チームメンバーとの温度差をなくす、コミュニティデザイナー山崎亮さんが語る「5つのステップ」

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「大きなことを成し遂げるには、一人ではなくチームの力が必要。しかし、メンバー間の熱量や、向かいたい方向に差がある。どうすればその差を埋められるのか・・・」

リーダーの立場にある方なら誰しも悩むことでしょう。意欲はあれど、ベクトルが異なるメンバーを束ねて仕事を進めていくためには、リーダーはチームの課題をメンバー全員に「自分ゴト化」してもらうスキルが求められます。

そんな自分ゴト化の技術に関する悩みを解消するべく、さまざまな町の困難な現場におもむき、見知らぬ人たちと仕事をすすめているコミュニティデザイナーの山崎亮さんに、実際にコミュニティデザインの現場で使っている「ノウハウ」を教えていただきました。

ビジネスの現場でも活用できるものとなっています。

studio-L 代表 山崎亮

PROFILE

studio-L 代表 山崎亮
山崎亮
studio-L 代表
設計事務所を経て2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い

 

ー「コミュニティデザイン」は聞き慣れない言葉ですね。山崎さんの仕事をイメージしづらい方も多いと思うのですが、具体的にどのような仕事の流れなのでしょうか。

例えば、「兵庫県にある有馬富士公園の開園後の運営計画をつくってほしい」という依頼があったときは、ディズニーランドのように「ようこそ」と言って誰かが迎えてくれるような公園にしようと考えました。

公園周辺の市街地を探ってみたところ、サークル活動やNPOなど自主的な活動をしている50近くの団体がありました。彼らにヒアリングしてみると、「会議をやるたびに会議室を借りないといけない」「チラシをコピーするのが大変」など、課題は山積。

そこで、「その課題は公園側が解決しますから、ぜひうちの公園で活動してください」と誘ってまわりました。すると快く公園に来てくれて、「どんな公園にしたいか」を話し合うワークショップを重ね、日替わりでいろんなことをやってくれるようになりました。

例えば、天体望遠鏡を持っている星に詳しい人たちは、自分たちの自慢の道具を公園へ持ち込んで来園者に夜空の観察プログラムを開催してくれました。子どもたちに天体を見せてあげるから、子どもや親はとても喜ぶし、天体望遠鏡を持ってきた人たちも楽しい。

こうして有馬富士公園は、ゲストもキャストも楽しめる、パークマネジメントの先進地としていろいろな方が視察に来られる公園になっています。

プロジェクトが本格的に始まる「前」が肝心

ーそんなふうに人を巻き込んで、自分ゴト化してもらううえで工夫されていることはどんなことでしょうか。

studio-Lでは、自分ゴト化のノウハウを「5つのステップ」に整理しています。企業組織におけるチームビルディングにも活用できると思います。

ステップ1「情報を集める」

ステップ2「みんなのことを知る」

ステップ3「信頼関係を構築する」

ステップ4「みんなで解決策を考える」

ステップ5「みんなで問題解決に取り組む」

ステップ1「情報を集める」について。メンバーにプロジェクトを自分ゴトとして捉えてもらうには、プロジェクトが本格的に始まる「前」に、メンバーが情報を共有していることが大切です。それが上手くいかないと、リーダーとメンバーの間で情報の差が生まれてしまいます。

studio-Lでは、情報収集と共有に事例シートというフォーマットを活用しています。例えば、「高速道路をつくってほしい」という依頼があれば、全国の高速道路の事例をインターネットなどで「100個」集めます。それをA4シートに1枚ずつ事例の内容をまとめ、そのなかでもこれは素晴らしいと思う「10個」をA4シート10枚にまとめる。

なかでも「これは敵わないな」と思うものが「3つ」くらいあるはずなので、さらに深く理解するためにアポをとってお話を聞かせてもらいに行きます。そうして、「100」と「10」と「3」の事例が、リーダーだけでなくメンバー全員の頭に入っている状況を作ります。解決策に関する話をするのはその後です。

逆に、リーダーが一人で情報収集をして、それをメンバーには十分に共有できていなかったとします。すると、メンバーからは大した意見が出てこないので、リーダーはイライラしてしまいます

一方でメンバーのなかには、「リーダーがやれって言っているからやらないといけない」という「他人ゴト」の人も生まれてきてしまいます。全員で情報を集めることで、こうした状況をふせぐことができるのです。

