。

いい視察とわるい視察、その差はなにか。視察を自分にとっても、そして相手にとっても実りあるものにするため、必要なこととは――。

今回お話を聞いたのは、エストニアの電子居住者制度「e-Residency」公式パートナーであるEstLynx社CEO、ポール・ハッラステさん。数多くの日本企業のエストニア視察をサポートしてきたポールさんが見た日本の視察団の特徴、そして課題を聞きました。

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)

PROFILE

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)
Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)
EstLynx Inc. CEO
エストニア出身。2015年に来日。来日前から日本語の通訳・翻訳に携わり、2017年に早稲田大学の修士課程を卒業。2018年にEstLynx Inc.を創業し、エストニアの電子居住者制度「e-Residency」公式パートナーとして視察団のコーディネートや日本での啓蒙活動を展開している。

聞き手には、上場企業の事業部長でありながらフルリモートで全世界を旅しながら働き、実際に現地企業の視察もしているガイアックス社の管大輔さんをお迎えしました。

観光気分でビジネスにつながらない? エストニアに押し寄せる日本企業たち

―エストニアには全世界から多くの視察団が訪れているそうですが、日本からの視察も多いのでしょうか。

日本人の視察者は、他国と比較しても非常に多いです。エストニアの電子政府を見学できる「e-Estonia Showroom」という施設があるのですが、そこへの訪問者数はドイツは1位、2日本人なのです。

日本からは、電子居住者制度のe-Residency、行政サービスのデジタル化、特に最近では、国家として発行する仮想通貨「エストコイン」、そのICOへの挑戦に興味を持って視察をする人が多いです。

―日本人が世界で一番多いんですね。一般的な視察は、何名ほどで、どのようなスケジュールが組まれるのでしょうか?

視察はたいてい10人から30人のグループが多く、期間は3~5日間。一日にだいたい3社を訪問するのがよくあるパターンです。商談やディスカッションは1社につき1~2時間程度です。

―日本人が、視察を受け入れるエストニア企業に煙たがられていると聞いたのですが…。

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)

日本人自体は、すごくフレンドリー、穏やかで礼儀正しいと、比較的いい印象を持たれていると思います。ただ確かに、「視察」となると煙たがられている面もあるんです

例えば、明らかに事前の情報収集が不足している、だとか。エストニアをロシアやベラルーシと同一視する発言をしたり、デジタル・ノマド・ビザ(エストニアが構想中のデジタルノマドの人なら一年中滞在可能なビザ取得制度)の話を聞きに来ているのに「そもそもノマドってなに?」と言い出したり。

―「経費で落ちる旅行」気分の人もいると。

そうですね。決定的に良くないのは、視察される側はビジネスにつなげたくて受け入れているのに、日本企業側にまったくその気がないパターンです。

エストニア企業は、日本の大手企業が視察に来て、日本のマーケットを開拓するパートナーになってくれると期待しているのに、いざ会ってみると協力したり、連携したりする気がまったくない。そうなると、どうして視察を受け入れたんだろうと残念に思いますよね。

ポールさんが日本からの視察団に配布する資料
ポールさんが日本からの視察団に配布する資料

―必然的に、ビジネスにつながらない視察が多くなると。

企業として視察に来るんだから、その先で一緒にプロジェクトを始めるとか、投資するとか、期待するのは当たり前です。でも、観光気分の視察だったらもちろんそんな話にはならない。結果、ミスマッチが起こってしまっているんです。

エストニア人は、国民性としてあまり感情を表に出しません。なので、直接クレームを言われたり、視察受け入れを拒否されたりすることは少ない。でも、「ビジネスにつながりそうな企業に来てほしい」と、私の元に要望が届くことはあります。

だから私が、日本企業にどんな視察がしたいのかをヒアリングして、「この人たちはビジネスにつなげる気があるのかどうか」を判断し、視察先とのミスマッチが起こらないよう、ふるいに掛けるようにしているのです。

―本来は視察する企業側が、「こういう目的で、こういう企業にアポを取りたい」と明示すべき。ですが、ポールさんがそれを察して判断することになってしまっているのですね。

はい。だけど、その視察団が本気か、観光気分かは話せばだいたい分かります。

それに最近は、日本人だけのせいで、ということはありませんが、視察の受け入れを有料化している企業も増えています。有料にすれば、受け入れた時点でビジネスとして成立するので、たとえその後の関係につながらなくてもいい。観光気分の人たちは、そういう企業にアテンドするしかないですね。

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)

いい視察にするために必要なのは、目的の明確化と事前のすり合わせ

―日本以外の国は、視察をきっかけに協業したり、具体的なビジネスにつなげたりすることが多いのでしょうか。

そうですね。目的はさまざまなので一概には言えませんが、例えば、特に中国などはアグレッシブに商談を進めて、ネクストステップを決めて帰国する視察団が多いかもしれません。目的が明確で、最初から具体的な話をする傾向にあります。

