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INTERVIEW
クリエイティブな人になりたいなら、嫌いな人に会いに行きなさい
INTERVIEW

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BOOK MARK

一流のビジネスパーソン、特に「クリエイティブ」な仕事を生業とする方をご取材させていただくと、

自分のクリエイティビティーを刺激するために、「嫌いな人」にわざわざ会いに行くことをマイ・ルールにしているんです。

という方がいらっしゃいます。しかもそれが、仕事で求められるアイデアの発想に活かされていると実感しているのだとか。

なぜ彼らは、わざわざ自分の嫌いな人に会いに行くのか。人が誰かのことを嫌いになるメカニズム、嫌いな人に会いに行くこととクリエイティビティーの関係について、脳神経科学者の青砥瑞人さんに解説していただきます。

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人

PROFILE

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人
青砥瑞人
株式会社DAncing Einstein 代表取締役
高校球児のころ、脳への興味が芽生える。日本の高校を中退し、大検を経てUCLAの神経科学学部へ進学、飛び級で卒業。帰国し、株式会社DAncing Einsteinを設立。脳神経科学の最先端の知見を人材開発や教育の分野に応用し、企業や学校を支援。大手印刷会社の凸版印刷と社員向け教育プログラムを共同開発した実績もある

人はなぜ、他人を「嫌い」になるのか?

ー「クリエイター」と呼ばれる方など一流のビジネスパーソンには、「わざわざ自分の嫌いな人に会いに行く」という方がいらっしゃいます。ずばり、自分の嫌いな人に会いに行くことは、クリエイティビティーを高めるのに効果的でしょうか。

はい、いくつかの条件を満たせば、自分の嫌いな人に会いに行くことは、クリエイティビティーを高めてくれる可能性があるでしょう。

ーそもそも、人が誰かのことを「嫌い」になるとき、脳の中では何が起こっているのでしょうか。「嫌いのメカニズム」とは。

「嫌い」という感情は、多くの人が瞬発的、かつネガティブなものだと捉えています。一方で、他の動物は味わえない、結構、高等な感情でもあるのです。なぜなら、「嫌いだ」という決断、価値判断をしているということなので。

言い換えると、「嫌い」という価値判断と、何かを「回避」する行為とは異なるということです。

多くの哺乳動物は後者の「回避」行動はできますが、「嫌い」という価値判断は難しい。これには人間の「前頭葉」の発達が大きく関与しています。前頭葉は人間で特に発達している部位で、何かを想像したり、価値判断したりすることを可能にしてくれます。

例えば、人間は目の前に納豆がなくても、「自分は納豆が嫌いだ」と価値判断することができます。しかし、ワンちゃん(犬)にとっては、ただそれだけのことなのに難しい。犬は、目の前に納豆があった場合、それを回避することは可能でも、納豆の実物が目の前にないと「嫌い」だと想起したり、判断したりできないんです。

ーでは、人はどのようにして「嫌いだ」と判断しているのでしょう。

「嫌い」と価値判断できるようになるためには、ある「刺激」が自分にネガティブな「感情」を催した経験と、そのネガティブな感情を「記憶」として保存しておくことが必要です。

ある出来事がネガティブな経験として感情記憶されると、それが目の前にあろうとなかろうと、類似するものを「嫌い」と価値判断することができます。

「嫌い」のメカニズム

例えば、職場でイヤな感じの人に会った(ネガティブな感情が発露した)として、もしもそれっきりその人のことを思い出さないとすると、おそらくその人を「嫌い」と認知する可能性は低い。しかし、イヤな度合いが高いと(ネガティブな感情の強度が高いと)、おそらく帰りの電車の中、寝る前のベッドの中でその人のことを思い出すでしょう。

さらに、最近だと、その人がFacebookなどで自慢げな投稿をしたりしているのを見かけてしまい、そこでもますます、その人とネガティブな感情が紐づけられたりする。そうすると、その人と、その人が引き起こしたネガティブな感情というものが、感情記憶としてどんどん蓄積されていく。