メンバーとの壁をこわす「リーダーズインテグレーション」

ステップ2「みんなのことを知る」について。解決策について話し合う前に、メンバーのことを深く知らなければなりません。各人がどのような特徴があるのか、アイスブレイクであったり、いろんな手法でチームをつくっていきます。なかでもビジネスの現場でお薦めなのが、「リーダーズインテグレーション」です。

リーダーを決めたらリーダーはいったん席を外し、残ったメンバーたちで以下のような質問をまとめます。

  • リーダーについて知っていること
  • リーダーについて知りたいこと
  • リーダーに知っておいてほしいこと
  • リーダーについてリーダーに貢献できること

そしてリーダーに席に戻ってもらい、メンバーに順にまとめた話をしてもらいます。

メンバーはダイレクトにできない質問を「みんなの質問」として聞くことができるし、リーダーは周囲の理解や関心について知ることができます。メンバーからはデザインやエクセルなどスキル面「以外」にできる貢献に関する言葉も出てくるでしょう。

リーダーズインテグレーションで、リーダーはメンバーの人柄が見えてきてほっとします。このやりとりのポイントは内容ではなく、メンバーが「リーダーに受け入れられているんだ」と実感できることです。

リーダーズインテグレーション(出典:『山崎亮とstudio-Lが作った 問題解決ノート』)
リーダーズインテグレーション(出典:『山崎亮とstudio-Lが作った 問題解決ノート』)

メンバー間の対立を防ぎながら解決策を導き出すには?

ステップ1と2を経て、ステップ3「信頼関係を構築する」は徐々に進んでいきます。

ーどのような信頼関係を築ければ、温度差が生じるのをふせぐことができますか。

「この人はこういう切り口で反対するだろう。こう言えば不機嫌になるだろう」くらい、お互いのことを理解しているとよいですね。異なる意見が出てきたとしても、尊重し合うことができ、チームの方向がぶれることはないでしょう。

ここまででようやく、プロジェクトを本格化する準備が整ったと言えます。

ステップ4「みんなで解決策を考える」について。メンバー間の対立は、プロジェクトのアイデアについて正反対の意見が出てきたときに起こりがちです。このとき、一部のメンバーのせっかく積み重ねてきた自分ゴト感が薄れる傾向にあります。

対立を起こさないためにリーダーがすべきことは、メンバー全員が同じ足並みで思い入れを作れるようにしてあげること。準備段階から誰か一人が思い入れがあるアイデアを持ってきたら大変で、ときには「それ、捨ててよ」と言わなければなりません。

そのために、リーダーがまず肝に銘じなければならないことは、自分や特定のアイデアにあまり思い入れを持たないことです。もし上司が固執してしまったら、メンバーは、自分のプロジェクトなのか、ボスのプロジェクトなのか、分からなくなってしまいます。

私自身、プロジェクト単位では「こうしたい」という思いはまったく無いです。メンバー、コミュニティデザインの現場だと、クライアントの担当者、市民の人たち、その誰もが主導権を持って「いない」状態で解決策を考えることをスタートするようにしています。

解決策が決まれば、最後はステップ5「みんなで問題解決に取り組む」。途中で他人ゴトのメンバーを出さないために、やはりリーダーは具体的なプロジェクトに関する思い入れについては話さないことを意識すべきですね。慣れないメンバーははじめは戸惑うでしょう。「なにも教えてくれないんですか? 自由にやれって無責任なんじゃないですか」と。

それでも、「怖がるな、自分の責任でやってみろ」と言います。そういうリーダーの温度感を、面接やプロジェクトにアサインする段階から言っておかないと指示待ちのひとになってしまいます。

思い入れの代わりにリーダーがメンバーに語るべきこと

ー「リーダーはあまり思い入れをもったり、話さない」というのは意外でした。最後に、逆にリーダーがメンバーに語るべきことは何でしょうか。

私がリーダーとして語るのは、プロジェクト単位ではなく、「こういう社会、チームにしていきたい」といった大きなこと、夢ですね。

それも実は2カ月に1回くらいしか事務所に行かないので、Facebookの非公開のグループページで自分の考えを発信するようにしています。「これからはこういう生き方が生まれてくるんじゃないか、自分たちで作っていきたい」といったものです。

もしも先ほどのステップがうまくできていれば、たとえリーダーがプロジェクト単位で話さなくても、メンバーは「リーダーが掲げるビジョンのなかで自分が担当しているプロジェクトがどのような位置づけなのか、チームとしてのビジョンを達成するに自発的に何をするべきなのか」を、より自分ゴトとして考えられるようになります。

そうすることで、リーダーが実現したいビジョンに、チームとして少しずつ近づいていけるのです。

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[取材・文] 狩野哲也、岡徳之

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