―エストニア企業に煙たがられない視察をするためにはどうしたらいいのでしょうか。

いい視察ができるかどうかは、どれくらい事前準備をしているかで決まります。具体的には、いいアポイントを取れるかお互いの認識をすり合わせられるか、の2点です。

いいアポイントとは、視察の目的にかなうアポイントということ。そのためには視察の目的を決め、実際にどういう会社がビジネスパートナーとしてふさわしいかを前もって探し、良さそうなところをピックアップしてアポを取っておきます。

アポを取れたら、次は受け入れてくれる企業との認識のすり合わせです。受け入れる側はパートナー契約や投資を期待しているのに、視察する側にそうした意図がなければ、相手にとっては時間の無駄。どのような目的なのか、具体的にどんな案件があるのかを事前に伝えておけば、ミスマッチはなくせます。

当日により深い話ができるよう、事前にお互いに会社やサービスの資料を送り合って理解を深め、アジェンダまで決めておくのがベストです。

―視察にあたって、どのくらい具体的な案件を持っていくべきなのでしょう?

それは場合によります。ですが、多くの企業は、会ってみて、お互いにフィットするかを確かめられたら、「これぐらいの報酬で、これをやりましょう」というところまで持っていきたい。「会社を知りたいです、知れてよかったです」じゃなくて、「じゃあ一緒に何をやるか?」。それがないと、何のための時間だったのかなと思ってしまいます。

ただ、これも認識のすり合わせの問題です。具体的な案件はないけれど、会社を知っておきたいという場合、視察自体を有料にすれば、受け入れ側にもメリットがある視察にはなりますから。

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)

―ほかに必要な事前準備はありますか?

よほど英語に自信がある人以外は、通訳も頼んだほうがいいです。エストニア人の多くは英語を流暢に話しますが、日本人はそうではない人も多いですよね。

「日常会話程度ならできるから」といって、通訳にかかる費用を節約しようとする人もいます。あるいは、会社から「君はTOEIC900点なんだから、英語で交渉できるだろう」と経費を出してもらえなかったり。でも、TOEICがハイスコア=ビジネス英会話ができる、では決してないじゃないですか。

「視察=情報を得るための場」なのに、うまく意思疎通できなかったらもったいないですよね。そのコストを惜しむのはダメだよなあと思います。

オンラインでやり取りできる今、「あえて会う」時間を実りあるものにするために

―今は、世界中の人とオンラインで簡単にやりとりができます。そんな中で、あえて現地に行ってコミュニケーションする価値ってどのようなところにあると思いますか。

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)

現地に行く一番のメリットは、現地の「実情」を知れることです。エストニアは最先端の電子国家ですが、経済面や文化面ではまだ遅れている部分も意外とあります。エストニアで法人を設立したり、ビジネスを行ったりするうえで、エストニアがどんな国かを知っておくことは大切でしょう。

それと、生の「体験」ができるのも現地に足を運ぶ大きなメリットです。以前、日本の弁護士の方々をエストニアの法律事務所へ連れて行ったときは、オンライン会社設立のデモを見せてもらって感動していました。オンラインの手続きだけで会社を作れるということは、情報としては日本にも入ってきていますが、実際に目の前にしたときのインパクトは大きい。「オンラインで会社が設立できるなら、弁護士は要らないんじゃないか?」って。

そうやってエストニアを実際に訪れて、「印象が変わった」「来る前より好きになった」という人は多いですよ。

―これから視察に来る日本人に伝えたいことはありますか?

繰り返しになりますが、視察を受け入れる企業との間で認識のズレがないようにしてほしいということです。

視察=ビジネスにつながる、と考える企業にとって、観光気分の視察は避けたいもの。でも視察を有料にしている企業にとっては、来てくれるだけでも十分ありがたいことなんです。

つまり、どんな視察であれ、事前に認識をすり合わせておけば問題ない。極論、ビジネスにつなげる気が一切ない観光気分だったとしても、そのことが相手に伝わっていれば絶対にダメではないんです。

エストニアでは、アポの前にメールでやり取りし、できるだけ認識をすり合わせて、当日どこまで話を進めるかを明確化することが多いです。こうすればやり取りの記録も残るし、貴重な時間を「お互い」に無駄にすることもありません。

―日本の習慣として、事前に目的やアジェンダを設定せずに会議をしたり、とりあえずご挨拶のアポを入れたり、ということが多いのは事実です。

日本にいて、それは私も感じることがあります。でも、それではせっかく1時間も話したのに、お互いにこれといったメリットはなにもなかった、なんてことが起こりますよね。

これは視察にかぎらずすべてのアポに言えることですが、ちゃんと事前準備をする、目的やゴールを相手とすり合わせるのは、当たり前のこと。そういう認識があれば、もっと建設的な話ができ、ビジネスをスムーズに進められるのではないでしょうか。

EstLynx Inc. CEO Paul Hallaste(ポール・ハッラステ)

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[取材・文] 管大輔、青木まりな、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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