そうして、その人あるいは類似していると脳が判断する人などが現れると、「嫌い」という価値判断が脳内でできるようになる。これはまさに、一種の学習です。つまり、誰かを「嫌い」になるということは、かなりの「学習」を経て、そうなっているということなんです。

ーもっと瞬発的な反応なのかと思っていました。

自分がネガティブな感情を頻繁に出すような刺激は、なるべく避けたいですよね? ですから、脳がどんどんそのような学習をし、蓄積されると、感情記憶から価値記憶という形で保存され、瞬時に価値判断できるようになっていくのです。これは、単純な突発的な回避とは異なるのです。

あなたの「嫌い」は、本当の嫌いではない?

一方で、「その人のことが本当に嫌いなのか?」と、自分に問い質すことも必要かもしれません。

ーどういうことでしょうか。

人間の脳の構造自体は、新人類になった約4万年前から、容積も構造も大して変わっていません。なので、当時は適応的であった脳の反応が今も起こってしまっていて、過剰にネガティブな感情を誘導し、さらに「嫌い」と価値判断できるようになるまで学習させている可能性があるということです。

ネガティブな感情や「嫌い」という価値判断は、太古昔、人間が野生動物に囲まれて暮らしていた時代において、生存確率を高める上で非常に大切な機能でした。もちろん、今でも大事な機能であることに間違いないのですが、今の日本のような安全な国においては、過剰なネガティブ感情の発露による、もしかしたら不要かもしれない「嫌い」を学習している可能性があります。

昔だったら「ライオン」など獣から身を守る必要があったでしょうが、今はせいぜい「上司」に職場で怒鳴られるくらい(笑) 死ぬことはありません。ですから自己のネガティブ感情の発露と「嫌い」を見直してもいいかもしれません。太古の人からわれわれの今の悩みやネガティブ感情の原因を見たら笑われるかもですね。もちろん、同じ尺度で比較することはできませんが。

ー脳に騙されて、相手のことを嫌いになっているのかもしれないのですね。

そうです。また、脳は一度、「嫌い」だと判断した人の価値を、さらに減じて評価してしまう癖があることにも気をつけましょう。一度嫌いになった人にしばらく会わないと、その人の価値をますます低く見てしまいがちです。

これも先ほどご紹介した、帰りの電車の中、寝る前のベッドの中でその人のことを思い出し、Facebookで自慢げな投稿を見てしまうという、ネガティブな妄想のスパイラル、ネガティブな記憶の定着化による「嫌い」の増幅です。だから、「第一印象」って大事なんですね(笑)

ーたしかに・・・。

「嫌い」な人の価値は時とともに下がっていく

なぜ、嫌いな人に会うとクリエイティビティーが高まるのか?

ー「嫌いのメカニズム」が分かったところで、嫌いな人に会いに行くこととクリエイティビティーの関係について教えてください。

着目していただきたいのが、「理由をうまく説明できない嫌い」についてです。人は何かを「好き」な理由よりも、「嫌い」な理由のほうが言葉で説明しやすいことが研究で明らかになっています。

つまり、人は「嫌い」な理由を説明するのが得意なので、理由をうまく説明できないと、これは「嫌い」とは異なる、曖昧な感情だと軽視して、見過ごしてしまうのです。「これはただの違和感だ、気にすることはない」と。

しかし、この言葉で説明しづらい違和感の中には、実はビジネスに活かせる「ヒント」が隠されているかもしれないのです。

スティーブ・ジョブズは、この違和感を言語化する天才だったからこそ、他人が思いつかないようなアイデアを発想できたんですよね。「理由をうまく説明できない嫌い」にも目を光らせ、少しでも言語化するスキルを磨いていただけると、新たな自分の発見につながるかもしれません。

この違和感は、人にとってとても重要な感覚です。しかし、言語化するのが難しい。ジョブズしかり、詩人やアーティストはそんな感覚を言語化、あるいは他のツールで表現しているからこそ、クリエイティビティーが高いと言われるのだと思います。

人がなかなか向き合わない、違和感に向き合う価値はきっとあるように思います。そして、嫌いな人に会いに行く、あるいは違和感を感じる人に会いに行くと、まさにその場で「違和感のオンパレード」となるでしょう。

そんなふうにその場を客観視し、違和感を楽しみ、そこでの違和感をなんらかの形で表現できないか試みることで、表現、あるいは違和感解決を模索すると、きっとクリエイティビティーが高まるのではないかと思います。

「言葉にできない “嫌い” と向き合ってほしい」
「言葉にできない “嫌い” と向き合ってほしい」

嫌いな人に会うことが脳にもたらす3つの具体的効能

ー嫌いな人に会いに行くことの具体的な効能について教えてください。

「嫌いな人」に会うことの効能は、3つに整理できます。

1つは、「認知的柔軟性」を高めるトレーニングになること。認知的柔軟性が低い人とは、つまり、頭が固く、価値基準が硬直化している人のことを指します。特にそうした人が嫌いな人に会うことで、違和感を引き起こし、脳がそれをなんとか受け入れようと認知的処理を行うので、柔軟性を高めることにつながります。

そして、この認知的柔軟性が、いわゆる自己の固定化したアイデアからシフトさせたり、新たな着眼点を見出すのに役立ち、クリエイティビティーの向上にも寄与する可能性があります。

2つめは、「ドーパミン」が脳で放出されるようになること。ドーパミンは神経伝達物質で、自分と異質なものとの違いを学習し、それを記憶として定着させるのを促進するはたらきがあります。自分との差分が大きい嫌いな人に会うと、人は大きなストレスを感じ、このドーパミンが普段よりも多く分泌されるようになるのです。

そして、詳細な研究はまだこれからの分野ですが、このドーパミンが関与する神経とクリエイティビティーに関係がありそうだという脳神経科学の研究もあるので、やはり、嫌いな人に会いに行くのはクリエイティビティーを高める可能性を秘めていますね。

3つめは、「普段あまり使っていない脳を使うことになる」ことです。人は普段生活していると、同じような脳の回路を使う傾向にあります。それは、同じような脳の回路を使っているほうが楽なので、そちらを無意識的に選択するからです。

しかしそうすると、自分にネガティブなことが起こりうる事柄は、基本的には遠ざけようとするでしょう。なので、あえて嫌いな人に会いに行こうと考える時点で、すでに普段と違う脳の回路を使い、さらに実際に会うと、普段の脳の回路とはまったく異なる部位を刺激してくれるでしょう。

つまり、嫌いに人に会いに行くという行為は、普段使っている脳回路をお休みさせ、普段使わない脳回路をビシバシ使うという、過激な脳トレなのかもしれません(笑)

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人

自分の軸を持ったうえで、嫌いな人に会う

ーなるほど。嫌いな人に会いに行くことの効能は、たしかに論理的に説明がつきますね。

ただし、一流のビジネスパーソンのように、すでに「スペシャリティー」を持つ人が、嫌いな人、つまり自分とは異質な人と会うからこそ、意味があるのだと思います。スペシャリティーや、自分にとって起点となる「軸」がない人がやっても、差分が生まれず、不快感しか残らないかもしれません。

ノーベル賞受賞者などがクリエイティビティーについて語るインタビューを読むと、みなさん、「毎日ルーティンのように研究を繰り返して、ある日、寝て起きたときや、開き直って奥さんと三カ月間、海外旅行に行っている途中でアイデアを思いついた」などとおっしゃっていますよね。

あれと同じで、普段は特定の脳回路をずっと酷使し、自分の軸が形成され、そこに違う刺激を受けて普段と異なる脳回路が使われることで、脳内の配線をこれまでとは異なる状態にもっていける可能性が高まるわけです。そうすると、今まで培った自分の軸に新たなアイデアが付与されることも起こりうると考えられます。

つまり、キーとなるのは自分のルーティン化され、強固で専門的な脳回路が形成された上に、「異環境」を形成することなのかもしれません。

ー自分の軸を持ったうえで、嫌いな人に会うなどして異環境を作れば、脳は鍛えられると。

はい。脳神経は、さまざまな刺激によって常に細胞、分子レベルで変化しています。これを「神経の可塑性(かそせい)」と、私たち専門家は呼んでいますが。

脳は、”Use it or lose it.”。使えば使うほど、その脳回路は結びつき、使わないと結びつきが消失に向かいます。使わない脳回路を保っておくことは、脳が「無駄なエネルギーだ」と判断しますから。また、よく使う脳回路はより効率よく情報伝導、伝達できるように変化していくのです。

使う脳回路のギャップがキーなので、普段から嫌いな人に囲まれてしまっている人は、むしろ「大好きな人」に会いに行くほうがいいかもしれません。

だとすれば、自分の環境をしっかりと見つめる必要がありますね。たとえ嫌いな人に囲まれていたとしても、面と向かってコミュニケーションを取っていないのなら、向かうことで学びは多いはずです。

嫌いな人に会う前に、”IF, THEN” を用意しよう

ーでは、嫌いな人に会う機会を最大限活用するためにできることは。

3つ、あります。

1つ目は、感情的になりすぎないことです。嫌いな人に会っているときは、分かって会っていても、どうしても感情的になりすぎる可能性があります。すると、何かを学ぼう、吸収しようとする能力が落ちてしまうので注意が必要です。

2つ目は、1つ目にもリンクするのですが、感情的になっている自分に気づくことです。「あぁ、今自分は相手のこんな言葉でイライラしているなぁ、モヤモヤしているなぁ」、そんな自分の心の動き、感情を俯瞰してみてください。そうすることで、感情的な状態を緩和する効果もあります。

嫌いな人からの指摘もヒントに変えられる

3つ目は、嫌いな人に会いにいくことを事前にシュミレートすることです。というのも、どんなに1、2つ目のことを意識していたとしても、いざ嫌いな人を目の前にすると、そんなことは忘れてしまう可能性が高い。よって、感情的になったり、自分の感情に気づくことを忘れてしまいがち。

そして、終わってから、「あぁ、結局イライラして終わったなぁ」なんてことが、多々起こりえます。

ーでは、どうすればよいでしょうか。

効果的な方法が、精神医学療法などでも使われる「IF, THEN法」です。事前に、「もしこう言われたら、こう考えよう。こう行動しよう。感情に気づこう」と、事前に繰り返し想定することです。いわゆる「イメトレ」と一緒です。

なぜイメトレが大事なのかというと、本番である状況になったときに、どう対処したらいいのかを事前に強く刷り込んでおくことで、実際に対処できる確率を高めるためです。「聞いたことがあるだけ」程度では、ほとんど実行されないと思ったほうがいいですね。

よって、事前に「もし相手に○○○○と言われたら、○○○○と考えよう。あるいは、○○○○と言われたら、右手中指を額に当て、そのときは○○○○と考えよう」と、動作と考えを紐づけてもいいです。ラグビーの五郎丸選手の応用ですね。

ーあとは何と言っても、実際に嫌いな人に会いに行く「勇気」が必要です。

こればかりは読者のみなさん次第なのですが、一つだけ確かに言えるのは、「本当にあの人に会うのか…」というモヤモヤや抵抗感は、普段使っていない脳の神経回路を、今まさに使おうとしている合図、成長の起点なんです。

はじめは難しいかもしれませんが、たまにはこのモヤモヤを認識して、むしろ楽しめるくらいになれると、自分の幅や脳の柔軟性を高め、新たな気づきにつなげることができ、さまざまな場面で成長を加速してくれるはずです。ピンチって、やっぱりチャンスなんです。

「脳は、”Use it or lose it.”」
「脳は、”Use it or lose it.”」

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[取材・文] 岡徳之

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